大橋むつおのブログ

思いつくままに、日々の思いを。出来た作品のテスト配信などをやっています。

高校奇譚 〔左足の裏が痒い……〕

2020-09-21 06:17:02 | ライトノベルベスト

高校奇譚 
左足痒い……〕
     


 左足の裏が痒くて目が覚めた。

 覚めたと言っても、頭は半分寝ている。無意識に手を伸ばし膝を曲げて、手を伸ばす。
 掻こうと思った左足の裏は、膝から下ごと無くなっていた。

「あ、まただ……」

 そう呟いて、あたしは再びまどろんだ……。

 目覚ましが鳴って、本格的に目が覚める。
 お布団をけ飛ばして、最初にするのは、パジャマの下だけ脱いで左足の義足を付けること。
 少し動かしてみて、筋電センサーがきちんと機能しているのを確かめる。

――よし、感度良好――

 そして、再びパジャマの下を穿いて、お手洗いと洗顔、歯磨き。
 それから部屋に戻って、制服に着替える。そして、念入りにブラッシング……したいとこだけど、時間がないので手櫛で二三回。自慢じゃないけど髪質がいいので、特にトリートメントしなくても、まあまあ、これで決まる。
 むろん、セミロングのままにしておくのなら、これでは気が済まない。キュッとひっつめにしてゴムで束ねた後、紺碧に白い紙ヒコーキをあしらったシュシュをかける。
 これで、標準的なフェリペ女学院の生徒の出来上がり。

 お父さんが出かける気配がして苦笑、直ぐにお母さんの声。

「早くしなさい、遅刻するわよ!」
 遅刻なんかしたことないけど、お母さんの決まり文句。あたしと声が似ているのもシャクに障る。
「はーい、いまいくとこ!」
 ちょっと反抗的な感じで言ってしまう。実際ダイニングに降りようとしていたんだから。

 お父さんが、ほんの少し前まで居た気配。お父さんの席に折りたたんだ新聞が置いてある。

「まだ、そこに新聞置くクセ治らないのね」
「え……」
 洗濯物を、洗濯機に入れながらお母さん。
「そういうあたしも、お父さんが出かける気配がするんだけどね」
 と言いながら、ホットミルクでトーストとスクランブルエッグを流し込む。
「また、そんな食べ方して。少しは女の子らしく……」
「していたら、本当に遅刻しちゃう」
「それなら、もう五分早起きしなさい!」
「こういう朝のドタバタが、年頃の女の子らしいんじゃん」
「もう、減らず口を……」
「言ってるうちが、花なの。ねえ、一度トーストくわえたまま、駅まで走ってみようか!?」
「なにそれ?」
「よくテレビドラマとかでやってんじゃん。現実には、そんな人見たことないけど」

 これだけの会話の間に食事を済ませ、トイレに直行。入れてから出す。健康のリズム。

 消臭剤では消しきれないお父さんのニオイがしない。ガキンチョの頃から嗅ぎ慣れたニオイ。
 これで、現実を思い知る。
 お父さんは、もういない……三か月前の事故で、お父さんは、あたしを庇って死んでしまった。
 あたしは、左足の膝から下を失った。
 最近、ようやくトイレで泣かなくなった。

「よし、大丈夫」

 本当は学校で禁止されてんだけど、セミグロスのリップ付けて出発準備OK!
「いってきまーす!」
「ちゃんと前向いて歩くのよ、せっかく助かった命なんだから」
 少しトゲのある言い方でお母さん。
 あのスガタカタチでパートに出かける。あたしによく似たハイティーンのボディで。

 あの事故で、お母さんはかろうじて脳だけが無事で、全身、義体に入れ替わった。オペレーターが入力ミスをして、お母さんの義体は十八歳。
 一応文句は言ったけど、本人は案外気に入っている。区別のため、お母さんはボブにしているけど、時々街で、あたしと間違われる。

 駅のホームに立つと、急ぎ足できたせいか、また左足の裏がむず痒くなる。
 この義足は、保険の汎用品なので、痒みは感じないはずなんだけどね……。

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ポナの季節・41『幕が上がる……か①』

2020-09-21 06:08:54 | 小説6

・41
『幕が上がる……か①』
           
  

