大橋むつおのブログ

思いつくままに、日々の思いを。出来た作品のテスト配信などをやっています。

高校ライトノベル・せやさかい・045『エディンバラ・1』

2019-08-02 14:03:06 | ノベル
せやさかい・045
『エディンバラ・1』 

 

 

 十三時間かかってエディンバラに着いた。

 

 言うてしまうと簡単やねんけど、実際は驚きの連続。

 飛行機いうのは出国ゲートを潜ると一本道で、突き当りに飛行機の搭乗口になってるはず。

 しかし、わたしらの乗るのんは自家用ジェット。

 どこをどう通ったんかわからん通路を通って外に出て、いっぱい停まってる普通の旅客機を尻目にテクテク歩く。

 地上で見る旅客機はビックリするほど大きい。旅客機たちのでっかい翼とお尻に圧倒されながら進む。

「わ、かわいい」

 大きな旅客機群の向こうに、かわいらしいジェット旅客機が見えて、日ごろ寡黙な留美ちゃんが真っ先に声をあげる。

「狭そうに見えるけど、自家用機だからゆったりしてるよ」

 頼子さんの説明通り、飛行機の翼は目の高さで、タラップも七段しかない。普通の民家で階段は十三段やから、小ささが分かってもらえると思う。

「「うわーー!」」 

 中に入って、ビックリ!

 マッサージ機かいうくらい立派なシートは両側一列ずつ、通路は普通の旅客機よりも幅広。乗り心地はこっちの方が断然いい!

「倒すと簡易ベッドになるから、ほら、こんな感じ」

 頼子さんが見本を見せてくれて、試しにやってみる。

 簡易ベッドなんて、とんでもない。ひごろ使ってる自分のベッドよりも感じがグッドです。

 落ち着くと、クルーが三人乗り込んできた。おっさん一人と、おねーさん二人。

「長い飛行になります、途中ご用がございましたらご遠慮なく申し付けてください」

 おっさんが上手い日本語で挨拶してくれる。なかなか感じのええ機長さん……と思ったら、機長さんと副操縦士は二人のおねーさん。

 頼子さんのことは「お嬢様」とか呼ぶのかと思たら、普通に「頼子さん」と呼んでる。

 

 十三時間の飛行中、あれこれ面白いことや興味深いことがあったんやけど、それ書いてるとエディンバラのことが、いつまでたっても書かれへんので、又の機会にいたします。

 

 ユーラシア大陸を横断して、ブリテン島北部のエディンバラには海の方からアプローチ。

 黒々とした海の向こうに緑の陸地。日本に似たような島国……と思てたら、平たい緑が続く大地の上に、高層建造物は見当たらず、家々の間も緑地や林が点在してて、北海道(行ったことないけど)の風景に似てる。

 入国手続きを済ませて、空港ビルを出るとバスや車が出入りするロータリー。案内板が全部英語いうこともあるねんけど、立体駐車場と道路以外に見えるものは空港の施設を除いて畑か空き地か分からへん空間。ちょっと意表を突かれた。

「あ、迎えが来たよ」

 頼子さんが手を挙げると、黒塗りのごっついセダンが近づいてきた。

「それでは、お屋敷までお連れいたします」

 運転席から出てきて、ドアを開けてくれたんは、飛行機に乗ってたおっさん。機内で聞かされたお名前はジョン・スミス。どこかで聞いたことのある名前やねんけど、思い出されへん。なんというても、ここはスコットランドの中心地エディンバラやねんさかい、見るもの聞くもの珍しいものだらけ。

 わたしらの合宿が始まった!

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高校ライトノベル・連載戯曲『となりのトコロ・3・わたしは貝になりたい』

2019-08-02 07:13:24 | 戯曲

となりのトコロ・3

 

わたしは貝になりたい』 

 

大橋むつお

 

時   現代
所   ある町
人物……女3  

のり子
ユキ
よしみ

 

