大橋むつおのブログ

思いつくままに、日々の思いを。出来た作品のテスト配信などをやっています。

高校ライトノベル・魔法少女マヂカ・058『城ケ島の少女・2』

2019-08-14 13:53:00 | 小説

魔法少女マヂカ・058  

 
『城ケ島の少女・2』語り手:マヂカ  

 

 

 救命救急措置が功を奏し、城ケ島の少女は救急車に乗せられ、横須賀市内の救急病院に搬送されて行った。

 やれやれ、無事に片付いたか。

 安心して、意識を部室である調理実習室に戻した。

「いろいろあり過ぎて、絞れないよお……」

 ノンコが頭を抱えている。友里と清美はスマホでググって、候補に挙がった土地のソウルフードの情報をスクロールしている。

「浅草一番ののソウルフードはくさやの干物だってさ!」

「あ、それだけは御勘弁……」

「真智香はどうしたい?」

 清美が振って来る。

「もう、片っ端から食べてみるしかないでしょ」

「「「だよねえ」」」

「じゃ、とりあえず日暮里のソウルフードを探しに行こう!」

「「「おーし、それだ!」」」

 無責任な提案に三人とも乗っかってきた。

 

 駅に着くまでに日暮里のソウルフードは「「「あんみつだ!」」」ということになった。なんだかんだ言っても、みんなで騒いで、ちょっぴり美味しいものが食べらえればいいという女子高生のノリなんだ。ファストフードになったら意見してやろうと思ったが、なんだかんだ言っても、この三人は生真面目なんだ。

 

 帰り道、大塚台公園の交差点で友里と別れると思念がとびこんできた。

――城ケ島の少女が消えた――

 来栖司令からだ。

 途中まで渡った横断歩道を回れ右。視界の端の友里はそのまま背中を見せて遠ざかっていく。どうやら全員招集をかける状況でもないようだ。

――少女の名前は石見礼子。看護師が点滴のため病室に入ると、窓が開いていて姿が見えなくなっていた――

『それは、逃げたというだけじゃないんですか』

 女子高生が病室から逃げただけなら、警察だろう。特務が出張るようなことじゃない。

――病室は地上十二階だ。それに、五分後には第七艦隊揚陸艦と海自護衛艦のスパイレーダーが破壊された。魔法少女のしわざだ――

 わたしの意識に上ったのは偶然なんかじゃない。どうやら無意識に少女の動向をトレースしていたようだ。

――確証があるわけではないが、とりあえず横須賀に飛んでくれ、ブリンダにも直ぐに後を追わせる――

 基地に入ると、テディ―たちが、あっという間にコンバットスーツに着替えさせてくれる。

 北斗には始動を現わすグリーンランプは点いていない。司令も想念を送って来るだけで、基地には来れていないようだ。

 一人で行けってかあ。

 風切り丸を背中に装着すると、コキっと肩を慣らして亀に跨って出撃するわたしだった。

 

 

 

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高校ライトノベル・高安女子高生物語・56『ミスドの誓い!』

2019-08-14 06:28:33 | ノベル2
高安女子高生物語・56
『ミスドの誓い!』         


 連休初日、うちは図書館に行った。

 八尾の図書館は三つある。うちが行くのは、一番近い山本図書館。
 コミニュティーセンターの一二階が図書館になってる。この連休は、特別に出かける予定もないさかい、図書館で本を借りることにした。ま、タダで借りられるし、なんか飛び込みで予定入ったら、それはそれ。

 で、思いもせんかったもんに遭遇してしもた。

 本とちゃう。
 田辺美保……うちの恋敵。気ぃついたんは向こうの方から。
 
「やあ、明日香やんか」
 新刊書のコーナー見てたら、声がかかった。
 美保先輩は、ベッピンでスタイルもようてファッションの感覚もええ。セミロングの髪をフワーっとさせて、ナニゲニ掻き上げると、ええ匂いがする。
「本借りにきたん?」
「う、うん。久々に」
「いっしょやな。この連休特に予定ないさかい」
 うちと同じようなことを言う。
「この本面白いよ。ちょうど返すとこやねんけど、あんた借りひん?」

