ライトノベルセレクト・215
『夢で逢いましょう』
まだ決心がつかないの?
これで3回目だ。
ここのところ三日続けて同じ夢をみている。
オフホワイトと言えば聞こえはいいが、幸福感を感じない少し濁った白の世界。
そこに、さらにオフホワイトの木が立っている。
葉っぱは一枚もない。
全体がホワイトなので、生きているのか枯れているのかも分からない。でも、俺は落葉広葉樹だと思っている。
今は秋の終わりか冬の初め。
だから葉っぱをみんな落としているんだ。
春になれば、きっと芽吹いて蕾を付け、花も咲いて葉も茂るにちがいない。
そうなれば、程よい木漏れ日もさして、絶好の安息の木陰になる。
ところが、変に生暖かい。
最初は、冬でもこんな日があるさと思った。
でも、三日も続けば冬でないことは明らかだ。この木は枯れている。そこに憩うオレは……憩う真似をしているオレはひどく道化じみている。
でも、去年植木市で買った南天は、枯れたかと思うと、春にはちゃんと芽吹いたじゃないかと思い直したりする。
「引っ越してきてあげてもいいわよ……」
最初の夢で彼女は、そう言った。
ちゃんとしたホワイトのワンピースに、ブルネットのセミロング。
むかし憧れていた何人かの女のいいところを全部集めたような子だった。
「いきなり押しかけちゃ、あなたも腰が引けるし、ご近所も変に思うでしょうから、隣の部屋に越してくるわ。そうして自然に近い関係になっていけば、世間も納得して祝福してくれるわ……フフ、いろいろ考えちゃうタイプなのね、あなたって。いいわ、少し考えて結論出せばいいわ」
最初の夢は、それだけだった。
二日目は、もう少しいろんな話をしたが、夢なので、あらかた忘れてしまった。でも、あのやり取りは忘れない。
「あなた、まだ童貞なんでしょ」
「そんなことない」
「フフ、かっこつけて。あんなの体験したってうちに入らないわよ」
その子は、おれが誰にも言ったことがない秘密を知っていた。
あれは20代の終わりだった。互いに半分打算の恋愛をした。
「このへんで手を打とう」
そんな思いで、契約書にサインをするような気持ちでホテルに行った。十分に絡み合ったあと結びつこうとして果たせなかった。
「まただ、みんな、ここまでくると萎えてしまうのよ。あたしのこと綴蓋に割れ鍋ぐらいにしか思ってないんだ!」
「今日は、営業で暑い中歩き回ったから……」
オレは、また次のチャンスがあるさ……ぐらいに思っていた。
その子は三月後に別の男と結婚してしまった。そして気が付くと、もう来年で40になる。
二日目は……思い出した、あの子の名前を聞いた。
「名前は?」
「栞……ってほど可愛くはないから、栞代わりで葉っぱでいいわ……それじゃ呼びにくい?」
「葉っぱじゃなあ……」
「いい歳してこだわるんだ。あなたの長所でも短所でもある……じゃ、安物の葉っぱで安葉はどう?」
ヤスハの響きがいいので、ヤスハと呼ぶことにした。気づくとヤスハの髪はセミロングが、フェミニンボブほどになっていた。
そして、三日目の夢。
「まだ決心がつかないの?」になった。
夢なんだから適当に、いや、欲望のまま「決心した!」と言えばよかった。
でも、夢の中でも、オレは優柔不断だった。
そのあくる日だった。
オーナーの代理の管理会社の男がやってきた。保険のCMのように若い女の子を連れていた。
「耐震工事をするので、街から資金援助を受けます。で、そのかわりに減築することになりますので……お客様の部屋は残ります。隣の部屋の部分をバッサリ削ります。ご了承ください」
「ああ、そうですか……」
「大丈夫ですよ、あなたのお部屋は、そのままですから」
助手の女の子が、良く似合うボブカットのように、さっぱりと言った。
どこかで見た子だと思ったら、ヤスハにそっくりだった。
オレの隣にヤスハはおろか、人が越してくる可能性は完全に無くなった。部屋そのものが無くなるのだから。
それから20年たった、20年ぶりにヤスハが夢に出てきた。
「バカね。どうして自分で引っ越してみようって気にならなかったの。可能性は自分で広げていくものよ」
「ヤスハ、また会えるかい。夢でいいから」
「ごめん。あたし忙しいの。昔のあなたみたいな男が増えたから。ま、死ぬまでには来てあげるわ」
そうして、また20年がたった。なぜか、今夜あたりヤスハが夢に出てきそうな気がしていた……。
高安女子高生物語・59
〔フラレてしもた!!〕
フラレてしもた!!
