大橋むつおのブログ

思いつくままに、日々の思いを。出来た作品のテスト配信などをやっています。

高校ライトノベル・魔法少女マヂカ・061『城ケ島の少女・5』

2019-08-21 14:55:32 | 小説

魔法少女マヂカ・061  

 
『城ケ島の少女・5』語り手:マヂカ  

 

 

 上だ!

 同時に気づいた。

 トンネルの天井に抜ける空気の流れを感じたのだ。

 瞬時に、天井から上方に抜ける穴を発見し、ブリンダと二人で突き抜ける!

 穴の突き当りはマンホールのように鉄の蓋がされていたが、伸ばした手の先からパルス波を発して吹き飛ばす!

 シュワッ!

 蓋に続いて空中に飛び出し、勢いのまま互いに45度の角度で急上昇!

 出口付近でグズグズしていると、待ち構えている敵に狙撃されかねない。

 

 学校……だ。

 

 足元のグラウンドではジャージやユニホーム姿がボールを追いかけたり走りこんだりしている。校舎の窓からはブリンダと同じ制服姿の女生徒たちが部活をやったり帰宅準備にかかったりしている。

 ここは地元のS女学院だ。S女学院は山一つの頂上を削って設置されていて、山のドテッパラには京成本線のトンネルが穿たれているはずだ。

 この中に紛れたら、ちょっと難しい。

「降りて探すか……」

 決心して制服をS女学院のものに再構成する。

「体育館の裏から入るぞ」

「待って!」

 違和感を感じた。

「もう七時前だぞ、こんなに生徒が残っているか? それに、飛び出してきたマンホールが、もう閉じられてる」

 あれだけの馬力でぶっ飛ばした蓋が戻っている。それに、だれも気に留めないし、怪しんでもいない。

「「罠だ!」」

 同時に気づいて、学校の山から離れようとした。

 バチーーーーーン!

 見えない壁に弾かれてしまった。バリアーだ!

 ダガガガガガガガ!

 無数のパルスタガ―が飛んできた!

 二人とも、そのほとんどをはじき返したが、ブリンダもわたしも数発を食らい込んでしまった。むろん、体に命中させるようなことはしなかったが、タガーは制服を貫いてバリアーに縫い付けられてしまった。

 

「いいザマだな。これからゆっくり料理してやる」

 

 本館と思しき校舎の屋上に現れたのは、敵の魔法少女、石見礼子だ。学校のあちこちで放課後の女生徒を演じていたのは、その眷属たちで、生徒の姿のままで、得物のタガーやレイピアを構えている。

 麓から吹き上げる風に黒髪をなびかせ、礼子は、さらに吠えた。

「おまえたちフソウ魔法少女の復活は断じて認めない、ここでせん滅してやる!」

 ザザザザザザザ!

 眷属どもが一斉に得物を構える。次の一斉攻撃を食らったらもたないかもしれない。

 セイ!

 無駄と分かりながら、全身に力が入る。

 ビシャ!

 なんと、力みに耐えきれずに制服がはじけ飛んでしまった!

 魔法少女のコスは、正規のものも偽装のものも程度の差はあれアーマーの効果がある。

 アーマーと言うのは、敵の攻撃に耐えるだけでなく、自分が意図しない限り簡単にはパージされない。

 そうか、ポリ高の制服からここのに再構成する途中だったんで、アーマー効果が構築しきれていなかったんだ。

 一瞬で謎は解けたが、制服はパージではなくロストしてしまってR指定のあられもない姿になってしまっている。

 魔法少女とはいえ女だ。羞恥で真っ赤になって、一瞬のゲシュタルト崩壊に陥ってしまう。

 敵も、同様で、こちらよりもわずかに長い間が開いた。

 トワーーーーーーー!!

 風切り丸をユニコーンの角のようにして、屋上の石見礼子に突進した!

 ブリンダを護ってやらなくちゃ! この一瞬に掛けてみよう! R指定の姿を見られてたまるか!