 差し出された本のタイトルは『少女廷国』

「ちょっとホラーやねんけど、考えさせられるねん。中学の卒業式の会場に行く途中で、気ぃ失うて、気ぃついたら石で囲まれた部屋で寝かされてて、ドアに張り紙。N-M=1とせよて書いたある。それができたら、ここから出られる。で、ドアは二枚あるけど。片方はノブがないから、張り紙のある方にしか行かれへん。で、ドアを開けたら、同じ制服着た卒業生が寝てる。起こして、ドアを見たら同じことが書いてある。で、次々と部屋を開けていくと、同じように制服着た卒業生。せやけど、ぜんぜん知らん子ばっかり。そんな部屋がずっと続いて……あとは読んでのお楽しみ」
 美保先輩のCMが面白いこともあったけど、うちは、どこかで美保先輩とは決着つけなあかんと思てたから『少女廷国』と、あと二冊借りた。

「ちょっと話しょうか」

 カウンターで手続き終わったら、意外なほどの近さで美保先輩が言うた。なんのテライも敵愾心もない顔やったんで、近所の山本八幡に行った。ガラガラ振って手を合わせる。
「……なんの、お願いしたん?」
「なるようになりますように……」
「アハ、へんなお願いやね」
 ちょっとバカにされたような気がした。せやけど美保先輩の顔には、相変わらずクッタクはない。
「うちがフラレても、先輩が……その」
「フラレても」
「ええ、まあ……だれも傷つきませんように」
「……ちょっと虫がよすぎるなあ」
「あ、すんません」
「さっきの本ね。扉は無数にあってね。卒業生も無数に居てるのん。で、M-N=1……つまり、みんなで殺し合いやって、最後の一人になれたら助かるいう話」
「なんや、バトルロワイヤルですね」
「結末は意外やけど、言わへんわね。ただ、だれも傷つかへんのは、無理やと思う。明日香、自分が学にフラレて平気でおれる?」
「分かれへんけど、そうあったらええなあて……そやけど、美保先輩やったら負けても納得はいくと思てます」
「ありがと。せやけど、それは明日香の負けてもともと言う弱気からやと思う。傷つくのん覚悟でかかっといで」
「うん……お神籤ひきませんか?」
「ようし、ええお神籤引いたほうが、マクドかミスド奢る。これでどや!?」
「セットメニュー除外言うことで!」

 で、引いてみたら、二人仲良う中吉。ワリカンでミスドに行った。

「あんた、学に夜這いかけてんてな」
「え、知ってるんですか!?」
「学は、言うてへんよ。あのときたまたまチャリで近く通ってたさかい。正直、あの状況だけでは確信もたれへんかったけど、今の返事でビンゴやな」
「あ、あれは(正成のおっさんのせいとは言われへん。信じてももらわれへんやろさかい)……」
「あれは未遂やったな。せやろ?」
「う、うん……」
「せやけど、ええライバルやと思た。うちも諦めたわけやないさかい、まあ、せえだいがんばろか」
「うん!」
「ええ返事や。ついでに言うとくけど、この連休は学との予定は無し。あいつも悩んどる。この連休はそっとしとこ。抜け駆けなしな。ほれ、指切り」

 明るく指切り。
 どんな結果になっても、美保先輩とは、ええ友達でいたいと思た。
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校ライトノベル・里奈の物語・55『ビターラプソディー・2』

2019-08-14 06:22:57 | 小説5
里奈の物語・55
『ビターラプソディー・2』                            

 
 
 石を投げたら食べ物屋さんに当たる!

 と言うくらい、大阪は飲食店が多く種類も豊富だ。
 そんなことくらいお祖父ちゃんが生きていたころから知っている。お祖父ちゃんがいろいろ連れて行ってくれたから。

 でも、こんなのは初めて!

 焼きそばを頼んだら小鉢に生玉子が入って出てきた。なんだかすき焼きのノリだ!
 
