大橋むつおのブログ

思いつくままに、日々の思いを。出来た作品のテスト配信などをやっています。

高校ライトノベル・魔法少女マヂカ・059『城ケ島の少女・3』

2019-08-16 14:38:14 | 小説

魔法少女マヂカ・059  

 
『城ケ島の少女・3』語り手:マヂカ  

 

 

 吾妻島を挟んで二本の黒煙が上がっている。

 手前が海上自衛隊、向こうがアメリカ第七艦隊だ。吾妻島の上空で旋回すると日米の空母がやられているのが分かる。来るまでは大型艦としか聞いていなかった。デカブツの空母を狙ったのは、敵ながら効果的なやり方だ。

 地上は、米軍、自衛隊、警察、消防の車両が行き交い、16号線の交差点やビルの屋上には人々が集まって、心配そうに港の方を窺っている。

 空母の被害に興味はない。探しているのは、この被害をもたらした魔法少女、石見礼子だ。

 上空に気配がない。

 ヒットエンドランを決め込んで、とっくに姿をくらませたか?

 いや、先の大戦で培った勘が――敵は近くにいる――と警告している。

 

 地上に降りよう、ステルスになってはいるが視認されれば騒ぎになる。

 小さな公園に下りて、乗って来た亀を遊具に紛らせておく。公園を出て突き当たったところがドブ板通りだ。

 軍港の騒ぎに16号線やヴェルニー公園に人が集まっているので、通りはいつもほどの人出ではない。通りを行く人も港の黒煙の方に気を取られているので、ポリ高の制服でも怪しまれることはない。むしろ、石見礼子の方から発見してくれるだろう。

 おそらく、騒ぎを起こしたのは、わたしを誘き寄せるためなのだろうから。

 ドブ板通りと16号線は商店の並びを挟んで並行している。建物の隙間から16号線の喧騒が漏れてくる。

 !? 路地から気配を感じた。気配は16号線を東に移動している。次の路地で感じた時は一瞬で気配は西に動いた。

 隠れん坊をしているつもりか、焦らせて16号線に誘い出そうとしているんだろう。誘いに乗って16号線に出てしまえば、大勢の人に紛れてのバトルになりかねず、そうなってしまっては……いや、裏をかくつもりか?

 ドブ板を反対に戻る。

 居た!

 感じた瞬間にはパルスタガーが飛んできた。からくも避けると、タガーはアメセコショップのマネキンに突き刺さった!

 くそ、こんなところで!

 タガーの軌跡で、奴の位置がおおよそ分かる。

 セイ!

 地面を蹴って電柱で反動をつけ、一気に16号線の奴の予測位置にドロップキックをかます。

 地元女子高の制服が驚いて見上げると同時にブレイドを抜いた! コンマ二秒早いので、次の瞬間にはヤツの頭蓋にキックをかませる! ヒットのイメージが湧いた!

 あ!?

 あやうく避けて、勢いの付いたキックは歩道のブロック舗装を粉々にした。

 驚きと怒りをない交ぜにした、その顔は、我がバディーのブリンダであったではないか!

 

 

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高校ライトノベル・高安女子高生物語・58〔初めてのアマゾン!〕

2019-08-16 06:28:04 | ノベル2
高安女子高生物語・58
〔初めてのアマゾン!〕        


 話は前後します。

 月曜は、神戸の異人館街の遠足やったけど、その前の日曜は、今里のお祖母ちゃんの全快祝いに行ってました。

 以前、佐渡君のとこらへんで書いたけど、今里のお祖母ちゃんは左の腕を骨折して一カ月半も入院してました。
 単純な骨折やから、普通半月もあったら退院できるんやけど、お祖母ちゃんは骨粗鬆症のうえに足腰悪いよって、一カ月余分にかかりました。それが、やっと退院して快気祝い……というても、家で盛大にやるわけやない。布施のN寿司いうとこ行って、奈良の伯母ちゃん夫婦とうちの家族三人で、お寿司を食べる。
 今里の家から歩いても10分ほどやねんけど、お祖母ちゃんは家から奈良のオッチャンに車に乗せてもろてやってくる。うちら高安組は、寿司屋の前で順番取り。11時45分開店やねんけど、もう10人ほど並んではった。お祖母ちゃんがオッチャン伯母ちゃんといっしょに来た頃は、もう30人ぐらい並んでた。
 