 さまざまな気持ちと勝負師魔法少女の勘が捨て鉢の行動をとらせた。

 眷属どもが石見礼子のガードを固め、礼子のフルアーマーがチャージし終わる前に、風切り丸の切っ先は礼子の胸板を貫いた!

 ドゴーーーーーーーーーンンンンンンンンン!

 礼子の制服アーマーが粉砕しただけではなく、インナー装甲も破砕した手応え!

 その勢いで、校舎の上半分が齧り取ったように消滅して、わたしは、半ばゲル化した残骸に絡めとられてしまった。

 おかしい、鉄筋コンクリートの校舎がゲル化するか?

 ゲル化は学校施設全体に及ぼうとしていた。オーブンの中で溶けかけたチーズのようになった校舎に眷属たちは身動きが取れなくなっている。

 メリメリメリ……

 ゲル化しかけた校舎から身を引き剥がして、礼子が崩れ残った屋上に立ち上がった。

「その姿は……」

 礼子は、それまでの清楚な黒髪の少女ではなく、プラチナブロンドに美白の日本人離れした姿になっている。

「……少し見くびっていたようね。でも、ここまで、日米の魔法少女を一気に片づけてやる」

「お、おまえは!?」

「帝国海軍、戦艦石見よ」

「イヤミ?」

 ブリンダがスカタンを言う。ブリンダは大戦中の日本軍に関しては知識があるが、大戦前のそれには、ほとんど知識がない。

「嫌味は、そっちのほうよ。なんで敵同士の魔法少女が連携して、わたしを責める。節操のないクズどもが」

「あいつは、前ド級戦艦石見よ。城ケ島の沖で海没処分になっている」

「そうよ、それも航空爆撃の標的にされて……たとえ雑役船でもいい、帝国海軍の一員として生涯を終えたかったのに、やっと大日本帝国海軍の軍艦として生きていく覚悟ができたところなのに」

「よく分からん、老朽化して標的にされる艦は珍しくないだろう。そいつらが、いちいち恨みを持っているなんて聞いたことが無いぞ」

 ブリンダは、石見のことが分かっていないのだ。

「あの子は、元はロシア海軍の戦艦オリヨール。日本海海戦で鹵獲されて戦艦石見になったの、当時はボロジノ級の最新鋭艦だった」

「それで……」

「わたしの姿を蔑むなああああああああああああ!!!」

 プラチナブロンドの髪を逆立てて討ちかかってきた!

 

 日露どちらともつかない容姿を指摘されるのが一番の恥辱に感じるんだろう、瞬時に顕現させたサーベルと日本刀を両手に突きかかってきた。眷属どもは、健康なものが付き従ったが、その数は半数以下に減っていた。

 互いの体を跳躍台にして左右に散開、勢いをつけて反転すると、後方からの追撃に移り、得物を構えたままの左右の腕を切り落とした。

 キエーーーーーーーーーーーーーーー!!

 鳥のような悲鳴を上げ、自らシールドに穴をあけて礼子は消えて行った。

 主を失った眷属たちは、淡雪のように消えてしまい、眼下には夕闇の山頂にS女学院の校舎が沈もっていた。

 

 

 

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校ライトノベル・高安女子高生物語・63〔うろがけえへん〕

2019-08-21 06:29:43 | ノベル2
高安女子高生物語・63
〔うろがけえへん〕        


「うろがくる」とは、標準語で「うろたえる」という意味。

 せやから「うろがけえへん」とは「うろたえへん」という意味。
 で、なににうろたえへんかというと、試験前の土曜やいうのに、勉強する気もおこらへんし、うろもけえへん。

 うちは英数が欠点。国語が、かつかつの40点。むろん欠点の英数は追認考査で挽回……これは、だれにでもできる。なんせ、落ちたときのテストと答の両方が事前に配られ、その通りの問題が出る。これで落ちるやつは、よっぽどのアホか、学校にのっぴきならへん反発心のある見上げたやつ。で、そんな見上げたようなやつはおらへんので追認は受けたら、みんな通る。
 ようは「恐れ入りました、お代官様!」という恭順の意が示せるかどうか。