ユキ: ……あの人、もっと言いたいことがあったみたい……
のり子: 気が弱いんだ……あんたも隠れることないだろ。
ユキ: てへ。でも、あの人ちゃんと傘もってきたわよ。
のり子: でも雨は止んじまった。あの子の親切って、どこかタイミングずれてんのよ。
ユキ: そうかしら。
のり子: ねえ、それやっぱりぬいぐるみだよね、ブタの……
ユキ: もう生きてるようには見えない?
のり子: ……さっきはそう見えたんだけどね。
ユキ: わたしの子守歌で眠ってるんだ……
のり子: え、聞こえなかったよ。いまだってこうして、あたしと話してるし。
ユキ: 心のなかで歌ってるの。わかりやすくするとね……(口をパクパクさせるが、心で歌っているので聞こえない)
のり子: 声だしてやってくれないかなあ(^_^;)。
ユキ: 究極の子守歌って声にならないものなの。そうでしょ、子守歌って愛情の発露よ。愛情って、とことんのところ言葉では表現できないものよ。
のり子: そうかもしんないけど。その納豆が糸ひいたような口の開け方やめてくれる。
ユキ: 姉さん、納豆が大好きだった。ほかに、とろろやあんかけ、山芋、なめこも好きだった。
のり子: ネチネチ糸ひくものばっかりだな。
ユキ: 糸ひいちゃうの。なにをやっても踏ん切りがわるくて。だから姉さんブタになってしまったの。
のり子: 糸ひいて踏ん切りがわるいと、どうしてブタになってしまうの?
ユキ: 姉さん、糸ひきながら登校拒否してたの。ちょっといっては休み、もうちょっといってはたくさん休みして、部屋にこもって糸ひくように食べてばかりいたころに……
のり子: ああ、過食症な。わたしにも覚えがあるわ……
ユキ: お父さんが怒ってしまって、思わず「おまえみたいなやつは、ブタにでもなっちまえ!」って。 そうして、あくる朝……姉さんは一人しずかにブタになってしまっていたの…………信じてないでしょ……ああ、話さなきゃよかった。どうしてこんな話をしてしまったんだろう……
のり子: あんたが、納豆が糸ひいたみたいにパクパクしてるからだよ。
ユキ: それは姉さんに……もういい、もう何も言わない……わたしは貝になりたい(泣く)
のり子: ならなくっていいよ。とにかくなんかの縁があって、同じバス待ってんだからさ。ね、泣くなよ。
ユキ: (いっそ激しく泣く)
のり子: だ、だからさ。人生って、こういう出会いの連続というか、積み重ねというか、くりかえしというか……
ユキ: 人生とは……涙で繋ぐ出会いのチェインリアクション(また泣く)
のり子: チェイン、リ……?
ユキ: チェインリアクション。連鎖反応って意味、その連鎖反応という単語のちょっとリリカルなオマージュ。わたしってどうしてこんなときに文学的なんだろう(また泣く)
のり子: 泣きながら、ずいぶんじゃないのよ。ま、とにかくそのチェイン……
ユキ: チェインリアクション。ん……人生のパッチワークくらいが一般大衆むきのオマージュ……いや、キャッチコピー……正確だけど、リリカルじゃない……
のり子: 泣きながら、ずいぶん文学少女してくれてんじゃん。ま、とにかくそのパッチワークなんだからさ、心と心を縫い合わせて語りあおうよ。な……(ユキの手をとる)あんた、冷たい手してるね(ユキ、こっくりとうなずく)えと……まだ、名前聞いてなかったね。

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高校ライトノベル・高安女子高生物語・44〈高安幻想・3〉

2019-08-02 07:06:55 | 小説・2

高安女子高生物語・44
〈高安幻想・3〉        


「左近、こいつはナニモンや?」

 と、聞いてきたから、あたしの姿は見えてるんやろ。

「御館には見えまっか?」
「ああ、おなごのようじゃが、妙なナリやのう」
 そりゃそうやろ、ユニクロのジーンズにトレーナーやもん。
 このオッサンも、けったいや。左近のオッチャンが「オヤカタ」言うてるわりにはみすぼらしい。
「こいつは……そういや、まだ名前聞いとらへんなあ。名ぁはなんちゅうねん?」
「あ、佐藤明日香です」
「佐藤? ぬしは、どこぞの姫ごぜの成れの果てか?」
「はあ……うち、ただの市民です」
「しみん?」
 ああ、市民は明治になってできた言葉や。
「普通の一般大衆です」
 女子高生では通じないだろうと言葉を選ぶ。
「たいしゅう……どんな字ぃ書くねん?」
「ああ、こうです」
 
 うちは地面に「大衆」と書いた。

「これは大衆(だいしゅ)や、どこぞの寺の役僧か?」
 一般に使われてる単語は明治になって、英語を訳すときに作られた言葉が多い……と、お父さんが言うてた。百姓やったら、この時代でも通じるけど。うっとこは農業やない。で、五分ほど言い合うたあと、学者の娘いうことで落ち着いた。

