大橋むつおのブログ

思いつくままに、日々の思いを。出来た作品のテスト配信などをやっています。

高校ライトノベル・せやさかい・056『ヤマセンブルグ・2』

2019-08-26 13:42:39 | ノベル
せやさかい・056
『ヤマセンブルグ・2』 

 

 

 ヤマセンブルグの空港には驚いた!

 

 いや、空港そのものはエディンバラほどもないねんけど、その……お出迎えがね。

 レッドカーペットがタラップの下から敷かれててね、お迎えの人が二十人ほども並んでる。他にも一クラス分くらいの儀仗兵と軍楽隊みたいなの。

 それから、頼子さんのコスプレ。

 わたしの乏しいファッション知識ではワンピースとしか表現でけへんねんけど、堺東とか難波とかで見かけるワンピやない!

 ごく淡いピンクのワンピはノースリーブで、胸元には真珠のネックレス、かわいいティアラには本物やったら数千万円はするんちゃうかという宝石が付いてて、スカートの下にはごっついパニエが入っててフワフワ。そんで、飛行機から降りる寸前に、イザベラさんによって深紅の幅広タスキ。宴会とかで『本日の主役』とか、選挙の候補者が肩から掛けてる。あれぐらいの幅があるんやけど、グレードが違う。金の刺繍でデコラティブな文字……うちには読めません。右下の結び目には金色の房がユラユラ。でもって、胸元には赤と金色のバッジ? 勲章? 

 イザベラさんもロッテンマイヤーさんを偲ばせる黒のワンピで、胸元には缶バッジ……いや、なんか小さな勲章めいたもの。ソフィアさんは、同じデザインやけどエンジ系で、ヒルウッドの女性スタッフも同じ衣装。

 ジョン・スミス?

 ビックリした! パリ祭のパレードかいうようなコスで、ピカピカの胸だけのヨロイに、房の付いたヘルメット。手には肘まである純白の皮手袋に、同じ材質のブーツ。で、ゲームで見かけるようなレイピア(細身の剣)をぶら下げてる。

「すまん、国のエライサンが大のコスプレファンなんでな」

 ジョン・スミスの申し訳なさそうな目線の先に、わたしと留美ちゃん……ソフィアさんのに似たワンピを着せられてます。

『襟の色がちがいますでしょ?』

「あ、ああ」

 うちらのは襟が水色で、形も微妙に違う。

『お二人のは……』

 そのとき始まった軍楽隊の演奏で後ろ半分は聞こえへんかった。

 

 タラップを静々と降りると、ミリタリータトゥーの時みたいに儀仗兵の隊長さんが掛け声。ミリタリータトゥーで慣れてなかったら、ぶっとんでタラップから落ちてたよ!

 掛け声とともに儀仗兵さんたちがガシャっと捧げ筒! 軍楽隊の演奏でレッドカーペットの上を頼子さんに続いて歩く。

 出迎えの人らは、頼子さんと握手するねんけど、頭を下げたり小さく跪く姿勢をとったり、タキシードみたいなのに勲章ぶら下げたオッサンは、なんと、頼子さんの手の甲にキスしよった!

「あれ……」

 留美ちゃんが、小さな声で空港ビルを示した。空港ビルの屋上の手すりには大きな横断幕に『安倍政治を許さない!』ではなくて『お帰りなさいプリンセス! ようこそ日本のご学友!』と現地の言葉と日本語で書いたって、地元の小学生やらオッチャンオバチャンやらがヤマセンブルグと日本の国旗を打ち振ってる!

 頼子さん……プリンセス?

 あたしら……ご学友?

 

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高校ライトノベル・高安女子高生物語・68〔Let it go? Let it be?〕

2019-08-26 06:48:07 | ノベル2
高安女子高生物語・68
〔Let it go? Let it be?〕
      


 試験の最終日は嬉しい!

 って、前にも言うたよね……学年末テストのときにも?
 で、二年になって最初のテストが終わった日も、やっぱり嬉しかった。

 出来はともかく。

 AMY(エイミー)三人娘は、試験の後エーベックス八尾まで『アナと雪の女王』を観にいくことにした。お父さんが友だちの映画評論家のオッチャンから招待券二枚もろてたから、一枚買うだけで三人が観られる!
 ビエラ玉造……ほら、前に紹介したでしょ。玉造駅にできた電車そっくりのモール。  
 そこでラーメン食べて(ここのクーポン券はゆかりが持ってた) ニンニク入れたかったけど、映画館に行くんやから辛抱。ラーメン屋を出るとビエラに入ってる保育所から保母さんらに連れられた子供らが、お手々繋いで散歩に行くとこにでくわした。

 うちらよりカイラシイ? それはカイラシさの次元がちゃいます。

 美枝が、熱い眼差しで見てたんが気になったけど、うちもゆかりも何にも言わへん。言うだけのことは言うた。あとは美枝が決めること……できたら思いとどまってほしいけど……。

 映画館は思うたほど混んでなかったけど、三人並んで座れる余裕はなかった。インジャンして、ゆかりとうちが隣り同士、美枝は一人になった。

 さすがジブリが負けるだけのアニメではある。キレイなだけと違て、ちゃんとメッセージがある。

 LET IT GO!

 受け止め方は人それぞれやと思うけど、うちには「自信を持て!」いうように響いた。似たような言葉に RET IT BE!がある。うちには同じ意味に聞こえた。リピーターの人もいてるようで、歌のとこになったら口ずさんでる人もいてた。けど、邪魔にはなれへんかった。きっと同じ感動を共有してるからやと思う。

 エンドロールが流れて客席が明るなった。超えた席同士で顔をみあわせたらAMY三人娘は、それぞれの思いで目ぇ赤うしてた。

 ロビーに出たら、ショックなもん見てしもた。
 
 ちょうどうちらと入れ替わりに、関根先輩と美保先輩が入ってくるとこ。うちのLET IT GOは、たちまち萎んでしもた。
「明日香、メール入ってるんちゃうん」
 無意識にマナーモードを解除したスマホを見て美枝が言うた。お父さんからやった。

――焼き芋買うたとこや。よかったら三人で食べにおいで。タクシー代はもったる――

「三人とも、なかなかええ映画の見方してきたみたいやな」
 お父さんが、二つ目の焼き芋をまるかぶりしながら粉振ってきた。
「LET IT GOに感動しました」
 美枝が真っ先に言うた。
「ほう、どんな風に?」
「このままの自分でいいんだ……そんなふうに励まされました」
「このままでええいうのは、奥の深い言葉やね。そう、LET IT BEとどない意味がちゃうと思う?」
「え、いっしょちゃうのん?」
 うちは思うた通り返事した。
「僕は、ちゃうと思う」
「どんなふうにですか?」
「『LET IT BE』は、ただ優しいに『そのままでいい』やけど、『LET IT GO』やるだけのことはやって、言うだけのことは言うて、その後に出てくる『そのままでいい』 河内弁で言うたら『ほっとけや!』になる」
 美枝とゆかりが、コロコロと笑った。
「この部屋、一昨日と微妙に違いますね……」
 美枝が、部屋を見渡した。
「ああ、うちのオバハンがちょっと片づけよった」
「この人形……」
 ゆかりがガルパンの人形をシゲシゲと見た。
「一昨日までの表情が無い……」
「一昨日までは、なんだかムッとしてました。今は携帯を手に、ただ無表情に顔背けてるだけ」
「ほんまは、こないなるねん……」
 お父さんが、ちょっと顔の向きを変えた。

「あ、変わった!」

「どんなふうに?」
「なんだか携帯にイヤなメールが来て、ムッとして『ほっといて!』になりました」
「そう、これが『LET IT GO!』や」

「なるほど!」二人の声が揃った。

 うちには、その違いがよう分からへん。
「お母さんに、そない言うとうたるわ。勝手に片づけるなて」
「そら、言わんでええ。あいつには分からへん」

――だってさ――

 人形が、そう言ったような気がした……。
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高校ライトノベル・須之内写真館・40『護衛艦 かが』

2019-08-26 06:35:57 | 小説・2
須之内写真館・40
『護衛艦 かが』        


 今度の仕事は乗り気がしない。

 理由は二つ。
 
 第一に護衛艦の一般公開の取材であること。直美は自衛隊に偏見はない。知り合いの退官した新島さんなんかは、自衛官としても人間としても尊敬している。だけど、メカとしての自衛隊の装備には興味はなかった。
「メカを撮れるオタクはいくらでもいる。ナオちゃんには人間的な側面から撮ってきて欲しいんだ。キュ-ポラのある街角とか、福島の路上ミュージシャンとか良かったよ。ナオちゃん自身キュ-ポラや音楽に興味があったわけじゃないだろう。人間的な目線こそが、ナオちゃんの得意分野だろ」
 こう言われては断れない。また、仕事をえり好みできる立場でもない。