 うちは、お父さんの時代みたいに「造反有理」なんちゅうことは言いません。学校いうとこは、そんな帰属意識もなければ、反骨の気持ちもない。せやからチャンスくれるんやったら、惜しげもなく恭順の意を示して追試受けて、帳尻を合わせる。

 しかし、追試まで赤点のままやいうのはケタクソワルイ。「今年こそは、欠点とらへんぞ!」学期始めは一応決心。せやけど毎日タラタラつまらん授業受けてるうちに、そんな気持ちは、春の日差しの中で蒸発してしまう。
 とにかく、学校の授業はおもんない。学校の先生いうのはしゃべりが下手や。国語の教材に『富岳百景』があった。うちは、とうに文庫で読んでたから中味知ってたけど、先生が読むと、太宰治が生きてたら怒るやろなあいうくらい下手。もう文学の冒涜やいうてもええくらい。
 説明も下手というよりは、伝えよいう気が無い。

『富岳百景』の時代は昭和十三年の秋。舞台は甲州(山梨県)の御坂峠。これについて先生は何も語らへん。

 うちら山いうたら生駒山か、せいぜい金剛山。生駒山は、むつかしい言葉では傾動地塊という。大昔地べた同士が押し合いして、ポコンと浮き上がったんが生駒山。いわば地面の断面そのもの。せやからダラダラした頂上のない壁みたいな山。そこへいくと甲州の山は、それぞれ高々としてて人格を感じる。富士山なんかは、もう神さま。やっぱりそういう描写をしながら授業せんと『富岳百景』の世界には入っていかれへん。
 
 せめて高さ。
 
 3776メートルいうても大阪の子ぉはピンとけえへん。「生駒山の六倍の高さや!」言うて、窓の外の生駒山見せるだけでちゃうと思うんやけどなあ。「ほんで、その高さで一個の山や!」それで話の世界に入っていける。
 それに、あの話には人間の美しいとこしか出てけえへん。太宰が連泊してた天下茶屋は女将さんと娘さんしか出てけえへんけど、店の主人は戦争にとられて中国に行ってた。毎日中国では日本兵が三桁の単位で戦死してた時代。残された家族が心配ないわけない。せやけど、太宰は、あえて書いてへん。ラストの女郎さんらの遠足も、どこか牧歌的。そういう事情を知ってたら、あの作品から見えてくるもんは、もっと奥が深い。太宰の「単一表現」の苦しさと面白さの両方が分かる。

 以上は、テストの解答用紙の裏に書いた内容。おかげで40点。

 英語は、国語以上にどないしょうもない。なんで文法なんかやるかなあ。アメリカの子は文法なんか考えんと英語喋ってるのは当たり前やのに。それに先生らの英語の発音の悪いこと。
 うちは映画好きやから、よう見るけどメルリ・リープやらアン・ハサウェイなんか、ごっついいけてる。『プラダを着た悪魔』なんか最高にオシャレな映画やし、オシャレな英語が飛び交ってる。

 チャーチルが二日酔いで、議会に出たときオバチャンの議員さんに怒られた。そのとき返した言葉がふるってる。
{I am drunk today madam, and tomorrow I shall be sober but you will still be ugly}

 訳すと、こうなる。

「そうやマダム、私は酔っ払ってる。しかし朝には私は酔いは覚めてシラフになるけど、あんたは朝になっても不細工や」
 うちは、面白いから英語のまま覚えてる。

 で、こんなことばっかり言うて、ちょっとも勉強しません。はい。
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高校ライトノベル・里奈の物語・62『連ドラが始まる10分前』

2019-08-21 06:18:31 | 小説5
里奈の物語・62
『連ドラが始まる10分前』 


 あ~~~~また焼きすぎたあ!

