大橋むつおのブログ

思いつくままに、日々の思いを。出来た作品のテスト配信などをやっています。

高校ライトノベル・せやさかい・052『エディンバラ・8』

2019-08-18 13:32:10 | ノベル
せやさかい・052
『エディンバラ・8』 

 

 

 御堂筋みたいなもんかな……。

 そう言ってから、頼子さんはコロコロと笑った。

 なにが御堂筋かと言うと、エディンバラの旅も一週間になった昼下がり。

 わたしらは、エディンバラのメインストリートであるロイヤルマイルに立っている。

 エディンバラは、お城とホリルード宮殿を結ぶロイヤルマイルがメインストリートで、その点が、御堂筋を中心としている大阪に似ているんやそうです。ようは「あんたたちは、エディンバラの中心にいるのよ」という説明なんやけど、ちょっと強引なんで、頼子さんは自分で言う手笑っているという次第。

 お城を皮切りに、四日かけてロイヤルマイルに面してるところを見て回った。セント・ジャイルズ大聖堂と付属のクラフトマンショップ。クラフトマンショップは普通のお土産屋さんでは売ってないコアなハンドメイドな品物が一杯。最初は見て回るだけにして、ヒルウッドに戻ってから絞り込んであくる日にお買い物。

 何を買ったかは、言い出すとキリが無いので、帰ってから別の所で語りたいと思います。

 大聖堂前の銅像で待ち合わせ、暇なんで、銅像の銘板を読んでみる……て、中学一年の英語で分かるわけないねんけど、名前だけはなんとなく『Adam Smith』……アダム・スミス……聞いたことがある。すると、最初にやってきたジョン・スミスが「あ、ぼくのご先祖様」とシラッと言う。

「うわあ、そうなんや!」

 苗字が同じスミスやし、性格のええわたしは直ぐに信じてしまう。

「それ、ちがいます!」

 真面目な顔でソフィアさんが否定する。

「『アダム・スミスはエディンバラ出身の経済学者で、近代経済学の父と言われています。国富論を著わし、経済という物は神の見えざる手によって予定調和に達する』と言いました」

 中学生相手には難しい説明を翻訳機を通して説明してくれる。なるほどねえ……とか感心したけど意味は分かってない。生真面目なソフィアさんには真っ直ぐ向きあわならあかんと思うからです。

「銅像なら、こっちの方が分かりやすいわよ」

 戻ってきた頼子さんが手招きする。

 

 それは、イギリスの忠犬ハチ公やった!

 

 160年ほど昔、エディンバラ警察の警官やったジョン・グレイが亡くなると、飼い犬やったボビーは死ぬまで十四年間、ずっとジョン・グレイのお墓を離れませんでしたという美談。ハチ公もそうやったけど、地域の人が「おまえは、えらいやっちゃなあ!」と観劇して、墓守をするボビーにエサをあげたり世話をしたげたりしたそう。

「ジョン・グレイこそがご先祖なんだ。ジョン・グレイ、ジョン・スミス。ね」

 ジョン・スミスが、またかます。

 真面目な留美ちゃんが「そうなんですか!」と感激しかける。

「ちゃう、ジョンは名前で苗字とちがうで!」

「な、なんだ(#ω#)」

 

 それからエレファントハウスというカフェレストランに向かう。

 

 ここは、J.K.ローリングが毎日のように通って名作を書いたお店!

 分かる、J.K.ローリングですよ、J.K.ローリング!

 へへ、わたしも最初は分からへんかったんやけど、留美ちゃんは「え、うっそー!?」と一発で感動。

 看板の横に書いてあるタイトルでビックリ!

 ここは『ハリーポッター』が生まれたお店なんですのよ!

 

 頼子さんは文芸部の部長やけど、あんまり推薦図書も言わないし、しつこく感想を求めたりもせえへん。

 普段は、部室の図書分室でお茶ばっかりしてる。時々留美ちゃんが質問したりしてすると、びっくりするくらい熱を込めて話してくれたり。わたしは、二人の横で、ひたすら感心してるばっかし。

 J.K.ローリングが毎日ハリポタを書いてた横の席でランチとお茶。

「なんだか、自分も書いてみようって気がするでしょ」

「「は、はい!」」

 返事こそ留美ちゃんと揃ったけども「いやいや、気分だけですよって(;^_^」と逃げを打つ。

「いいのよ、気になるだけで十分だから」

 

 エディンバラ合宿は二週目に入ろうとしていた。

 

 

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高校ライトノベル・高安女子高生物語・60〔楠木正成との対話〕

2019-08-18 06:26:09 | ノベル2

高安女子高生物語・60
〔楠木正成との対話〕
       


 今日は、うちの17歳の誕生パーティー。

 ほんまの誕生日は二日前やったけど、平日やったんで、今日やることになった。
 奈良の伯母ちゃんとおっちゃんも来てくれる毎年恒例の行事。なんせうちは佐藤家にとっても、お母さんの実家である北山家にとっても、たった一人の孫。それも、お父さん43、お母さん41のときの子。両家のジジババの喜びもひとしおやったとか。
 なんせ、一歳のころからの行事やから、当たり前に思てるけど、これには大きなうちへの期待がある。それも無意識やから、心に重い。

 分かる?

