大橋むつおのブログ

思いつくままに、日々の思いを。出来た作品のテスト配信などをやっています。

銀河太平記・006『修学旅行・6・グラビテーションコントロール』

2020-09-01 14:39:34 | 小説4

・006

『修学旅行・6・グラビテーションコントロール』   

 

 

 あれはなんだ?

 

 こういうことには疎いヒコが一番に見つけた。

「え……なに?」

 初音ミクに見惚れているテルは反応が遅れる。

 アキバ駅の向こう、ラジオ会館の次に重文指定を受けた秋葉原UDXの屋上にバックサスを受けたように巨大な人影が現れた。

 特徴的なシルエットで、アキバの歴史に詳しいテルなら一発で分かっただろう。

「あのヘッドフォン……」

 テルの次にアキバに詳しい未来が思い出しかけるが固有名詞が出てこない。

「あ、すーぱーそに子ではにゃいか!」

 テルが気づいたのは、初音ミクが歌いながらラジオ会館の屋上からジャンプしたのを目で追ったからだ。

 すーぱーそに子もUDXの屋上からジャンプして駅前広場の上空で、並び立った。

 初音ミクは『ミックミックにしてやんよ!』を熱唱中だが、合間を縫って別の曲が割り込む。そに子が歌っているのだ。

 最初は譲り合ったり、互いの曲に合わせたりしているのだが、次第にエキサイトしてきてお互いの曲を押しのけるように歌声を大きくする。

「邪魔しないでよ、アキバのヒロインはそに子なんだからね!」

「なによ、オッパイお化け!」

「オッパイお化けゆーーな!」

「アキバのヒロインは初音ミク、日本のジョーシキ!」

「わたしは世界の常識!」

「太陽系のジョーシキ!」

「なによ、じゃあ、アキバに来てるみんなに聞いてみるぞ! そに子だと思うひとおおお!」

 アキバのあちこちから『ウオーー!!』と歓声が上がる。

「じゃ、初音ミクだと思う人っ!」

 そに子と同じくらい『ウオーー!!』の歓声が上がる。

「ほら、そに子の方が多いじゃん!」

「なに、ゆってるの、ミクに決まってゆのよさ!」

 そに子とミクが言うたびにアキバのあちこちから声援が上がる。

「ほら、そに子!」

 ウオーー!!

「ミクだ!」

 ウオーー!!

「そに子!」

 ウオーー!!

「ミク!」

 ウオーー!!

「あ、もお! そんな地べたから叫んだって分かんないわよ!」

「そーだ、みんなにも、ここまで昇って来てもらおう!」

「あ、それアイデア!」

 二人の意見が合うと、なんということ、アキバの地上にいるみんなの体がフワフワと上昇し、ミクとそに子を取り巻くように浮遊したではないか!

「ただ昇ってきただけじゃ分かんないよ」

「じゃ、こうしよう!」

 ミクがジャンプしながらスピン。ツインテールが、それにつれてクルクル回ると、周囲の人やロボットが二つのグループに分かれる。

「こえって、グラビティ―コントロール……?」

「すごい……」

 そに子の方に流されながらダッシュと彦が呟く。ダッシュはそに子を応援していたようだ。

 テルと未来はミクの応援なので、より初音ミクの方に寄っていく。

 地上からも新たに、どちらかの応援にまわった者たちが空中に昇ってきて、どちらかのアキバヒロインの方に寄っていく。

「グ、グラビティ―コントロールと情報管理を組み合わせてるんだ」

 技術関係にはそれほど関心のない未来の声も上ずっている。

「しゅごい、地球のぎじゅちゅは火星の一歩しゃきを行ってゆのよさ!」

 

 そう、今上陛下御即位二十五周年にあやかったアキバフェスに、地球でも最新技術のGC:グラビティーコントロール(重力操作)とIT:インフォメーションテクノロジーを組み合わせ、初音ミクとすーぱーそに子の対決にアキバに居合わせた者を立体的に巻き込んだイベントにしたのだ。

 念のためにハンベ(腕時計型端末)を見ると『離脱するときはパージと言ってください』と出ている。

 ミクとそに子の対決パフォーマンスは、最新テクノロジーの演出と相まって、アキバ広場の上空を興奮のるつぼに変えた。

 パフォーマンスが終わるたびに応援を鞍替えした者、新規に地上から参加するもの、僅かだが用事かトイレのためにパージする者たちが交錯して、いやがうえにも盛り上がっていく。