 相棒が付いた。鈴木健之助という軍事オタクのカメラマン。

「専門的な絵は、オレが撮るから、ナオちゃんはスナップとるような気楽さで撮ればいいよ」
 ハンドルを握りながら、この一言から、少年とオッサンを足して二で割ったような(けしてオニイサンではない)オタクの講義が始まった。

 『かが』は『あかぎ型護衛艦』の二番艦。全長270M、26000トンの巨体にオスプレー13機、対潜ヘリ8機搭載のデカ物。ここまでは分かった。アスロックがどうたら、ハープーンのシースキミングがどうたらは、もうお手上げである。

「うわー、大きい!」

 直美の第一声である。子どものように単純。
「こりゃ、『あかぎ』とは別物だな……」
 鈴木のオタク的感想は、直ぐに観察にかかった。
「フェイズドアレーが、微妙に小さい……スペック向上か? スパローの数が多い……まずは甲板の……」
 鈴木は、飛行甲板を手でコツコツ叩いた。
「なに、ノックしてんですか?」
「音がね、『あかぎ』と微妙に違うんよ。ねえ砲雷科の一曹さん」
 鈴木は、近くにいた乗組員に訊ねた。
「そうですか、自分は砲雷科なんで、よく分かりませんが」
 直美は、この一曹さんがとぼけていることは直ぐに分かった。
「カタチは『あかぎ』といっしょだけど、あちこち違いますね。第一の違いは甲板の材質。F35の搭載に耐えられる仕様じゃないんですか?」
「ハハ、そんな高度な装備計画は、わたしみたいなペーペーには分かりませんよ」
 と、ソフトに一曹はごまかした。
「あのオスプレイには、ニックネームとかないんですか?」
 これは、直美の質問。
「ああ、まんまだと『みさご』になるんですけど、我々は『アホウドリ』と呼んでます。上の方からはイメージ悪いって言われてます。みなさんで、なにかいい名前考えていただければいいんですけどね」
「ですよね、今までのヘリよりもうんと安全なんだから、でも、いまだに、ああやって反対する人たちっているんですね」
 鈴木が、波止場に目を向けた。百人ほどのデモ隊が、オスプレイ反対の横断幕を張っていた。反対デモと見学会が同時にできるのは、日本の自由と平和の現れなのかもしれない。A新聞と放送局が、できるだけデモ隊が多く見えるようにカメラワークを工夫しているのが可笑しかった。

 直美は、ここから一人で撮影することにした。鈴木といっしょでは、互いに迷惑になりそうだから。

 甲板の端に目立たない黒いダイビングスーツを着た乗組員がいることに気づいた。素人目でも分かる。万一転落者などが出たら、すぐに対応できるようにしているんだろう。カメラを向けると白い歯を見せて笑ってくれた。
「気が付いてくれたんですね」
「そうやって、一日中ですか?」
「いいえ、二直制で交代してます。右舷のブリッジの陰と艦首と艦尾にもいますんで撮ってやってください」
「ええ、そうさせてもらいます」
 直美は、お勧めのフロッグマンを三人撮影。途中広い甲板で駆けっこする子どもたちや、大の字に寝っ転がっているオジサン。端っこの方で、護衛艦をデートスポットにしているアベックなどを抜け目なく撮った。直美は、あくまでも人間観察の目線での撮影である。
 艦載機用のエレベーターにも乗ってみた。思いの外速い。全艦載機を発艦させるのに15分で出来ると聞いて納得。
「今の説明よく聞いた『15分以内』って、言ったんだぜ。実際はもっと早いんだろうなあ」
 気づくと、鈴木がいっしょになっていた。鈴木は、そのまま艦内に入っていったが、直美は、そのまま甲板に上がった。
「あ、A放送だ」
 さっきまで、デモ隊を撮っていたA放送が、取材のために乗艦してきた。

 そのクルーたちに、直美は微妙な違和感を感じた……。




 これは実在の護衛艦『かが』が竣工・命名される前に書いたもので、実在の『かが』とは関係ありません。

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高校ライトノベル・小悪魔マユの魔法日記・14『知井子の悩み・4』

