大橋むつおのブログ

思いつくままに、日々の思いを。出来た作品のテスト配信などをやっています。

高校ライトノベル・魔法少女マヂカ・064『M資金・1 防衛大臣の蕎麦』

2019-08-27 13:50:58 | 小説

魔法少女マヂカ・064  

 
『M資金・1 防衛大臣の蕎麦』語り手:来栖司令  

 

 

 核武装すべきです。

 

 新防衛大臣を前に、かましてやった。

 先々代の女性防衛大臣は、自分の政治的ポテンシャルにプラスになるかどうかだけの興味しかないオバハンだった。

 だから「ここだけの話ですが」と前置きをしたのにもかかわらず、三日後にはマスコミに漏れてしまって、一カ月間マスコミに叩かれたあげく、防衛省資料部に左遷された。

 制服組の暴走を阻止した防衛大臣として、マスコミは彼女をもてはやした。しかし、お蔭で『ふそう計画』が実施できることになったのだから結果オーライ。この経緯について話し出すとキリが無いので、そういうことだった理解してくれればいい。

 先代はギャンブル産業の利益代表みたいなオッサンだった。

 先々代同様に『核武装すべきです』とかましただけで頭にも心にもシャッターを下ろしてしまいやがった。

 半島に核武装した統一国家が生まれそうで、日本は中国・ロシアと合わせて三つの核武装国家に囲まれてしまうのだ。ロケット技術、核技術、プルトニュウムの三つが揃っているのだから、その気になれば数か月で世界有数の核保有国になれる。しかし、日本には(核兵器を持つ)意思がない。

 わたしも、なにがなんでも核武装と言っているわけではない。核武装するとなれば、いまのGDP1%以内の防衛費ではいかんともしがたい。

 ふそう計画の充実を図りたいのだ。

 この日本に魔法少女部隊は一つしかない。特務師団と名前だけは立派だが、二人の魔法少女に頼り切っている。二人を出撃させる高機動車『北斗』は予算不足で、二回出撃に使っただけで大塚台公園の格納庫に仕舞ったままだ。二人の魔法少女には「北斗を使うまでもない」と言ってあるが、いつまでも、これでは済まないだろう。

「M資金捜索に手を付けてもらえないだろうか」

 防衛大学の先輩である新大臣は核武装論のブラフには見向きもしないで斜め上から迫ってきた。

「防衛省はミステリー映画でも作るつもりですか?」

 M資金とは、終戦直後から噂になり、様々なミステリーじみた事件や詐欺を巻き起こした、旧日本軍の隠匿財宝のことである。一時GHQが本気で捜索したが――そんなものは存在しない――ということが前世紀には確定していて、今ではテレビドラマの種にされることもなくなった。二十一世紀の今日に、それを持ち出すのは質の悪い冗談でしかなく、言い出したのが先輩でなければ張り倒しているところだ。こちらは、真剣に『ふそう計画』の進展を提起しているのだ。

「大臣、蕎麦があがりましたよ」

 いつの間にか、食堂のおばちゃんが大臣室のドアを開け、岡持ちを持って立っている。

「おお、できたか! 来栖、俺が初めて打った蕎麦だ、まあ、食ってから話をしよう」

 おばちゃんは、テーブルの上にモリそばを並べていく。なんだか煙に巻かれそうな気配だが、大人しくいただく。

 ズルズルズル~~~~~

「こ、これは……!?」

 驚いた。生まれてこのかた、こんなに美味い蕎麦を喰ったのは初めてだ!

「驚いたかい? 俺には三百年前の蕎麦聖の血が流れているんだそうだ」

 蕎麦聖!? それは湯島の聖堂近くで蕎麦屋を始めたという蕎麦名人のことである。歌舞伎や講談の話で、半ば江戸前蕎麦の伝説と言われている人物だ。

「な、こんなことがあるんだから、M資金だって存在するのさ。来栖君」

 大臣の後ろで、おばちゃんが大きく頷いた。

 このおばちゃんは何者だ……?

コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

高校ライトノベル・高安女子高生物語・69『バラが咲いた』

2019-08-27 06:33:29 | ノベル2
高安女子高生物語・69
『バラが咲いた』       


 
――明日香とこにも届いた?――

 朝起きたら、こんなメールがゆかりから届いてた。それだけで分かった。
 一つ前のメールを見る。夕べ来た美枝からのメール。
――バラが咲いたよ!――
 その一言に、真っ赤なバラがベランダの手すりと青い空を背景に咲いてるシャメ。
 美枝のマンションは南向きのベランダ。何を植えても育ちがええ。
 せやけど、このアッケラカンと赤くて大きなバラは、丹念に手入れした様子が窺える。
 バラは、ほっとくと一杯芽を付けて、小さな花を、時期的にも大きさ的にも、バラバラに咲かせる(期せずしてシャレになった)。せやけど、美枝のバラは、プランターに一茎のバラ。そこに大きく真っ赤なバラが三人姉妹みたいに揃て写ってる。きちんと手入れして剪定(間引き)してきた証拠。

「アカラサマやなあ……」

 思わず独り言。
「いやあ、ほんまにアカアカときれいに咲かさはったんやね」
 意味分かってへんお母さんが覗き込む。
 うちは三階建ての戸建てやけど、北向きやさかい、何を育てても満足には育てへん。うちは小さい頃は別やったけど、あんまり花には興味ない。お父さんもそうで、三年前に亡くなったお祖父ちゃんから引き継いだ仏壇のお花も、今は造花。お母さんはため息やったけど、うちは、それでええと思てる。

 そんな花無精なうちでも、美枝のバラの意味は分かる。
 赤いバラは愛情、情熱、それから……あなたを愛します。
 スクロールすると、シャメの下に、もう一言。

――LET IT GO――

 同じ言葉をゆかりに送った……うちのは美枝とちゃう意味やけど。
 スクランブルエッグを生の食パンに乗せて、コーヒー牛乳(うちは牛乳飲まれへんさかい)500CCを一気飲み。
「そんな早よ飲んだら、お腹こわすよ」
「分かってる」
 この言葉には切実な事情がある。
 テスト期間中は、学校9時からやったから、ゆっくり起きていく。あかんのん分かってて、この癖はなおらへん。なおらんとどないなるか。
 こんな、ささいな20分ほどのズレが、生活のリズムを崩す。

 正直言うて、テスト終わってから便秘気味。

 顔洗うて、歯ぁ磨いてるうちに体が反応してくる。
 生みの苦しみってこんなんやろなあ……一分ほど両親の苦労に共感したあとはスッキリ爽やか。
 うちの薬に頼らん便秘解消法。
「いってきまーす!」に続いて「お早うございます!」

 玄関の階段降りたら、向かいのオバチャンと目が合うた。

「やあ、あんたとこもバラ咲いたやんか!」
 かろうじ午前中だけ日の当たる階段の下の方。ベージュの植木鉢に貧相なバラが咲いていた。
「おかげさんで!」
 オバチャンは喜んでいるので、その喜びのお返しに明るく返事する。
 そやけど、貧相は貧相や。お母さんも剪定はやってるから、大きさはそこそこ。せやけど色が悪い。赤黒くくすんだ感じ。美枝の真っ赤にはほど遠い。
 向かいのオバチャンは、ほんの半年前に旦那さん亡くさはったばっかり。
「明日香ちゃんの家に電気点いただけでホッとすんねん、おばちゃん」
 気ぃのしっかりしたオバチャンやったけど、やっぱり一人暮らしは堪えんねんやろな……せやから、うちの貧相なバラでも、あないに喜んでくれはる。うちは、それに相応しいだけの反応ができたやろか……美枝のことには無力やったさかい、ちょっとナーバスになってる。

 高安駅までの八分ほどは、ぴかぴかの上天気、五月晴れというよりは、もうかすかに夏の気配。高安山の目玉親父も、なんか日向ぼっこしてるみたい。  
 マンションと畑の間のショートカットを通る。うちの植木鉢とは比較にならんぐらいの青い匂いが畑からしてくる。植物は確実に季節の移ろいと、手間掛けた人の心を写してる。この畑の持ち主は、きっと地に足の着いた河内のオッサンやねんやろなあ、と思う。

 運良く高安仕立ての準急に座れたんで、スマホ出して検索。

 赤黒いバラの花言葉は……永遠の愛やった!