「あ、ダッシュ、そに子だったんじゃないの?」

「ああ、でも、こっちも面白そーだし」

「じゃ、あたしはそに子に行ってみよっかなあ♫」

 ドン

「あ、ごめんなさい」

 移動し始めた未来が、流れてきた女の子にぶつかった。

「いまの、わざとじゃねえか」

「え?」

 グラビティーコントロールはCPがコントロールしているはずだから、人数が飽和していない限りぶつかることはあり得ない。

「あ、パスポート!?」

「やっぱりな! パージ!」

 離脱のキーワードを叫んでダッシュは地上に急降下した!

 

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ぜっさん・16『君の名は……』

2020-09-01 06:09:55 | 小説3

・16 
『君の名は……』    

    

 わけが分からなかった。

 声を掛けてきたのは、小柄なツインテールの一年生の女子だ。

 なにか別の用事で? 相手してる時じゃなんだけど? あなたが居たんじゃ長谷川要君、声かけにくくなるよ。
 そんな困惑が、プチプチと頭の中で弾ける。

「あの……長谷川要……なんですけど」

「え、どこ? 長谷川君?」
 てっきり、長谷川君が出てきにくくって、妹に頼んで露払いをしてもらっている。そんな突拍子もないことが頭に浮かび、キョロキョロした。
 ツインテールは、整った顔立ちで、緊張さえしていなければ、とても可愛い女の子だ。思いやりもあって、人にも気遣いができる。
 長谷川要君の妹なら、こういう感じの子だろうと、わたしの脳みそは判断した。

「えと……わたしが長谷川要なんです」

「え……………………………………ええ!? 

 目の前のツインテールと、手紙が結びつかない。

「えと……転校してこられてからずっと気になっていたんです。東京から越してこられたのに、なにも臆することもないし、蔑むこともないし、従ってハミられているご様子もないし、クラスや学年にも馴染んでおられて……でもって、自然にキラキラ輝いていらっしゃって、その、ほんとに眩しい御姉さまなんです。えと……わたしも東京から、転校じゃないんですけど、あ、転校してきたのは中三のときで……その、なんとも馴染めなくて、友だちも居なくて……だから、そんな御姉さまが、とても眩しく頼もしくて……その、学年は一個下なんですけど、いえ、下だから……妹に、妹分にしてくださいませ! 」

 それだけを詰まりながらも一気に言うと、顔を真っ赤にして最敬礼してしまった。

「……貴女が、ハセガワカナメ……だったんだ」
「は、はい。長谷川要です」
「長谷川要……」
「あの……アクセントは『かなめ』の『か』にきます」
 頭の中で反芻してみる。
『か』にアクセントを置くと、要という男名前ではなく『かな女』という感じで、あっぱれ女子の名前になる。

 プロムナードの木陰のベンチで語り合うことになってしまった……。


 

※ 主な登場人物

 敷島絶子    日本橋高校二年生 あだ名はぜっさん
 加藤瑠美奈   日本橋高校二年生 演劇部次期部長
 牧野卓司    広島水瀬高校二年生
 藤吉大樹    クラスの男子 大樹ではなく藤吉(とうきち)と呼ばれる
 妻鹿先生    絶子たちの担任
 毒島恵子    日本橋高校二年生でメイド喫茶ホワイトピナフォーの神メイド

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ポナの季節・21『いくら姉弟同然でも犬の忌引きはない』

2020-09-01 06:01:09 | 小説6

・21
『いくら姉弟同然でも犬の忌引きはない』
    


 ポナ:みそっかすの英訳 (Person Of No Account )の頭文字をとった新子が自分で付けたあだ名




 いくら姉弟同然でも犬の忌引きはない


 だからポナは、ポチが大好きだったベランダの傍に小机を持っていき、ポチの写真を置いたのにお水をあげると、いつものように学校へ行った。

「御愁傷様……昨日はポチのお葬式だったんだよね」

 学校に着くなり、由紀と奈菜からお悔やみの言葉をかけられた。
「え……なんで知ってるの?」
「お姉さんのブログ見ちゃった」
「ユウリンブログだったけど、経歴がまんま書いてあったから、直ぐに分かった」

