大橋むつおのブログ

思いつくままに、日々の思いを。出来た作品のテスト配信などをやっています。

高校ライトノベル・魔法少女マヂカ・052『調理研の奇跡』

2019-08-01 14:34:56 | 小説

魔法少女マヂカ・052  

 
『調理研の奇跡』語り手:友里  

 

 ノンコは直前まで嫌がっていた。

 今日の体育は水泳のテストなのだ。

 テストは25メートルプールを足をつかずに泳ぎ切ること。

 泳ぎ方は何でもいいんだけど、泳ぎ切らなければ話にならない。

 泳ぎ切らなければ補習が待っている。放課後ずっと泳がされるんだ。部活もできないし、学食でフライドポテトをホチクリ食べながらのステキなひと時を過ごすこともできなくなる。

「去年は泳げたんだろ?」

「あれはね、両隣のコースが水泳部とかスイミングスクール通ってる子ばっかで、その子たちの泳ぎでできた水流に流されただけなのよ。今年はゼッタイ無理! それよかさ、調理研の三人揃って不合格になって、補習付き合ってくれるってのは?」

「それは、人としてどうかと思うぞ」

 清美が真顔で言って、わたしと真智香がふきだして却下になった。

 

「あ~~~~~~も~~~~~~この世の終わりだよ~~~~( ノД`)シクシク…」

 

 かくして運命の五時間目!

 ノンコは少しでも軽いほうが泳げるだろうとお昼ごはんを抜いた。ノンコを除く三人は、規定の25メートルをクリアできればいいと余裕のよっちゃん。

「カロリーメイトだけでも食わないか?」

 清美が差し出すカロリーメイトをノンコは睨みつける。

「抵抗がないほうが速く泳げるから、髪の毛とか始末しない?」

「そーだ、オリンピックの選手なんか体毛ぜんぶ剃ってるのがいるらしいぞ」

「ハゲはいやだあ!」

「じゃなくて、キャップよ、キャップ」

「ああ」

 納得したノンコは、めったにしないキャップを被って、たこ焼きのような顔になる。

「なんだよ、じろじろ見て」

 水着に着替えたわたしらを、ノンコは危ない目つきで見る。胸とかお尻とかを。

「アハハハ……だいじょうぶ、あんたたちみたいに抵抗になるようなものは付いてないから」

「「「お、おい」」」

 

 そして、いよいよ本番!

 

 いやなことはさっさと済ませようと、ノンコは第一泳者五人の中に入っている。

 よーーーい、ピ!

 先生のホイッスルでいっせいにスタート。

 先頭の子がゴールインしたときには、まだプールの半ばにも達していないノンコだった。これは失格……と思った。半分を過ぎて、もうだめかと思ったけど、ノンコは泳ぎ続けた。

「「「ノンコ、がんばれえ!!」」」

 調理研みんなで応援する。

 そして、応援のかいあってか、ノンコはビリケツながら見事に泳ぎ切った!

 

 そしてわたし達。

 

 なんと、三人とも自己ベスト!

 別に狙ったわけじゃない、普通に泳いだだけなんだけど、なんだかすごいよ、調理研の奇跡だ。

 なんでだろう?

 

 

 

 

 

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高校ライトノベル・連載戯曲:となりのトコロ・2『ブタが姉さんでよしみがやってきて』

2019-08-01 06:32:18 | 戯曲
となりのトコロ
 
2・『ブタが姉さんでよしみがやってきて』
 
 大橋むつお
 
 
  • 時   現代
    所   ある町
  • 人物  女3  のり子  ユキ  よしみ
 
 
  
 
ユキ: 霊感がつよいのね……(人形に)姉さん、ごめんね。目がさめちゃったのね、また子守歌うたってあげるからね……バスが来るまでイイ子でいてね(姉をあやす)
のり子: なによ、あんた、それ?
ユキ: ……姉さん。
のり子: 姉さん?
ユキ: 人にはぬいぐるみにしか見えないけどね……
のり子: あんたねえ……
ユキ: シイイイイイイ…………もうすぐ寝るから……(ささやくように子守歌を口ずさむ。姉はようやく眠りにつく)薄気味わるいでしょうね。ほんとなら、あなたの前から消えてしまったほうがいいんでしょうけど、わたし次のバスに乗らなきゃならないから……ごめんなさい……。
のり子: あ、あたしも次のバスに乗らなきゃならないから……。
ユキ: ほんとは逃げだしたい。せめて道ばたのウンコみたいに軽く無視してかかわりあいになりたくない。
のり子: うん。
ユキ: ……はっきり言う。
のり子: まあね……ハアアアアアアアアアアア…………
ユキ: あなたも、なにか……あるようね。
のり子: あんたも、なんかワケありみたいね……
ユキ: (ソッポを向く)
のり子: あたし、のり子。轟のり子。人はあたしのこと……
 
