魔法少女マヂカ・052
ノンコは直前まで嫌がっていた。
今日の体育は水泳のテストなのだ。
テストは25メートルプールを足をつかずに泳ぎ切ること。
泳ぎ方は何でもいいんだけど、泳ぎ切らなければ話にならない。
泳ぎ切らなければ補習が待っている。放課後ずっと泳がされるんだ。部活もできないし、学食でフライドポテトをホチクリ食べながらのステキなひと時を過ごすこともできなくなる。
「去年は泳げたんだろ?」
「あれはね、両隣のコースが水泳部とかスイミングスクール通ってる子ばっかで、その子たちの泳ぎでできた水流に流されただけなのよ。今年はゼッタイ無理! それよかさ、調理研の三人揃って不合格になって、補習付き合ってくれるってのは?」
「それは、人としてどうかと思うぞ」
清美が真顔で言って、わたしと真智香がふきだして却下になった。
「あ~~~~~~も~~~~~~この世の終わりだよ~~~~( ノД`)シクシク…」
かくして運命の五時間目!
ノンコは少しでも軽いほうが泳げるだろうとお昼ごはんを抜いた。ノンコを除く三人は、規定の25メートルをクリアできればいいと余裕のよっちゃん。
「カロリーメイトだけでも食わないか?」
清美が差し出すカロリーメイトをノンコは睨みつける。
「抵抗がないほうが速く泳げるから、髪の毛とか始末しない?」
「そーだ、オリンピックの選手なんか体毛ぜんぶ剃ってるのがいるらしいぞ」
「ハゲはいやだあ!」
「じゃなくて、キャップよ、キャップ」
「ああ」
納得したノンコは、めったにしないキャップを被って、たこ焼きのような顔になる。
「なんだよ、じろじろ見て」
水着に着替えたわたしらを、ノンコは危ない目つきで見る。胸とかお尻とかを。
「アハハハ……だいじょうぶ、あんたたちみたいに抵抗になるようなものは付いてないから」
「「「お、おい」」」
そして、いよいよ本番!
いやなことはさっさと済ませようと、ノンコは第一泳者五人の中に入っている。
よーーーい、ピ!
先生のホイッスルでいっせいにスタート。
先頭の子がゴールインしたときには、まだプールの半ばにも達していないノンコだった。これは失格……と思った。半分を過ぎて、もうだめかと思ったけど、ノンコは泳ぎ続けた。
「「「ノンコ、がんばれえ!!」」」
調理研みんなで応援する。
そして、応援のかいあってか、ノンコはビリケツながら見事に泳ぎ切った!
そしてわたし達。
なんと、三人とも自己ベスト!
別に狙ったわけじゃない、普通に泳いだだけなんだけど、なんだかすごいよ、調理研の奇跡だ。
なんでだろう?