大橋むつおのブログ

思いつくままに、日々の思いを。出来た作品のテスト配信などをやっています。

高校ライトノベル・せやさかい・046『エディンバラ・2』

2019-08-04 13:50:01 | ノベル
せやさかい・046
『エディンバラ・2』 

 

 

 エディンバラは空港の東10キロほどにある。

 

 家から大阪城くらいの距離かなあ、高い建物が一つも見当たれへん。

 見渡す限りの緑の中に二階建てくらいのこじゃれた、たぶん今風の民家が並んでる。ほとんどは百坪ほどの敷地に三十坪ほどの家。ネットで調べた石造りのエディンバラとは印象が違う。日本同様にイギリスは島国やから、もっとゴチャゴチャしてると思ってた。なんやろ、このスッキリ感は? イギリスいうよりはアメリカの郊外いう感じ。感じやねんけど、そんない違和感がないんよね。初めての外国の風景にキョロキョロしてしまう。

「車が左側を走ってる……」留美ちゃんがつぶやく。

 そうなんや、日本と同じ左側通行の右ハンドルやから違和感がないんや。

「目の前に丘が見えてきたでしょ」

 頼子さんが指差した方向に、ごりょうさん(仁徳天皇陵)と生駒山を足して二で割ったくらいの丘が見えてきた。

「ヒルウッドって言うんだよ」

「ハリウッド?」

「ヒルウッド、森の丘ってな意味ね。全体がヒルウッドパークて公園に指定されててね、ゴルフ場とか動物園があるの、というか、それ以外は住宅しかないシンプルなとこよ」

 なるほど、日本語の地名をつけたら森丘。

「なんでしたら丘の上で停めますが」

 ジョン・スミスさんが気を利かせた提案をしてくれる。

「ううん、真っ直ぐ家に向かって、十三時間も飛行機だったから」

「承知しました」

 すると、エジンバラに続く道を、あっさり右に曲がった。え? 真っ直ぐ頼子さんの家にいくんだよね?

 左側にヒルウッドを見ながら五分ほど走ると、丘の中腹に三階建てのお城のようなのが見えてきた。

 ジョン・スミスがダッシュボードのマイクに喋ってるんやけど、英語なんでさっぱり分かりません。

「やだ、大げさな出迎えなんていらないから」

「サッチャーさんに叱られますから」

「サッチャーさんが来てるのぉ!?」

「はい、気合いが入っておられます」

「分かった……ちょっとの間だから辛抱してね」

 そう言うと、頼子さんは、いつになく大人しくなって姿勢を正した。

 ハンドルが左に切られて、車は丘への道を上り始め、電飾を付けたらルミナリエのディスプレーになりそうな鉄の門扉を潜って、お城の車寄せに近づいていく。

 なんと、二十人ほどのメイドさんや執事みたいな人たちが居並んで、一番奥にはハイジに出てくるロッテンマイヤ―さんみたいなオバサンが……あれが……?

「ミセス・サッチャー……」

 頼子さんが、いままで聞いたことが無いような暗い声で言った。

 

 

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高校ライトノベル・連載戯曲『となりのトコロ・5』

2019-08-04 06:39:05 | 戯曲

となりのトコロ・5 

大橋むつお

 

 

時   現代
所   ある町
人物……女3  

のり子
ユキ
よしみ

 