 うっとこも、向かいのオバチャンにも、ええことが起きたらええのになあ……。
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

高校ライトノベル・須之内写真館・41『擬装テロリスト』

2019-08-27 06:24:34 | 小説・2
須之内写真館・41
『擬装テロリスト』       


 そのクルーたちに、直美は微妙な違和感を感じた……。

 同じ映像関係者だから分かった。そのクルーたちには、被写体である「かが」への興味が感じられなかった。
 A放送と言えば、反保守で通ったA新聞の系列なので、反自衛隊の立場でではあろうが、反対なりの関心の持ち方でカメラを回すはずだ。それが、とてもおざなりなのだ。
 カメラをパンして撮るときは、あらかじめ最終目標物に体を向け、捻って別のものを撮り、その捻りをもどしながら目標物を撮る。それが、カメラマンは体ごと向きを変えている。あれでは映像がブレてしまう。

 怪しい……そう思った直美は、レンズの倍率を上げてA放送のクルーたちを観察した。

「あ、栄美がいる!」

 マイクを持ったリポーターは、直美の古い記憶を呼び戻した。栄美は一年だけ在籍したたかもめ女子高校の同級であった。
 かれらは、ほぼ真っ直ぐにブリッジを目指した。同乗している他のテレビ局と動線が違う。

 しばらくすると、栄美がブリッジからウィングに出て、とっさに身をかがめるのが分かった。
 同時にブリッジが一瞬光ったかと思うと大爆発をおこし、ブリッジの窓から炎が吹きだした。遅れて爆発の振動と衝撃が伝わり、続いて血まみれの乗組員や、見学者たちがブリッジから飛び出してきた。

 ブオー! ブオー! ブオー!

 すぐに警報が鳴り、甲板にいた乗組員たちが、消火と救出作業にあたった。
――緊急事態です。艦内見学の方々は、乗組員の指示に従って、ただちに退艦してください。乗員は警戒態勢Aとなし、警戒を厳となせ――
 直美は反射的にブリッジ方向に走った。それは、出口である艦尾のラッタルに向かう動線と重なっていたので、誰も怪しみはしなかった。

「ちょっと待ちなさいよ!」

 直美は、一般客に混じって逃げようとしていた栄美の腕を掴んだ。栄美の目に一瞬の懐かしさが浮かび、直ぐに恐怖心に変わった。
「犯人は、A放送のクルーたちです、逃がさないで!」
 いつのまにか、近くに来ていた鈴木が、A放送のカメラマンに足払いをかけていた。
「プロのカメラマンが、カメラ置いて逃げるわけないだろ、このテロリスト野郎!」
 この一言で、A放送のクルーたちは、全員身柄が確保された。

 この『かが爆破事件』で、死者三名、重傷十三名、軽傷二十五名が出た。あかぎは沈むようなことは無かったが、CICに次いで重要なブリッジの内部が破壊されたので、数ヶ月の修理が必要になった。
 そして、マスコミは日本的な異常反応を示した。
 テロリストへの非難よりも、テロの目標になった自衛隊への非難が大きく報じられたのだ。
「必要なのか、過剰な装備!?」
「テロの火種、海自の最新鋭艦。問われる日本の防衛政策!」
「自分の身さえ守れない自衛隊!」
 そして、痛々しく流される被害者の映像やコメント。