 昨日よりひどい。オーブントースターは開ける前から煙を噴き出している。
「えい!」
 覚悟を決めて、トースターの扉を開ける。
「オワー!!」
 尋常ではない煙が噴き出す。のけ反るが、あっという間にキッチンに煙が満ちる。
「換気扇……!」
 でも、換気扇スイッチの紐が見えない! 窓は充満した煙の向こうに、ぼんやりと光のしみになっている。
「窓、開けなくちゃ!」
 なんとか窓にはたどり着けたけど、ロックが開かない!
「ゲホ! ゲホ! ゲホ!」
 このままじゃ煙に巻かれて死んでしまう……よろめいたテーブルでA4の紙袋が手に触れた。
「……ん?」
 紙袋を目の前まで持ってきてロゴを見る。
「あ、学校の封筒……岸本先生が持ってきたやつだ」
 溺れる者はなんとか……あたしは、A4の封筒を窓ガラスに投げつけた。

 パリーン! 

 窓ガラスは粉々に割れ、わだかまっていた煙はバキュームされたみたいに窓の外に吸い出された。
「……助かった」
 振り返ると、トースターの中、待っ黒焦げになったお父さんがツッパラかっていた。
「オレが悪かったことにしろ、それで里奈の問題……片付くぞ……」
 黒焦げのたこ焼きみたいな首に穴が開いていて、その穴から、ネズミの鳴き声みたいな声がした。

 ……………………………………嫌な夢だった。

 部屋は冷え冷えとしているのに、グッチョリと寝汗をかいている。
 脱いだパジャマで汗を拭う。本当はシャワー浴びた方がいいんだろうけど、気力が湧かない。
 掛け布団を抱きかかえるようにして体を折り曲げる。体が熱いせいか寒さが心地い。
「……風邪ひいちゃうな」
 のろのろと身づくろいして、エアコンのスイッチを入れる。

 エアコンが暖気を吐き出して、ようやくベッドから降りる。

 桃子のディスプレーの裏側を見ると、岸本先生からもらってホッタラカシにしていたA4の封筒が目に留まる。
 積もったホコリを「フーッ!」と吹き飛ばし、中身をベッドの上にぶちまける。
「あ……これなら、窓ガラスぐらいブチ破れるかも」
 紙屑の中から拾い上げたのは……「退学届」

――葛城さんの希望なので、一応同封しましたが、紙屑になるのが、私の希望です。 岸本順子――

「これだけが紙屑じゃないんですよ。先生」

 退学届以外の紙屑をゴミ袋に突っ込み、A4の届けに目を移す。
 保護者と本人の署名、退学理由……ここは進路変更の四文字を書けばいい。
 10秒で書き終えて、ハンコを押す。
「簡単なことだったんだ」
 とりあえず机の引き出しにしまい、スマホを取り出す。

――学校の制服送って――

 そうお母さんにメールを打つと、朝の連ドラが始まる10分前。

  あたしは、足取りも軽く二階のリビングに下りて行った……。
 
 
 第一期 完 
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高校ライトノベル・須之内写真館・35『赤いリボンの女の子・1』

2019-08-21 06:11:13 | 小説4
須之内写真館・35
『赤いリボンの女の子・1』       


 寒くて熱いところを撮りに行こうと思った。

 直美は、プロ用デジカメぶら下げて、桜木町の駅から山下公園を目指した。
 期待はしていなかった。寒くて熱い場所とは、冬のデートスポットのことである。編集部の要請で引き受けたが、簡単そうでむつかしい。ディズニーランドのような安直な場所は最初から考えていない。新宿や原宿渋谷も、人が多くて俗っぽすぎる。
 で、ジイチャンのの玄蔵に聞いたのが間違いだった。

「それなら、横浜の山下公園だ。程よいアベックが程よくいるよ」

『コクリコ坂から』じゃあるまいし、いまどき吹きっさらしの海岸、それも平日にデートするカップルなんかいないと思っていた。
 案の定、桜木町の駅から公園に向かってみたけど、公園に向かうアベックは見かけなかった。

 ま、いいや。
 
 山下公園だ、意図しないネタが転がっているかもしれない。そんな気持ちで公園に向かった。
 あまり知られていないが、山下公園は、関東大震災の瓦礫を埋め立てた上に造成された公園である。そう思うと、何を撮っても、いい被写体になりそう。