2019-08-26 06:28:15 | 小説5
小悪魔マユの魔法日記・14
『知井子の悩み・4』 


 
「マユ、あったわ!」

 知井子が群衆の中から、這うようにして薬の小瓶を探してきた。
「あ、ありがとう」
 おきて破りの蘇生魔法を、あじいさんに施していたマユは、戒めのカチューシャに頭を締め上げられ、気絶寸前だった。
「おじいさん、このスポーツドリンクで……」
 しかし、発作が3分近く続いているおじいさんは、自分で薬を飲む力もない。
「それ、寄こして!」
 マユは、知井子からスポーツドリンクを取り上げ、口に錠剤を含み、口移しでスポーツドリンクごと飲ませた。

 おじいさんは、しばらくすると、息も整い、元気になった。
「だいじょうぶですか、なんなら救急車よびますけど」
 今頃になって、駅員さんがやってきた。
「それには及ばん、この子達のお陰で助かった」
「でも……」
「いいと言ったら、いい!」
 おじいさんが睨みつけると、駅員さんはスゴスゴと行ってしまった。
「すまんな、こんなジジイに、口移しで飲ませてくれたんだね、キミもせっかくの洋服を汚させてしまったなあ」
「あ、いいんです……こ、これ、オバアチャンのお古ですから」
「お古に、タグが付いているのかなあ」
 知井子のゴスロリにタグが付いたままだということに、マユは初めて気が付いた。

「じゃ、わたしたち、ここで……」

 マユと知井子は、息子さんが勤めているというビルの前まで、やってきていた。おじいさんもピンシャンしているので、もういいだろうと思ったのだ。
「それじゃわたしの気が済まん。息子にも君たちに礼を言わせたい」
 というわけで、マユと知井子は、そのビルの三階まで付いていくことになった。

 エレベーターのドアが開いて、二人は驚いた。
 目の前が、HIKARIプロの受付になっていた。
 HIKARIプロと言えば、東京、大阪、名古屋などにアイドルユニットを持って、急成長のプロダクションだった。
「黒羽を呼んでくださらんか」
 タバコでも買うような気楽さで、受付のおねえさんに言った。
「黒羽と申しますと……」
「チーフプロデューサーとかをやっとる黒羽だ」
「あの、失礼ですが。アポは……」
「わしは、黒羽の父親だ!」

 黒羽英二……マユも知井子も驚いた。黒羽英二と言えば、HIKARIプロの大黒柱、今売り出し中のアイドルユニット生みの親。そして、マユには分かった。さっきまで、地下鉄の入り口で人待ち顔で立っていた、プロデユーサーであることに……。
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高校ライトノベル:連載戯曲:ユキとねねことルブランと…… 3

2019-08-26 06:11:51 | 戯曲
ユキとねねことルブランと…… 3

栄町犬猫騒動記
 
大橋むつお
 
 
 
時  ある春の日のある時
所  栄町の公園
人物
ユキ    犬(犬塚まどかの姿)
ねねこ    猫(三田村麻衣と二役)
ルブラン   猫(貴井幸子と二役)
 