 テロを許した日本の法律の不備と、対テロ対策の甘さを指摘する声は、ほとんど聞こえてこなかった。

 そんな中、直美は、拘置所の栄美に面会に行った……。
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

高校ライトノベル・小悪魔マユの魔法日記・15『知井子の悩み・5』

2019-08-27 06:14:40 | 小説5

小悪魔マユの魔法日記・15
 『知井子の悩み・5』 



「いつまで、親を待たせるつもりなんだ!」
 
 黒羽ディレクターは三十分遅れて、応接室に入ってきた。
「おじいさん、怒鳴っちゃいけません。また心臓が……」
 知井子が、心配そうに言った。
「なんだよ、この子たちは?」
「おまえからも、礼を言え。俺が地下鉄の駅で発作をおこして、死にかけているところを助けてくれたんだ」
「え、大丈夫かよ、オヤジ」
「礼を言うのが先だ」
「そうだな、どうもありがとう。ボクも地下鉄の入り口で、オヤジのこと待っていたんだけどね、急用で呼び戻されて。ほんとうに迷惑をかけたね、ありがとう」
「呼び戻されたなんて、白々しいことを。下手な言い訳をするんじゃない」
「ほんとうだよ、オヤジ……」
 黒羽は、言い淀んでしまった。ウソをついているからではない。父の発作に間に合わなかったことが後ろめたいのだ。マユは、黒羽が、おじいさんが思いこんでいるほど悪い人ではないと感じた。
「おじいさん、ほんとうです。おじいさんが来る、ちょっと前まで、地下鉄の入り口で、黒羽さん待ってらっしゃいました」
「ほんとうかね……」
「……あ、思い出した。角の店の前で、シャメ撮ってたよね。そっちのゴスロリの子に見覚えがある」
「この子たちはな、駅の階段で苦しんでいる俺を……そっちの子は、階段の下まで行って、腹這いになって、転んだ薬瓶を探してくれて、こっちの子は、薬を口移しで飲ませてくれたんだぞ」
「その服は、買ったばかりだろう」
「あ……いえ」
「ロ-ザンヌって店が、今朝、店先に出していたのを知っているよ。すまん、汚しちまったね」
「なんとか、してやれ」
 おじいさんが、息子を睨んだ。
 黒羽は、すぐに部屋の電話をとった。
「あ、マダム。HIKARIの黒羽です。今朝店先に出してたブリティッシュのゴスロリ、まだある……そう、よかった。ええと……七号サイズ。だよね?」
「え、ええ」
 知井子がうつむきながら言った。そんな黒羽父子のやりとりも爽やかで、マユは微笑んでしまった。

「ははは……というぐあいに、オヤジには叱られっぱなしだったよ」
 あれから、ローザンヌのマダムがきて、知井子は新品に着替えた。そして、近所の肩の張らない洋食屋さんで、お昼をごちそうになった。
「もう五年も、お家に帰ってらっしゃらないんですか?」
「ボクも、オヤジに言われて、初めて気がついたんだけどね。つい仕事が忙しくて……」
「楽しくて……なんじゃないですか?」
「し、失礼だよマユ」
「はは、マユちゃんの言うとおりだよ。キザに言うと夢を創る仕事だからね、楽しい夢からは、なかなか覚めない」
「で、お父さんが持ってこられたお見合いは……するんですか」
「それは、この業界の秘密。うちの所属の子たちも、恋愛禁止にしてるしね」
「そう、なんですか」
「で、お父さんは?」
「病院、念のためにね。ローザンヌのマダムが口説いてくれた。どうだい、よかったらカラオケでも」
「よろこんで!」
 知井子がのってしまったので、カラオケになってしまった……場所も最高級。HIKARIプロのスタジオ。

 まるで、普段のおとなしさを取り返すかのように知井子ははじけた。

 しまいには、研究生の子たちまで、いっしょになって、歌って踊り始めた。マユは、あぶない展開だと思ったが、こんなに楽しげな知井子は初めてなので、魔法で邪魔することもはばかられ、ヤケクソで知井子といっしょにはじけてしまった。
 ミキサーのブースで、黒羽がスタッフとなにやら話していることも気づいていたが、なんだか、このままの自然の流れがいいような気になった。
 これは、悪魔も、神さまも、むろんコニクッタラシイおちこぼれ天使の雅部利恵も関わってはいない。これが運命。自然な流れなんだと思った。

 案の定、二日後には、知井子のところに、HIKARIプロからオーディションのお誘いがきた。これはマユには想定内。
 ただし、家に帰ってみると、自分にも学校で見せられたのと同じお誘いが来ていたのは、想定外だった。

 そして、気づいた。この物語が始まって、一度も魔法を使わなかったことに……。

コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

高校ライトノベル:連載戯曲:ユキとねねことルブランと…… 4

2019-08-27 06:01:25 | 戯曲
ユキとねねことルブランと…… 4

栄町犬猫騒動記
 
大橋むつお
 
 
 
時  ある春の日のある時
所  栄町の公園
人物
ユキ    犬(犬塚まどかの姿)
ねねこ    猫(三田村麻衣と二役)
ルブラン   猫(貴井幸子と二役)
 