 氷川丸を遠景に全体を撮ってみた。

「うん、サマにはなるなあ……」
 直美はひとりごちて、海岸沿いに歩いた。
 かなりのご高齢と見られるお爺さんが、粋な革ジャンで油絵を描いていた。
「一枚撮らせてもらっていいですか?」
「ハハ、こんなロートルで良ければ、どうぞ」
 老人は、かなり描き慣れているのだろう、筆運びに迷いがない。
「慣れてらっしゃいますね」
「こればっかし描いていますからね」
「なにか思い入れでも?」
「僕は、あの氷川丸に縁がありましてね……大昔は、あそこでボーイ見習いをやってました」
「船員さんだったんですか?」
「ボーイは、船員とは言えるかな……それから兵隊にとられて、傷病兵で帰ってきたのも、あの氷川丸でした」
「そうなんだ……」

 その間に、三十枚ほど老人を撮った。

「戦後は、シアトル航路に復帰した一時期、ボーイで乗り組んでいました。船が引退してからは、会社の系列のレストランでボーイ。六十で辞めてからは、暇にまかせて、ここで絵ばかり描いてます」
「道理で書き慣れていらっしゃる」
「僕ばかりにフィルム使っちゃもったいない。被写体はいくらでもありますよ」
「あ、これデジカメですから」
「なるほど。でも、あっちの被写体もどうですか?」
 老人が向けた筆の先には『赤い靴の女の子』のブロンズ像があった。直美は言われるままにレンズを向けて写真を撮った。
「あれ……」
「お気づきになりましたか」

 ファインダーの中の『赤い靴の女の子』の向こうのベンチに赤いリボンの制服を着た小柄な女子高生が、同じ視線で海を見つめている。
「朝から、ずっとああしているんですよ。こんなジイサンが声を掛けちゃ逆効果かと思いましてね。僕からお願いするのもなんだけど、貴女、声をかけてやってもらえませんか……」
「分かりました」

 直美は、そう言うと、写真を撮りながら一度少女の前を通り過ぎ、後ろに回り、並ぶようにして声を掛けた。
「ちょっと掛けていい?」
 少女は、かすかに頷いた。安心させるために『赤い靴の女の子』を二三枚撮った。
「朝から、ずっとここじゃ寒くない?」

 少女は、もう一つ大きく驚いて顔を上げた。
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高校ライトノベル・小悪魔マユの魔法日記・9『ダークサイドストーリー・5』

2019-08-21 05:57:34 | 小説5

小悪魔マユの魔法日記・9
『ダークサイドストーリー・5』 

 

 

 片岡先生は、中庭の池を泳ぐ鯉を見ていた。

 池は、五十坪ほどの中ノ島を取り巻くようなドーナツ状になっている。鯉たちは前に進んで泳いでいるつもりかもしれないが、実際は、同じドーナツ状の池をグルグル回っているだけである。
 鯉が回遊しやすいように、ポンプで、適当な水流を作り出してある。鯉は、上流に向かってユルユルと遡っているような気になっている。これを作った人間に悪意はない。鯉が運動不足にならないようにとの気配りである。
 実際、この学校の鯉は長生きで体格も良く元気に育ち、視察にきた議会の文教委員の議員が、「ぜひ一匹譲って欲しい」と申し出たぐらいである。

 一匹だけ、回遊のアホらしさに気づいたのか、一カ所にわだかまって、あまり動かない鯉がいた。
「オレに似てるなあ、お前は……」
 片岡先生は、その鯉に親近感を持っていた。

 でも、回遊している鯉も、わだかまっている鯉も、どこへも行けないという点では同じである。

 その、アホらしさに気づいた鯉が、何に驚いたのか、ポチャンと跳ねた。よく見ると、新顔の錦鯉が泳いでいる。どうやら、その新顔に驚いた様子である。
「文教委員の議員さんが、気に入った鯉が欲しいっていうんで、交換に持ってきた新顔ですよ」
 庭木の手入れをしていた技能員さんが、問わず語りに解説する。
「そいつは、若い雌でしてね、そのスネた鯉は、あまりのベッピンぶりにタマゲタのかもしれませんね」
 片岡先生は、自分のことを言われたような気がした。