と、騒ぎ立てるのは早いかと思うけど。感覚的には、まさにフラレた。
ちなみに、うちは今日で17歳になります。17年前の5月2日、金曜日、午後3:05に、あたしは上六の病院で呱々の声(産声を格好良う言うたら、こないなる)をあげた。
なんで、こんなに詳しく生まれた曜日やら時間を知ってるかというと、頭がええから……ではなく、折に触れてお父さんが言うから。
この日は、6時間目体育館で学年集会をやってて、それが3:05分に終わって、教室で終礼せなあかんよって、トロクソウ歩いてる生徒に「はよ、出え、はよ出て教室戻れ!」て怒鳴ってたから。
なんせ、終礼を早よせんと掃除当番がフケてさっさと帰ってしまいよる。で……「早よ出ろ!」と言うてる時に、うちはお母さんのお腹から出てきた。それが面白いんか、なにかにつけて、お父さんが言うんで、覚えてしもた。というわけ。
ほんまは、今日の放課後でも関根先輩が「桃谷のマクドでも行こか?」いうてささやかにマックシェ-クかなんかで「誕生日おめでとう」言うてくれたら、うちは、それ以上のことは望まへん。
誕生日は、こないだメールでさりげのう教えたある。なんか言うてくるんやったら、夕べのうちやろと日付がかわるまで、スマホ前に置いて待ってた。
せやけど、電話はおろかメールもけえへん。で、かねて用意のデートの申込みを送信した。
コースは決めてた。悔しいけど、かねがねお父さんに教えてももろてたデートコース。いくつも教えてもろてたけど、静かにゆっくりをコンセプトに選んだ。
連休は、どこにいっても人いっぱい。それがめったに人がけえへん絶好のスポット……て、別に飛躍したやらしいことは考えてません。念のため。
京阪の三条で降りて大津線で蹴上まで行って、インクライン沿いに南禅寺の裏手に出る。途中日本最古の水力発電所やら、レールの幅が4メートルほどあるインクラインが見られる。ほんで発電所の裏側を行くと森の中と言うてええ琵琶湖疎水に出てくる。ほんでから、その支流沿いに森の中を500メートルほど歩くと、南禅寺の水路閣に出てくる。
コースの説明つけてメールを送った「もし良かったら、連休のいつでも」と、メッセ。遠慮してるようで、がっついてるかなあ……迷いはあったけど、エイヤと送信ボタンを押す。
で、5分で返事が返ってきた。
――ごめん、部活と美保との約束があって、一日も空いてない――
これはないやろ。
断られるのは半分覚悟してた。せやけど、わざわざ「美保との約束」……ヤケドに辛子塗るような答えせんでもええやんか。
うちは、鴨居に掛けといたデート用のスカートとカットソー(こないだアマゾンで買うたやつ)を仕舞うて、布団被って寝た。どす黒い後悔が胸の中を蛇みたいにクネクネして、なかなか寝付かれへんかった。
「明日香、誕生日やな、おめでとう」
学校で、担任のガンダムに言われた。嬉しいよりもキショクワルイ。なんで何人もいてる女生徒の中で、うちの誕生日覚えてんねん!? それが表情に出たんやろ、ガンダムは付け足した。
「クラス持つときに調査書見たら、俺と誕生日いっしょやったさかいに覚えてしもた」
「ほんまですか!? で、なんかクリスマスパーティーとか、奥さんとデートとか」
「この歳なって、そんなんしてもらえると思うか? もしやりよったら、なんか下心あるんちゃうかと疑うてしまう」
なんとも味気ない返事。
一日凹んだままで、帰りの桃谷のホームに立ってたらメールが入った。
――誕生日おめでとう。学――
心臓が口から出そうやった。で、向かいのホームに気配。
関根先輩が手ぇ振ってくれてる。うちはジャンプして、思い切り手ぇ振った。
――ほんなら、クラブあるから学校に戻る――
メール読んでたら、関根先輩は、下りの階段を駆け下りていくとこやった。
向かいのホームいうのが、ちょっと寂しかったけど。これが、うちと先輩との距離。
少しは前進。
そない思て納得した……。
里奈の物語・57
『がんばれ、のらくろ!』
アンティーク葛城の朝はNHKの朝の連ドラから始まる。
今の連ドラは『あさが来た』。
これが始まる前に朝ごはんを食べ終わり、お茶を飲みながら観る。見終わったらテーブルの上を片付けて仕事にかかる。
あたしが来たころは、あさが九州の炭鉱を買って、慣れない炭鉱経営に苦労していた。
今は探鉱事業にも成功し、銀行経営に乗り出そうとしている。夫の新次郎との間に女の子も生まれ、あさは二回りも大きく成長した。
連ドラのお約束で、大抵の登場人物がいい人で、幸せになっていく。観ていてホンワカとする。
でも、今朝は観られなかった。
仕入れた商品が八時前に着いたので、伯父さんおばさんを手伝って、荷受けと荷解きをしていたのだ。
ここんとこ商品の回転が速く、アンティーク葛城の経営も上向き傾向。
「じゃ、公園に行ってきます!」
荷解きを終えると、ボランティア。公園に行って街猫たちの世話をする。
猫田の小母さんたちは早くから来て、猫たちに餌をやっている。あたしの仕事は主に後片付け。
「今日も元気に食べたんだね♪」
空になった餌鉢を回収しながら猫たちに話しかける。
猫は犬みたいにじゃれついたり、お愛想をしたりしない。でも、チラリとこっちを見たり、後ろ向きのまま尻尾を振ったり、猫独特の挨拶をしてくれる。最初は分からずに「礼儀知らずな猫!」とか思っていたけど「ほら、今のが挨拶」と、猫田さんたちが教えてくれて分かるようになった。
「あれ……のらくろがいない?」
のらくろは、ウズメの子分みたいな黒猫で、足の先と目のあたりが白いので、大昔のマンガのキャラにあやかって、おばさんたちが付けた名前。最初は、なかなか猫仲間に入れない引きこもり猫だったけど、ウズメが良くできた猫で、のらくろが輪の中に入れるようにしてくれた。
「朝ごはんは食べに来たんやけどね……フッとおらんようになって……また引きこもってるんかいなあ」
田中さんが気づかわしげに教えてくれる。
「のらくろ……のらくろ……」
「呼んでも出てけえへんのよ……」
「のらくろ!」
悪い予感がして、叫んでみた。
――ニャー――
ブチの猫が後ろ向きのまま鳴いた。で、一回だけ尻尾を立てるとパタンと下ろした。
いつもの挨拶とは、ちょっと違う。
「……あ?」
思い当たって、ブチの視線の方に行ってみた。
「あ……のらくろ!」
のらくろは茂みの向こうで横倒しになっていた。
「おばさん! のらくろが!」
叫んだ時には、のらくろを抱っこしていた。のらくろは目を閉じたまま苦しい息をしていた。
「こら病気や! はよお医者さんにみせなら!」
田中さんが、あたしから奪い取り、猫田のおばさんが毛布でくるんだ。
おばさんたちはテキパキと動いて、数分後にはのらくろをペット病院に連れて行った。
――がんばれ、のらくろ!――
あたしは、オロオロしながら祈るしかなかった……。
須之内写真館・30
『お正月のキャンセル』
今朝早くキャンセルの電話が入った。