上手から、ユキを呼ばわる声がして、麻衣があらわれる。
 
麻衣: ユキ……ユキ……!
ユキ: ねねこ!?
麻衣: ちがう、ねねこじゃないよ。麻衣だよ麻衣!
ユキ: ……庭の木の下で骨になってるんじゃあ……
麻衣: それは、ねねこのハッタリよ。わたし、ねねこにブタの人形に変えられていたの。ほら、ねねこが首からぶら下げていた。
ユキ: あのブタの人形?
麻衣: ねこばけは、生きた人間を物に変えてそれを肌身離さず持っていることで、その人間になりかわれるの。化代(ばけしろ)っていうんだって。
ユキ: そうだったんだ……でも、よかった、生きていてよかった! 生きていてほんとうによかった!(抱きつく)犬の姿だったら、ちぎれるほど尻尾をふってるとこ!
麻衣: ハハハ、顔をペロペロなめたりすんのもカンベンね。
ユキ: うん、ほんとはペロペロしたいんだけどね。(今にもペロペロしそう)
麻衣: アハハ、あたしもちょっとハメをはずして、いいかげんな生活していたから……ねねこ、それを見て、うらやましくなったんだろうね。ねねこが、ねねこだけが悪いんじゃないんだ。
ユキ: でも、相当性格悪いよ、あの猫。
麻衣: うん、でも、子猫の時からいっしょだったからね。
ユキ: じゃ、一人と一匹で、いっしょに反省だ!
麻衣: はーい……で、そっちの方、まどかはまだ見つからないんだよね?
ユキ: うん……犬の国へ行っちゃったかな……
麻衣: あたしもいっしょに探すよ。まどか、方向オンチだから、きっとまだそのへんをウロウロしてるよ。
ユキ: ありがとう。
麻衣: あ、ルブラン!?(遠くに着替え終わったルブランを発見する)
ユキ: もう着替えたんだ……あいつ、全部知ってたよ。わたしたちがここにいることも、水鉄砲で撃っていたことも……あいつには、この水鉄砲の薬、効かないんだ……
麻衣: 当たってなかったんじゃないの?
ユキ: 当たってた。ここへ来て、自分でもそう言ってた。だから、服も着がえに行ったんだ。
麻衣: けたちがいの化け物なんだ……
ユキ: 遊んでるように見えてるけど、ああやって、猫たちの訓練してるんだ。
麻衣: 猫好きの女の子が遊んでいるようにしか見えないもんね……
ユキ: ねこばけを増やして、何かとんでもないことを企んでいるんだ……
麻衣: 革命とか、世界征服とかね……
ユキ: うん。 
麻衣: アハハ、あたし冗談で……
ユキ: ルブランならありえる。
麻衣: ……幸子はどこだろう……化代にして身につけてるはずだけど。その薬、ルブランには効かなくても、化代には効くって。男爵がそう言ってた。化代を幸子にもどせば、ルブランも化けていられなくなる。
ユキ: 持ち物もみんな薬でびしょぬれ、もう何も身につけていないよ。
麻衣: でも、なんかあるでしょ、ポケットの中とか……
ユキ: それはないよ。全身ビチョビチョだったから、隠して持っていても水びたしだよ。
麻衣: 携帯で、誰かとしゃべってる……
ユキ: 誰としゃべってるだろう?
麻衣: 意地悪な顔して笑ってる。あれは人をいたぶって喜んでる顔だよ。何をしゃべってるんだろう?……ねえユキ……ユキ……
ユキ: (目を開けたまま固まってる)
麻衣: ユキ、ちょっと……どうしちゃったのよ、ユキ! やだ、固まっちゃた……
ユキ: (麻衣が叩くと、金属音がする)
麻衣: ちょっと、ユキ! ユキ!
ユキ: ……大丈夫、ちょっと手ごろな奴に魂とばして、話を聞いてたの。
麻衣: そういうことは、ヒトコト言ってからやってくれる。びっくりするでしょ。で、誰とどんなことしゃべってたの?
ユキ: 幸子さんと話してたみたい……「あんたのふりしてんのも飽きてきた。そろそろ消えてもらおうか」とか言ってた。
麻衣: あいつは並のねこばけじゃない。RPGで言えば、ラストの大ボス! 特別に魔力が強いんだ……薬も効かないし、化代も身につけなくていいくらいに……幸子は、きっと、どこかに閉じ込められているんだ。
ユキ: 閉じ込めるって、どこへ?
麻衣: とりあえず、幸子の家。行ってみよう。
ユキ: 待って、何かがひっかかるの……
麻衣: ひっかかるって、何が?
ユキ: 何かが……
麻衣: 何かじゃしょうがないでしょ。早くしないと、幸子は消されちゃうよ!
ユキ: ……ねねこが言ってた、猫は携帯電話なんか持たないって……そうだよね?
麻衣: だから、あいつは並のねこばけじゃないって! 携帯使って世界の支配をたくらんでるんだ!
ユキ: ちょっと待ってて(水鉄砲を麻衣に渡し、下手に去る)
麻衣: ユキ……! ったく、何を考えてんだ……あ、携帯とった!
 
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする