大橋むつおのブログ

思いつくままに、日々の思いを。出来た作品のテスト配信などをやっています。

高校ライトノベル・魔法少女マヂカ・057『城ケ島の少女・1』

2019-08-12 14:57:58 | 小説

魔法少女マヂカ・057  

 
『城ケ島の少女・1』語り手:マヂカ  

 

 

 ソウルフードってば……

 横浜のシューマイ! 浅草人形焼き! いや、横須賀の海軍カレー!

 調理研の三人が姦しい。

 鶯谷の味噌煮込みは、調理研に予想以上のインパクトをもたらした。

 初期の目的である――体力、能力の向上を(特務師団によるものであることを伏せて)納得する――を果たしただけではなく、三人をソウルフードに目覚めさせてしまった。

 間近に迫った夏休みを利用して、ソウルフード巡りを調理研の課題にしようと意見がまとまったのだ。

 ノンコと友里はお煎餅を齧りながら、清美は脂取り紙で鼻の頭を拭きながらグルメ雑誌のページをめくるのに忙しい。

 調理研という看板なのだから、本来は調理のアレコレにこそ頭を使い、手を動かして調理していなけばならない。

 しかし、十七歳の女子高生、目覚めた食への興味は作ることよりも食べることに向いてしまうのは仕方がないだろう。

 わたしは、適当に相槌うったり、合いの手を入れながら三人の変化を微笑ましく見ている。もうニ十分ももめれば落ち着くところに落ち着くだろう。

 

 グルメ地図の三浦半島のあたりを、わたしの視線は彷徨っている。

 

 浅草、横浜、横須賀と地図を彷徨った勢いというものだろう。

 三浦半島の先端の先、ほんの点でしか示されていない島に目が停まる。

 この島は……?

 あ~めが ふ~る ふ~る じょうがしまの い~そに~🎵

 あ、城ケ島だ。

 終戦まで、軍の砲台があった。本土決戦が行われれば、真っ先に艦砲射撃で壊滅せざるを得ない砲台で、駐屯部隊は全滅を覚悟していたっけ……。

 磯釣りの名所でもある東の岩場には、十数人の釣り客が糸を垂れているのが感じられる。

 魔法少女は、一度でも過去に訪れたところであれば、現在の様子を感じる能力があるのだ。いわばグーグルアースのライブ版と言った能力で、普段は眠らせている。のべつ幕なしに感じていては、落ち着かないし、他の事ができないからだ。

 釣り人たちが騒がしくなった。

 なにか大物でも釣り上げたか?

 懸命にリールを巻いている釣り客の所に人が集まる……釣り糸の先には……人が掛かっている!?

 黒髪……セーラー服……女の子だ。

 釣り客の中に女性が居て、まだ半身が水に浸かった女の子を抱き寄せて生死を確かめている。

 まだ息があるようで、横にして水を吐かせ、救命救急措置を施し始めた。

 釣り客の何人かがスマホを取り出して、消防やら警察やらに電話をかけている。

 助かればいいが……救助の経過が気になったが、ソウルフード巡りが紛糾しているのも放ってはおけない。

 わたしは、真智香の意識に戻って論戦に加わった……。

 

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高校ライトノベル・高安女子高生物語・54『ワケあり転校生の7ヵ月』

2019-08-12 07:05:49 | ノベル2
高安女子高生物語・54
『ワケあり転校生の7ヵ月』
        


 その晩は、お仲間呼んでさくらちゃんを囲んだ。

 トンシャブと、出前寿司で宴会。費用はお父さんがもってくれた。
 同じ高安在住の作家として、大橋むつおは名前が出てきたけど、うちのお父さんはまだまだ。当然対抗意識はあるんやろけど、平静な気持ちを見せたいためのパフォーマンス。分かってるけど「太もも……ちゃう。太っ腹ぁ!」と、ヨイショのサービスはしとく。さくらちゃんは、この父娘の駆け引きにも、つまらんギャグにも敏感に理解してくれたみたい。さすがに、半年足らずでスターになった子ぉはちゃうと思た。

 ゲストには、関根先輩と恋敵の田辺美保。ほんでから、有馬温泉に連れてってくれた明菜の三人。 

「関根先輩を、美保先輩と取り合いしてんのんよ」
「ええ、恋敵をいっしょに呼んじゃうの!?」
 さくらちゃんは、びっくりしてたけど、うちは、こない言うといた。
「どっちが勝っても負けても、人間関係は壊したないねん。美保先輩は恋敵いう他に、保育所以来の先輩でもあるしね。長い人生、たった一つのファクターで人間関係切るのんは損やし」
「だよね、あたしが演る鈴木由香も、吉川先輩をはるかから取ってしまうんだけど、はるかとは、友達関係壊れないもんね。勉強になる」

 いつのまにか、お父さんが、高安やら黒門市場、それから『ワケテン』に出てくる場所のスライドをパワーポイントで作ってくれて、半分はいらんことまで入れて解説してくれた。
「これが、はるかが吉川裕也と歩く天王寺七坂。で、口縄坂上ったあたりにあるホテルが、この三つ。システムは入ると個室の写真が全部付いた自販機みたいなんがあって、写真が明るく点いてるとこが空室。で、ボタンを押したらトンコロリンとキーが、最近は、カードのスマートキーに……」
「あの、それって、はるかさんのエピソードで、チラっと出てくるだけなんですけど。それも外見だけ……」
「いや、由香は、はるかの彼の吉川裕也のことが気ぃになってしゃあない……でしょ?」
「え、はい、そうですけど」
「ほんなら、はるかと裕也が、こんなとこ行ったんちゃうやろかと妄想するわけ。妄想は具体的な方がよろしい。関根くんらには、もっと現実的な学習になる思て……そもそもティーンの恋愛のあり方は……」

 これをまじめくさってお父さんがやるもんやさかい、さくらちゃんは真っ赤になるし、河内のガキであるうちらは腹抱えて笑う。せやけど、これで恋敵同士、東京と大阪の垣根がとれてしもて、夜中の十一時ごろまで、楽しく騒げた。

「少し分かったような気がする。大阪って、相手の心の中に土足で入っていくような感じがしてたけど、ちがうんだよね。肌感覚で接して、相手の反応に合わせて上手く距離とってんだよね」
「別に意識してやってるわけやないけど、せやろね。お父さんなんかは言うねん。大阪の人間の心には縁側があるて」
「縁側?」
「昔の家は、玄関の横とか、裏に縁側があった。サッシなんか無かって、誰でも気軽にきて『ごきげんさん』とか言うて、勝手に座り込める壁無しの廊下みたいなもんが」
「そうなんだ……あ、こういう場合は『ほんま!?』だったよね」
「フフ、『ほんま』。なんや、どかっと相手の心の縁側に腰おろす感覚でしょ」
「うん。明日からロケで流行らしてみよっと」
「ハハ、本間さくらて、芸名変えたら?」
「ほんまやね!」

 さくらちゃんが、大阪人の感覚で返してきた。うちは知ってる。大阪人の中からも心の縁側が無くなってきてるのん。佐渡君なんかね……せやけど、さくらちゃんには、ほとんどノスタルジーになった縁側を強調しといた。
『ワケテン』に出てくる人物は、みんな心の縁側を持ってる。それが、あの本のええとこでもあるし、甘いとこでもある。東野 圭吾みたいなクールでディープなんもええけど、読んでほっこりするような本もええと思う。
「ほんなら、明日も早いやろから、もう寝よか」
「うん、お休み」
 うちは、さくらちゃんの希望で、一階のお父さんの部屋で、さくらちゃんと枕並べて休んでた。
「お休み」
 そない言うて、寝返りうったら、オナラが出てしもた。ひとしきり二人で笑うてしもた。

 明くる日は、遠回りして、隣の山本の街を通って山本駅に行った。
 途中旧集落のとこに縁側付きの家があって、お婆ちゃん二人が仲良う喋ってた。
「大発見だよね……!」
 さくらちゃんは感動してくれた。うちも実物見るのは、久しぶり。早起きして、ええ勉強になった。

 その日は、五時間目の総合学習の時間を利用して『ワケテン』のロケの見学に行った。テレビやら映画で見る俳優さんらがおって、みんな大興奮。その俳優やらスタッフらと対等に喋ってるさくらちゃん。やっぱし、ちゃうなあ!