下手かなたから、よしみの声。
 
よしみ: (声)トドロ……トドロ!
のり子: よしみ!?
よしみ: よかった、間にあった!
のり子: え、傘もってきてくれたの?
よしみ: うん。
のり子: ありがと……でも、もう止んだみたい。
よしみ: その傘?
のり子: この子が……あれ?(ユキのすがたがない)
よしみ: だれかいるの?
のり子: うん……
よしみ: トドロ、ほんとに行っちゃうの?
のり子: うん。
よしみ: どうしても?
のり子: うん。
よしみ: どうしても?
のり子: どうしても。
よしみ: 先生の言ったこと気にしてんの?
のり子: 気になんかしてない。
よしみ: じゃあ……
のり子: 切れちまったの。
よしみ: トドロ……
のり子: 四年も便利使いしといてさ、「こんな気の抜けたアイデアしかないのか。おまえにはマンガ家としての才能も情熱も良心のカケラもない!」 ああ、やめたやめた。大事な青春ムダにしてやってることないわよ。
よしみ: 先生だって、ついカッとして……淹れたばかりのお茶、机に置いたとたん茶柱が横になっちゃったから。
のり子: 茶柱の代わりにに腹たてたってか! 言っていいことと悪いことがあるわよ。あたしだって真剣に考えて……
よしみ: でも……
のり子: でも、なによ「お茶淹れた、あたしが悪い」なんて言うんじゃないでしょうね。
よしみ: ……(かぶりをふる)
のり子: よしみも早いとこ見切りつけたほうがいいよ。先生、自分こそ才能も情熱も良心も枯れはてたくせに。仕事もほとんどあたしたちまかせ。自分は気楽に旅行三昧。先月号の締め切り間に合わせたのも、あたしたちだよ。昔はあんな人じゃなかったのに……泣くなよ、デカいなりして!……ごめん、自分の考え押しつけちゃいけないよね。あたしはあたし、よしみはよしみだもんね。
よしみ: ……
のり子: その気の弱いところなおせよな。言いたいことがあったら、はっきり言う!
よしみ: タ、タバコ買うってでてきたから……もう帰る……じゃあ元気でね。ほんとに、ほんとに元気でね。
のり子: よしみもね!
 
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高校ライトノベル・高安女子高生物語・43〈高安幻想・2〉

2019-08-01 06:21:39 | 小説・2
高安女子高生物語・43
〈高安幻想・2〉
       


「う、うち、高安のもんです!」

 そう言うと、どない見ても大河ドラマの登場人物みたいなオッサンが、刀かまえたまま聞いてきよった。
「高安……ほん近所やんけ。高安のどのへんじゃ!?」
 うちの耳が慣れてきたんか、ダ行の音もはっきり聞こえて、今の河内弁と変わらんようになってきた。せやけど、オッサンの警戒ぶりはそのまんま。言いようによったら切られかねへん。
「えと、高安町の……恩地川と玉串川の間が、いっちゃん狭なったとこで(高安駅徒歩6分言うても分からんやろな)……教興寺の西です」
「あのへんなら、まだうちの在やが、おんどれ……見たことないど」
 その時、通りがかりのお百姓が声をかけた。
「左近はん、なにシコッテはりまんねん?」
「おお、ヤス。おまえ、こいつの顔見たことあるか?」
「え……誰でんねん?」
「誰て、目ぇの前におる、けったいなおなごじゃ」
「左近はん、誰もおりまへんで。大丈夫だっか?」