――しかし、オレは違う……だって、シンディーは、とっくに死んでしまったんだから。

 片岡先生の思念を感じて、利恵は混乱し、マユは一つの結論に達していた。
「利恵、あんた、頭の中スクランブルエッグだろう」
「そ、そんなこと無いよ」
 渡り廊下の窓から、中庭の片岡先生を見ながら、二人のオチコボレは声を交わした。
「アミダラ女王から、メリッサ先生を検索したのは大したものだったわよ。さすがガブリエルさんの姪っこだわよね」
「だって、片岡先生の心には、メリッサ先生が住んでいた。だから二人が出会えるようにしたのに……」
 そのとき、鯉が一匹、パチャンと跳ねた。
「片岡先生は、メリッサ先生を見て、シンディーって呼んだんだよ……ほら、今でも心の中でシンディーを呼んでいる」
「だって、DNAまで調べたんだよ」
「天国のスパコン使ってね」
「悪い? 天使は、悪魔みたいにアナログじゃないのよ。たえずイノベーションしてんのよ」

 中庭に面した、英語科の準備室からメリッサ先生が、当惑したような顔で中庭の片岡先生を見ている。

「ね、メリッサ先生もとまどってる」
「おかしいなあ……」
 そのとき、知井子がマユに声をかけた。
「ねえ、マユ、お昼いこうよ。みんな待ってるよ」
「あ、ごめん。すぐに行くから。ランチの食券買っといて」
 マユは、財布から五百円玉を出しながら、利恵に言った。
「あのねえ、一卵性の双子は、DNAがいっしょなんだよ」
「え……双子!?」
 思わず声になってしまい、近くにいた生徒たちが驚いた。

 そう、利恵とマユは、渡り廊下の二階と三階にいて、心で話し合っていたのである。

――天使の親切、大きなお世話ってね。
――そんな……。
――片岡先生は、シンディーの名前さえ封印して、記憶の底に鍵をかけていたんだよ。もう、片岡先生、立ち直れないよ。あんたが撒いた種だから、もう一度検索しなおしたら。全てのコンピューター使って。じゃ、よろしくね。
 

 そこで、マユは、利恵との思念のチャンネルを切って、食堂に向かった。

 利恵は、混乱しながらも、天国のスパコンにアクセスしてメリッサの情報を検索しなおした。
 答えが出てこない……。
 天国のスパコンでは間に合わないので、人間の何十億ものパソコンにアクセスするように命じた。天国のスパコンはプライドが高いので、最初は拒否したが、バグの報告をすると言うと、しぶしぶアクセスした。

 それは、数年前のフェイスブックから出てきた。

〈ジョンソン・オブライエン:娘のシンディー・オブライエンは、交通事故で、今日神に召されました。でもシンディーにはシロ-・カタオカという恋人がいて、神に召されるまで彼女を見守ってくれました。シンディーは幸せに旅立っていきました。そちらのメリッサにはご内密に〉
 シンディーとメリッサは、双子の姉妹で、赤ん坊のころにシングルマザーが亡くなったので、それぞれ違う里親に預けられたのである。里親同士は、フェイスブックで知り合い、情報を交換していた。
 それを利恵は気づかなかった。

――くそ、落第小悪魔め!

 利恵は、見当違いの憎まれ口をたたいた。たとえ小悪魔相手とは言え、天使が憎まれ口をたたいてはいけない。
 利恵もマユも、やはり、未熟な落第生……え、マユは間違っていないって?
 人間というのは、オチコボレ小悪魔や天使が思うほど単純ではなかった……。

つづく

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高校ライトノベル・連載戯曲:サクラ・ウメ大戦・1

2019-08-21 05:37:28 | 戯曲
連載戯曲:サクラ・ウメ大戦・1
          
 
 
大橋むつお
 
 
時 ある日ある時
 
所 桜梅公園
 
人物 
(やさぐれ白梅隊)   (はみだし八重桜隊)
ゆき(園城寺ゆき)    さくら(長船さくら)  (ITVスタッフ)
咲江           百江           リポーター
ルミ           純子           カメラ
春奈           ねね           音声
千恵           やや
その他いっぱいいれば なお良し 
 