のり子: ハハ、「あなた」はよしてよ。「のり子」とか「トドロ」で頼むよ。
ユキ: トドロキでしょ?
のり子: ううん、トドロ。先生がね……おまえは大したマンガも描けないのに、ボーっとしてる時間が長いって。だから気の抜けた轟でトドロ。ハハ、ネーミングがうまいよね。センスもいいんだけどなあ、がめついんだよなあ。質より量……数こなしゃいいってもんじゃないよ、マンガとかアニメは……あたしのことじゃないよ、あんたのことだろう。
ユキ: あ、ごめん。じつはね……ゆうべ、あたしの家にトコロが来たの。
のり子: トコロ?
ユキ: こんなのとね、こんくらいのとね、こーんなに大きいのと。三匹とも、まーるい目をしててね、口はこーんなに大きくて体中に毛がはえてんの。
のり子: どこかで聞いたことあんな……動物?
ユキ: ううん。言葉はわからないけど、気持ちは通じるの。多分……心で話すのよ。
のり子: あ、アニメのトトロみたい。
ユキ: ちがうよ、アゴにひげが生えてるし、着物を着てるもの。
のり子: 着物?
ユキ: ゾロっとしたコートみたいなの。アイヌのおじさんが着てるみたいな……実際トコロは北海道から来るの、北海道のトコロから……
のり子: え、北海道の……?
ユキ: 常呂。
のり子: だから……
ユキ: だから、地名なの。常識の常に風呂の呂と書いてトコロと読むの。北見市常呂町。
のり子: ああ、なるほど。
ユキ: ほら、聞こえない?
のり子: え?
ユキ: 森のざわめき……
のり子: ……風?
ユキ: トコロの森よ……トコロの風……トコロのざわめき。あ、あれ? トコロ、来てるの? トコロ……それとも森の木たちが懐かしがってトコロのまねをしているの?

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高校ライトノベル・高安女子高生物語・46〈オッサン出しゃばり過ぎ!〉

2019-08-04 06:33:16 | 小説・2

高安女子高生物語・46
〈オッサン出しゃばり過ぎ!〉       


 気ぃついたら電話してた。

 誰にて……関根先輩に。

「明日、10時に山本球場横の玉串川の四阿(あずまや)のあたりに来て……訳は来たら分かります」
 この言葉も、あたしの意志とは無関係に出てきた。
――無関係やあらへんぞ。明日香の心の底にあるもんをちょっと後押しして言わせたっただけや――
 と、正成のオッサンは心の中でニヤニヤしてる。我ながら、けったいなもんを住まわせたもんや。
 10チャンネルの『満点青空レストラン』見てたら、八尾の若ゴボウの料理をやってた。
――おお、ヤーゴンボウやんけ。あの天ぷらてな料理美味そうやんけ、わい、あれ食いたい!――
「今日は、もう晩ご飯食べたから、今度!」
――明日にせい。その代わり、明日香の悩みは解決したるさかいに――

 嫌な予感を抱えながら、うちは自分の部屋に戻った。

 正成のオッサンとは、簡単な協定を決めた。お風呂とトイレ入るときはうちの中から抜け出すこと(ウォシュレットで、オッサンが嬌声をあげたんで、風呂だけやのうて、トイレまで付いてきてることが分かった。家族への説明に困った) うちにことわり無く、うちの人生に関わるような大事なことには関わらんこと。
 しかし、さっきの電話の件でも危ないもんや。うちは、なんとか自分の意志でオッサンの出入りをコントロールしようとした。でも、やり方が分からへん。ねばり強う考えよ。

 正成のオッサンが住み着くようになってから、昔の戦の夢をよう見る。

 たいてい赤坂の山に籠もって、幕府軍とにらみ合うてるときのオッサンの思い出。

 山肌を駆け上ってくる幕府軍にグラグラに煮えたウンコ混じりのオシッコを柄杓で撒く。わら人形にヨロイを着せて、敵に矢を撃たせて、不足気味な矢を敵からいただく。意表を突く戦法みたいやけど、これは『三国志』の中の赤壁の戦いで、諸葛孔明がとった戦法の応用やいうことが分かった。ガラの悪さに似合わず勉強家やいうことが分かる。お風呂やトイレには付いてくるくせに、部屋に居るときは、どないかすると何時間も、他の本の中に居てたりする。
「正成のオッチャン、本読んだら分かったやろ。楠木正成は湊川の戦いで戦死するねんで……」
――おお、分かってる。予想以上の最後に、自分でも感動しとる。しかし、歴史にはアソビがある。大きいは変えられへんけど、細かいとこでは創意工夫がでけそうや。わいは、今ワクワクしとる――