 スタジオでのあたしのテストが終わったら、ちょうどお昼。
 そこで、CV(Character Voice - アニメ・ゲームなどの登場人物を 演じる声優)の実乃里さんがお勧めの岸自慢というお店に来ている。
「こうやって、焼きそばを玉子に漬けて……ズルズルズル~……てな具合に食べるのん。やってみそ」
 実乃里さんが美味しそうに実演する。
 妙子ちゃんを始めとするスタッフは、顔を見合わせてから、同じようにやってみる。

「美味い!」という人と「う~ん」という人に分かれる。あたしは「美味い!」組だ。

「唸る人も居てはるやろけど、なんか懐かしいでしょ?」
「うん、それは認める」
「小さいころに、初めてすき焼き食べた時のこと思い出した!」
「そこです!」
 実乃里さんが指を立てた。
「監督さんが望んではるのは、こういう味とちゃいますのん?」
「え……ああ……」
 焼きそばを口に持っていったまま副長さんが、あいまいな返事。
「里奈ちゃんのテスト聞いて思たんです。今度の『ビターラプソディー』で求められてる声は、この玉子漬け焼きそばみたいなもんちゃうかと」
「ああ……分かってくれてたんやな」
 副長さんは、お箸を置いた。
「エロゲの声て、もうどれも似たり寄ったり……で、今までとは違う懐かしいて可愛い声を求めてはるんやろと……」
「うん、どこか親近感が湧くような、そしてチャーミングな声……かな」
「やっぱりね……でも、あたしら声優には、ちょっと難しい」

 親近感、チャーミング、難しい……あたしってば、どんな声してんだ!?

「この焼きそばは岸和田ローカルです。みなさんが言うたみたいに好き嫌いは分かれます。昔から焼きそばは、いろんな食べ方されてきたんやと思います」
「うちのお祖母ちゃん、野沢菜入れます!」
「うちは天かすのてんこ盛り!」
「うちはキムチ!」
「うちは、ご飯と混ぜる!」
 いろんなのが出てきた。
「岸和田もいっしょやと思うんです。いろんな食べ方試して、玉子が残ったんです」
「そやろなあ」
「そんでも、この食べ方は岸和田の外には広がりませんでした……今度の『ビターラプソディー』は新しい焼きそばの食べ方を提案するようなもんやと思うんです」
 点けっぱなしのテレビの音声が響く。だれも言葉を発しないからだ。
「じゃ、今度のをメジャーにすればいいんじゃないですか!」
 口走ってしまった……。

「そ、そうよね。そういうことが言いたかったの! なんだかネガティブっぽい言い方になったけど、里奈ちゃんの言う通りです!」

 再びテーブルに賑わいが戻って来た。

 でも、この出しゃばりで深みにはまるとは思ってもいなかった……。
 
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高校ライトノベル・須之内写真館・28『父の秘密・茜色の晴れ着』

2019-08-14 06:15:53 | 小説4
須之内写真館・28
『父の秘密・茜色の晴れ着』       


 目の前で撮影の準備をしている玄一は微妙によそよそしかった。

 スタジオの隅で待機している母親は、なんとなく落ち着かない。
 見合い写真の撮影という注文で、娘さんは着替えの真っ最中。
 むろん、以前から予約の入っていたお客さんで、おかしなところはどこにもない。でも、父のよそよそしさと母親の緊張感に微妙な違和感を感じる。

「あ……お母さま、三年ほど前にも、成人式の写真を撮りにきていただきましたね?」

 直美の記憶の底から、泡のような思い出がよみがえってきた。
「あの時も、息子が撮らせていただきましたね。お嬢様がお見合い写真。早いものですねえ」
「恐れ入ります。亡くなった主人と、こちらのご主人は懇意にさせていただいたものですから」
「じゃ、父さん、あとはオレがやるから」
 玄一は、柔らかい言い方ではあるがキッパリと言った。
 玄蔵も直美も気づいていた。その女の人は、あの青いDVDの幾枚かの写真に写っていた女の人だ。
 しかし、娘さんが違う。中学の頃と今とでは印象は異なるだろうが、明らかに別人だ。

 着替えが終わって、娘さんがスタジオに入ってきた。

 茜色の晴れ着がとても似合っている。微かに違和感を感じた。
「成人式の時と同じ物でいいって申しましたんですけど、本人が、どうしてもこの茜色だと申しますので……」
「そうよ、この先何回使うか分からない見合い写真だもん。五年ぐらいは使えるものでなくっちゃ……と、思いまして」
 頷ける話ではあるが、直美はこの娘さんには、成人式の緑を基調とした振り袖の方が似合っているような気がした。