 うちは、四人。場合によっては五人の年寄りの面倒、又は後始末をせんとあかん。
 お祖母ちゃん、お父さん、お母さん、伯母ちゃん、おっちゃんの五人。
 お父さんの方のお祖父ちゃんお祖母ちゃんは三年前と去年に片づいて……逝ってしもた。うちが四十前になったら、両親伯父伯母ともに、平均寿命の危ない年頃。今里のお祖母ちゃんもヘタしたら……幸いにしてギネスもんの長生きしたら生きてる可能性がある。
 介護認定してもろて、ヘルパーさんの世話になって、場合によってはデイサービスの送り迎えは当たり前。施設に入れたとしても、ホッタラカシにはでけへん。着替え持っていったり、入院したら付き添い。ほんで、最後は四人の(場合によっては五人の)葬式、財産の(そんなに無いけど)処分。年忌法要……なんや気が重い。

 うちの誕生祝いは、それに向かっての人生の一里塚。

「明日香、おまん、えらいなあ」
 気ぃついたら正成のオッサンが、うちから抜け出して横歩いてた。うちは考え事してるうちに恩地川沿いの道を歩いてる。
「やあ、姿見るのん久しぶりやね」
「明日香にひっついて、この時代の子どもが大変なんも、ちょっとずつ分かってきた。年寄り多いもんなあ」
「それでも、ホッタラカシにされるお年寄り多いよ」
「ホッタラカシにしててもな、心の中から平気いうやつはめったにおらへん。この時代に来てよう分かった。ほんで、明日香は、ホッタラカシにはようせん性格やしなあ」
「正成のオッチャンこそどやのん。千早赤阪の戦いのあとの一年の潜伏期間中やねんやろけど、うちでいろいろ本読んで分かったやろ」
「わいが、湊川で死ぬことか?」
「うん。負けて死ぬこと分かってて、平気でおられるのん?」
「ああ、安心したわ」
「え、なんで?」
「結果はええねん。明日香も、せやろ」
「うちが?」
「いずれ、人の嫁さんになって、佐藤の家は終わりになる。ほんなら、遅かれ早かれ、お祖母ちゃんやらその他のことなんか、忘れられてしまう。ほんでも、明日香はどないかしょうと、その標準より小さい胸痛めててんねやろ」
「オッチャンかて、あんなにがんばっても山川の詳説の本文にほんの一回名前出てくるだけやで」
「明日香には、難しいかもわからへんけどな……」
 正成のオッチャンは、側にあった石を川に投げ込んだ。鯉やらやら鮒がびっくりしてる。

「魚にも、時々石投げたって、流れに流されてること気ぃつかさなあかん」
「おっちゃんのは、なんか魚いじめてるだけに見える」

 おっちゃんが二発目に投げた石は、もろに大きな魚の頭にあたって、魚は気絶してひっくりかえってしもた。

「あれは草魚やなあ。もともとは中国の魚で、日本にはおらんやっちゃ」
「ほんまあ」
「ちょっとだけやったら、いずれ日本の水に合うて大きさも小さなって、馴染むんやろけどな。あんまりぎょうさん来たら、日本古来の魚がおらんようになる」
「なんや、意味深な言葉やね……」
「わいも、明日香も、それぞれのやりかたで、こういう石になったらええんや」

 もう一匹、草魚がひっくり返った。

 おっと、もう十一時。

 伯母ちゃんらがくる。家にもどろ。そう思たとたんに正成のオッチャンの姿が消えた。体が微妙にハツラツとする。オッチャンがうちの体の中に入ってきた証拠。このごろは約束薮ってお風呂の中までついてくる。
「あすか、右のケツにホクロがあるで」
「なんで、そんなん知ってんのん!? うちでも知らんのに」
「鏡の前で後ろ向きになって、股開いてみ。右の内側にある。あのホクロは男泣かせやで」
「どういう意味よ?」
「こういう女は、まぐわいのときに、具合が、ごっついええ。早う、学と寝てまえ。それでなにもかも解決や」

