名誉職だと思っていた……。
頼子さんが重い口を開いた。
ロイヤルマイルの地下、ソフィアさんが魔法の杖を爪楊枝にくらいにチビらせてがんばってくれた。
ソフィアさんはエクソシストたったんや。
てっきり、日本語を勉強中のメイドさんやと、頼子さんも思てたらしい。そやから「用心にソフィアを連れて行ってください」とイザベラさんに言われても、そういう名目で日本語の勉強をさせてるんやと、頼子さんもうちらも思てた。
「わたしも、ちからを使うことになるとは、思ってませんでしたデス」
人数分のトワイニングを淹れながら落ち着いた笑顔でソフィアさん。
「やっぱりお茶は、ここで頂くのが一番ね」
あくる日の我々は、ヒルウッドのお屋敷のサンルームで休んでる。まあ、この一週間は精力的に観光してたから、こういうのんびりした一日を過ごすのもええもんです。
「それでは、ごゆっくり。ご用がございましたら、内線電話でお申し付けください」
翻訳機を通して挨拶すると、ソフィアさんはサンルームを出て行こうとした。
キャ!
悲鳴が重なった。
留美ちゃんが飛び込んできて、ソフィアさんと鉢合わせしたんや。
「オウ、アイムソーリー」
「すみません、わたしこそ。あ、花ちゃん、これでいいのよね」
「あ、それそれ。ソフィアさん、ちょっと待って」
「はい?」
「これ、使ってもらえないかなあ。お守りにでもなったら嬉しいです」
留美ちゃんから受け取ったばっかりの箱をソフィアさんに渡す。ほら、合宿前にお母さんが持たせてくれたやつ。
「わたしにですか? ありがとうございます……おお、これはニンバス2000!」
「うん、ソフィアさんのはチビってしもてたから、ほんの気持ちです」
「外国製は初めてです、試してみますね……えと……」
ソフィアさんは、しばらくニンバス2000を彷徨わせたが、クルリンと回って、魔法少女のように叫んだ。
「リジェネ!」
ちょっとおかしくってクスっと笑って、頼子さんがシャキッと背筋を伸ばして立ち上がる。
「さ、がんばるぞ!」とガッツポーズをとった!
「おおーーー!」
「ありがとうございます、使わせてもらいますデス!」
ガッツポーズしながらソフィアさんはサンルームを出て行った。
「よし、魔法が解けないうちに!」
そう言うと、頼子さんは自分の頬っぺたをピシャピシャ叩きながら出て行った。
頼子さんが、なにやら叫ぶと、お屋敷中がスイッチが入ったように――イエス――イエス マム――アンダストゥッド――の声があちこちでして、なにごとか動き始める気配がした。