 そうなんだ……と思ったとたん、堪えていたものがせきあげて嗚咽になりそうだった。辛うじてハンカチ咥えてポナは涙をこらえた。
「ごめん、学校で泣くわけにいかないもんね」
 由紀は先回りして、ポナが涙まみれになることを止めてくれた。
「さ、一時間目は体育だから、早めに着替えてグラウンド行こう!」
 奈菜と由紀は、ポナの背中を押すようにして更衣室へ向かった。

 ララランチ(ラーメンとランチのセット)をテーブルに置くと、奈菜がたぬきそば一つ置いて隣に座った。由紀は生徒会の打ち合わせで、生徒会室で食べている。
「相変わらず大食いだね」
「お、お昼があたしの主食なの!」
 苦しい言い訳をする。奈菜と由紀のお蔭で、いつものポナに戻れていた。
「由紀が言ってたんだけどさ、お姉さんポナと新子っての使い分けてんのね」
「え、そう?」
 ララランチかっ込みながら、天気予報を確認したような気楽さで応えた。
「うん。ポナってのは、あんたが自分で付けたネームだから尊重してくれてるみたいだけど、ここ一番て時には新子って呼んでる」

 思い返してみると、昨日はずっと「新子」で呼ばれていた。

「ポナってPerson Of No Account で『ミソッカス』って意味なんだよね」
「そだよ。今時五人も姉弟がいてさ、一人歳が離れてんだもん、遊び相手は主にポチだった」

 自分から「ポチ」の名前を出しても動揺しないのに驚いた。由紀と奈菜が、さりげなくいつものポナにしてくれたんだと感謝。

「ポナが思っているほど、家族はミソッカスとは思ってないようね。肝心な時は新子なんだから。あ、これ由紀の受け売り」
 さすがは、一年で副会長に当選するだけあって、由紀の洞察力は大したもんだと思った。
「それと、日本語のミソッカスにしないで英語のPerson Of No Account の頭文字をとったのは、カラリとしててセンスいいって」
「ヘヘ、そっかなあ」

 ポナが頭を掻いたころにはララランチは空っぽになっていた。

「なにこれ?」

 放課後ピロティーの掲示板に生徒会の執行部の面々が、ポスターを貼り出しているのに足が停まった。
「ああ、新執行部発足の記念イベントで、ミス世田谷を決めることにしたの」
 由紀が振り返って笑顔で言った。
「由紀の提案なの。一学期って、試験とか事務処理ばっかで、楽しい行事ってないじゃない。で、賑やかしにやってみようって、昼の執行部会で決めたの」
 生徒会長の井出さんが、由紀と同じような楽しげな顔で付け加えた。
「へー、いいアイデアですね!」
 ポナは、由紀のアイデア満々なところと、人の心を掴むうまさに感心した。

「候補は自薦他薦を問わない。で、第一号が、この人!」

 由紀が貼り出したのは、ポナのプロフ付きの写真であった!



※ ポナの家族構成と主な知り合い

父     寺沢達孝(59歳)   定年間近の高校教師
母     寺沢豊子(49歳)   父の元教え子。五人の子どもを、しっかり育てた、しっかり母さん
長男    寺沢達幸(30歳)   海上自衛隊 一等海尉
次男    寺沢孝史(28歳)   元警察官、今は胡散臭い商社員だったが、乃木坂の講師になる。
長女    寺沢優奈(26歳)   横浜中央署の女性警官
次女    寺沢優里(19歳)   城南大学社会学部二年生。身長・3サイズがポナといっしょ
三女    寺沢新子(15歳)   世田谷女学院一年生。一人歳の離れたミソッカス。自称ポナ(Person Of No Account )
ポチ    寺沢家の飼い犬、ポナと同い年。

高畑みなみ ポナの小学校からの親友(乃木坂学院高校)
支倉奈菜  ポナが世田谷女学院に入ってからの友だち。良くも悪くも一人っ子
橋本由紀  ポナのクラスメート、元気な生徒会副会長

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かの世界この世界:58『ロキの本気』

2020-09-01 05:48:40 | 小説5

かの世界この世界:58     

『ロキの本気』     

 

 

 ピンポン玉よりは大きく、テニスボールよりは小さい。

 ロキが思わずポチと呼んだシリンダーだ。

 我々がビックリしたので、ポチも驚いたんだろう、狭い四号戦車の車内を飛び回って、砲塔の壁や床や天井やらにビシバシと当たる。当然、車内の五人にもポコポコ当たるわけで、悲鳴やら怒声が響き渡る。

