エディンバラは空港の東10キロほどにある。
家から大阪城くらいの距離かなあ、高い建物が一つも見当たれへん。
見渡す限りの緑の中に二階建てくらいのこじゃれた、たぶん今風の民家が並んでる。ほとんどは百坪ほどの敷地に三十坪ほどの家。ネットで調べた石造りのエディンバラとは印象が違う。日本同様にイギリスは島国やから、もっとゴチャゴチャしてると思ってた。なんやろ、このスッキリ感は? イギリスいうよりはアメリカの郊外いう感じ。感じやねんけど、そんない違和感がないんよね。初めての外国の風景にキョロキョロしてしまう。
「車が左側を走ってる……」留美ちゃんがつぶやく。
そうなんや、日本と同じ左側通行の右ハンドルやから違和感がないんや。
「目の前に丘が見えてきたでしょ」
頼子さんが指差した方向に、ごりょうさん(仁徳天皇陵)と生駒山を足して二で割ったくらいの丘が見えてきた。
「ヒルウッドって言うんだよ」
「ハリウッド?」
「ヒルウッド、森の丘ってな意味ね。全体がヒルウッドパークて公園に指定されててね、ゴルフ場とか動物園があるの、というか、それ以外は住宅しかないシンプルなとこよ」
なるほど、日本語の地名をつけたら森丘。
「なんでしたら丘の上で停めますが」
ジョン・スミスさんが気を利かせた提案をしてくれる。
「ううん、真っ直ぐ家に向かって、十三時間も飛行機だったから」
「承知しました」
すると、エジンバラに続く道を、あっさり右に曲がった。え? 真っ直ぐ頼子さんの家にいくんだよね?
左側にヒルウッドを見ながら五分ほど走ると、丘の中腹に三階建てのお城のようなのが見えてきた。
ジョン・スミスがダッシュボードのマイクに喋ってるんやけど、英語なんでさっぱり分かりません。
「やだ、大げさな出迎えなんていらないから」
「サッチャーさんに叱られますから」
「サッチャーさんが来てるのぉ!?」
「はい、気合いが入っておられます」
「分かった……ちょっとの間だから辛抱してね」
そう言うと、頼子さんは、いつになく大人しくなって姿勢を正した。
ハンドルが左に切られて、車は丘への道を上り始め、電飾を付けたらルミナリエのディスプレーになりそうな鉄の門扉を潜って、お城の車寄せに近づいていく。
なんと、二十人ほどのメイドさんや執事みたいな人たちが居並んで、一番奥にはハイジに出てくるロッテンマイヤ―さんみたいなオバサンが……あれが……?
「ミセス・サッチャー……」
頼子さんが、いままで聞いたことが無いような暗い声で言った。