 そのうち五人六人と人が集まり、オッサンもうちも、様子がおかしいのに気ぃついた。

「い、いや、なんでもないわい。おまえらも六波羅のアホがうろついとるかもしれんよって、気ぃつけさらせよ」
「へえ、そらもう正成はんが……」
 お百姓が、そこまで言うと、左近のオッサンはお百姓のオッチャンをシバキ倒した。
「ドアホ、気ぃつけ言うたとこやろ!」
「す、すんまへん。わしらも、ついあのお方のことが心配で……」
「その気持ちは嬉しい。けど、気ぃはつけえよ。さ、お日さんも高うなった。野良仕事に精出せ!」
「へえ」
 オッチャンらは、それぞれの田んぼや畑に散っていった。

「どうやら、わいの他には、おまえのことは見えんようやな。ちょっと付いてこい」
 左近のオッサンは、スタスタと歩き出した。しばらく行くと見覚えのある石垣が見えてきた。
「オッチャン、あれ、ひょっとして恩地城?」
「せや、わいの城じゃ。後ろの西の方に神宮寺城が見えるやろ。ここは、河内の最前線や」
 恩地城いうたら、今の恩地城址公園。子どもの頃に、よう散歩に来たとこや。
「オッチャン、ひょっとして恩地左近?」
「わいのこと知ってるんやったら、やっぱり在のもんやねんやろなあ。ここから、おまえの家は見えるけ?」
 小高い恩地城からは、高安まで見通せたけど、時代がちゃうんやろ、うちの家がある当たりは、一面の田んぼ。
「あのへんにあるはずやねんけど、時代がちゃうみたいで見えへんわ」
「おまえ、いつの時代から来たんじゃ?」
 
 左近のオッサンは、意外にも、うちが、この時代の人間やないことを直感で掴んでるよう。

「えと……令和元年……七百年ほど先の時代」
「ほうか、そんなこともあるんじゃのう……」
「頭(かしら)、城には、まだ帰りまへんのか!?」
 城門の櫓の上で、オッサンの家来が怒鳴ってる。昔も河内の人間は声が大きいようや。
「ああ、在の東(ひんがし)の方見てくるわ!」
「ご苦労はんなこって!」

 それから、うちらは、信貴山の方に向こうて歩きだした。ここら辺は千塚(ちづか)古墳群の南の方。名前の通り後期の古墳が山ほどある。
「おっと、今日は、ここやないな」
 左近のオッサンは、ちょっと戻って、一つ手前の林の中の石室がむき出しになった古墳の中に入っていった。

 石室は、石の隙間から光が差し込んで、暗いことはないけど見通しがきかへん。奥の方から人の気配がした。

 気が付くと、石室の奥に目玉が二つ光ってた……。
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高校ライトノベル・里奈の物語・42『鈴野宮悦子・2』

2019-08-01 06:12:24 | 小説3
里奈の物語・42
『鈴野宮悦子・2』 


「葛城の御主人でもよかったんだけど、里奈さんの方が嬉しい」

 淡いグリ-ンのワンピースは清楚で、その上で綻ぶ笑顔は、そのワンピースと相まって、咲いたばかりの百合の花のようだ。
 百合の花がそよぐように、悦子さんは首を傾げた。
 
「ごめんなさい……わたしって、その時その時の直観でものを言うから、もし飛躍して分からなくなったら聞いて下さいね」
 嬉しい理由は分からなかったけど、この鈴野宮悦子という人は嬉しいということが分かれば十分なんだという気がした。
「これがトワエモアの指輪なの」
 悦子さんは指輪を外して見せてくれる。お店のパソコンで見たV字型の指輪、形はそのままだけど、ダイヤもリングもとてもきれい。
「…………素敵ですね」
 ありきたりの言葉しか出てこない。いざとなったらボキャ貧になってしまう自分が悲しい。
「今の若い人には分からないかもしれなわね」
「そんなことありません。お店のパソコンで見た時も感動したけど、今はもっと感動しています。ただ、それを現す言葉が見つからなくて」
「ほんとう?」
「はい」
「……ほんとだ、赤ちゃんかきれいな花を見た時みたいに瞳が膨らんでる」
「そ、そうなんですか」
「ええ、人を見る目は確かだから……よかったら、最初に頭に浮かんだ言葉を教えてくれないかしら」
「えと……ウワー!……です。言葉じゃなくてすみません」
「それでいいの。感動はストレートがいいわ。言葉に変換しようとすると鈍くて弱いものになってしまうわ、冷めないうちにどうぞ」
 悦子さんは、傍らのサイドテーブルから湯気の立っているティーカップを取り上げた。サイドテーブルもティーカップも、たった今現れたような気がした。「いただきます」と言って、ドアに向かう気配に気が付いた。メイドさんが出ていく姿が一瞬見えた。
「え……?」
 廊下の壁に映る影は、猫のシルエットだった。