「じゃ、直美、照明を頼む」

 そうして、立ち姿と椅子に座った写真を二枚ずつ撮った。
「では、年内にはお渡しできるようにしあげますので」
 玄一がそう言うと、親子は安心したように帰っていった。

 最初に言い出したのは、母の直子だった。

「見合い写真を撮るときのオーラがないのよ。気に染まない見合い写真かとかんぐったりしたけど、それとも違う。なんか大事な義務を果たしに来たって感じ……」
「まあ、いろんな人がいるさ。妙な詮索はしないことだな」
 玄一は、家族とろくに目も合わさず仕事部屋に入った。

 写真は、その日のうちに仕上がった。

 特に不思議ではない。仕事が立て込んでいなければ、こんなものである。
「やっぱ、あたしの思いこみだったのよ。あの女の人、あたしと同年配。気の回し過ぎよ、あたしもジイチャンも」
 直美は、そう思いこもうとした。

「これは、ダミーだ。この子の表情は中途半端だ。オレなら、もっと表情を作ってから撮る。こんなもの写真学校出たての学生でも撮れる」
「じゃあ……」
「気は進まんが……」
 玄蔵は、玄一の部屋のモニターを点けた。
「……これは?」

「最初から言え、玄一。いらん心配するじゃないか」
「どうも、すみません」
 玄一は素直に頭を下げた。

 目の前には、ダミーで作った見合い写真とはまるで別人の姿、成人式用の仕様にされた写真があった。首から下は、あの娘さん。茜色の晴れ着であった。
「しかし、よくここまで合成したな」
「合成じゃない。正確な予想写真だよ」
 玄一は、疲れた目を揉みながら言った。
「十三歳の中学生が、二十歳になったら……九分九厘、この顔だ」

 その写真の女の子は、実在しない。十三歳で亡くなっているからだ。父親の車に乗っていて、事故で父と共になくなった。その父は、玄一の親友であった。
 息を引き取るまで、娘のことを気に掛けていた。
「オレが、なんとかしてやらあ」
 玄一は、臨終の友と約束をした。
 友の妻は、その後子連れの今の主人と再婚した。再婚相手の娘は三年前成人し、この須之内写真館で写真を撮った。
 玄一は、その娘と父親に直談判し、成人した娘さんの写真と、亡くなった女の子の写真を元に、合成写真を作ったのである。

 見事なできであった。生前から好きだった茜色がとても映える和風美人。

「それなら、そうと言ってよね。この子、あたしの子どもの頃に似てるからモデルになってあげたのに」
 このリップサービスが裏目に出た。調子に乗った玄一は、その子の高校、大学時代の写真まで作り出した。もちろんモデルは直美である。

 セーラー服や、水着まで撮らされ、大後悔の直美であった。
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高校ライトノベル・小悪魔マユの魔法日記・2『新型スマホにご注意を!』

2019-08-14 05:55:44 | 小説6
小悪魔マユの魔法日記・2
『新型スマホにご注意を!』



「おはよう」

 門衛の田中さんが、いつものように挨拶してくれる。
 田中さんは、元自衛官。五十五歳の定年で、この東城女学院の門衛さんになった。だれに対してもキチンと顔を向け、目を見て挨拶してくれる。地獄の門番ケルベロスを連想する。もっともケルベロスは頭が三つもあるので、たくさん地獄にやってくる人間どもの顔を見逃すことはないんだけど。
 田中さんは、たった一人でケルベロスをやってのける。
 ウワサだけど、田中さんは千二百人いる生徒や教職員の顔と名前を全部覚えているらしい。一度チャンスがあったら、ゆっくり話がしてみたいと、マユは思っていた。
 しかし、マユは、転校というカタチで人間の世界にやってきて間がない。魔界の補習のためにやってきているのだ。あまり余計な時間はとりたくない。さっさと、やることをやって魔界に戻りたい。

 教室に行くと、いつものように、半分くらいの生徒が来ていた。

「おはよう、里依紗」
「あ、おはよう……」
 里依紗のそっけない返事。沙耶と知井子も簡単すぎる挨拶しか返ってこない。事情は聞かなくても分かっている。この三人は、昨日、骨髄性の難病で休職中の恵利先生の家に行ってきたんだ。
 マユが写メにちょっとした細工をしたのが嬉しくて。ただ送信すればいいだけのそれを、わざわざ電車に乗って、恵利先生に会いに行った。で、赤ちゃんの清美ちゃんに当然出くわした。