 と、こんな会話はしょっちゅう。正成のオッチャンはカラッとしてて、いつのまにか気にならんようになった。

「ええこと、おしえたろか」
「なんやのん?」
「明日香、おまんはアゲマンやで」
「アゲマン?」

 純真なうちは揚げたマンジュウを想像してた……。

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高校ライトノベル・里奈の物語・59『ブラのホックが外れてしまった』

2019-08-18 06:19:21 | 小説5

里奈の物語・58
『ブラのホックが外れてしまった』
          



 のらくろは腎臓病だった。

「腎機能が落ちてます。正常の半分ほどしかありません……どなたかが飼ってやって継続的に世話をしてやらんと、半年でんなあ」
 西田敏行みたいなオッサン先生が、街猫ボランティア面々の顔を見ながら言った。
「半年ですか……」
 田中さんがため息をついた。猫が大好きなオバサンたちなので、直ぐに誰かが立候補すると思っていたので意外な反応。
「うちは、もう三匹居るさかいなあ」
「うちは二匹やけど……大人の猫は、なかなか馴染まへんからなあ」
「うっとこは、ペット飼われへんし……」
 いろいろ事情はあるようだ。大人の猫が飼いにくいのも初めて知った。一瞬「あたしが」と思ったけど、居候の身では言いだせない。
「引き取り手がないんやったら……安楽死やなあ。半年苦しませるんやったら、そのほうがええよ」

「安楽死!?」思わず口に手を当てた。

「まあ、二十四時間は動かされへんから、今夜はうちで預かる。せやから、みんなで考えてみいな」
 オッサン先生は、ずり下がったズボンを揺すりあげながら、暫定的な結論を言った。
「……せんせ、うちが引き取るわ」
「美衣ちゃん……」
 ちょっと驚いたように先生が猫田の小母さんを名前で呼んだ。小母さんの下の名前を初めて知った。

 猫田の小母さんは、ガンの家系で、自分の寿命は人より二十年ほど短いと思っている。だから、猫を飼っても、猫より自分の方が早く死んでしまうんじゃないかと、猫も他の動物も飼わない。先生も知っているんだろう、だから驚いて、下の名前で呼んだんだ。
「まあ、先行き危ないもん同士……ひょっとしたら、これが生き甲斐になって変わるかもしれへんしね」
 あたしの背中をドヤしながら、小母さんが言う。どうやら、あたしが一番しょぼくれていたみたい。
「そうですよね、人も動物も、気を付けていたら、簡単に死んだりしませんよね!」
 あまり上等ではない答え方に、俯いてしまう。
「そんな、泣きそうな顔で言われたら、逆に聞こえてしまうやんか! ほれ、元気出して!」
 さっきよりも強い力で背中をドヤされる。
「あ……」

 勢いで、ブラのホックが外れてしまった。

「すんません、ちょっと……!」
「え、どないしたん?」
 あたしは出てきたばかりの犬猫病院に戻ってトイレを借りた。
 なんとか身づくろいして、出てくると、手当ての甲斐あって、うっすらと目を開けたのらくろと目が合った。
――大丈夫だよね、簡単には死なないから――
「すみませーん、お待たせしました!」
 病院の前で、オバサンたちに合流……したところで、スマホが鳴った。お母さんからだ。

――里奈、浩二郎が……あんたのお父さんが死んだ――

 グラッと地面が揺れた……。

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高校ライトノベル・須之内写真館・32『成人式の写真・1』

2019-08-18 06:12:56 | 小説4

須之内写真館・32
『成人式の写真・1』
        


 今日から成人式の写真を始めた。

 本当は明々後日の13日なんだけど、数が多くてさばききれないのと、元来の10日であったことを大事にしようという玄蔵ジイチャンの心意気で三日前から始めている。
 古着を集めて格安で貸衣装もやって開始。

 今日は金曜日ということもあって大学生の新成人たちが沢山やってきた。
 衣装代、着付け込みで3000円と格安。衣装の柄やメイクなどはコンピューターでいくらでも処理が出来る。写真屋も楽になったというか、競争が激しいというか。

 今年、試しに『痛衣装』というのをコンピューター処理で始めた。

 主に男の新成人を当て込んで始めた企画で、アニメの萌えキャラを処理して、衣装にはめ込むのである。これは300円の割り増しが付く。なぜかというと著作権の使用料。

 で、これが当たった。

 柄に萌えキャラをいれることも出来るし、脇に萌えキャラを並べてツーショットやら、集合写真なんてのもできる。意外と女性客に萌えキャラの人気が高かった。
「ゆるキャラとか、AKBメンバーとかないんですか?」
 という声もあり、これは来年の課題。

 恥ずかしいことが一つあった。ショ-ウィンドウの見本写真である。

 女性のモデルは直美である。新成人とは二つしか歳は変わらないのだが、なんとも恥ずかしい。でも、仕事。杏奈と美花に頼もうかと思ったが、あの子達は二年先に本物の成人式を控えているので遠慮した。プロのモデルはもってのほか、儲けの半分がギャラで飛んでいく。
 もう一つ恥ずかしいのが男のモデル。なんと父の玄一がやっている。むろんまんまで出すわけにはいかないので、コンピューター処理のしまくり。まあ、原形を留めていないので良しとする。
「あのモデルさんどなたなんですか?」
 と聞かれたときの直美と玄一の反応は見物だった。

 昼休み、スタジオでウツラウツラしていると、シクシク泣き声が聞こえてきた。

「え……」
 と思うと、コンピューターのモニターの中で、萌えキャラが一人泣いていた。
「どうしたの?」
 直美が、そう聞くと、萌えキャラは涙堪えながら答えた。
――だって、あたしには一度もリクエストがないんだもん――
 その子はミイムという可愛い萌えキャラなんだけど、電子専門学校の学生が創った著作権フリーのキャラで、この子を使った場合は著作権の問題が発生しないため、料金300円の割り増しが付かない。
 人間というのは妙なもので、無料というとなんだか格下に思えてしまう。それで、ミイムを使うお客さんが居なかったのだ。

「ねえ、お父さん。ミイムも300円の割り増し取ってみようよ」
「そうだな……」
「ちゃんと原作者にはロイヤリティー払ってあげようよ」

 で、午後からはミイムも300円の割り増しを取ることにした。
 すると、10人のお客さんがミイムを使ってくれた。結局三日間で三十人ほどのお客さんが使ってくださることになる。

 それから、ミイムは直美のパソコンに住み着いてしまい、壁紙になったりアクセスの案内キャラになったり、直美にとっても癒しのキャラになっていくのであった。

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高校ライトノベル・小悪魔マユの魔法日記・6『ダークサイドストーリー・2』

2019-08-18 06:04:04 | 小説6
小悪魔マユの魔法日記・6
『ダークサイドストーリー・2』


 

 

 突然時間が止まった。

 チョークを拾い集めている片岡も、それを手伝っていた生徒達も、中腰や屈み込んだ姿勢のまま停まってしまった。窓から見える飛行機も空中で止まっている。

「これ、あなたが……?」
「あんたじゃないの……?」

「あなたのほうが、一瞬早かったようだけど」
「……良く見て、あの飛行機」
 マユは、窓から見える飛行機を指差した。
「え……ああ」
 利恵も分かったようだ。飛行機は少しブレた写真のように、かすかに二重になっていた。
「どうやら、同時に時間を止めてしまったようね。0.01秒あたしの方が早かったみたいだけど」
「みたいね、飛行機のブレてる頭は、ダークサイド色してるもの」
「戻すの大変ね。タイミング合わせないと、ブレたままの飛行機がブレたままの飛行場に着陸することになっちゃう」
「それって、きっと大事故になる」
「海の向こうじゃ、自由の女神が双子になってるかもよ」
「やばいよ……」
「だよね……」
 
 ちょっと説明がいる。

 時間を止める力は、天使にも悪魔にもある。複数の天使や悪魔が時間を止めた場合、力の強い方の効果が出るので、ブレるようなことはない。
 しかし、ごくごく希に、力が同等であった場合、そして時間を止めたタイミングが0.01秒以下であった場合、時間がだぶって止まってしまい。それは距離に比例し、地球の裏側では、200メートルぐらいのブレになってしまう。大昔、サタンとミカエルが戦ったとき、これをやらかし、その時は太陽がダブってしまった。世界各地の神話や言い伝えに「太陽が二つになった」という言い伝えがあるのがそれである。
 つまり、落第悪魔のマユと、落第天使の利恵は、有史以来めったにない事故をやらかしてしまったのである。

「早く修正しないと、またエライサンに大目玉だわよ……」
「こないだ、校長先生の髪の毛事件やったとこだもんね……」
 二人は、イヤイヤながら手を繋いだ。そうしなければ、同時に時間を再起動できないからだ。
「好きで、手を繋ぐわけじゃないんだからね……」
「あったりまえじゃん!」

