前方に迫ってきたエディンバラ城が左に逸れる。
駐車場に向かうのかなあ。
「お城の南側に車を止めます。車は、いったんお屋敷に戻して夕方にお迎えにくるようにします」
あ、ジョン・スミスさんとはお別れか……ちょっぴり寂しく思っていたら、着いた石畳の道には見覚えのあるオネエサン、あ、プライベートジェットのクルーさんだ。
みんなが下りると、オネエサンはジョンと運転を代わって帰ってしまった。
「メグは、市内から通ってるから、ちょうどいいんだって」
なるほど、通勤の途中で車を預かれば効率的や。イギリス人のやる事は合理的やなあ。
「じゃ、いくよ!」
頼子さんが添乗員みたいに小旗を掲げて先頭に立つ。
「ワタシ、ヤリマス」
ソフィアさんが名乗り出て小旗を引き受ける。頼子さんが英語で一言二言いうが、ソフィアさんは斧を振り下ろすような勢いで頷く。責任感の強い女の子なんやろなあ。
「サカ ノボリマス デス」「ヒダリ マガリマス デス」「ミギ マガリマス デス」「モスコシデス」
こんな感じで進んでいって、登り切ったところで宣言する。
「ココ ロイヤルマイル デス! メインストリート デス!」
デスに力が入るので、なんだかデスノートみたくで、正直おかしいねんけど、笑ったら失礼なんで、必死にこらえる。
「マッスグ イク デス! テイク ア フューミニッツ ウイ アライブ……エディンバラ キャッスル エディンバラジョウ デス!」
ロイヤルマイルという名前の通りらしい。
四車線幅ほどの石畳やねんけど、車が通れるのは二車線ほどで、車道と歩道の区別もない。おおぜいの観光客がゾロゾロ歩いてて、道の両側は五階建てくらいの石造りの家やらお店やらが長屋みたいに引っ付いて、微妙なカーブの先まで続いてる。たぶん、どん詰まりがお城やねんやろなあ。
「あ」
留美ちゃんが小さく声をあげる。
いきなり長屋が切れて、サッカーコートくらいの広場が出現。
広場の突き当りに石造りのゲート。ゲートの向こうには黒々と城壁やらタワーが聳えてる。ゲートの脇にはチェックのスカートみたいなんに鉄砲担いだ兵隊さんがガードしてて、日本風に言うたら城の大手門やいうことが分かる。
「エト エ アウ……ヨリコサン、カワッテクダサイ デス」
どうやら、ここからの説明はむつかしいらしい。翻訳機を使うても、英語で入力してからの翻訳になるからテンポが悪くなる。区切りもええことやし、頼子さんも――そだね――という顔をして、添乗員の小旗を引き受ける。
「左右を見て」
頼子さんに言われて初めて気ぃついた。
なんと、広場の両脇には競技場の観覧席みたいなんがそびえてる!
正面のお城に目を奪われて気ぃついてなかった。
「ここて、お城の入り口ですよね?」
「そうよ、大坂城で言うと、大手門前の広場。観客席は特設でね、夕方になったら『ミリタリー・タトゥー』が始まるの」
ミリタリー・タトゥー?
軍隊の入れ墨? なんのことやろ?