 6人でたらふく食べた。
 
 うちは定番のマグロから始めて、中トロ、鉄火、エビ、イカ、蛸、ほんでもっかい鉄火にもどって上がり。ちょっと少ないみたいやけど、ここのN寿司は1皿に3貫載って、ネタも大きいよって、お馴染みの回転寿司の倍くらいはある。
 ビックリしたんが蛸。符丁は「ぼうず」 何がビックリしたか言うと、蛸が生やいうこと。お馴染みの回転寿司やら出前寿司のたこは茹で蛸。いつもの調子で食べたら吸盤が上顎にひっついてえらいことやった。
 うちの味覚では、サビが足らんのでサビ入りのムラサキをハケで塗ったら死ぬかと思た。サビの効き過ぎ。上向いて、しばらく口を開けてる。わさびは揮発性なんで、こうやっとくと刺激が抜けていく。せやけど「アホな顔せんとき」いうて、お母さんに怒られた。伯母ちゃんが、せんでもええのに、その姿をシャメで撮りよる。こんな姿、関根先輩には見せられません。

 うちにひっついてきた楠木正成のオッサンが、しきりに「うまい!」を連発しとった。「もっと食え」言うとったけど、オッサンの言う通りしとったらブタになる。鉄火の追加で辛抱させた。どうも正成のオッサンの時代には寿司は無かったみたい。

 それから、お祖母ちゃんの手ぇ引いて喫茶店。正確にはお祖母ちゃんがうちの腕に掴まってる。保健で習たし、中学の職業体験で行った介護施設でも身に付いた「手のさしのべ方の基礎」せやけど、お祖母ちゃんは、嬉しかったみたいで、後でお小遣いむき出しで1万円もくれた!

 いつも通り前説が長い。

 うちは、この1万円で、始めてネットショッピングやった! それもお洋服!
 カード決済やと、大人やないとでけへんけど代引きやったらできる。そない知恵をつけてくれたんは、奈良のオッチャン。

 うちは、制服以外ではパンツルックが多い。家の中では、たいがいジャージ。せやけどジャージばっかり着てたらジャージ女になってしまう。ジャージ→くつろぎ→だらしないの三段論法は正解やと思う。人間は着てるもんで立ち居振る舞いが決まってくる。
 美保先輩に勝つためにも、ちょっとは女の子らしいしとかなあかん。

 女の子の夏のファッションを検索。正直目の毒。

 2時間ほどかけて、二つ選んだ。七分袖のカットソーと、大きな花柄のスカート(細いブラウンのベルト付き)
 カットソーとTシャツの違いがよう分からんよって、検索。

 カットソーいうのは、生地が編み物で伸縮性がある。Tシャツはただの(主に)木綿の生地。体のフィット感がちゃう。で、3回ほどクリックして、アドレスと住所打ち込んだらしまい。お届けは2日後てなってたけど、遠足から帰ったらもうきてた。
 惜しい、もうちょっと早かったら遠足着ていけたのに!

 で、部屋に籠もって1人ファッションショーやった!

 我ながら「馬子にも衣装」スカートがミニやけど、フレアーがかかっててフワっとしてる。カットソーは体に緩やかにフィット。ジャージやら制服とは全然ちゃうシルエットが、そこにあった。
――うちて、こんなに女の子らしかったんや!――
 感動してしもた。
――かいらしいのは認めるけどな、いきなり、これ着て学に会うのはやめときや――
 正成のオッサンが、いらんことを言う。
――河内の女は心意気や。まず、ドーンととびこんでいけ。ほんで相手に通じたらきれいにしたらええ――

 正成のオッサンの言うことは分かる。せやけど、こないだみたいに、いきなり夜這いかけるんはちゃうと思う。

 もどかしいなあ、青春いうのは……。

――なんもむつかしない。行動あるのみや――
「うるさい、黙ってて、オッサンは!」
「明日香、このごろ独り言多いなあ……」

 洗濯物干しに上がってきたお母さんに聞かれてしもた……。
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高校ライトノベル・里奈の物語・57『真美さん』

2019-08-16 06:20:54 | 小説5
 里奈の物語・57
『真美さん』             


 
 公園の猫たちに餌をやって店番が終わってから病院に行った。拓馬のお祖父さんのお見舞い。

「ありがとう、里奈さん」

 お祖父さんは「さん」付けでお礼を言ってくれた。里奈の下に「さん」を付けて呼ぶのは二人目。
 一人目は、一年生の時の担任。この担任は、こだわりのある人で、生徒を下の名前で、男女の区別なく「さん」付けで呼ぶ。