 うちらも、エキストラで出してもろた。中味の濃い二日間やった。

『ワケテン』=『はるか ワケあり転校生の7ヵ月』読んだら、よう分かります。よかったら読んでください。お父さんの本ではないけど。内緒で推薦しときます。 



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高校ライトノベル・里奈の物語・53『アンティーク葛城の新年会』

2019-08-12 06:57:29 | 小説5
里奈の物語・53
『アンティーク葛城の新年会』 


 伯父さんが重い口を開いた。

「急に言うてきはってな。里奈ちゃんにどうしても会いたいて」
「急に言われても、里奈ちゃんにも都合があるから、会えるとはかぎりませんて言うたんよ……ま、座り」

 おばさんは、この際、包み隠さず言ってしまおうという覚悟がうかがえる。

「里奈ちゃんには会わせられへん思て、急きょ北斗星の芝居のチケ買うて、里奈ちゃんとお父さんが合わへんように細工したわけ」
「ところが、お父さんは予定より遅れてきはるし、奈菜ちゃんは早く帰って来るし。寸でのとこで鉢合わせするとこやったんや」
「あたしは、拓馬が急用の電話が入って帰ることになっちゃたから……そこでデトロイト靴店のオジサンと立ち話……してなかったら、もろ鉢合わせしてたです……」
 顔がこわばってくるのが自分でも分かった。
「断っといた。里奈ちゃんを引き取りたいって言わはったさかいにな」
「あ、ありがとう……」
 それだけ言うと涙が溢れてきた。伯父さんもおばさんも善意の人なんだ、心配かけちゃいけない。

「ハハ、お腹すくと涙が出てきちゃった。ね、今夜は食べに出ません!?」

 十七歳らしく甘えて見せることが、伯父さんおばさんの気持ちを楽にすることだと思った。
「よっしゃ、今夜はうちの新年宴会にしよ!」
 伯父さんがうまくノッテくれた。
「あ、京橋に行ってみたい焼肉屋があるのんよ!」
「焼肉言うたら鶴橋やろ!」
「認識が甘い。玄人筋は京橋や!」
 おばさんは、もう受話器を握っていた。

「それでは、アンティーク葛城とお父さんお母さんの健康、里奈ちゃんの発展、うちのゲームの売り上げが伸びることを祈って、カンパーイ!」

 乾杯の音頭で分かると思うんだけど、焼肉新年宴会には妙子ちゃんも参加している。忙しい人なんでダメ元でメールしたら要領をかましてやってきた。
 
「妙子の作ってるゲームてどんなんや?」
 伯父さんが、あからさまなことを聞く。
「うちは、数少ない大阪のメーカーやから、こんどは大阪ローカルなやつを目指してんの」
 ミノをしがみながら、カルビをひっくり返し、片手あげて生ビールのお代わりを注文しながら切り出した。
「でも妙ちゃん、大阪ローカルなゲームて売れるのん?」
 コテッチャンを網に乗っけておばさん。
「それが、この手のゲームの悲しさ。特定の地域を限定した作り方はでけへん。ま、全編に大阪のイメージ残しながら標準語やけどね」
 エロゲというのは規制が多く、女子高生はおろか高校という名称や、未成年を暗示するような言葉はつかえない。ゲームによっては「登場する人物は、全て18歳以上です」と断り書きがしてある。
「昔の春画よりも強い規制やなあ」
「まあ、青少年への影響とか考えなきゃいけないんでしょうね」
 したり顔であたし。
「いや、他にもね……」
 妙子ちゃんは業界の苦労話を面白おかしく語ってくれた。お父さんがやってきた不愉快さは、どこかに飛んで行った。
「でさ、お願いなんだけど、今度の新作の声優やってくれへんかな?」
「え?」
「里奈ちゃんが」
「え、ええ!?」
「うちの副長が、里奈ちゃんの声に惚れてしもてね……あたしも、イメージピッタリやと思うねん」
 オチャラケた顔だったけど、目は真剣だった。
「おれは、ええで!」
 伯父さんが賛同した。並の大人だったら反対するんだろうけど、エロゲは現代の春画と思っている(そのことは賛成なんだけど)ので、抵抗がないんだろう。
「よし、里奈ちゃんの声優デビューを祝ってカンパーイ!」

