魔法少女マヂカ・053
ちょっと困った。
調理研の三人、体力や運動能力が目に見えて向上しているのだ。
水泳のテストで、友里と清美は自己ベストを出した。ほとんどカナヅチのノンコも既定の25メートルを泳ぎ切って目を丸くしている。
ノンコは、泳ぎ切らなければ鬼の補習がまっているので必死だったから、本人も周囲も感動を持って納得している。
友里と清美は25メートルは楽勝なので、ごく普通に泳いでいての自己新記録なのだよなあ。
「ノンコの波にのっちゃったんだよ! それだけ、ノンコのは感動的だったしさ!」
苦しい説明だけど、二人ともノンコの偉業を素直に喜んでいるので、なんとか「そうか、友情の賜物なんだよな!」ということに収まった。
問題は、これからだ。
三人の体力と運動能力が向上しているのは、特務師団の高機動車北斗のクルーになって、訓練と実戦を経験しているからだ。
むろん魔法少女たるわたしやブリンダに及ぶものではないんだけど、並みの女子高生の能力ではなくなってきている。
三人が任務に就いているのは亜次元の時空の中だ。亜次元の中ではリアルには時間が進まない。霊魔相手に何時間死闘を繰り広げても、リアルには一秒も時間がたたないのだ。
彼女たちのアビリティーは確実に向上して、このままでは、周囲も本人たちも不思議に思うだろう。
「いっそ、三人には本当のことを言っておいた方がよくはないかな」
来栖司令に話すと「これから、まだまだ熾烈な戦いが続く。人が死んだり傷ついたりが当たり前になるんだ。亜次元のことも知ってしまえば、かなりのストレスになる。伏せておいた方がいい」という答えしか返ってこない。
「しかしね、わたしはリアルでも三人とは付き合いがあるんだ。ハラハラしながら学校生活を送るのは勘弁してほしい」
テディ―が淹れてくれたお茶をすする。思いのほか冷めている。
「淹れなおしましょうか?」
「あ、すまん」
テディ―が丸っこい手でカップを掴んで給湯室に向かう。
どう見ても縫いぐるみのテディ―が人語を操り、ドラえもんみたいな手で器用にアレコレをこなす、時と場合によっては、丸っこい手に武器を持って霊魔と戦うこともある。霊魔の多くは人の姿をしている、切れば血も噴きだすし、苦悶の表情を浮かべることもある。そんなのを目にしたら……リアルの意識で任務に就くのは問題があるだろう。
「君たちは調理研究部だったな」
「うん、もっぱら食べることばかりになってきたけど」
「調理や食材集めで心身を鍛えると言うのはどうだろう」
「調理と食材集め?」
「ああ、ツバメの巣とか、ある種のキノコ、徐福が求めた不老不死の果物とか、そういうレアものを集めることにしたら、心身を鍛えることにもなるだろう。調理にしても、食材によっては鍋振りとか包丁とか、かなり体力を使うものもありそうじゃないか」
「正気?」
「自衛隊メシも経験してもらったし、レンジャーの食事を体験してもらうというのもいけるかもしれない」
「泥水すすったり、蛇を生で食べたりする、あれをやれってかあ……」
「自然に心身が鍛えられるぞーー」
「「アハハ……」」
互いに笑ってごまかしたが、司令の目は笑ってはいなかった……。