「「チョーかわいい!」」

 女子高生のボキャ貧な感嘆詞も恵利先生は嬉しかった。
 恵利先生の嬉しさには、二つの理由がある。
 教え子がわざわざやってきてくれたことと、持ってきてくれた清美ちゃんの写メ。
 画面にタッチすると十七歳になった清美ちゃんの姿になるように魔法がかけられている。それも見るたびに、微妙に表情なんかが変わるようになっていて、見飽きることがない。
 そして、なんと言っても、赤ちゃんはかわいいもんだ。で、つい長居してしまい、遅く帰宅した里依紗たち三人は、宿題ができていなかった。
 で、三人は宿題のシェアリングをやって、分担したのを、見せっこして写している最中。
 三人の必死の形相にマユは、小悪魔らしくほくそ笑んだ。

 窓辺の日当たりの良い席から歓声があがった。

「チョーおいしそう!」
「スィーツのオタカラじゃんよ!」
「でしょう」
 三番目の声の主は、クラス一番のタカビーの指原るり子。
 こいつは小悪魔のマユがほれぼれするほどに意地が悪い。
 この窓ぎわの特等席も、席替えのときにズルをして、取り巻きともども占拠したものだ。恵利先生がいたら、こんなズルは出来ないのだけど、副担のトンボコオロギこと坂谷のたよりなさに乗じてやった。みんな不満に思っているが、だれも面と向かって文句を言わない。だからマユも干渉はしない。
「キャー、このパンナコッタ、ヤバイよ!」
「このティラミスもヤバ~イ!」
 取り巻き連中が、半分お追従、半分本気で羨ましがっている。
「どーよ、4Kの3Dだから、すごくいいっしょ。むろん、このスィーツも帝都ホテルの特製だから、そこらへのスィーツとは比べモノにはならないけどね」

 るり子は、最新のスマホで、昨日食べてきた帝都ホテルのケ-キバイキングの写メを見せびらかしている。

「チ、うるさいなあ……」
 沙耶が小さく舌打ちした。
「なんか言った……?」
 るり子の取り巻きの一人が、耳ざとく聞きとがめた。るり子の取り巻きたちがいっせいに、里依紗たちを睨んだ。
「ホホ、ごめんなさいね。そんなとこで、ドロナワで宿題やってるなんて気づかなくって!」
 るり子がトドメを刺す。取り巻きがいっせいに笑った。知井子が立ちかけたが、里依紗が制した。

――挑発にのったら、宿題できなくなる。

「あら、素敵なスマホじゃない。わたしにも見せてくれる!?」
 マユは満面の笑みを浮かべて、るり子たちに近づいた。
「あら、マユも見たい。どうぞどうぞご遠慮なく」
 背中に里依紗たちの視線を感じながら、マユはるり子たちの輪の中に入っていった。
「このサバランなんて、いけてるのよ、ラム酒に漬けた生地使ってるからとても香りもいいの。残念ね、香りはしないけど、3Dの映像で我慢してね」
 るり子が、鼻を膨らませた。るり子が得意になったときのクセである。
「あら、もったいない。このスマホ、匂いも再現できるのよ。知らなかった?」
 マユはカマした。
「ほんと?」
 タカビーだけど、るり子はこのへんは素直……というか単純である。
「ちょっとかして……このアプリをダウンロードしてと……」
「おお!!」
 教室にラム酒の混ざった、サバランの甘い香りが満ちた。
「ほんと、ルリちゃんは元華族!」
「あ、それナイショ」
 と言いながら、るり子は積極的にはマユを制止しなかった。しかし、取り巻き達は「華族」と「家族」の区別がつかず、キョトンとしていた。サバランの甘い香りの中で、しぶしぶという感じで、るり子は説明した。
 里依紗たちの怖い顔に、マユは、ウィンクで応えた。