 おばさんのカンパーイで決まってしまった。

 その帰り道、拓馬のことを思い出した。
 
 お祖父さん、どうなったんだろう……。

 
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高校ライトノベル・須之内写真館・26『東京タワー』

2019-08-12 06:50:11 | 小説4
須之内写真館・26
『東京タワー』     


 東京タワーに来ている。

 むろん仕事である。
 東京メトロの神谷町で降りて、テクテクと歩く。ジイチャンの玄蔵といっしょなので、ゆっくりと歩く。
 玄蔵ジイチャンが、ことさら足が悪いというわけではない。桜田通りに沿って、タワーの北から西へ向かうように歩かなければタワーに行き着けないから。
 また、その蟻観(下から見上げる)には、スカイツリーには無い風格がある。玄蔵祖父ちゃんには撮り慣れたポイントがあるようで、時々立ち止まっては、タワーを撮っている。
「ジイチャン、遅れるよ」
 さすがに、十枚目の写真を撮った時に、直美はグチった。お客さんとの約束の時間があるからだ。
「大丈夫、ちゃんと五分前には着くから」

 しかし、お客さんはすでに来ていて恐縮することになった。

「いやあ、あたしたちは三十分も前から来てましたから」
 お客さんは、ニコニコと五分前に着いた須之内写真館を出迎えてくれた。
 お客さんはジイチャンより、やや年上。八十代前半のオジイチャン三人。代表者はジイチャンより若く見える中野さんだ。

 三人は五十五年前の東京タワーの完工式の日に合わせて、記念写真を依頼してきた。

「六十周年を待っていたら、こっちがもちませんからね」
 中野さんたちは、笑って言っていたが、人生に区切りをつけたいという男の思いを感じた直美であった。
「まず、展望台から下のアーチの鉄骨撮ってもらえますか」
「はい」
 と、ジイチャンは言ったが、直美は意外な感じがした。
「香川さんとボクは鉄筋工でしてね。このアーチの部分に思い入れがあるんですよ」
 東西南北からアーチの部分を撮り、南側で三人揃っての記念写真になった。
「この脚の部分は、朝鮮戦争の時のアメリカの戦車を溶かした鉄でできてるんです」
「え、戦車なんですか」
 直美は、思わずアーチを見上げた。
「三百両ほどですかね。全体で四千トンばかり有りますから、粘りと強さの両方がいるんです。スカイツリーは溶接ですけど、こいつはリベット留めなんですよ」
 なるほど、下から見上げてもリベットがよく分かる。
「ちょっと、氷川丸の感じですね」
「お嬢さん、いい勘をしている。鉄骨の組み方はタワーでも船でも基本はいっしょですからね」
「氷川丸は、あたしのジイサンがリベット打ったんですよ。縁があります」
 吉田というジイチャンがハンチングのをアミダにして明るく言った。今の若者にはない若々しさを感じたから不思議だ。
「職人というのは、体は歳食っても、腕がなまってなきゃ年寄りにはみえないもんさ」
 玄蔵ジイチャンも喜々として三人の注文に応じている。
「東日本大震災じゃ、最上部のアンテナが曲がっちまった。あれは、あとから付け足した部分……いや、余計な自慢だな」
「香川さんは何をなさってたんですか?」
「ボクは塗装工です。ビートたけしの親父といっしょに塗ってましたよ。もう何度も塗り直してるから、見えませんけどね」

 一昨日再開されたエレベーターに乗って223.55mの特別展望台に上がった。

「皇太子殿下のご誕生日に合わされたのは意味があってのことなんですか?」
「そりゃ、上の方で決めたことだから、よく分かりませんけどね……ぼく達は、A級戦犯処刑の験直しだと思ってましたよ」
「A級戦犯の処刑って、この日だったんですか!?」
「ああ、そうだよ。ジイチャン子どもだったけど、アメリカの底意地の悪さを感じたね」
「一ドルが360円だったことは知ってるかい、お嬢ちゃん」
 すっかり馴染んだ吉田さんが聞いてきた。
「ええ、学校で習いました」
「ブレトンウッズ体制ってので決まったんだけどね。円てのは360度でしょ」
「あ、え、まさか……」
 
 そんなことを言っているうちに、特別展望台に着いた。

「やっぱり、ここの見晴らしはいいね」
「モノを観るには、適当な高さがあるもんだ。ここなら足許も見える。スカイツリーは、下手すりゃ下界は雲の下」
「ハハ、年寄りのヒガミ。あれにはあれの良さが……いずれつくさ」

