大橋むつおのブログ

思いつくままに、日々の思いを。出来た作品のテスト配信などをやっています。

高校ライトノベル・連載戯曲『となりのトコロ・8』

2019-08-07 06:15:53 | 戯曲
となりのトコロ・8 
大橋むつお
 
 
時   現代
所   ある町
人物  のり子 ユキ よしみ
 
 
ユキ: そうよ、男と女の始まりが引っかけで、ドロボーとおまわりさんは追っかけで、あんよの始まりがつっかけで、生き甲斐のはじまりは、きっかけ!
のり子: それとこれとはね……
ユキ: トドロのつっかけ……じゃなくて、きっかけは……高校生のときに初めて観た「となりのトトロ」 初めてのデートでケンカ別れして、おまけに門限に遅れ。お父さんからこっぴどく叱られて、部屋にこもってたまたまつけたテレビでやっていたのが「となりのトトロ」 世の中に、こんなに優しく美しく懐かしいものがあるのか……
のり子: どうして、そんなこと……
ユキ: ともだちだからよ。
のり子: え……?
ユキ: でしょ。知り合って、まだわずかな時間だけれど、ずっと前からの知り合いみたい。トドロは、単なるノスタルジーや、ほのぼのしたぬくもりに流されるのじゃなく、真にリアリティーをもった作品、それもけして生々しいものじゃなくて、ファンタジーとドラマの中間をねらいたい。で、先生は「そんな器用なことができるか!」って怒っちゃう。だって、トドロの頭の中にあるのは、バラバラにしたパッチワークみたいなアイデアでしかないんだもんね。
のり子: そうだよね、バラバラの布きれ見せられて、これがニューモードの服でございって言われたら、怒るわなぁ……
ユキ: こうやって分かり合えるのを友だちっていうのよね。違う?
のり子: そうだな……
ユキ: だったら、もう説明なんかいらないわ。アハハハ……
のり子: アハハハ……いるよ、いるよ! なんでだれにもしゃべったことのない秘密を、あんたが知ってるわけ?
ユキ: だって、友だちでしょ、わたしたち。友だちって、心の通い合うもんでしょ。通い合うっていうのは、たとえ言葉に出さなくても相手の心がわかるってことでしょ。
のり子: そりゃ、あたしだって、アイデアだけで作品ができるとは思ってないわよ。でもね、アイデアって大事なものなんだよ。だって、どんな名作だって、最初はひとかけらのアイデアなんだから……そりゃね、先生の怒る気持ちもわかるわよ……でも、待って。わかるってことと許せるってことは別なのよ……え? だって、そうでしょ。そりゃ、あたしは未熟よ、いたらないわよ。でも真剣に考えてるんだから、あんな全人格を否定するような言い方しなくたって……甘えだ? それはないでしょ! あたしだって、こんなに苦しんで考えてるんだから……
ユキ: ほらね。
のり子: え?
ユキ: わたし、なにもしゃべってないのに……ね、ちゃんと会話になってる。
のり子: ほんと……
二人: アハハハ……
 
 二人同時に傘を見る。
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高校ライトノベル・高安女子高生物語・49『大阪はどないなっとんねん!?』

2019-08-07 06:10:37 | 小説・2
高安女子高生物語・49
『大阪はどないなっとんねん!?』      


「おーい、明日香とこの校長クビになったで!」

 お父さんの声で目が覚めた。

 パジャマ代わりのジャージで二階に下りると、お父さんが新聞を広げてた。
「このオッサン、たいがいやなあ……」

――またも民間人校長の不祥事! どうなる、大阪!?――

 見出しが三面で踊ってた。
 読んでみると、人事差別と人事権の恣意的な乱用。事故死した生徒・保護者への心ない対応。
 そんな副題のあとに、実名は伏せながら、関係者が読んだら、事細かに分かる内容が書いたった。

 再任用教諭の理由無き任用停止。元教諭、校長を提訴。

 あ、これは光元先生のこっちゃ。始業式で、光元先生は一身上の都合で退職しはったと聞かされてた。
 光元先生は、OGH高校の前身府立瓦屋町高校の時代からの先生。学校の生き字引みたいな先生で、卒業生やら保護者からの信任の厚い先生やった。佐渡君が亡くなったときも校長室で、なんか話してはったけど、うちら生徒には分からへんかった。
 新聞には「あの校長先生は、うちの子が死んだんを真剣に受け止めてもらえなかった」と、母親の言葉が書いたった。佐渡君は交通事故で、うちが救急車の中で見守ってるうちに死んでしもた。純然たる事故死。