 苗字は家族主義の象徴、名前で呼ぶことこそ個人の尊厳を守ることになる。

 大そうなご託宣だけど、この担任に呼ばれても温もりは感じなかった。あたしが学校に行けなくなった原因には無頓着で、自分の思い入れだけで対応し、こじらせただけだ。
 水泳部の友だちがいた。
 夏休みのプール練習のスケジュールを、水泳部の顧問であるうちの担任に相談に行ったときのこと。
「もう夏休みの予定組んじゃったから、プールの付き添いなんてできないわ」
「夏にプールに入れない水泳部って、信じらんない!」
 友だちは、そう言い捨てて水泳部を辞めた。
 こんな先生に「さん」付けで呼ばれても……ね?

 でも、お祖父さんの「さん」には温もりがあって嬉しい。

 お祖父さんの点滴が終わりかけたので、ナースコールで連絡した。
「看護婦さん、吉村さんの点滴終わります」
「ハイ」とだけ返事があった。

「あのね、看護婦じゃなくて、看護師だから」

 空の点滴を外しながら、看護婦さんがボソリと言った。
「え……?」
「昨日も、そう呼んだでしょ。気ぃつけてね」
 無表情でダメ押しして、そそくさと行ってしまった。
「里奈さんは、看護婦て呼ぶ人なんや」
 お祖父さんは、口をすぼめながら言った。
「意識してないけど、うちの親もお祖父ちゃんも、そう呼んでたんで、習い性です」
「けったいな世の中やね……看護婦は差別的やとか、男女平等に反するとか……けったいな理屈や」
「面と向かって注意されたのは初めてです。でも気を悪くされるんだったら気を付けます」
「そんなんかましません。看護職より多い会社員……男女で使い分けしてますやろ?」
「えと……サラリーマンと……OL?」
「でしょ、それに小説とかで男女の看護職使い分けたら……男性看護師、女性看護師て書かならあかんでしょ?」
「ああ……」
「看護婦さんは笑った。女性看護師さんは笑った……言葉としての温もりもおさまりも違いますやろ」
「……ですね。女性看護師……トイレの男女区別よりも無機質ですね」
「ハハ……どうも骨董屋なんかしてると、古いもんに拘ってしまいますなあ……ま、あの看護婦さんは気にしはるようやさかいに……」
「はい、気を付けます」

 あたしは、その看護婦さんだけ「女性看護師さん」と呼ぶようにした。ナースステーションには男性の看護師さんもいるからだ。

「あのう、女性看護師さん……」
 三回目には嫌な顔をされた。
「あたし、和田って苗字だから、そっちで呼んでもらえます?」
「でも、男性看護師さんも和田さんですけど」
「ム……」

 あたしは、胸のIDを見た。で、それからは「真美さん」と呼ぶ。でも、あくる日、隣のベッドに「真美」という名前の女の子が入院してきたので、ややこしく、それからは「あのう……」「そのう……」で済ますようになっちゃった。
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高校ライトノベル・須之内写真館・30『レコード大賞 痛っ!』

2019-08-16 06:14:33 | 小説4
須之内写真館・30
『レコード大賞 痛っ!』


 今日は朝から大掃除。

 お母さんはおせちの準備。大掃除は直美とお父さんの玄一、オジイチャンの玄蔵の三人でやる。
 大掃除といっても、普段からホコリをを嫌う写真館という仕事なので、中では機材の点検とクリーニング、そしてショーウィンドウの飾り替え……クリスマスの晩に一応やってはあるが、念入りに正月用のサンプル写真に入れ替える。
 スタジオのテレビは時計代わりに点けっぱなし。連ドラの総集編をやっていたので、観ながらの気楽な大掃除。ただ三人ともカメラマンなので、番組中のカメラワークにはうるさい。
「やっぱ、NHKはカメラを贅沢に使ってんなあ」
「それにしては、ロングの映像が少ない。いや、弱い」
「予算の問題じゃないの?」
「え、あれだけの視聴料とっておいてか?」
 などと、親子三代かまびすしい。

 今日と明日は休みだが、元日からの営業である。今でも、正月に家族写真を撮りたいというお客さんは多く、三日で二十組ほどの予約が入っている。直美は大晦日から元日の写真撮影の仕事が入っている。
 まあ、大掃除にかこつけた息抜きでもある。
 夕方になって、『アマちゃん』が終わる頃には、あらかた終わり、玄一と玄蔵は親子で将棋を始めた。これも年末恒例の須之内写真館のイベントである。

