魔法少女マヂカ・066
ゲームと言えばゲーム盤とかゲームボードとかカードゲームというものだった。
たいてい二つ折りくらいになったボードの上でコマを進めて、はやくゴールに着いたものが勝ち。というやつで、戦前は福笑いとか、双六とか兵隊将棋、ちょっとハイカラな家ではダイヤモンドゲームとかチェスを意味していた。カードゲームは社会的階層には関わりなくトランプの事だった。何を隠そう、山本五十六にポーカーやらブラックジャックを教えたのはわたしだったりする。
ノンコが「ゲームやろー!」と手を挙げた時は神経衰弱かババ抜きが頭に浮かんだ。
見かけは、十七歳の女子高生だが、実年齢は八百を超えるのだから仕方がない。
しかし、数秒でテレビゲームのことであると理解しなおしたんだから、まあ、よく順応している方だよね。
創部以来四カ月になろうとする調理研は、ちょっと料理に飽きてきた。毎週、新メニューに挑戦しているので、レパ的にも頭打ちの感がある。
「調理室でゲームしてもいいのかなあ……」
友里がポリ高生としては並以上の倫理観で心配する。
「だいじょーぶ、これなら調理研っぽいから」
ノンコの鞄から出てきたのは、どこやらの孤島でモンスターをやっつけるというゲーム。四人でチームを組んで、島のあちこちに生息するモンスターを狩る。下手をするとモンスターの返り討ちにあってゲームオーバーになり、強制的にキャンプに転送され、仲間の帰りを待つハメになる。
これが実戦なら、魔法少女のスキルや技でやっつけられるのだが、テレビゲームというのは、どうも勝手が分からない。魔法少女の実戦のスキルが使えない(高速移動、ワープ、パルス攻撃、等々)だけではなく、画面の中だけなので、敵の気配や周囲の状況が実戦の20%くらいしか分からない。
敵の直前に飛び込むと同時に高速バック、敵がつんのめったところで上からパルスガ弾を撃ち込む! 気の合わないブリンダとでも、この程度の連携や駆け引きはできる。ところが、ゲームでは飛び込んだ時点でモンスターの前足で薙ぎ払われたり、踏みつぶされたり。ゲームだから即死することはないのだけど、五回も喰らえばゲームオーバーなんだ。タイミングよく敵を釣り出せても、連携が遅れてチャンスを逸してしまう。
そんなこんなで、二回に一回は、早々にキャンプに転送されて、みんなの戦いを見学するハメになる。見学と言っても、ボーーっと見ているわけではない。
倒したモンスターは解体して、その場で調理ができる。ここがミソだ。
調理すると言っても画面の中なんだけども、それを実際に作れないだろうかと頭を使うのが調理研なのだ。
「恐竜の肉って、基本的には鶏肉みたいなもんだからね」
ヒントを与えてくれるのは、徳川康子先生だ。調理室でゲームをしているのは早々にバレてしまったのだが、さすがは家康から数えて二十代目。ご先祖は鷹狩などで、獲物の調理には長けている。
狩の仕方も、待ち伏せの仕方や、戦法のあれこれを指示され、それが見事に功を奏すると無邪気に喜んでいらっしゃる。
読者の中には「特務師団の方は?」といぶかる人がいるかもしれない。
ちょっと開店休業状態なのだ。
立て続けにバルチック魔法少女をやっつけて、ここしばらくは敵も一息ついている状態。
それに、司令はとぼけているが、どうも高機動車の北斗が不調な様子だ。舞鶴に出撃した時も飛行機と列車を乗り継いで行ったくらいだ。
北斗が動かなければ、クルーである調理研には出番がない……。