「彼女、ウズメさんよ」

「ウズメ……!?」
「いつもは、こうやって、わたしの世話をしてくれているの」
 紅茶の香りと、なんだか花の香りが部屋に満ちてきた。
「えと……」
 ウズメさんが猫に化けたのか、猫がウズメさんに化けたのか分からなくなった。
「じつは、お願いがあるんです……」

 悦子さんが少しだけ身を乗り出した。部屋の中の香りが一段と強くなってきた……頭がクラっとした。

 危うく落ちるところだ。

「あ、停留所……」
 なんとかバランスを保って踏ん張る。阪堺線の停留所なので、夢を見ていたのかと思った。
 チンチン電車から降りた時と同じ景色が広がっている。
 でも、思わず握りしめた手に違和感がある……手を広げるとトワエモアの指輪が載っている。

「……探して」

 悦子さんが言った言葉を一つだけ思い出した。言葉と言い指輪と言い、夢ではない。

 三叉路の道に戻り、レトルトカレーのホーロー看板のところで脇道に入る。
 二つ目のホーロー看板で曲がると、道が無くなっていた。道の向こうにあるはずの家並そのものが無くなり、唐突に崖になっている。

――この指輪とペアのトワエモアの指輪を探して――

 悦子さんの言葉が蘇った。
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高校ライトノベル・須之内写真館・15【美花の증조모(ジュンゾモ)・2】

2019-08-01 06:00:57 | 小説4
須之内写真館・15
【美花の증조모(ジュンゾモ)・2】        
 
 
 あ……玄蔵祖父ちゃんは、危うく声が出るところだった。
 
 美花(ミファ)のひい婆ちゃんは、古い濃紺のスーツ姿にブラウスの襟を出したものだった。
 直美が見ても分かった。
 
 これは昔の小学校の女先生の姿だ。
 
「お恥ずかしいです、70年も前のものですから」
「学校の先生でいらっしゃったんですか……」
「分かっていただいて恐縮です。婆さんの若作りと思われたらどうしようかと、ヒヤヒヤものでしたのよ」
「いいや、まるで大石先生だ……」
「『二十四の瞳』?」
「はい、子どもの頃に観て感動しました」
「あれ、わたしの理想ですのよ。現実は、あんなピュアなもんじゃありませんけどね……おっと、これを付けなきゃ」
 美花ひい婆ちゃんは、ワッペンのようなものを取り出し、左の胸に貼り付けた。
「なんですか、それ?」
「ヘヘ」
 美花のひい婆ちゃんは、声まで若くなって、イタズラっぽく笑った。
「これは、シールですなあ」
「はい、孫にパソコンで作ってもらいましたの。便利になりましたね画面の上から手書きすると、その通りにできるんですね」
「大阪におられたんですか?」
 胸の名札には、大阪の住所と氏名、血液型が書かれていた。
「二宮美子……通名ですか?」
「いいえ、本名……だと思っています。うちの親は創氏改名以前から日本名にしていましたから」
「そうなんですか」
 撮影の準備の手を止めて、玄蔵ジイチャンは聞いてしまった。
「1909年に民籍法というのができましてね。そのときチャッカリと親がやっちゃったんです。あの頃は、内地風の氏名を付けるのには厳しい制限があったんですけどね、満州なんかで仕事をするには、その方が都合が良くって。だから、わたしは生まれたときから二宮美子なんです。女学校を出て内地の女学校、師範学校を出て大阪で終戦まで国民学校の先生やってました。戦後はできなくなっちゃいましたけど、わたしが、一番わたしらしかった時代……それを残しておきたいと思いましてね」
「昔のお写真が残っていましたら、復元させていただきますが」
「お祖父ちゃん、上手いんですよ復元。こないだも、それで……」
「直美、自慢めいた話はするんじゃない」
「それが、8月14日の空襲で焼けてしまいましてね」
「終戦の前日ですか!?」
「ええ、まあ、京橋じゃ、ずいぶん亡くなった方がいらっしゃいましたから、写真が焼けたなんて、贅沢な話です。それから、闇市やったり、日本と朝鮮を行き来して……親は、だいぶ危ない橋も渡ってきたようですけど……ああ、グチになるところでした。気分のいい間にお願いします!」
「はい、承知しました」
 
