魔法少女マヂカ・060
あっちだ!
早とちりの誤認攻撃に文句も言わないで、ブリンダは駆けだした。
ブリンダは地元の女子高生の制服で敵を追いかけていたのだ。敵がわたしとの戦いに気を取られている隙に接近し、一撃で仕留めるつもりだったんだ。近接戦闘は大戦のころからのブリンダの得意技だ。七十四年ぶりに日暮里駅で邂逅したときにはすれ違いざまにブラを抜き取られた。ところが、敵もなかなか、逆にブリンダを翻弄してわたしのドロップキックで同士討ちにさせようとしたんだ。
16号線を芸術劇場の方に走っている。
芸術劇場の向こうは京浜本線。敵は線路に沿って逃げたか、線路をまたいだ山に逃げ込たか、数秒後には判断しなければならない。敵もこちらも亜音速で16号線を駆けているのだ。人々は、ようやく鎮火し始めた軍港の災厄に釘付けで魔法少女の激闘に気づく者はいないだろう。ただ、スマホやカメラを向けている者が多く、映りこんでいる可能性は高い。二人ともレベル1の光学迷彩をかけているので、顔の特徴を捉えられることは無いが、制服は写る。騒ぎになるかもしれないが、今は構ってはいられない。
え……分裂した!?
汐入駅手前まで来たところで敵の気配は三つに分かれた。上りの東京方面に向かう気配、下りのトンネル方向に向かう気配、そして正面の山に駆けのぼる気配。
どうなってるんだ?
京浜本線の軌道上で迷ってしまう。光学迷彩をレベル4に上げてある。赤外線カメラでもなければ視認はできない。光学迷彩を5にまで上げれば赤外線カメラにも引っかからないが、瞬発的な行動ができない。迷彩の効果と行動能力は反比例するのだ。
軌道上を右往左往しながら行方を探る。
来るぞ!
トンネル側に寄った時、トンネルの中からパルスタガ―が飛んできた。からくも、トンネル入り口の両脇に身をかわしたが、わたしもブリンダも制服を裂かれてしまった。
――トンネルの向こう側に周る、十秒後突入――
手話で伝え、山すそを駆けて反対側へ。一呼吸おいて十秒。突入!
互いに識別信号を発して同士討ちを予防する。
ところが、突入直後に飛んできたのは敵のパルスタガ―だ。
くそ!
風切り丸を実体化させ、上段に構えながら突き進む!
再びパルスタガ―! 避けたところにソードの剣先が迫る!
キエーーー!!
避けると同時に風邪きり丸を一閃!
バシュ!!
手応えと同時に頬に痛みが走る! 口の中が血で溢れる、誤飲すれば窒息する。
反射的に左手を当てて止血。
風切り丸を構え直して、敵のシルエットを認識。
「ブリンダ!?」「マヂカ!?」
またも同士討ちするところだった。