 佐渡君は遺書を残してた。

 交通事故で遺書いうのは、なんか変や……読み進んでいくと分かった。

 佐渡君は、生きる気力を無くしてた。
 
 なにが原因かは分からへんけど死を予感して、遺書めいたものを書いてたらしい。
 お母さんは、それを生徒に公開して欲しいと頼んだらしいけど。校長は断った。で、全校集会で、ありきたりの「命の大切さ」「交通事故には気を付けよう」で、お茶を濁しよったのは記憶にも新しい。

 肝心の遺書は、新聞にも載ってなかった。府教委も内容を精査した上で、公開を検討……あほくさ。個人名が書いたったら、そこ伏せて公表したらええだけのこっちゃ。

 それから、佐渡君が死んで間もない日に、音楽鑑賞で大フィルの演奏を聞きにいくはずやったんが、急に取りやめになった。「生徒が命を落として間もない日に、かかる行事はいかがなものかと思った」と校長は言うてるらしい。
 お母さんは、あとになって、そのことを知った。
「あの子は音楽の好きな子でした。実施されていたら、遺影を持って、わたしが参加するとこでした。なんで、相談してもらえなかったんでしょう」
 お母さんの弁。こんなことは、うちら何にも知らんかった。火葬場で会うた佐渡君の幻も、そういうことは言わへんかった。佐渡君は根の優しい子やから、たとえ校長先生でも、人が傷つくことは言いたなかったんやろと思た。

 で、光元先生は再任用の先生で、契約は一年。
「せやけど、65歳までは現場に置いとくのが常識や」
 お父さんは、そない言う。新聞には3月29日の最終発表で「次年度の採用はありません」と言うたらしい。
 29日て、どこの学校でも人事は決まってしもてて、OGHで再任用されへんかったら、事実上のクビといっしょなんは、うちの頭でも分かる。

 校内でも、恣意的な人事が……ここ読んでピンときた。

 ガンダムが急に生活指導部長降りて、うちらの担任になったこと。

「ガンダム先生て、どこの分掌や?」
 お父さんが聞いてきた。
「どこて、平の生指の先生」
「担任しながら生指か、そらムチャやで」
「なんで?」
「担任やったら大目に見られることでも、生指やったら見逃されへんことがいっぱいあるで。まして、前の生指部長やろ。ダブルスタンダードでしんどいやろなあ」
 お父さんは、ため息をついて新聞をたたんだ。

 気ぃついたら、お父さんと頭ひっつけるみたいにして新聞読んでた。お父さんと30センチ以内に近寄ったんは、保育所以来や。ちょっと気恥ずかしいような、落ち着かんような気持ちになった。

 校長先生は、教育研究センターいうとこに転勤いうことになってたけど、これは事実上の退職勧告やろなあと思た。

 大阪は、大阪市も府も、民間採用された区長やら校長が途中で辞めたり、辞めさせられたりいうことが多い。そやけど、まさかうちの学校で、こんなことが起こるとは思わへんかった。

 それと、佐渡君のお母さんが佐渡君のこと思てたんも、意外。
 切ないなあ……。
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高校ライトノベル・里奈の物語・48『猫田の小母さんは……』

2019-08-07 06:01:33 | 小説5
里奈の物語・48
『猫田の小母さんは……』


――(´・ω・`)mゴメン…野暮用で行けなくなった――

 二個目のたこ焼きを頬張ったところでメールが来た。
 仕方ない。美姫は現役の高校生なんだ、あたしのようにはいかないよね……。
 そう呟いて寂しくなる。あたしだって現役の女子高生……なんだけど、半年も引きこもって、昼日中から駅前のたこ焼き屋さんでホコホコしている。なんだか公園の街猫になったような気分……いや、猫はホコホコしている自分を寂しいだなんて思わない。

 ちょうど時間なんだろう、改札から高校生たちがパチンコ玉みたく吐き出されてくる。

「しけた顔してんなあ」

「え……?」
 首を捻ると猫田の小母さんが立っていた。
「よっこらしょ」
 お婆さんみたいな掛け声で、あたしの隣に座った。
「パチンコに行ってたんですか?」
 小母さんは、たこ焼きのトレーの下に景品袋を置いている。
「あ、せや、これ里奈ちゃんにあげるわ」
 景品袋の中はチョコレートのようで、一個だけ抜いて、残りを袋ごと寄越してきた。
「え、いいんですか? 高級そうなチョコばっかですけど?」
「来月バレンタインやさかいな、調子に乗ってチョコばっかりにしたけど、あたしは、仏壇に供える分だけでええさかいな」
「ども、ありがとうございます」
「猫もチョコは食べへんし……たこ焼きの蛸は食べるけど……熱ッ!」
「アハハハ」
 不謹慎だけど笑ってしまう。猫田の小母さんは夕べ見たドラマの藤山直美に似ている。
 あたしは自分を娘役の仲里依紗に当てはめようとしたが、あたしには、それほどの馬力はない。