 そして20枚ほど撮って、3枚を選んでもらった。若干デジタル修正もやったので、五十代でも通りそうな写真ができた。
 
「では、三日後に仕上げて表装して、お渡しできると思います」
 
 でも、美花のひい婆ちゃんが、写真を取りに来ることはなかった。
 
 写真を撮った二日後の朝、ひい婆ちゃんは、起きてこなかった……永遠に。
 
 写真は遺影に使われた。
 
  穏やかな表情だったが、見ようによっては悲しそうにも見える。きっと、身内にも言えない苦労があったんだろう。美花は、それにたじろいだんだ……そう、直美は思った。
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高校ライトノベル・『はるか 真田山学院高校演劇部物語・83』

2019-08-01 05:52:27 | はるか 真田山学院高校演劇部物語
はるか 真田山学院高校演劇部物語・83
『第八章 はるかの決意6』 

 
 それでもいいと思った、精いっぱいやったんだから。

 そして最優秀、つまり一等賞の発表。
 わたしは上の空だった。由香との約束がある。これが終わったら、白羽さんに会わなきゃならない。
 正直、気が重い……たそがれがかっていた。

 と、そこにどよめきと拍手……。
 二拍ほど遅れて分かった。

 最優秀賞、真田山学院高校『すみれの花さくころ』……感動がサワサワとやってきた。


 その明くる日は、創立記念日で休みだったけど、午前中いっぱい稽古になった。
 なんたって、本選は六日後の土曜日だ。
 まずプレゼンで予選のDVDを観た……これがわたしたち?……と、感じた。
 変な力みも、感情のフライングもなかった。
 もう、習い性になっていて、台詞をしゃべっていない役者に目がいく。
 きちんと、芝居ができている。
 他のみんなも同じ目で、人と自分の演技、演奏、効果、照明がきちんとできていたか真剣に観ていた。
 ただ、わたしがフィナーレで、可動壁にぶつかったところだけは爆笑になった。
 幸い、ドスンという、わたしには大きく聞こえた音は、歌と拍手に紛れてぜんぜん聞こえなかった。

「まずまずのできやな」
「もうちょっとやな」
 先生たちは素直には誉めない。教師(大橋先生は元だけど)の性だろうか。

 大橋先生の「まずまず」には、具体的な指摘があった。
「スミレは、進路とか興味がころころ変わることを進一に指摘されるやろ。そのときの不愉快さが弱い。これは、タマちゃん自身が進路決まって、安心してしもてるからカタチだけになってしもてる。進路が決定するまでの、不安やったころの自分を思い出してほしい」
「はい」
「カオルは、アラブで戦争が起こった号外を見たあと、隣町の米軍基地から飛行機が飛んでいく。それに対する、不安感、恐怖心が類型的や」
「類型的って……」
 分かっていたけど、聞いてしまった。
「紋切りガタやいうことや。カタチだけなぞって、本質的な表現ができてないいうことや」
 わたし飛行機に追いかけ回されたことなんかないもん……この感覚だけは、マサカドさん、見せてはくれなかった。
「と、いうわけで、そこらへんが、はるかの課題。ほな、一本通すで!」

 一本通して、道具のチェックと整理をした。

 最後にプレゼンの掃除をしていると、いい匂いがしてきた。
「さあ、みんな、受賞記念パーティーや!」
 乙女先生が、Lサイズの宅配ピザを三段重ねにして持ってきた!
「ソフトドリンクは、司書室や、みんなでとっといで」
 テーブルの上に、あつあつのピザが並んだ。

 さあ、食うぞ!

「と、そのまえに」
 しばしおあずけ……お腹が鳴る。
「できは、まずまずやったけど、ピノキオも予選も観客動員は今イチやった。本選のLホールはキャパが六百、今までで一番大きい。がんばって動員かけや」
  乙女先生の訓辞。で、ようやくピザにありついた。
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