 夕食の鍋を囲みながらテレビを観る。昔はなかった習慣だが、レコード大賞が大晦日から三十日に移ってからは両日観るようになった。
 レコード大賞と紅白を逃さないのは、この写真館が、良くも悪くも昭和を引きずっている証でもある。

「そうだ、今日のレコード大賞は、杏奈と美花も出てるんだよ!」
 直美は、スマホのメールを観て思いだした。
「え、なんか歌うのかい?」
「んなわけないよ。付き人の雑用係だけどね、まあ、会場の空気吸うだけでも勉強だよね」

 それは優秀作品賞の発表で起こった。

 氷川きよしの歌が終わったあと、AKRからデュオで出た大石クララと堀部八重がステージに上がり『秋色ララバイ』を歌ってステージの階段を降りるときに、照明のレーザーが、わずかにズレてクララの目を横切り、一瞬クララは目が見えなくなり足を踏み外した。

「あ……!」

 クララがゆっくりと倒れ、八重を巻き込むようにして階段を転げ落ちた。
 その時、階段下から二人の黒い影が現れてクッションになった。
「あ、杏奈と美花だ!」
 それは一瞬のことで、クララと八重は何事もなかったように自分達の席に戻った。
 二人の笑顔がアップになったあと、一瞬カメラがロングになり、杏奈と美花がスタッフに抱えられるようにしてハケていくのが分かった。

 番組は何事もなく、「EXILEPRIDE~こんな世界を愛するため~」がレコード大賞に選ばれ無事に終わった。

「あの二人、大丈夫かね……」
 
 オジイチャンがポツンと言った。直美は言葉も無かった……。
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高校ライトノベル・小悪魔マユの魔法日記・4『ライバル登場』

2019-08-16 06:07:37 | 小説6
小悪魔マユの魔法日記・4
『ライバル登場』

 
「あ~あ、こんなになちゃった」
 里依沙がぼやいた。
「どうして、こうなっちゃうかなあ」
 沙耶もぼやいた。
 ただ、二人のボヤキは原因が正反対。
 横で知井子が笑っている。無邪気に笑うと、知井子は意外と可愛い。だけど両手で顔の下半分を隠して笑うので、この可愛さは本人も含め知っているものは、あんまりいない。
 その知井子が、顔の下半分隠さずに笑ったのだから、里依沙と沙耶のコントラストのおかしさは、かなりのものである。

 四人は、昼休みに校舎裏の学年菜園を見にきたのである。

 以前は、学級菜園だったが、ちゃんと管理できる。つまり根気よく面倒が見られる生徒が減ってきたので、里依沙たちが入学した年から学年菜園になり、希望すれば誰でも自由に栽培していいことになった。
 で、里依沙と沙耶の二人は、去年の秋に栽培を始めたのだが、知井子は、土や虫が嫌いなので、参加しなかった。
 沙耶は手堅く、ソラマメとエンドウ。里依沙は無謀にもイチゴにチャレンジした。
 里依沙の方が、やや面倒見はよかったが、この差は、その「やや面倒見がよかった」をかなり超えたものがあった。
 里依沙のイチゴはたわわに実っているのに、沙耶のソラマメとエンドウはさっぱりの草ぼうぼうであった。
 マユも、こういうことには疎い。それに学期途中(みんなは知らないが)から、この東城女学院に来たので、それまでのいきさつも分からず「こんなもんかいな」と思った。

「ほんとうは朝早く摘まなきゃなんないんだよね」
 知井子が知ったかぶりを言う。
「朝早くなんて来れないじゃん。それに、ほっとくと虫がすぐに付いちゃうからね」
「げ、虫!?」
「今は、奇跡的に付いてないから。今のうちにやっちゃおう!」
 里依沙の鼻息で方針は決定した。 四人で、イチゴを収穫して家庭科の冷蔵庫で保管してもらうことになった。

 収穫し終えて、校舎裏を回って正門近くのアプローチまで来ると、マユはオーラを感じた。門衛の田中さんだけど、なんだかいつもと違う。
「先行ってて」
 マユは、そう言うと、小さい交番のような門衛に向かった。