正月の家族写真のキャンセルである。昔からのお得意さんで、お子さんの誕生、嫁取り、成人式など三年に一度くらいの割で家族写真を撮りにこられていた斉藤さんだ。今年はお祖父ちゃんが卒寿なので、須之内写真館としても楽しみにしていた。
ところが、元日にお祖父ちゃんの様態が悪くなり、急なキャンセルになった。
「あそこの祖父ちゃんには可愛がってもらったなあ……」
玄蔵ジイチャンがしみじみと言った。
「横須賀鎮守府で、テストパイロットをやっておられたそうでな。むろんオレが知ってるのは戦後の斉藤さんだが、航空自衛隊の草分けだった」
「へえ、あのお祖父ちゃん自衛隊だったんだ」
「航空自衛隊って、教官はみんなアメリカ人だったんでしょ?」
「ああ、陸と海は旧軍のキャリアがわんさかいたが、空は、いきなりジェット機だったからな」
「スマートな人だったなあ……」
「ああ、まだまだ自衛隊に風当たりの強いころだったけど、家に帰ってくるときもキチンと制服を着ておられた」
「おれは、退官されてからの斉藤さんしかしらないけど、着流しの似合う粋で穏和なお祖父ちゃんだったな」
「……その斉藤さんが、一度だけ荒れたことがあった」
「え……」
思わず父の玄一が、ジイチャンの玄蔵の顔を見た。
「カーチス・ルメイが勲章もらったときさ」
「だれ、それ?」
「航空自衛隊の創設に功績があったアメリカの将軍なんだけどな……東京大空襲の作戦の立案と指揮をした男でもある」
「東京大空襲の!?」
「そんなのが、航空自衛隊創ったんですか?」
「ああ、当時の日本てのは、そんなもんさ。勲章は大勲位菊花大受章って最高のもんで、これは陛下の親授と決まっていたんだがな……」
「シンジュって?」
「直接、陛下がお授けになるんだ……さすがに陛下は親授だけはされなかった」
「そうなんだ」
「なんたって、一晩で十万人の日本人を焼き殺したやつですからね」
「その晩、荒れて……と言っても、ちょっとひっかけて声が大きくなる程度だがな。ここで写真撮ったんだ」
「え、酔っぱらって?」
「酔っていても、姿勢や言葉が崩れることはなかった。ただ、怒りの表情がむき出しだった。あんな斉藤さんは初めてだったな」
スタジオは、しばし追憶の空気に満ちた。
「あ、これで午後の撮影は一件だけになったな」
スタジオ撮影の予約は元日に集中し、今日の午後は斉藤さんが抜けて一件だけになってしまった。
「あたし、出かけてもいいかな?」
直美が聞いた。
「ああ、いいよ。一件だけならオジイチャンと二人でできるから」
「だれか、いい男でもいるのか?」
「ちがうわよ」
そう言うと、カメラのバックパックを背負い愛車の折りたたみ自転車ナオに乗ってヒカリプロの会長の家を目指した。
レコード大賞で、クララと八重を庇って美花が怪我をしたと聞いた。今朝のメールで、今日は杏奈と二人で留守番と打ってきていた。
「アケオメ……あら、思ったより元気じゃん」
「ちょっと捻挫しただけです。もう……」
と言いながら、奥に案内する姿は捻挫した足を引きずっていた。
「あの晩は大変だったんですよ。一人でお風呂にも入れないもんで、あたしがいっしょに入って洗ってやったんです。ヘヘ、美花の体隅から隅まで見ちゃった」
「杏奈のも見ちゃったわよ。足の付け根にホクロあるの発見しちゃった」
「あ、そんなとこ見てたの!」
二人っきりということもあって、賑やかなお喋りになった。それから庭に出てファンタと遊び、ファンタが子犬らしく居眠りし始めたころに杏奈が言った。