「……あたしが猫を飼わへんのはね」

 たこ焼き屋さんを出て城東運河沿いに差し掛かって、小母さんが振ってきた。
「すみません、昨日は変なこと聞いちゃって」
「ううん、とっさでシケタ顔しかでけへんかったよってにね。里奈ちゃん、地雷踏んだ気になったでしょ」
「いえ、その……」
「今日びの猫は、上手に育てたら二十年くらい生きるからね」
「うん、そうですね」
 あたしはウズメを思った、あいつは、それくらい……いや、もっと生きているのかもしれない。
「あたしね、猫飼うたら、猫の寿命の前に自分が死んでしまうんちゃうかと思うてね」
「アハハ……って、何度も笑ってすみません。だって、小母さんまだまだ若いでしょ?」
「ハハ、嬉しいこと言うてくれるやん」
 昨日の『新旧女学生模様』を思い出した。あの時の小母さんは、ほんとうに女学生に見えた。
「人の目はごまかせても、自分はごまかされへんさかいにね」
 小母さんは、つまらなさそうに、欄干から物を投げる仕草をした。
 タイミングよく川で大きな魚が跳ねた、まるで小母さんが投げ入れたみたいに。

「こら、猫娘! 川にもの投げたらあかんやろ!」

 橋のたもとで、八十ぐらいのお爺さんが怒鳴っている。
「だれが猫娘や、うちは猫田寧々子じゃ。いくつになっても、ちゃんと言えへんやつやなあ!」
「そやかて、ドボンて音したやろ!」
「あれは、魚が跳ねたんじゃ!」
「なにを見え透いた!」
「なにを、この耄碌ジジイ!」
「なにを! おのれかて、同い年の同級やないか!」

 ああ、橋の真ん中でケンカになっちゃった!

 え……でも、お爺さん「同い年の同級」って言ったわよね?

 猫田の小母さんって……いったい何歳?
 
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高校ライトノベル・須之内写真館・21『大阪福島区ストリートミュージシャン・2』

2019-08-07 05:55:02 | 小説4
須之内写真館・21
『大阪福島区ストリートミュージシャン・2』     


 取材費二万円というと、ピッタリの店を紹介してくれた。

 さすが、大阪の区役所。商店街の『くう亭』というリーズナブルで雰囲気のある呑み屋さん。
 直美の他に、ササオカの二人に桔梗さん。そして区役所の野田さんと福島さん。

「大阪のお客さんて、暖かいですね」
 直美の第一声から始まった。
「いや、あんなもんとちゃいます」
 桔梗さんが、すぐに返してきた。
「ほんまにノったら、あの広場だけでは収まりません」
 ササオカの笹岡さんが、ビールといっしょに重ねる。
「阪神優勝したら、心斎橋あたりは歩けませんよってに」
「八年前のリーグ優勝のときも、すごかったもんな」
 ササオカのちゅんが泡を飛ばした。
「ハハハ、ボクあの時戎橋から道頓堀に飛び込みましてん」
 百円の串カツを器用に一口で食べながら野田さん。
「え、で、今は公務員ですか」
「別に犯罪やないですよってに」
「せやけど、福島の取り組みは、あんな風にはしとないんですわ」
「一回そうさせてから、言えや」
「いずれ、そないなります。その時は喜んで、福島さんの首差し出します」
「え、わしの首だけか!?」
「その時は、うちらで事務所作って拾たげますがな。野田さんもいっしょにマネージャー」
「漫才やってもろてもええなあ」
「ええ、ええ、福島区役所出身の福島・野田コンビ、いけまっせ!」
「そんな、アホな」
「アハハハ」