 田中さんは、パソコンのモニターを見ながら考え込んでいた。
「どうかしました、田中さん?」
 マユが、そう訪ねると、田中さんはすぐにエスケープキーを押し、門衛のモードに戻って、笑顔を向けた。
「いや、まずいところを見られてしまったね。気候のせいだろうね。少しボンヤリしてしまった」
 田中さんは頭を掻いたが、その残留思念が今まで点いていたパソコンの画面の残像といっしょにマユの頭に焼き付いた。
 マユは並の女子高生ではない。「小」の字は付いてもあくまでも悪魔である。
「そう。なんだか心配ごとがあるように見えたから」
「ハハ、自衛隊じゃボンヤリするときはムツカシイ顔をする。こんなふうにね……」
 田中さんは実演して見せた。マユは女子高生らしく笑っておいた。
「いかん、いかん防衛機密だからね、今のは」
「ハ、田中陸曹長どの!」
 マユは、おどけて敬礼した。

 田中さんは、生徒の一覧表を見ていた。雅部利恵(みやべりえ)という生徒の……で、違和感を感じていたのだ。
 田中さんは、職務熱心で、全職員と全生徒の名前と顔を覚えている。
 そう、顔と名前は……。
 しかし、この雅部利恵という生徒については、クラスや学籍番号、そして住所や緊急連絡先、本人の携帯番号、さらに左胸に小さなハート形のホクロがあることまで分かっている。
 門衛は、職務柄、マル秘になっている職員や生徒の情報をパソコンで見ることができる。しかし田中さんは、たった今まで、それを見たことがない。生活指導部から回ってきたクラス毎の顔写真を見て覚えたのである。それにパソコンの個人情報にも、胸のホクロまでは載っていない。もちろん田中さんは、生徒の更衣室を覗くようなことはしない。
 マユは、田中さんの残留思念を元に利恵の教室を見にいくことにした。

 利恵は、活発そうなポニーテール。窓ぎわの席で片ひじついてボンヤリ空を見ているように見えた。

 マユは、そっと意識を集中して利恵の心を読んだ……なにも読めなかった!?
 そのとき、先生に呼び出されて、遅れてきた子が大橋とネームプレートが付けられた席に着き、お弁当を広げた。
 慌てていたんだろう、タコウィンナーが箸から滑って飛んだ。
 そして、前の席で三人で首を伸ばしてお喋りしていた子の襟から背中に入りそうになった。小悪魔の悲しさ、マユは、そのささやかな不幸にビビっと快感を予感した。
 ところが、タコウィンナーは命あるもののようにUターンして、我が身の不運に口を開け、絶望の淵から九十九パーセント落ちかけていた大橋という子の口にスッポリ入ってしまった。
 ゴクンと、思いのほか大きな音をさせて、大橋さんはタコウィンナーを飲み込んでしまった。まわりの子たちが気づいて、彼女を見つめ、大橋さんは、いま飲み込んだタコウィンナーのように赤くなった。

――いかが、出昼マユさん――
 雅部利恵は言った。唇も動かさずマユだけに聞こえる声で……。

 六時間目は、避難訓練だ。
 
 大半の子たちは、まじめに避難訓練していたが、ルリ子たちは、小声で喋りながらチンタラチンタラ。後ろを歩いていたマユたちは迷惑。で、マユは指一本動かして、ゴミ箱の中にあったバナナの皮をルリ子の足許に。
「ヒエー!」
 見事にルリ子はひっくり返り、そのルリ子を受け止めたルリ子の取り巻きたちも犠牲になった。ルリ子はアミダラ女王のパンツを穿いていることが判明。ルリ子の感覚が古いのか新しいのか分からなくなる。あのアミダラ女王がスリーディーで見えたら新しいのだろうけど、もう一度確認しようとは思わないマユであった。ま、とりあえず趣味が悪いことは確か。そして、少し可愛げがあるところが憎たらしかった。

 全生徒の避難は五分ちょっとで終わって優秀な成績であると消防署の人たちから誉められた……ところまでは、よかった。

 気をよくした校長先生が、延々と喋るのには閉口した。先生というのは偉くなればなるほど話がヘタ。マユは、ついイタズラ心で校長のカツラを吹き飛ばしてみた。みな一瞬アゼン。
――ざまあみろ!
 そう思った瞬間、校長の頭の髪は復活。
――え、そんな……。
 そう思って、もう一度吹き飛ばそうとしたが、校長の髪は風になびくだけである。
 雅部利恵のオーラを感じた。
――ち、あいつか!?
 で、マユは、木枯らしの魔法をかけた。校長の髪はハカナク風に吹き飛ばされる……すると、すぐに校長の髪は元通りのフサフサに。
――こいつめ!
 マユは、再び校長の髪を吹き飛ばす。するとすぐにフサフサに……そんなことをくり返しているうちに、校庭のみんながざわつき始めた。しかし、もう意地の張り合いになったマユと利恵は汗をかきながら白と黒の魔法の掛け合いになった。あまりの早さに、人間たちには、校長の髪が半透明のようになり、ある種の納得をした。
 校長先生の髪は薄くなりはじめてきたんだ……長い付き合いの教頭先生でさえ、そう思った。
「マユ、なに汗かいてんの?」
「マユ、指がケイレンしてるわよ」
 知井子と沙耶が心配げに言った。
 同じようなことを利恵もクラスの仲間から言われている。
――くそ、これで勝負だ!
 マユと利恵は同時に念じた。
 ボン! 何かが爆発したような音がして、それは起こった。
 校庭や校舎がイチゴ畑とハゲ頭の地肌のマダラという異様な光景となり、育毛剤とイチゴの混ざった表現しがたいニオイに満ちた。

 結果的には集団幻覚ということになった。
 
 マユのお目付役である悪魔と、利恵のお目付役である天使が、同時に魔法の修正を行ったからである。
 時間を止めて、悪魔と天使は、それぞれの劣等生に説教をし、二人の成績をEマイナスからFに落とした。そして、これからは互いに干渉しないように約束をさせた。
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高校ライトノベル・連載戯曲『たぬきつね物語・5』

2019-08-16 05:51:33 | 戯曲
連載戯曲 たぬきつね物語・5
 大橋むつお
 
 
 
時   ある日ある時
所   動物の国の森のなか
人物
  たぬき  外見は十六才くらいの少年  
  きつね  外見は十六才くらいの少女 
  ライオン 中年の高校の先生
  ねこまた 中年の小粋な女医
 
 
ライオン: むかえ酒かい?
ねこまた: お、ライオン丸! あんたねえ、生徒にハンパな指導するのやめてくれない。余計なとばっちりで、はた迷惑よ!
ライオン: なんの話?
ねこまた: たぬきときつねに変なこと言ったでしょ。お互いの身になって考えろとかなんとか。
ライオン: え、ああ。いやあ、けんかばっかりしとるんでね。一発がつんと……
ねこまた: あの子たち、お互いの姿に化けあいして、どっちがどっちかわからなくなってしまているのよ。
ライオン: え?
ねこまた: 「お互いの身になって」ってところを文字どおり受け止めちゃったのよ。
ライオン: でも、たかが子だぬきと子ぎつね、化けたと言ってもたかのしれた……
ねこまた: これ、フォーウェイの最新型の化け葉っぱ。遺伝子レベルまでデジタル変換できるすぐれもの。親も教師も、もっと子供の持ち物には気をつけなくちゃ。
ライオン: それで、二人は?
ねこまた: いろいろテストしてもらちがあかないから、森の周回道路を走らせてんの。
ライオン: 走って、治る……っていうか効き目は?
ねこまた: あるわけないでしょ! 走ってくたびれりゃ、あきらめて、納得するんじゃないかって、それくらいよ。わたし、ゆうべの酒が残って、頭いたくって……
ライオン: そんな無責任な。
ねこまた: 無責任はそっち! 指導がはんぱ! 根性がはんぱ! すべてがはんぱ! ゆうべだって、なに? あの口びるのおもちゃ。あれでウサギ先生にキスしようとしたでしょ。
ライオン: しゃれだよしゃれ。ふんいきもりあげようと思ってさ。
ねこまた: セクハラだよ。そんなことだから四十を超えて、いまだに独身なのよ。
ライオン: あのな……
ねこまた: もう顔も見たくない、あっち行って!
ライオン: お、おれなあ……
ねこまた: まだいたの? 気が弱いくせにしつこいんだから。
ライオン: お、おれは……男としても教師としても、責任を持って……
ねこまた: 責任なんていいの。実際責任なんてカケラも思ってないんだから。あのね、わたしの言った言葉をきっかけに「失礼な!」とかなんとか言って、いなくなっちまえばいいのよ。そのきっかけをつくってあげてるの、わからない?
ライオン: そ、そんなことは嫌いだ!
ねこまた: そんなら、勝手にしなさい。あの子たち帰ってきたら、きっと許さないわよあんたのこと。
 
たぬきときつねがもどってくる。
 
 
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