「そうだ、あのレコ大の怪我の功名で、クララさんと八重さんの衣装もらったんです!」
レコ大や、紅白の衣装は特別で、一回着たら二度袖を通すことはない。
「そうだ、それ着て写真撮ろうよ!」
直美の進言で撮影会になった。馬子にも衣装、着る物を着てポーズを取れば、イッチョマエのアイドルには見える。この子達の巣立ちを予感させてくれた。
賑やかに騒いで家に帰ると、玄蔵と玄一ともに無口だった。
「斉藤さんのお祖父ちゃんが亡くなった……」
巣立っていく者、旅だっていく者、様々な正月だった。
この時間は、いつもこうだ。
誰も授業を聞いていない。
英語の片岡先生の授業だ。
「……というわけで、接続詞の用法はわかったな」
一瞬、みんなは先生の方を向くが、すぐにそれぞれ勝手な事を始める。
マンガやラノベを読む奴。ヒソヒソ声で話している奴。中には、携帯を教科書で隠してメ-ルを打っている奴。むろん率先してやっているのはルリ子たちだけど、マユの友だち、沙耶、里依紗、知井子さえも、この授業の間は内職をやっている。
東城学院は、そこそこの私学で校則も厳しく授業もきちんとしている。この片岡先生の授業以外は。
無秩序というのは、小悪魔にとっては望ましい状況なので、マユは好きだ。
マユも、この時間は、魔法とも言えないイタズラをして楽しんでいる。ラノベに熱中すると膝が開いてくるルリ子の取り巻きの一人に、ちょいと指を動かす。足許から風が巻き上がり、スカートがひるがえる。アミダラ女王のパンツが丸見えになる。
ルリ子の仲間は、みんなアミダラ女王のパンツらしい。
『スターウォーズ』の3Dを見てファンになり、わざわざ輸入雑貨専門のネットショッピングでアメリカから買ったようだ。その子の股間のアミダラ女王と目が合って、片岡先生は一瞬ドキリとしたが、並の男が感じるドキリとは違ったので、マユは、少し意外だった。
メールをやりとりしていた美紀とルリ子のスマホの画面にはいきなりダースベーダーのドアップを3Dで出してやった。
「おまえたちは、すでに我が暗黒面に取り込まれた!」
ダースベーダーが一喝。美紀は悲鳴をあげたが、ルリ子は喜んで嬌声をあげた。
スカートめくりよりも教室はどよめいたが、片岡先生は我関せずと、気のない授業を続けた。
片岡のあまりな無気力さに興味を持って、マユは、彼の心を覗いてみた。
……読めない!
マユに見えた片岡の心は、具体性のない闇であった。闇ではあるがダースベーダーのような力はない。
普通の人間は、散文的な不満や、不安や、欲望が見えてくる。それが、片岡……先生の心からは見えてはこなかった。
ちょうど四時間目の授業だったので、授業が終わったあと、マユは片岡の後をつけていった。
「マユ、食堂……」
そう呼びかける沙耶の口にチャックをした。
廊下を歩く片岡の心は空虚だった。闇ではなかったが、濃い雨雲の中のような空虚さ。
階段の踊り場で、ちょっと魔法をかけた。片岡の手からチョーク箱やえんま帳やらが滑り落ち、階段を下の階まで落ちていった。
「あ、ああ……」
さすがに、片岡は声をあげ、階段を駆け下り、商売道具を拾い集めようとした。
階下にいた生徒たちがそれを手伝った。
一瞬、片岡の心に具体的なイメージが浮かんだ。
それは、一人のブルネットの若い女性だった。
「はい、先生」
最後のチョークを拾い上げたのは、落第天使の雅部利恵だった……。