 程よい高さの景色を堪能したあと、下に降り、タワー全体と三人のお客さんが入るアングルで最後の一枚……と、思ったら「お嬢ちゃんもいっしょに」ということになり、通行人の人にシャッターを押してもらい、五人揃って、白い雲浮かべた青空に東京タワーの全景を入れて、記念写真を撮った。
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高校ライトノベル・『はるか 真田山学院高校演劇部物語・94』

2019-08-12 06:36:17 | はるか 真田山学院高校演劇部物語
はるか 真田山学院高校演劇部物語・94 

『第八章 はるかの決意16』 
 
 
 
「すみませんでした……」

 R高の校門を出ると、雪がちらついていた。
「なにが、すまんねん」
「真田山学院の顔をつぶすとこでした……」
 わたしはヘコんでいた。
「あのなあ……」
 いつものコンニャク顔で、ため息のように先生。
 他のみんなは、少し先を歩いている。タロくん先輩が、今日来られなかった乙女先生にケータイで報告している。みんなにも迷惑をかけた……。

「R高のあの先生な、教科は国語や。ほんでから……R高の生徒には神さまやねんで」
「え……」
「はるからにとっての乙女先生……いや、それ以上やろなあ」
「それって……」
「分からんか……あの子らの前で、あの先生のことボコボコになんかでけへん」
「先生……でも、わたし、くやしい……」
「これが、今の高校演劇や。それでくやしいだけやったら、演劇部なんかやめときぃ」
「わたし、『すみれ』は、『すみれ』のカオルはわたし自身だったんです。東京から、この五月に越してきて、いろんなことがあって……そのエモーションみたいなものが、あのカオルの中には全部入っているんです」
「そやけど、観てる人には、数ある芝居の一つや。ほんで、本選のあの舞台観てくれた人には確実に伝わった。それで、あの審査をええとは言わん。予選の審査員はリベラルやったけど、本選の審査員は傾向をもっとる。高校演劇は、そう言う点ではアナーキーになってしもてる。けど、これが現実や。これが……出発点やと思う。そう了見せえ」
「でも先生……」

 そのとき、チラホラだった雪が一瞬吹雪のようになった。

「真田山の『すみれ』とってもすてきでしたよ」

 セーラー服の女の子が、追い越し際にきれいな東京弁でそう言った。
 電柱一本分行ったところで、その子は振り返って手を振った。

――さようなら……

 と、言ったような気がした。

「マ、マサカドさん……待って、待って、マサカドさん……!」
 わたしは、雪の中追いかけた。

 雪は、もとのチラホラにもどった。

 あの笑顔が最後のメッセージのような気がした。

「はるかちゃん、どないしたん!?」
 タマちゃん先輩が先頭になって追いかけてきた。
「わたし、わたし……正式に演劇部員になる。ね、いいでしょ先生」

 先生は、懐から、わたしの入部届を出してみんなに示し、みんながうなづくのを待って
「よし」
 そう言って、再び懐にしまった。

 遠く、クリスマスソングが流れていく。
 すっかり早くなった夕暮れ。

 心の中に積もりそうな雪……音もなく、暮れなずんだ空から降ってくる。

 
『はるか 真田山学院高校演劇部物語』……完

☆……この物語に出てくる団体、登場人物はフィクションです。
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高校ライトノベル・連載戯曲『たぬきつね物語・1』

2019-08-12 06:29:22 | 戯曲
連載戯曲 たぬきつね物語・1
大橋むつお
 
 
 
 
時   ある日ある時
所   動物の国の森のなか
人物
  たぬき  外見は十六才くらいの少年  
  きつね  外見は十六才くらいの少女 
  ライオン 中年の高校の先生
  ねこまた 中年の小粋な女医
 
 
 
客席をはさむように、客席奥から、たぬきときつねがやってくる。互いに「へそまがり!」とか「あまのじゃく!」とか「すっとこどっこい!」とか「いしあたま!」とか「わからずや!」とかののしりあいながら舞台へ。
 
たぬき: いいかげんにしろよ。なんでこんなことがわからないんだ。
きつね: わからないのは、そっちでしょ。
たぬき: そっちだよ。
きつね: そっちよ。
たぬき: いや、そっちだ!
きつね: いいえ、そっち!
たぬき: そっちだ!
きつね: そっちよ!
たぬき: ふん!(そっぽを向く)
きつね: ふん!(同時にそっぽを向く)
 
   間
 
きつね: 言い方を……
たぬき: かえてみよう。互いに非難するだけじゃ……
きつね: フェアじゃないものね。
たぬき: 相手への非難じゃなく、自分について。
きつね: そう、わたしは…… 
たぬき: おれが……
二人: 正しい。
たぬき: 正しいのはこっちだ!
きつね: こっちよ!
たぬき: こっちだ!
きつね: こっち!
たぬき: こっち!
 