 るり子のスマホの噂は、昼頃には学年中に広まった。

 そして、それは昼休みのキャフェテリアで起こった。
「ねえ、ルリちゃん。噂聞いたわよ。ちょっと見せてよ!」
 カレーライスをトレーに載せた隣のクラスのタカビーが寄ってきた。ここのキャフェテリアのカレーはよその学校の業務用のそれではなく、自家製で、東城女学院の名物メニューであった。
「いいわよ」
 るり子は気前よく、スマホを取りだし、スイッチをいれた。
「またやってる」
 いまいましいので、里依紗たちはキャフェテリアを出て、中庭からガラス越しにそれを見ていた。

「なんか変だよ……?」

 沙耶がベンチから立ち上がった。キャフェテリアの中は大騒ぎになっていた。
「な、なにがあったのかしら!?」
 立ち上がった三人にマユは説明してやりたい衝動にかられた。

――あのスマホには、仕掛けをしておいたの。写したものはちゃんと時間経過した姿と匂いで現れるようにしてあるの。

 最初に再生したときは、写したときの姿と匂いがしているけど、次に再生したときは、写したときから同じ時間がたったときのそれになって出てくる。
 で、るり子がスィーツを食べてから、十二時間ほどが経過していた……。

 スマホから再生したスィーツたちは、食後十二時間たった姿と臭いがしていた。
 姿はキャフェテリアの名物に似ていた……。
  
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高校ライトノベル・連載戯曲『たぬきつね物語・3』

2019-08-14 05:42:03 | 戯曲
連載戯曲 たぬきつね物語・3
 大橋むつお
 
 
 
時   ある日ある時
所   動物の国の森のなか
人物
  たぬき  外見は十六才くらいの少年  
  きつね  外見は十六才くらいの少女 
  ライオン 中年の高校の先生
  ねこまた 中年の小粋な女医
 
 
 
ねこまた: しかし、きみたちね。ライオン先生の言葉をそのまんまやるか?
きつね: だって、先生は、お互いの身になれって……
たぬき: と、いうことは化けることでしょ?
ねこまた: 互いの気持ちをおしはかれってことよ! 今はしんどいかな、とか。気持ちがのらないのかな、とか。そうしたら、そこから人への思いやりがうまれるって、そういう意味よ。ライオン丸が、いえ、ライオン先生が言ったことは。
たぬき: そうなんだ……でも……
きつね: 先生とか学校は、いつもカタチが大事だって。服装とか髪がたとか……
ねこまた: バカか!?
たぬき: バ、バカだなんて……
きつね: そんな……
ねこまた: バカだからバカだって言ってんのよ!
きつね: だって、ぼく、いえわたし……
たぬき: ぼく……(きつねと共に泣く)
ねこまた: 泣いたって、もとにはもどらないんだからね。
二人: うわーん!
ねこまた: 泣くな!
二人: はい……
ねこまた: とにかく、治すことを考えよう。二人とも手ェ出して……(二人のカルテを手と見くらべる)指紋まで化けてんだね、きつねはきつね、たぬきはたぬきの指紋だちょいと血をもらうよ(二人の耳たぶをひっかき、プレパラートに血をとる。二人少し痛がる。虫めがねで血を調べる)うーん……
たぬき: なにを調べてるんですか?
ねこまた: 遺伝子(ずっこける二人)
きつね: そんなもんで遺伝子がわかるんですか?
ねこまた: ねこまた先生だよ、あたしは。
たぬき: で、どうなんですか?
ねこまた: ……だめ。
たぬき: やっぱりね。
きつね: そんな虫めがねで、遺伝子なんか……
ねこまた: わかったのよ遺伝子は……でもね遺伝子まで、完全に化けてんの。
きつね: やったあ!
たぬき: ぼくたち、デジタル変化ですからね。なんべん化け直しても百パーセント完ぺきなんです!
ねこまた: 昔は、アナログだったからさ、どんなにうまく化けても、もとのらしさが残ったもんだけどねえ……百パーセント完ぺきねえ……
二人: えっへん!
ねこまた: 自慢してどうすんのよ。その完ぺきのために、どっちがどっちかわかんなくなってんでしょうが!
二人: はい……(しょげる) 
ねこまた: よし、テストをしよう!
二人: テスト?
ねこまた: いろんなテストをして、二人の本当の性格を洗いだしてみるの。たぬきときつねは、同じ犬科の動物だけど、性格は、いろいろ違うからね。それをはっきりさせれば、どっちがどっちか、はっきりするわ。
たぬき: ぜひ!
きつね: やってください!
 
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