魔法少女マヂカ・054
薬包紙に似ている。
ほら、粉薬を包んでる三角のやつ。風邪薬の葛根湯とかが包んである。
昔の医者は、この薬包紙に包んで薬をくれたもんだった。駆け出しの魔法少女だった江戸時代、小石川療養所で手伝いをしていたときも薬包紙だった。魔法はからきしだったけど、赤ひげ先生に褒めてもらいたい一心で練習したっけ。
あ、今じゃ薬は調剤薬局か。
その薬包紙を思わせる折り方で手紙が来た。授業中、隣の席の子が回してくれたんだ。
どれどれ……開いてみた。
――昼休み、わたしのところに来て――
間の抜けた手紙だ、差出人の名前が無い。
しかし、こんなことをするのは調理研の……ノンコ。
ガンを飛ばすと振り返る、しかしノンコらしくフニャっと笑っておしまい。友里か? 反応なし。清美……も反応なし。
キョロキョロしていると安倍先生と目が合ってしまった。わざとらしい咳払いで注意される。
仕方ない、ほんとうに用事なら、また連絡してくるだろう。
黒板を写していると、また手紙が来た――手紙はわたし H・A――
H・A? は? えっちえー? イニシャルか?
キョロキョロしてみる。また、安倍先生が咳払い。
でも意味が違う――やっと分かったか!?――という顔だ。
「いやあ、一度やってみたかったんだ、授業中の手紙(*´∀`*)」
職員室に行くと「相談室に行こう」の一言。で、相談室で先生と向き合っている。
「はいはい、で、用事はなんですか?」
「来栖司令から言われてることよ」
「え……?」
目が点になってしまった。
特務師団の事は任務に招集された時にだけ意識に上るはずだ。だからこそ、調理研三人の能力のあれこれが向上したことのアリバイに苦労しているはずではないか。なんで、安倍先生は!?
「知ってるかって?」
「あ、あ、あの……」
「真智香が魔法少女だってことは、ケルベロスからも聞いてるしね。来栖司令も、そういうことは分かってて話を持ってきたと思う。ま、それは改めて話すとして、本題よ」
「は、はあ」
「あなたたちにレンジャー訓練をさせるわけにもいかないでしょ。徐福伝説でいくことにした」
「徐福?」
「うん」
「駅前の中華料理屋ですか?」
「じゃなくて」
中華料理屋でない徐福……数百年におよぶ徐福のあれこれが頭に浮かんだ。徐福と言えば不老不死の薬だ。
「そう、二千年前に、秦の始皇帝の命で不老不死の薬を求めて日本にやって来たって伝説の人物」
話が掴めない。
「少しでもいい、純度が低くてもいい、不老不死の薬をちょこっとだけ服用したら、能力が向上したってことで間尺に合うと思うのよ。ほら、ポパイがほうれん草の缶詰食べて力が強くなるじゃない。その線で行こうと思う」
「しかし、ちょっと取り留めなくないですか?」
「徐福の不老不死は薬じゃなくて食べ物だと言われてる。だから、食材を集めて不老不死の食事。それを食べて能力が向上した! そういうことなら調理研らしくて説得力あるでしょ、不老不死のレシピよ!」
「不老不死のレシピ?」
「そうよ、それが、この日暮里高校にあるのよ!」
ドン! 鼻の穴を膨らませ、先生が元気よく机を叩いた。
うう……とてもめんどくさいことになりそうな予感がしてきた。