突然ライオンの吠える声。びっくりする二人。上手から、ライオン先生があらわれる。
 
ライオン: どっちもどっちだ!
二人: ラ、ラ、ラ、ラ、ララ……
ライオン: 「ら」ぬき言葉のうめあわせか? そういうのを、言葉の「ら」列っていうんだ。
たぬき: ラ、ラッキョウ先生。
ライオン: ズコ……
きつね: ちがうでしょ。ねえ、ラーメン先生(^▽^)/
ライオン: ガク……おまえら、先生の名前も満足におぼえられんのか?
たぬき: あ、アトム先生!
キツネ: そうだ、アトム先生だ! 
ライオン: なんでアトム先生になるんだ! 頭文字は「ラ」だろうが「ラ」。ラッキョウの「ラ」とか「ラーメン」の「ラ」とか、そういうどこにでもある「ラ」ではなく、王者の風格を持った「ラ」。「ラ」の中の「ラ」。王様の「ラ」「ラ」「ラ」……
二人: (歌う) ラララ、空をこえて、ラララ星のかなた。行くぞ、アトム、ジェットのカギィり……
きつね: ね。
たぬき: でしょ。 
きつね: ラララときたら「鉄腕アトム」
たぬき: これしかないでしょ。  
三人: バンザーイ、バンザーイ、バンザーイ
きつね: と、いうことで。
たぬき: 失礼しま……
ライオン: 待った! そういう関西系のノリで、はぐらかされるほどボケちゃいないぜ、このライオン先生は。
きつね: あの……
たぬき: その……
ライオン: それに、鉄腕アトムってなんだよ? 五十歳以上のロートルでなきゃ分かんないだろーが!
二人: 鉄腕アトムは永遠に不滅です!
ライオン: 長嶋か!
たぬき: フルベース、ツーストライク、ツーボール、ピッチャー投げました!
きつね: 長嶋、渾身のフルスィング! カキーーーン!
たぬき: 当たった!
きつね:大きい!
 
ふたり、袖に走り込む。
 
ライオン: ホームラン! じゃないから、もどってこーーい。 また、けんかしていたな?
たぬき: はい……
きつね: いえ……
ライオン: おまえたちは、寄るとさわるとケンカだ。いつも言っとるが、たぬきもきつねも、うちの生徒全体がそうだが、わがまますぎる。自分の都合でしかものを考えん。人がちょっと自分と違うことを言ったりすると、すぐに、ウザイ、ダサイ、キショイ、ムカツク、キレルだ。それもたいていは、つまらん、どうでもいいことが原因だ。きつねうどんと、たぬきそばがどっちがうまいとか。化ける時に頭にのっける葉っぱのサイズは、MがいいとかLがいいとか。今度は、いったい何が原因なんだ?
きつね: それが、むかつくんです!
たぬき: マジ、こっちがキレてしまうんですよ!
ライオン: だから、その理由は!?
きつね: 理由は……
たぬき: えと……
きつね: えと……
きつね: なんだっけ?
たぬき: なんだったけ?
ライオン: おまえたち、理由とか、原因とかもわからずにけんかしてたのか?
たぬき: いえ……
きつね: その……忘れちゃったんです。
たぬき: はい……
ライオン: 忘れるような、ささいなことで、ケンカなんかするな!
二人: は、はい。
ライオン: いいか、いつも言ってることだが、お互い、相手の身になって、考え、行動しなさい、相手の身になって。そうすれば、ちっとやそっとのことで、けんかすることも無くなる。
二人: はい……
ライオン: いいか、今度ばかりは、口先だけの返事じゃだめだぞ。見ろこれを(紙袋から、たらこのような口びるをとり出す)
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