 さすがは河内の英雄。感受性が並の人間とはちゃうみたいや。

 で、日が改まって、日曜日。

 昨日の雨の隙をつくような曇り空。玉串川の四阿で関根先輩に会うた。

「花見には、ちょっと残念な空模様やな」
「これくらいがええんです。人も多ないし。ゆっくり語り合うのにはピッタリです」
 ここまでは、あたしの意志。あとは正成のオッサンが、うちの口から勝手に喋ったこと。
「なんや、今日の明日香は、まっすぐオレのこと見るねんなあ」
「うち、先輩のこと好きやさかい」
「え、ええ、こんなとこでコクルか?」
 確かに四阿はうちらだけやのうて、お年寄りが三人居てた。興味深そうに、うちらのこと見ながら。この他人のことにもろに興味持つのは、今も昔も変わらへん河内根性かもしれへん。
「うち、美保先輩には負けへん。うちのバージンを捧げるのは先輩やと決めてます。せやから、先輩も……いや、学君も言うてほしい、ホンマの気持ちを!」
「お、おい。人の目ぇがあるやろ」
 先輩は、大きなヒソヒソ声。三人の年寄りはニマニマとうちらの成り行きを見てる。
「人の目ぇがあっても、好きは好き。これくらいに!」

 うちは、先輩に胸を押しつけて抱きついた。

「あ、明日香……!」
「答え聞くまで、離れへん!」
「お、オレも明日香のことは……」
「好きやねんね!?」
「あ、ああ……」
「よっしゃ、今日は、ここまででええわ! ほんなら、山本の方まで歩きましょか」

 うちは、先輩にベッチャリひっついて山本の方に川沿いを歩いた。

 先輩の当惑と、うちへの好意が同量に感じられた。山本へは10分ほどで着いた。

「ほなら、新学期になってもよろしゅうに!」
 山本駅に着いたら、うちは、あっさりと先輩と別れた。ちょっと名残惜しい。

――色恋は、戦とおんなじや。駆け引きが大事。今日は、ここであっさり引いて、あいつの中に明日香を温もりの記憶として染みこませる――

 それはええけど……。

――なんやねん?――

 オッサン、出しゃばり過ぎ!

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高校ライトノベル・里奈の物語・45『チーフディレクターなのに副長』

2019-08-04 06:25:12 | 小説3

里奈の物語・45
『チーフディレクターなのに副長』 



 屋根が落ちてきたのかと思った!

 向かいの妙子ちゃんの部屋からHな声がして、ぶったまげて自分の部屋に戻ろうとして、グゥアラグゥアラガッシャーン!!!
 

 あたしは、屋根の下敷きになって身動きが取れなくなった。
 

「ちょっと、どうしたのよ!?」
「だいじょうぶ!?」
 妙子ちゃんと副長さんの驚く声。
「や、や、屋根が落ちてきて……」
 それだけ言って気が遠くなった。

 ガンガンガン、ガン……と、打ち付ける音で目が覚めた。

「気いついた、里奈ちゃん?」
「あ、あたし、屋根が……」
「廊下の棚やら本棚が倒れてきたんよ。里奈ちゃんのサロペットが引っかかったみたいで」
「サロペット……?」
 妙子ちゃんの目線を追ってみると、壁のフックに無残に破れたサロペットが掛かっている……ということは。
 あわてて、布団の中の下半身に触る……この手触りは、あたしのジャージ。
「あたしが穿き替えさせた……それより痛いとことかない?」
「えと……あちこち痛いけど、大丈夫みたい」
 そのとき、トドメのガンガンがして、副長が入って来た。
「一応、応急の修理はしておいた……あ、気が付いたんだ」
「ありがとう……里奈ちゃん、なに赤い顔してんのん?」
「だって……」