「さよかー、七百年も先の令和たらいう時代の学者の娘か」

 感心したようにオッサンが言うた。
「ところで……(二人称につまる)あなたさまは、どなたさんで?」
「わいか。わいは……」
 オッサンは、一瞬左近さんの顔を見た。左近さんは、こいつは大丈夫いうような顔をした。
「わいは、楠木正成や」
「え……河内の英雄、河内音頭の定番、山川の教科書で冷遇されてる悪党の楠木正成さん!?」
「お前の時代では、わいは英雄か?」
「ほら……名前ぐらいは(なんせ、山川でも一行出てくるだけやさかい)」

 知識欲の固まりみたいなオッサンで、うちが知らんようなことばっかり聞いてくる。
 うちは、この正成さんの末路は知ってる。湊川で足利の大軍勢相手に、たった八百人で戦うて全滅する。たしか新田のオッサンと馬があわへんねんや……せやけど、そんなことは言われへん。

「で、明日香はん。しばらく御館をかくもうてはくれへんやろか?」

 えーーーーーーーーーーーーーーーーー!?

 左近のオッサンの頼みで、歴史上の人物楠木正成をかくまうことになってしもた。せやけど、かくまういうても、うち自身が元の世界にもどれるかどうか……。

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高校ライトノベル・里奈の物語・43『広東風カニあんかけチャーハンは、まだ温かかった』

2019-08-02 06:59:14 | 小説3

里奈の物語・43
『広東風カニあんかけチャーハンは、まだ温かかった』 



 アンティーク葛城は新年4日から店を開けた。

 あたしが来たころに始めた鉄瓶と春画の売れ行きは好調で、この6日まで、あたしももお客さんの対応に追われた。
「里奈ちゃん、先に上がって、キッチンにお昼用意してあるから」
 レジを叩きながら、おばさんが言ってくれたのは1時半に近かった。
「でも、もう少し」
 店内のお客さんの数から、ピークはまだまだと思った。
「大丈夫よ、早よ食べといで」
「は、はい、じゃあ」
 おばさんの笑顔に押され、バックヤードを通って裏の二階のキッチンに向かう。

 階段を上るとキッチンから炒め物をする音がした。

「……あ、妙子ちゃん!」

「ちょうどできたとこ、お皿並べてくれる……あ、お皿は二枚ね。あたしも食べるよって」
 お皿を並べると、妙子ちゃんは手際よく中華鍋の中身をお皿に盛っていく。
「美味しそうなチャーハン!」
「へへ、並のチャーハンとちゃうねんで……」
 妙子ちゃんは、ガスコンロの鍋からなにやらすくってチャーハンにかけていく。
「お、あんかけチャーハン!」
「広東風カニあんかけチャーハンでござい!」
 空腹と美味しさで、3分ほどは無言でかっこんだ。
「……ほとんど二月ぶりね」
「やっと仕事が区切り。ほんとは大晦日には帰れる予定やったんやけどね」
 妙子ちゃんは、去年の秋に、勤めていた大手PCソフトの会社から、関連会社に出向になっていた。
「正月に不思議な体験したんやてね?」
 あたしが聞こうとしたら、先を越された。大阪の人間は話の呼吸が日本一早い。
「うん、このトワエモアの指輪なんだけどね……」
 カニあんかけチャーハンの最後の一すくいをお皿に置いて指輪を見せた。
「……悦子さんという人、婚約者を探してるんやね」
 鈴野宮悦子さんの話は「この指輪とペアのトワエモアの指輪を探して」ということしか覚えていなかったけど、妙子ちゃんに話しているうちに細部を思い出してきた。
 妙子さんは50年前、まだ葛城骨董店と言った頃のお店で、このトワエモアの指輪を買って、片方を彼に渡したんだ。
 

 イメージが湧いてきた。
 

『女の方から指輪を渡すなんておかしいかな……』
『おかしくなんかない、悦ちゃんのセンスはピカイチだ。これを付けて仕事に励むよ……帰ってきたら僕から新しい指輪を送る』
『それって……』
 悦子さんは、伏し目がちに彼の顔を見た。
『エンゲージリングだ』
『嬉しい……このトワエモアはフランス製だから……エンゲージリングはお隣りのスペインかな?』
 彼は少し戸惑ったような顔をした。行先は国家的秘密で悦子さんどころか親にも言えないから。
『あ、ただ思っただけだから。フランスの隣国ってばスペインが一番大きいから』
 悦子さんは確信した。彼はスペインに行くんだ……それも命がけ。
 それから彼は帰ってこない。もう50年もたったのに。

「でも、それって変だよね」
「え……?」
「50年前なら、鈴野宮悦子は70歳にはなっているよね……悦子さん、あたしと変わらないくらいの若さだったんだよね?」

 しごく当たり前のことを指摘された。指輪、悦子さん、猫のウズメ……いろんなことが初めて不思議に思えた。

「最後の一口残ってるよ」
「あ、ほんと」
  広東風カニあんかけチャーハンは、まだ温かかった……。

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高校ライトノベル・須之内写真館・16『ルミナリエの写真』

2019-08-02 06:49:50 | 小説4

須之内写真館・16
『ルミナリエの写真』        


 須之内写真館には年中飾られている写真が何枚かある。

「いやあ、まだ、こんなものを掛けてるんですか」

 ショ-ウィンドウをしばらく見ていたおじさんが入ってきたかと思うと照れながら言った。
「やだ、新島さんじゃないですか。おじいちゃん新島さんが来たよ!」
 直美の嬉しそうな声に、ジイチャンの玄蔵と、お父さんがスタジオに顔を出した。
「いやあ、お変わり無く!」
「いや、新島さんこそ!」
「東京に戻られたんですか?」
「ええ、三月で定年なんで、ちょっと無理を言って朝霞に戻してもらいました」
「もう、御定年ですか?」
 新島さんより一つ年上の父が、驚いた顔で聞いた。
「ええ、来年の三月です」

 新島と須之内写真館の付き合いは二十年ほどになる。阪神大震災の時、新島は災害派遣で、父はボランティアで、祖父は写真家の使命感のようなもので、神戸で顔を合わせた。

「いやあ、定年とは思えない面構えをされている」
「恐縮です。施設科なんで、災害救助では、いつも正面。被災者の方と接していると、自然にこうなります。顔ぐらい引き締まっておらんと、あの方達とは向き合えません」
「亡くなった方々には気の毒だが、久々に日本人の生の顔が見られました。夢中で、シャッターを切った……その中で一番の写真が新島さんでした」
「お恥ずかしい。成り立ての分隊長で、まわりが見えておりませんでした。その結果ですよ」

 その写真は、崩れかかる瓦礫の下、子どもを抱きかかえながら目を真っ直ぐに前に向け、口を引き結んで駆けている新島一曹が写っていて、祖父ちゃんが写真展で優秀賞をとった作品だ。

「地震直後に出動準備を整えていました。なかなか出動命令が出ないんで、部隊長が訓練出動にして、たまたま災害に出くわしたというカタチを取らざるをえませんでした」
「あれ、あとで問題になったんですよね」
 父がコーヒーを入れながら肩越しに言った。こういう男同士の話には、直子ごときは、なかなか入れてもらえない。
「訓告になりました。やはり組織としては越権になるようです」
「伊丹や姫路の部隊は夕方になりましたものね。たしか米軍の空母が救助支援を申し出たのを、政府は拒絶したんでしたよね」
「空母を出しておけば、ヘリの中継にも使えたし、消火や救助にずいぶん役に立ったと言うじゃありませんか」
「はあ、しかし東日本大震災には、この教訓は生かせました」
「ああ、TOMODACHI作戦ですね」
「それに、村山首相は、全て現場の指揮に任せてくれました……」
「菅首相は邪魔にしかなりませんでしたからね」

 定年間近とは言え現役自衛官の新島は、ちょっと笑っただけで、同調はしなかった。直美も東北には取材に行ったので、控えめすぎる自衛官の対応には慣れていたが、歯がゆかった。

 直美は思い出した。

 福島で、烹炊車で被災者に暖かい食事を提供したあと、隊員達は冷たい缶詰の赤飯を食べていた。それをA新聞の記者が撮影し「この被災現場で赤飯食うか!」と言っていた。
「赤飯は、非常食で、消費期限が迫ったものです。期限に余裕があるものは被災者のみなさんのためにとってあります。ご理解ください」
 隊長とおぼしき人が、丁寧に説明していた。
「それにしても、赤飯は非常識だろ!」
 見かねたS新聞の記者が間に入った。いつのまにかA新聞とS新聞の記者のケンカになり、被災者の人たちも遠巻きに、それを見ていた。

「あんた、それでも日本人なの!」

 まだ大学生だった直美は、A新聞の記者を張り倒した。
「くそ、記事にしてやるからな!」
 A新聞が毒づいた。
「いいのか、あんたも、このお嬢さんの腕を引っ張って、ブルゾン破いたんだぞ」
「え……」
 A新聞が黙った。ブルゾンは、その前に破れていたものだったが、マスコミの勝負の仕方というのをまざまざと見せつけられた。