ポナ:みそっかすの英訳 (Person Of No Account )の頭文字をとって新子が自分で付けたあだ名



 今日、美術の先生が替わった。今までの畑中先生は腰を痛めて、なんと辞めてしまう。

 もともと来春には定年の先生だったし、お医者さんから半年の休職を言い渡されたので、これを切りに辞めることにしたのだそうだ。

「申し訳ない。せっかくこれからというときに辞めることになって。無理をすると寝たきりになる恐れもあると医者に言われてね、わたしも、まだまだ生きて絵を描きたいんで、これを潮に辞めることにした」
「どうして、腰を痛めたんですか?」
 由紀が遠慮なく聞いた。
「よくぞ聞いた。好奇心だよ」
「好奇心で腰を痛めるんですか?」
「ああ、8Kの3Dのテレビを買ってな、3Dの映像を見とったと思え。きれいな女の子がパレオ付の水着であらわれた」
「パレオってなんですか?」
「水着の腰のところに腰巻みたいに巻いとるじゃろ」
「ああ」みんなから声が上がった。
「それが風に揺らめいてな、脚がとてもきれいな子で、風が吹いてパレオがたなびいた時につい身を乗り出してみた。3Dなんで身をよじれば見えるような気がしてな……で、やっちまった」
 由紀のように遠慮なく笑う子もいたが、退職に繋がるような怪我なので、どう反応していいか分からない子に分かれた。
「それって、芸術家の性なんですよね。美しいものには、つい目が行ってしまう」
「ハハハ、ただのオッサンの助兵衛根性さ!」
 美術教室が笑いに満ちた。気づくと自分たちの後ろでも笑い声がしたので、驚いてポナたちが振り返った。

 そこには、ぐちゃぐちゃのおもちゃ箱から引っ張り出してきたばかりのボサボサ頭のリカちゃん人形みたいなオネーサンが居た。

「ああ、その馬鹿笑いしとるのが、わたしの後釜の吉岡あかね先生じゃ。ちょうどええ、前に来て自己紹介しなさい」
「はいはい」
 調子よく返事して吉岡先生がみんなをかき分けるようにしてピョンピョンと前に出てきた。

「えー、あたしが……」

 と吉岡先生が言いかけたとき、横から助兵衛根性の先生が声を掛けた。
「君が喋ると長いから、わたしを廊下まで出してくれんかね、カミさんが、ずっと待っとるみたいでな」
 吉岡先生が車いすを押し、誰言うともなく、みんなもエレベーターまで付いていった。
 先生に似合わない上品そうな奥さんが恐縮して待っていた。

「じゃ、畑中先生。またご挨拶に行きます!」

 吉岡先生が女生徒みたいに挨拶。グッドラックとサムズアップして畑中先生はエレベーターのドアを閉めた。
 みんなは、すぐに美術室には戻らずに、階数表示が一階を示すまで見送った。
「さあ、じゃ、あたしの長い話をできるだけ短くするから部屋に戻るよ!」
 みんなは、その場の空気で走って美術室に戻った。
 退職。それも怪我が元になった中途退職を、畑中先生も吉岡先生も、明るくカラリと済ませてしまった。二人とも大した人だとポナは思った。

「えーと、あたしはね……」

 吉岡先生は、おもちゃ箱みたいな頭の中を整理するように前髪をかきあげた。形のいいオデコが露わになる。ちょっとした驚き。

 こういうのをアールデコっていうのかな……。

 畑中先生にならった美術用語が冗談みたいに浮かぶポナだった。



ポナの周辺の人たち

父     寺沢達孝(59歳)   定年間近の高校教師
母     寺沢豊子(49歳)   父の元教え子。五人の子どもを、しっかり育てた、しっかり母さん
長男    寺沢達幸(30歳)   海上自衛隊 一等海尉
次男    寺沢孝史(28歳)   元警察官、今は胡散臭い商社員だったが、乃木坂の講師になる。
長女    寺沢優奈(26歳)   横浜中央署の女性警官
次女    寺沢優里(19歳)   城南大学社会学部二年生。身長・3サイズがポナといっしょ
三女    寺沢新子(15歳)   世田谷女学院一年生。一人歳の離れたミソッカス。自称ポナ(Person Of No Account )
ポチ    寺沢家の飼い犬、ポナと同い年。死んでペンダントになった。

高畑みなみ ポナの小学校からの親友(乃木坂学院高校)
支倉奈菜  ポナが世田谷女学院に入ってからの友だち。良くも悪くも一人っ子
橋本由紀  ポナのクラスメート、元気な生徒会副会長
浜崎安祐美 世田谷女学院に住み着いている幽霊

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かの世界この世界:78『ポチの冒険・1』

2020-09-21 05:57:44 | 小説5

かの世界この世界:78     

 『ポチの冒険・1』    

 