 あたしは、モジモジしながらも、話さなきゃいけないと思い、遠まわしに、ナニが聞こえてきたことを話した。

「あ、聞こえちゃったんだ!」
「外部出力オンになってたんじゃ!?」
 妙子ちゃんと副長が顔を見交わした。
「あ、いや、その……あたしが……」
 二人の顔を見ていられなくて、目の下まで布団をかぶって背を向けた。
「あれは……その……仕事なんよ」
「し、仕事……?」

 妙子ちゃんが説明し、副長は名刺を出した。

「それって……ども(名刺を受け取った)……TERAって、エロゲの!?」
 TERAは、いまやっている『早春賦』の制作会社だ。名刺にはチーフディレクター田嶋三郎と書いてある。
「あ、すみません、エロゲじゃなくって……」
 とっさに出た言葉を訂正しようと思ったけど、エロゲ以外の単語が出てこない。
「エロゲでいいよ。でも君みたいな子が知ってるのは意外だなあ」
「あ、いえ……」
 目が机の上の桃子(パソコン)に行ってしまう……ヤバイ、あたしってば、ツケッパだ!
「お、うちの『早春賦』だ!」
「里奈ちゃん、こういうのやるんだ……」
「あ、いえ、それは……だから……」

 あたしは再び布団をかぶった。

「チーフディレクターなのに、どうして副長なんですか?」
 桃子から向き直った二人の顔はとても和やかなので、安心して、あたしは聞いた。
「田嶋三郎やから、サブ。でもチーフにサブはあかんでしょ」
「だから、日本語にして副長。もともとチーフってガラでもないしね」
「そうだ、里奈ちゃんにも聞いてもらったら?」
「あ、それいい!」

 Hシーンの女の子の声を、夜遅くまで聞くハメになってしまった……。
 

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高校ライトノベル・須之内写真館・18『運命としか言いようがない・1』

2019-08-04 06:17:10 | 小説4

須之内写真館・18
『運命としか言いようがない・1』  


 いつもの床屋が閉まっていた。これが運命の先っぽだった。

「代わりに、良い店はないかな」
 光会長は、床屋のカミサンに聞いて、キンタローという床屋を紹介してもらった。
 なじみの床屋の兄弟子がやっている店だということで、わざわざタクシーを使って足を運んだ。

 光会長は、名前の通り若禿げで、刈るような髪はほとんど無い。しかし彼なりのこだわりがあって、床屋は決めているのだ。
 キンタローは、なじみの店と違って、世田谷の大衆理容で、五人の先客が順番待ちをしていた。時間つぶしにマンガ雑誌に手を伸ばしたが、一瞬遅れて若い客に取られてしまった。
 しかたなく、会長は普段手を出さない写真雑誌を手に取った。運命は確実に会長を捉えつつあった。
 会長は、芸能誌のグラビアは見ても写真雑誌は見ない。カメラマンの技量でいかようにも写るからである。
 芸能プロダクションの会長は、あくまで現物主義である。主軸のAKR47はともかく、他のタレントは、自分の目で確かめる主義で、スカウトマンを使うことはあっても、基本は自分で発掘する。

「お、これは!」

 となりのマンガを先取りした若い客がびっくりするような声をあげた。
「大将、兄弟子だけあって、腕がいいね!」
 三十分待って、仕上げてもらった髪の刈り具合にも満足した。
 そして、スマホに写した情報をもとに、写真雑誌の出版社に電話した……。

「あなたの写真には無理や作為がない。被写体の自然な魅力が、そのまま出ている」

 会長は、出版社から住所を聞いて、真っ直ぐ須之内写真館にやってきた。
「恐れ入ります。被写体の子にはメールを打っておきましたので、間もなく返事が来ると思います」
「失礼だが、あなたは写真家としては、なかなか芽が出ないでしょう」
「あ……自覚してます」
 直美は息を呑んで頷いた。
「あなたは、待ちのカメラマンだ。わたしに似ている。こういう人間は、作品を量産はできません」
「恐れ入ります。わたしはただの不器用な青二才です」
「いや、その若さで、こういう姿勢を持つことは難しいもんです」