「じゃ、いくよ……」
「うん……」
「3、2、1……GO!!!!」
 二人の落第生は、目をつぶり、互いの神経をシンクロさせて気合いをかけた。


「あんたたち……なにしてんの?」

 階段を降りてきた知井子が不思議そうに聞いた。
 気がつくと、片岡先生も、チョークを拾い集めていた生徒達も、とっくにいなくなっていた。
「な、なんでもないわよ!」
「そ、そう、なんでもないんだから!」
 二人は、慌てて手を放した。次の便だろうか、空を行く飛行機はダブってはいなかった。

 水道で手を洗いながら、マユは思った。
――あいつの心、意外なほどあたしに似ていた……。
 手洗いの鏡に写る自分の顔が、落第天使のそれとダブって見えた。
「……そんなことってあり得ないんですけど!」
 ピシャリと、自分の頬を叩いて、マユは手洗いをすませた。

 同じ頃、もう一階上の手洗いで、落第天使の雅部利恵も同じように感じていた……。

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高校ライトノベル・連載戯曲『たぬきつね物語・7』

2019-08-18 05:55:15 | 戯曲
連載戯曲 たぬつね物語・7
 
 大橋むつお
 
 
 
時   ある日ある時
所   動物の国の森のなか
人物
  たぬき  外見は十六才くらいの少年  
  きつね  外見は十六才くらいの少女 
  ライオン 中年の高校の先生
  ねこまた 中年の小粋な女医
 
ねこまた: たぬきとかきつねとか、そんなケチな区別でうろうろせずにすむ。自分の思いのままに、噛み付き、殺し、食らい。自分以外の何も恐れる者のいない、けだものになれるわ。昔、ライオン丸の御先祖がそうだったように……
ライオン: おれのご先祖が?
ねこまた: 今のライオン丸は無駄に図体の大きいねこみたいだけども。あんたの御先祖は、動物とかアニマルとか、そんな生やさしい呼び方でくくれる存在ではなかった。さあ、刺しなさい、けだものの末裔を。そして、今度はあなたたちがおなりなさい。新たなけだものの源流に、新たなけだものの伝説に。
たぬき: けだものの源流に……
きつね: けだものの伝説に……
ねこまた: ただし、深い孤独とひきかえにね。けだものになったら、もう誰もうちとけてはくれない。誰も手をつないではくれないし、寄ってさえくれない。どこへ行くにも、何をするにも一人ぼっち。たとえ草原で一人淋しく死んでも、誰もその死を悲しんではくれず、みんな安堵に枕を高くし、胸をなでおろす。そして、ほんのちょっぴり「世の中つまらなくなったなあ……」と、安心とも、つまらなさともつかない溜息をもらす。そして、何十年もたってから、世の中がのびきったラーメンのように味気なくなった時。自分のついた溜息とともに、けだものを思い出す。甘くて苦くて、そして、とりかえしのつかない思い出として……
三人: ……
ねこまた: さあ、そういうけだものになりたいなら、そのライオン先生を刺しなさい。深々と、そのナイフの切っ先が、そいつの脂肪まみれの肝臓に届くまで!
 
二人、ポロリとナイフを落とす。ライオン、安堵の溜息をもらす。その溜息には、ほんのわずか、本人も意識しない失望が交じっているかもしれない。
 
たぬき: ……刺せません。
きつね: ……わたしも。
たぬき: でも、どうしたらいいんですか?
きつね: やっぱり、このままでいるしかないんですか?
ねこまた: それなら……二人とも、この森を出て旅に出なさい。
二人: 旅に?
ねこまた: 西と東に別々に、何年かかけて、この国を一周し、またこの森にもどってきなさい。
きつね: そうすれば、またしっぽが見えてきますか?
ねこまた: いろんなところに行き、いろんな人に会い、いろんな経験をして。そうしたら、見えないしっぽが見えてくるかもしれない……そのくらいの勇気は持っているわね。
二人: ……
ねこまた: さあ、これが旅立ちの荷物(ふた組の荷物を渡す)必要なものは全て入ってる。
たぬき: はい……
きつね: でも……
ねこまた: これしかないのよ。
二人: ……はい。
ねこまた: じゃ、ただいま、この場から出発!
たぬき: あの……化け葉っぱは?
ねこまた: 帰ってくるまで、あずかっておく。
きつね: お願いします。
ねこまた: ……もう少し早く、うちに来ていれば、こんな苦しい旅立ちをしなくてすんだのにね。
きつね: 手遅れじゃないんですよね……
ねこまた: それは、あなたたちしだいよ……
たぬき: じゃ、ねこまた先生、ライオン先生……
きつね: 行ってきます!
たぬき: 行ってきます!
 
それぞれ、東と西に旅立つ二人。手を振って見送るねこまたとライオン。
 
 
 
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