 
ユキ: ……子供が寄ってきた。
ねねこ: ちっ……子供は猫好きだからな。急いだ方がいいか……
ユキ: 子供たちがあぶないの?
ねねこ: いいや、子供に危害を加えることはないと思う……ただ、仕事がしにくくなる……
ユキ: 仕事?
ねねこ: お願いというのは(背中の水鉄砲をはずす)こいつで、あのルブランを撃ってほしいんだ。
ユキ: え……?
ねねこ: 見てのとおりの水鉄砲。ただし、中に薬が入ってる。
ユキ: 薬?
ねねこ: 猫の事務所からもらってきた「化猫を猫にもどす薬」
ユキ: え?
ねねこ: 天誅さ、天にかわって幸子の仇をうつ。同じ猫仲間として許せない。あたしは正義の味方猫ねねこ!(決めポーズ)
ユキ: ほんと?
ねねこ: ほんと。ね、お願いお願い、お願―い!
ユキ: でもでも、ルブランがもとの猫にもどって急に幸子さんがいなくなったら、幸子さんのお父さんやお母さん、きっと悲しむわよ。
ねねこ: 心配ない。今度は、あたしが幸子に化けるんだから。
ユキ: え、え……じゃあ、麻衣ちゃんの方は?
ねねこ: あたしの体は一つっきゃないのよ。
ユキ: じゃあ……
ねねこ: 二ヶ月もやったんだから、もうたくさんでしょ。
ユキ: でも、麻衣ちゃんのパパやママが……
ねねこ: まどかの魂は、探せばもどってくる。でも死んだ麻衣の魂がもどってくることはありえない、あたしが化け続けるのは、人の道にも、猫の道にもそむくことになる……むろん神様にも……(胸に十字を切る)家出したってことにする。ね、見かけもケバイねえちゃんになったから、家出くらいしたって、ちーっとも不思議じゃないでしょ。
ユキ: それって……
ねねこ: 死体を掘りおこして見せるよりましじゃん、でしょ……家出なら生きてるかもって……希望も持てるし……あたしの体は一つっきり! いろんな人をたすけようと思ったら、わりきらなきゃしょうがないでしょうが!
ユキ: あなたって人は……(ねねこの本心を見抜いている)
ねねこ: フフフ……思ったほどバカじゃないみたいね……そうよ。あたしは、なにも人だすけのためだけに化けてるんじゃない。楽がしたいの。おもしろおかしく生きていきたいの。それには、不自由な猫の体でいるよりも猫よりずっと気ままに生きてける人間の女の子になった方が……でしょ? そして、中産階級の三田村麻衣よりも、ブルジヨアの貴井幸子になった方が、何万倍もぜいたくできるじゃん! でしょ? だから鞍替えすんのよ鞍替え……待ちな……! どこへ行こうってのさ。ここまで聞いたら逃げらんないよ。もう、あんたはあたしの奴隷。妙な真似したら、あんたが犬だってバラすよ。体はまどかでも、頭はワンコ。さっき、電柱の横で思わず足が上がりかけたでしょ? 悲しむでしょうねえ……まどかのお父さんお母さん、娘が犬畜生だって知ったら……さ、早くこの水鉄砲を持って!
ユキ: 自分でやればいいでしょ!
ねねこ: できるくらいなら頼みはしないわよ。この薬は、猫が打ったんじゃ効き目がないの。さ、早く!(水鉄砲を渡す)
ユキ: だめよ、距離があるし、子供たちや他の猫たちもいるし……あ、鬼ごっこ。
ねねこ: ち……鬼ごっこなんかすんなよ、こんなところで……
ユキ: 無理だよ。
ねねこ: 悲しませる気か……自分を拾ってくれたお父さんやお母さんをををををを……よーくねらえ……今だ! どこをねらってる、左! いや、右!
ユキ: えい! はずれた……
ねねこ: 伏せろ! こっちを見てる……チャンス、今度はルブランが鬼だ!
ユキ: えい!
ねねこ: バカ、距離を見こんで撃たないか。銃口を上げて……上げすぎ!……右、左、遠すぎ! ちがう、そっちそっち、前だ! 前!(興奮しすぎたねねこが、ついユキの前に出てしまう)動いた、右、左、今だ! 
ユキ: えい!(あやまって、前に出すぎたねねこを撃ってしまう)
ねねこ: う……どこをねらってる……!?
ユキ: わざとじゃないよ、ねねこが前に出ちゃうから……
ねねこ: う……く、苦しい……猫の姿にもどってしまう……ユ、ユキのバカヤロー!(もがきつつ上手に去る)
ユキ: ごめん、だってねねこが……ねねこ……あ、猫にもどっちゃった……動かない……死んじゃったのかなあ……
 
いつの間にかルブランがラクロスのスティックを手にあらわれている。
 
ルブラン: 気絶しているだけよ。ほっとけばいい、あんな未熟者。そのうち目が覚めてどこかへ行くでしょう。
ユキ: ……
ルブラン: ルブランでいいわよ。知ってるんでしょ、わたしのこと? あなたの射撃、ねねこが言うほどには下手じゃなかったわよ。犬にしておくにはもったいないくらい。おかげで服も持ち物もびっしょびしょ。
ユキ: ……!?
ルブラン: 効かないのよ、わたしには。
ユキ: だって、ねねこは……
ルブラン: あんな下等な化猫といっしょにしないで。あいつは、ただ人に化けて、いい思いがしたいだけ……わたしは違うのよ。猫のエリートを育て、その子たちを人間に化けさせて……そこから先は、ヒ、ミ、ツ……ホホホ……じゃ、また町内の猫たちの訓練をしようっと。あなたたちには、ただの鬼ごっこにしか見えないでしょうけどね……おっと、その前に、濡れた服を着替えなくっちゃね。バキューン(ラクロスのスティックでライフルを撃つ真似をする)今度邪魔したら、許さないからね(去る)
ユキ: ……あいつ、全部知ってんだ……
 
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