 被写体からは、すぐにメールが返ってきた。直ぐに来るそうである。会長は、その間スタジオやショ-ウインドウの写真を見て回った。
「このルミナリエの写真と、女の人の写真いいなあ」
「ルミナリエは、自衛隊の方の写真です」
「え、素人の方ですか……」
「阪神大震災と東日本大震災の両方の救援に関わった方です」
「やはり、想いというのは出るもんなんですなあ……」
「その女の方は、先日お亡くなりになりました。あるがままに撮ると、こうなりました」
「最近の写真なんですか!?」
「はい、九十六歳でいらっしゃいました」
「九十六……どう見ても五十の手前だ。それにファッションと表情が今のもんじゃない……この人は、小学校あたりの先生だったんでしょ」
「ええ、国民学校時代ですけど」
「素晴らしい面構えだ……」
「被写体の曾お祖母様です」
「それは楽しみだ!」

 まるで、それがキッカケであったように、被写体二人がやってきた。

 杏奈・美花と、光会長の運命の出会いであった……。

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高校ライトノベル・『はるか 真田山学院高校演劇部物語・86』

2019-08-04 06:09:04 | はるか 真田山学院高校演劇部物語

はるか 真田山学院高校演劇部物語・86
『第八章 はるかの決意9』 

 その夜遅くに、正確には日付が変わってから、マサカドさんがやってきた。

――最優秀賞おめでとう。
「マサカドさん」
――わたしも、客席で観ていたわ。
「昼間でも出てこられるようになったの?」
――さすがに、このままの姿では無理だけど、適当に化けてね。
「何に化けたの?」
――ないしょ。客席にいても、だれも気にとめない姿よ。
「あ、お礼言っとかなきゃ。あなたのお陰で、三日でこなせたわ」
――ああ、あの課題ね。
「細川って先生が意地悪でね……」
――フフ、でも、わたしは楽しかった。あんなふうに鉛筆持って字が書けたんだもの。英語はちょっと厳しかったけど、英文を写すだけだったから、すぐに慣れて楽しくなっちゃった。はるかちゃんもがんばったのよ、半分ははるかちゃん自分でやっちゃったんだから。わたし、楽しみだったのに、ちょっと残念。
「ほんと……全部わたしの字だったから、分からなかった。」
――五歳のころからいっしょにいたから、はるかちゃんのやることは身に付いちゃった。
「そうなんだ……一つお願いしていいかなあ」
――なあに?
「空襲の時の感じって、教えてもらえないかなあ。大橋先生から実感が無いっていわれてるの」
――それは……勘弁してくれない。
「え……どうして?」
――だって、それってね……。

 その時、たくさんの飛行機が飛んでくる気配……だんだん近づいてくる。
 サイレンなんかも鳴っている。たくさんの人たちが逃げまどう声……。
 マサカドさんが、小刻みに震えながら立ちすくんでいる。
 ヒュー、ヒューと、何かがたくさん空から落ちてくる音。

「マサカドさん!」

 わたしは、思わずマサカドさんを抱きしめた……。
 わたし自身も、おっかなくなってしがみついた……。
――大丈夫、あの音は遠くに落ちる音だから。至近弾は汽車みたいな音がするから。
 そう言いながら、マサカドさんの震えは、さらにひどくなってきた。
「マサカドさん……!」
――はるかちゃん……くるよ、くるよ! 次のはくるよ!

 マサカドさんの手に力が入り、わたしの身体を締めつけるくらいになってきた。そのとき……。
 シュー、ゴゴゴーっと、機関車が空から降って来るような音!

 お母さーん!! 二人は同時に叫んだ。

「はるか、どうしたの!?」
 お母さんがとび起きてきた……。

……あれは、現実だった。

 わたしが、あんなことを頼んだものだから、マサカドさんは思い出してしまったんだ。
 自分が死ぬ直前のありさまを……。

「だいじょうぶ、はるか……」
 わたしの震えは、しばらく止まらなかった。
 そして、マサカドさんの姿は、あの阿鼻叫喚とともに消えていた。

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