「大人しくしろ、ポチ!」

 立ち直ったロキが慣れた手つきで掴まえて、両手で胸に抱くようにしてやると、数十秒で大人しくなった。

「おまえ、そんなの飼ってたのか!?」

 ちょっと険しい顔でグリが睨む。

 グリは、車長のシートに座っているので、主砲の砲尾の下に居るロキは見下ろされる感じでビビっている。

 我々には礼儀正しいグリだが、わんぱく坊主にはカマシテおこうという姿勢だ。むろん異論はない。

「そんなもの、さっさと捨てなさいよ!」

 ブリは、通信手のシートから上目で睨み、ケイトは装填手のシートに両足を載せて縮こまり、あたかも教室でゴキブリの出現に驚いた女子高生だ。グニは、この騒動にも一人動ぜず三速の巡航速度で四号を走らせている。かく言うわたしは、砲手のシートで、見かけ上は平静だ。瞬間、75ミリ砲のトリガーに力が入ったので、実弾が籠められていれば発射してしまっていただろう。

「ポチは並のシリンダーじゃないんだよ! 河原で仲間にはぐれてオロオロしてるところを見つけて助けてやったんだ、それから、みんなで世話してやって、ピンポン玉ぐらいだったのが、やっとここまで育ったんだよ!」

「それが、どうしてお前のポケットに入っているんだ?」

「それは……たぶん、だれかが入れたんだ」

「だれかが……?」

「きっと、道中寂しくならないようにって……ポチはみんなのペットだから」

「でも、シリンダーなんでしょ!」

「オオカミの子を飼ってるようなもんだぞ」

「よこせ」

 グリが一瞬でポチを掴まえて、同時に開けたハッチから投げ出そうとした。

「やめろー!」

 意外な速さで跳躍したロキは、ポチを握ったままのグリの腕に噛みついた!

「どういうつもりだ」

 車内のみんなが驚いた。わんぱく坊主のロキだが、これほど敏捷だとは思わなかった。最初に出会った河原でも、けっこうな追いかけっこをしたが、これほどのすばしっこさは無かった。

 操縦のため貼視孔(てんしこう)を覗いているグニをのぞく四人が凍り付いたようにロキに目を奪われた。

「おねがいだよ、世話はオレがやるし、しつけもするし、いっしょに連れてってやってよ」

「おまえ……」

 グリが屈みこんで、ロキの鼻先に顔を近づける。

「本気になったら使えるかもな」

「あ、えと……じゃあ?」

「今度、こんなことがあったらチビシリンダー共々、四号の履帯でひき殺してやるからな」

 そう言い渡すと、チラリとブリを見てから頷いた。おっかない車長ではあるが、主筋であるブリをさりげなく立てている。

「えと、お願いがあるんだけど……」

「お願いできる立場か」

「そうじゃなくて」

 ポチを大事そうに抱えながらロキが続ける。

「なんだ」

「グリとかグニとかブリとかややこしくってさ、もっと分かりやすく呼べないかなあ」

 

 ん……言われればややこしい。

 新しく加わった者ならではの提案だったので、四人の乗員は――それもそうだ――と思うのであった。

 ノルデンハーフェンを目指す道は、まだしばらくはムヘン川の川沿いを東に進んでいくのであった。

 

☆ ステータス

 HP:2000 MP:1000 属性:テル=剣士 ケイト=弓兵・ヒーラー

 持ち物:ポーション・25 マップ:3 金の針:5 所持金:8000ギル

 装備:剣士の装備レベル10(トールソード) 弓兵の装備レベル10(トールボウ)

 憶えたオーバードライブ:ブロンズヒール(ケイト) ブロンズスプラッシュ(テル)

 

☆ 主な登場人物

―― かの世界 ――

  テル(寺井光子)    二年生 今度の世界では小早川照姫

 ケイト(小山内健人)  今度の世界の小早川照姫の幼なじみ 異世界のペギーにケイトに変えられる

 ブリ(ブリュンヒルデ) 無辺街道でいっしょになった主神オーディンの娘

 グリ(タングリス)   トール元帥の副官 グニ(タングニョースト)と共にラーテの搭乗員 ブリの世話係

―― この世界 ――

 二宮冴子  二年生   不幸な事故で光子に殺される 回避しようとすれば光子の命が無い

  中臣美空  三年生   セミロングで『かの世部』部長

  志村時美  三年生   ポニテの『かの世部』副部長 

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