 
 荒野の決闘を思わせるような曲が流れるうちに幕があがる。そろいのセーラー服に、それぞれ寸をつめたり、スカートの丈をかえたり、リボンの結び方が違ったり、それぞれ制服でありながら個性を主張するいでたちの十数名の集団が、スケバンのゆきを中心に、ドスをきかせながら(本物のワルになりきれない可愛さを残すこと)客席奥を睨んでいる。睨んだその先には(客席後方)違う制服の集団が似たような人数、いでたちで、舞台上の集団を睨んでいる。こちらのスケバンはさくらという。双方手に、百均のビニールの刀、ビニールのバット、水鉄砲など、いかにもチープな得物(武器)を構えている。
 前者を白梅学園女子中等部やさぐれ白梅隊と言い、後者を八重桜女学院中等部はみだし八重桜隊と言い、戦前の女学校時代からの宿敵同志である。この年、とある理由から何十年ぶりに、両校の中ほどに位置する桜梅ケ原と昔は言った、桜梅公園の東西にわかれ、果し合いの寸前である。
 
ゆき: おう、八重桜女学院中等部の諸君! 本日は白梅学園中等部の我々が、高等部のお姉様連になりかわり、宿怨のうらみを果たしにこの桜梅ケ原、現桜梅公園に打ちそろった。すぐる大正三年の創立以来の雌雄をここに決する覚悟、かく言うあたしは白梅学園中等部三年一組、出席番号四番、やさぐれ白梅隊隊長園城寺ゆき! 尋常に勝負しろい! それとも、このゆき姉さんの啖呵に恐れ入ってしっぽを巻いて逃げ出してもいいんだぜ……
さくら: なにぬかしゃあがる。昔の夏休みみてえに長げえ御託並べやがって、こちとら気が短えんだ。おめえたちみてえに高えところに登らなきゃあ、威勢の出ねえ弱虫は一人もいねえんだ。負ける前にこれだけは覚えておきな。あたいたちは八重桜女学院中等部、はみ出し八重桜隊! そしてこのあたいが総長の長船さくらだ! 逃げたい奴は、今のうちだ、こちとら気が短え、三つ読む間にそこを降りなきゃ、引き摺り下ろして、三つにたたんでやらあ!……ひとおっつ……ふたあっつ……みっつ……ほう……いい根性だ。女郎ども、たたんじまえ! 
   
 この掛け声をきっかけに、大昔のチャンバラのBGМ、客席で黄色い声をあげながら、双方二十秒ばかり戦う。数組が舞台で戦っていたが、それも三十秒も立つ間に、ゆきとさくらだけになってしまう。二人つばぜり合いをしながら……
 
ゆき: ちょ、ちょっと、あたしたちだけになっちまってるよ。
さくら: え、ええ!?
ゆき: どうする?
さくら: だってカメラまわってんだろ、どっかで!?
ゆき: 声が大きい、マイクに入っちゃうよ。
さくら: だって……
ゆき: 一応、決めたとおりに……
さくら: 相打ちってことで……
ゆき: 山形三回(上段の構えで三回打ち合うこと)
さくら: ぐるっとまわって、場所入れ替わって天地(上段と下段の打ち合い)三回、さっと離れて、あたしが胴を。
ゆき: 胴抜きはあたし、さくらは面打ち!
さくら: 声が大きい!
ゆき: あんたに言われたかないわよ。
さくら: じゃ、いくよ!
 
 チャンバラのBGM、急速にフェードアップ、クライマックスを暗示する。テキストどおり山形と天地を打ち合った後、気合とともに相打ちとなり、二人とも、あらかじめ仕込んでおいた血の紙ふぶきを派手に撒きあげて、見栄をきる。大向こう(客席後方)から「よっ、ゆきっちゃん!」「ゆっきー、かっくいい!」「ゆっきちゃーん!」「さくらや!」「千両桜!」などと掛け声がかかる。上手寄りの客席からカメラとリポーターが上がってくる。
 
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