 直美が、そんな思い出にふけっていると、母がいつのまにかお汁粉を出していた。新島は甘党である。母にさえ一歩越されたと思った。

「新島さん、もうちょっと顎を上げてもらえませんか」
 ファインダーを覗きながら、直子が注文をつけた。
「いや、ボクはこれぐらいがいいんです」
 余計なことを言ったと思った。新島准尉は、ひっそりと座っているだけで、十分絵になっていた。
「本当は、家内と二人で撮りたかったんですけどね……」

 新島は、初めて私生活の片鱗を見せた。父と祖父は分かっているようだった。

「あの写真も、なんとかなりませんか」
 退官記念の写真を撮り終えて、新島は、もう一度言った。
「いやいや、あんなにいいルミナリエの写真、飾らない手はないですよ」
「そうですよ。あの写真は、われわれプロでは撮れません。私どもの戒めとして飾らせてもらいます」
「いやはや、神戸の復興が嬉しくって、それだけで撮っただけなんですがなあ」

 直美は、やっと、年中ショ-ウィンドウに掛けられているルミナリエの写真の意味が分かった。

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高校ライトノベル・『はるか 真田山学院高校演劇部物語・84』

2019-08-02 06:35:42 | はるか 真田山学院高校演劇部物語
はるか 真田山学院高校演劇部物語・84
『第八章 はるかの決意7』 

 
 
 
 帰りの電車は、大橋先生といっしょになった。

「前から、聞こうと思っていたんですけど……」
「なんや、女の趣味か?」
「違いますよ……以前先生は言ってたでしょ、真田山の演劇部の世話をするのは。メソードとか、マネージメントの実験だって。そのために、コンクールで一等賞をとるんだって」
「そんなことも言うたかなあ」
「もう、しらばっくれて」
「それが、どないかしたんか?」
「この半年、いっしょにやってもらって、なんだかそれだけじゃないような気がしてきたんです」
「どんな気ぃ?」
「それを聞いてるんです!」

       
 その答えを聞くころ、わたしたちは玉串川の遊歩道を歩いていた。
 歩くにつれ、足許の落ち葉たちがシャワシャワと、陽気な音をたてた。
 わたしは、五月に越してきた。あのころは一面の葉桜だった。
 あのころの桜の若葉が今は枯れ葉になって、わたしの足に踏みしだかれていく。

「ほんまのとこは、オレにもよう分からへん……今の気持ちは、忘れ物を見つけたような気ぃやな」

「忘れ物……?」
「はるかやったら、分かるやろ。荒川まで忘れ物とりに行ったんやさかい」
「……先生の忘れ物?」
「はるかのんとはちゃうけどな……」
「それって、見果てぬ夢ですか?」
 わたしは、吉川先輩の言葉を思い出していた。だから否定してほしかった。
「そうかもしれん……かな」
 やっぱ、そうなのか……その気持ちを見透かしたように先生が立ち止まった。
「はるか、言うとくけどな、高校演劇いうのはお遊びやない。プロの予備校でもない。新劇とか、新派とか、歌舞伎とかと同じ演劇の一ジャンルやと思てる。そやから、オレは誇りに思てる」
「……そうなんだ」
 目からウロコだった。
「ああ、言葉にしたらキザやのう。もう二度と言わへんぞ」
「先生……」
 そのときいい匂いがしてきたのだ。
「まだ、なんかあるんか」

 先生が焼きイモを、おごってくれた。

「一本百円か……昔は、もうちょっと高かったけどな。味は……ホクホク(食べる音です)昔と変わらへんのにな」
「ホクホク……先生、じつは……」
 わたしは、由香に約束させられたNOZOMIプロの白羽さんのことを話した。

「そうか、吉川いうのんはそんな風に見とんねんな」
「ひどいでしょ」
「まあ、焼きイモの価値を値段だけで評価するようなもんやな」
「でしょ」
「そやけどな。もし、はるかにその気と才能があるんやったら、その話のってもええと思うで」
「先生……」
 わたしは、焼き芋の尻尾を持てあました。
「誤解すんなよ。オレは高校演劇をそんなイジケたもんやとは思てへん。あくまでジャンルの違いや。新劇の役者が映画にいくんと同じ感覚や。白羽さんのことはオレも、間接的には知ってる……けど、予備知識は言わへん。自分で判断しぃ」
「はい……」
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