 やっぱ、大阪のノリはいい。けして無口ではない直美も、ひたすら聞き役、笑い役であった。

「せやけど、大阪で若者文化育てよ思たら、赤ちゃんのオシッコですわ、直美さん」
「赤ちゃんのオシッコ?」
「いろいろヤヤコシイ!」
 アハハと、三人は爆笑したが、直美は意味が分からない。
「大阪弁で、赤ちゃんのことヤヤコて言いますねん」
「あ、ああ。野田さん、公務員にしとくには惜しいセンスですね」
「なんの、こんなん挨拶代わりですわ。この取り組みも金がかからんいうことで動き始めた事業ですよって」
「ほんま、大阪の財政は……」
「ヤヤコの行水ですわ」
「それ、なに。野田さん?」
「分かった、タライで泣いてるや!」
「あ、そうか!」
 で、大阪人だけで笑いになる。

 店の大将が「足らなくて泣いてる。大阪弁で足い(たらい)で泣いてる」と解説。直美は、東京弁に変換してやっと分かった。

「大阪は、元来、受益者負担の土地柄なんですわ。やりたかったら、自分でどないかせえですわ」
「東京だったら、都や区でなんか手をうちますけどね」
「ああ、ヘブンリーアーティストでっしゃろ」
「大阪は、福島だけですわ」
「昔は、あったんですよ。森ノ宮に青少年会館があって、安うにスタジオとか貸してくれて……うちら育ってきたんわ、そこからですわ」
「ああ、あれ、採算が取れんいうんで橋下のオッサンが、まっさきに潰したんでしたな」
 桔梗さんと崎岡さんは、見かけによらず古株のようだ。
「あれ、潰したら、直ぐにマンション建って。最初から売り先決まっとたらしいでっせ」
「え、議会に通す前にですか」
「橋下さんなら、やりかねまへんわな」
 さすがに、福島さんと野田さんは黙ったが、橋下さんに人気がないのが意外だった。

 明くる日、ホテルを出ようとしたら、狭いロビーに福島さんと桔梗さんが待っていた。

「このDVD東京で見てもらえますか」
「登録してるアーティストの実演と、プロモーションです」
「分かりました、勉強させてもらいます」
 受け取ったDVDは五枚あった。いろんな人に見てもらいたいという意気込みなんだろう。五枚とも同じDVDであった。

 福島さんは時間休をとって、桔梗さんはバイト前の時間を割いてやってきてくれた。

 三人でシャメを撮って、杏奈と美花に送ってやった。

――こんなガンバリ方もあるんだぞ――と、メッセを付けた……。
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高校ライトノベル・『はるか 真田山学院高校演劇部物語・89』

2019-08-07 05:44:18 | はるか 真田山学院高校演劇部物語
 はるか 真田山学院高校演劇部物語・89
『第八章 はるかの決意12』 

 
「え、ウソ……ウソでしょ……!?」ケータイを握りしめたまま絶句した。

 本選では出場校十三校の内、上位三校が近畿大会に出場できる。
 その確率四分の一の中から我が真田山学院高校は漏れた。

 タマちゃん先輩は、要領よく講評の中味をメールにまとめていてくれていた。
 落ちた理由は以下の二点である。
――作品に血が通っていない。
――行動原理、思考回路が高校生のそれではない。
 死亡診断書のように簡潔で意味不明。

 明くる日のクラブ。

 葬儀の後かたづけのように道具を整理し、クラブの合評会になった。
 だれも、何も語らない。
「他に、なにをいわれたんですか!?」
 じれたわたしの声は、いささかトゲを含んでいた。栄恵ちゃんはビクっとした。
「……よかったら聞かせて下さい」
 柔らかく言い直した。
「上手くて、安心して聞いていられる……しかし世界が二人のためにしか存在しないような窮屈さ、どうしても血が通っていないように感じる。もしかしたら思考回路や行動原理が、高校生のそれではない……」
 タロくん先輩が、電車事故のお詫びのような沈鬱さで、メモを読み上げた。
「どこをもって、血が通っていないと言われたんですか! 何をもって、行動原理や思考回路が高校生じゃないっていうんですか! 具体的な指摘はなかったんですか!?」
「それは……」

 先輩は黙り込んでしまった。

「タロくん責めても、しゃあないよ……」
 乙女先生がつぶやくようにたしなめた。
「で、何も言い返さないで帰ってきたんですか!?」
「審査の講評いうのはそういうもんやねん……」
 わたしの詰問口調に、珍しく、乙女先生は声を落とした。
「大橋先生は、知ってるんですか、このこと?」
「わたしが電話しといた」
「で、先生は?」
「はるかと同じようなこと言うてた。ただ、あんたらをミスリードしたらあかん言うて、今日は席外してはる」
 
 ドスン、ガタン!
 
 積み方の悪かった道具が準備室で転がり落ちる音がした。
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