 

 前にも言ったが、ムヘンは菱餅の形をしている。

 

 ムヘンブルグ城塞を出た我々は菱餅の頂点である北辺の港町ノルデンハーフェンを目指している。あたりまえに行けば三日ほどの行程なのだが、あちこち用事が出来てしまって二週間ほどになるというのに、いっこうにノルデンハーフェンには向かえない。

 いまは、ローゼンシュタットのミュンツァー町長の石化を解くために東のエスナルの泉に進路を取っている。

「こんな山道だとは思わなかったぞ……」

 ブリュンヒルデがキューポラの縁に突っ伏してしまった。

 操縦しているタングリスを除いた全員が半身をハッチから出している。

 つづら折れの山道は険しくて、四号戦車は、今までになくグニャグニャ揺れるのだ。

 戦車と言うのは鉄の塊で、走る感じはガタゴトという擬音が相応しく思われるが、じっさいはグニャグニャなのだ。

 トーションバーというサスペンションが効いていて、そのストロークは自動車の倍ほどもある。だから揺れると自動車の倍ほどに揺れ幅になって、おまけに窓が無いので、車内でじっとしていたら高い確率で酔ってしまう。

 万一、酔ってリバースしてしまうと悲惨なことになる。戦車の車内は複雑でリバースした反吐は回収が難しく臭いが立ち込めてしまう。ちなみに、戦車兵の第一のタブーは車内でオナラをすることだ。

 平気なのは、石化してしまったミュンツァー町長とシリンダーの幼生であるポチだけだ。

 てっきり一人ぼっちで町長の見張りと覚悟していたのに、みんなが車外に姿を見せたのでピョンピョン喜んでいる。

「あいて!」

 スパナを咥えたまま飛び跳ねるので、ロキの頭に当たってしまった。

「嬉しいのは分かるけど、もうちょっと大人しくしてろよ……」

 みんなグロッキーで遊んでもらえないポチは、ちょっと拗ねてしまう。

 

 カンカンカンカン!

 

 揺れたふりをして、砲塔をカンカン叩く。もし口が効けたら「遊んでよ! 遊んでよ!」と駄々をこねるところだろ。

「うるさい! 暗黒世界の奈落に沈めてしまうぞ!」

 ブリュンヒルデに叱られる。

 ブーーーー

 スパナを咥えたままうめき声をあげる。

「屁のような唸り声をあげるな」

 ウーーーーー!

「じゃかましいいいいい!」

 今度は、わたしが切れた。ポチはケイト、ロキ、ブリュンヒルデの顔を交互に見る。見ると言っても目は無いのだが、スリットの形や、けっこう変わる顔色?で、そのように思う。

 

 ムーーーッ!

 

 だれも相手にしてくれないポチは、一声強く唸ると、上空高く飛び上がってしまった。

「ポ、ポチーーー!」

 ボールほどのポチは、瞬くうちに見えなくなって、スパナだけが砲塔の天蓋に落ちてきた。

 

☆ ステータス

 HP:4000 MP:2000 属性:テル=剣士 ケイト=弓兵・ヒーラー

 持ち物:ポーション・50 マップ:5 金の針:0 所持金:500ギル(リポ払い残高40000ギル)

 装備:剣士の装備レベル10(トールソード) 弓兵の装備レベル10(トールボウ)

 憶えたオーバードライブ:ブロンズヒール(ケイト) ブロンズスプラッシュ(テル)

 

☆ 主な登場人物

―― かの世界 ――

  テル(寺井光子)    二年生 今度の世界では小早川照姫

 ケイト(小山内健人)  今度の世界の小早川照姫の幼なじみ 異世界のペギーにケイトに変えられる

 ブリュンヒルデ     無辺街道でいっしょになった主神オーディンの娘の姫騎士

 タングリス       トール元帥の副官 タングニョーストと共にラーテの搭乗員 ブリの世話係

 タングニョースト    トール元帥の副官 タングリスと共にラーテの搭乗員 ノルデン鉄橋で辺境警備隊に転属 

 ロキ          ヴァイゼンハオスの孤児

 ポチ          ロキたちが飼っていたシリンダーの幼体

―― この世界 ――

 二宮冴子  二年生   不幸な事故で光子に殺される 回避しようとすれば光子の命が無い

  中臣美空  三年生   セミロングで『かの世部』部長

  志村時美  三年生   ポニテの『かの世部』副部長 

 

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