魔法少女マヂカ・062
一度通り過ぎてから周囲をうかがう。
光学迷彩をかけてあるので、秘密基地に入るところを気づかれることは無い。周囲の防犯カメラには十秒のブラフをかましてあるので、たとえ映像を撮られていても、ポリ高の女生徒が公園外周の角を曲がったとしか認識されない。
しかし、昔の探偵アニメのようにカッコよく警戒してから迷彩ゲートを潜ることにしている。
こういう遊びが無くては魔法少女はやっていられない。
「そうでしょ、だったらぼく達にも慣れてくださいよ」
そう言って、テディ―一号が湯呑を置いてくれる。
「テディ―に偏見はないけど、こういうことは人型アンドロイドにならないかなあ。なんだか遊園地のパーラーみたいで、何を飲んでも甘く感じてしまう」
「テディ―は汎用アンドロイドなんだから、機能的にはなんの問題もない」
テディ―は二頭身半の縫いぐるみの姿で、基地のスタッフなのだが、同じ姿かたちなので、背番号の数字で区別している。テディ―達が使う椅子や道具も、それに合わせてあり、保育所かなんかの遊戯室のようなのだ。もし、テディ―達に合わせるとしたら、こちらはキティーちゃんにならなければバランスが取れない。
「これだけの秘密基地つくる予算があるんだったら、アンドロイドくらいなんとかなるでしょ」
「防衛費はGDP1%の枠がはめられているので余裕がない。なんなら、わたしがメイドの格好でもして給仕してやろうか」
「いえ、司令は司令の仕事だけしていて欲しい……」
横須賀で石見礼子を撃破して以来、この二週間あまり緊急出動が無い。毎日下校の途中で基地に寄るようにしているが、少々ダレてきてはいる。
「そういえば、石見礼子は、我々のことを『ふそう魔法少女隊』とか言っていたが、ふそうとはどういう意味なのだ?」
ちょうど入ってきたブリンダが、通学カバンをテディ―三号に預けながら言う。
「ふそうとは、こう書く」
司令がボードに『扶桑』と書いた。
「日本の美称でな、ここ一番という時に使う。例えば、わが国初の超ド級戦艦を『扶桑』と名付けたようにな」
「国は、ここを『扶桑基地』とは呼ばないなあ」
「最上級の美称を付けるのはためらわれたんだろう」
「なら、将来は『扶桑』という基地ができるということなのか?」
それには答えずに、司令は別の事を言った。
「石見礼子は、まだ生きている」
「え? オレとマヂカで両腕を切り落としたんだぞ」
「知っているだろ、奴には『石見』としての姿と『オリヨール』としての姿がある。生きていても不思議ではない」
「司令、舞鶴司令部から通信です」
テディ―二号が通信文を持ってやってきた。
「……舞鶴で、石見礼子が目撃された」
「出動かな?」
「ああ、今回も二人で行ってくれ」
「了解、ところで二号」
「なんですか、マヂカ?」
「おまえがメイド服を着てもしかたないんだからな」
「ちぇ、気に入っていただけると思ったのにい」
ブリンダとともにオブジェに跨ろうとしたら「飛行機で言ってくれ」と注文がついた……。