大橋むつおのブログ

思いつくままに、日々の思いを。出来た作品のテスト配信などをやっています。

銀河太平記・010『修学旅行・10・在日扶桑大使館』

2020-09-23 14:01:57 | 小説4

・010

『修学旅行・10・在日扶桑大使館』   

 

 

 パスポートの台紙は、こうぞ・みつまた・がんぴという伝統的和紙の原料で出来ている。

 

 その三種類の繊維が複雑に絡み合っているさまは、あたかも人間の血管のようで、一つとして同じものはない。

「うわあ、だから偽造が難しいんだあ!」

 ミクがグループを代表するように歓声を上げた。

 大使館ビジタールームのコンソールには偽物と本物のパスポートの拡大ホログラムが映し出され、扶桑政府のセキュリテーの確かさを示している。

「情報はいくらでもコピーできますが、アナログデータの複製は難しいですからね。もし台紙の組成データをコピーしようと思ったら、パスポート一つに新築一軒分くらいのお金がかかります。それも、今みたいに光学検査されると、すぐに分かってしまいますからね。扶桑政府が、こんな二世紀も前の様式を踏襲しているのは、目に見える形で自分自身と国の繋がりを思っていただきたいからです」

「すみません、わたしの不注意で……」

 柔らかい表現をしてはいるが、言っている内容は手厳しい桔梗さん。

「そんなにしょげないで(^_^;)、せっかくの修学旅行だから、楽しく安全に過ごしてもらいたいという気持ちだけですから」

 そう言って、ポンと未来の膝を叩く。なんだか、保育所の先生を思い出す。

「パスポートを狙ったのは、どんなわりゅい人たちなにょ?」

「分かりません、グラビティーコントロールの最中はセキュリティーセンサーが効きません。本当ならセキュリテーシステムも確立してから使うべきテクノロジーなんでしょうねえ。イベントの僅かな時間だけという油断があったのだと思います」

「す、すみません」

「あ、責められるのは主催者や運営の方ですよ。修学旅行の最中に、あんな面白いイベントに出くわしたら、誰でも飛び込んでみたくなります。そういう好奇心は、わたしも好きですよ」

「ぼくたち、まだ修学旅行の初日なんですけど、帝都で気を付けておくようなことはありますか?」

 ヒコが身を乗り出す。

「そうねえ……御在位二十五年の祝賀行事で、ちょっと浮き立ってるから……あんまり冒険はしないようにね。それから……目の前のどら焼きは焼き立てだから、冷めないうちに召し上がれ」

「あ、いただきます!」

 大使館では『東京文化を学ぶ』という在日扶桑人のためのカルチャースクールをやっていて、ちょうど焼き上がったばかりのどら焼きをいただいたところなんだが、パスポートの事でいっぱいだった俺たちは手を付けないままだったのだ。

「お、おいしい!」

「うん、焼き立てということもあるんだろうけど、火星とは生地が違うような気がする」

「しょえは、地球と火星の重力さだと思うのよさ」

「え、重力でどら焼きの味が変わるのか?」

「かわよと思う、地球でも日本と南極じゃたこ焼きの味が違うって『南極ストーリー』に出てたわよさ」

「読んだんですかあ、あのタローとジローの話なんかよかったですよねえ(^▽^)」

 桔梗さんも食べながらのお喋りが好きなようだ。

「でも、御在位二十五年で祝賀行事というのは、ちょっと半端な気がしません? 扶桑じゃ、将軍の在位記念は十年と二十年でやりましたけど」

 パスポートが返ってくることになって、どら焼きでホッコリしたのか、未来が賢そうな質問をする。

「うん……これは、日本の学者や知識人が言っていることなんだけど、今上陛下は女帝でしょ」

「歴代天皇の中でも、もっとも美しいお方だと、扶桑でも評判です」

 ヒコは若年寄の息子なので、こういう時の反応にそつがない。

「正しく言うと、史上初めての女系天皇でいらっしゃる。世の中の情勢が怪しくなってくると、女系天皇で皇統を乱してしまったことが災いしているという人たちもいる……そういう空気を一新したいっていう日本政府の意向が働いているって」

「ああ、やはり……」

 それ以上ははばかられるという感じでヒコは二つ目のどら焼きに手を伸ばした。

「そうだ、明日は靖国神社の例大祭。陛下が玉ぐしを奉納された後、パレードとかのイベントがあるから見て行かない? 今年は児玉元帥も陛下に供奉してお顔を見せられるとかいう噂よ」

「え、児玉元帥が!?」

 明日の予定が変わった。

 そのあと、桔梗さんに車を出してもらってアキバの交番に向かった。

 拾ってくれたのは、イベントの女性スタッフで、話好きな人なのでお巡りさんも交え、短い時間だったけど楽しく過ごせた。やっぱり、日本だ、いい人が多い。

 

 

 ※ この章の主な登場人物

大石 一 (おおいし いち)    扶桑第三高校二年、一をダッシュと呼ばれることが多い

穴山 彦 (あなやま ひこ)    扶桑第三高校二年、 扶桑政府若年寄穴山新右衛門の息子

緒方 未来(おがた みく)     扶桑第三高校二年、 一の幼なじみ、祖父は扶桑政府の老中を務めていた

平賀 照 (ひらが てる)     扶桑第三高校二年、 飛び級で高二になった十歳の天才少女

 ※ 事項

扶桑政府   火星のアルカディア平原に作られた日本の植民地、独立後は扶桑政府、あるいは扶桑幕府と呼ばれる

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ポナの季節・43『幕が上がる……予感』

2020-09-23 06:12:35 | 小説6

・43
『幕が上がる……予感』
         
  

ポナ:みそっかすの英訳 (Person Of No Account )の頭文字をとって新子が自分で付けたあだ名



「えー、なんで!?」という寝言で目が覚めてしまった。

 ポナの世田谷女学院は土曜は休みの学校だったが、今日から土曜日も授業をやることになった。なったというのはポナの一人合点で、入学式の時には説明があった……らしい。

――生徒の慣れる様子を見て、一学期中には土曜の授業を始めます――

 そういう話があったそうである。で、月曜日には土曜授業開始の連絡が朝礼で宣言されたが、自分が寺沢家の実子でないことが分かったことや、大ニイの中国船とのゴタゴタ、まだ癒えていないポチの喪失感、幽霊女生徒浜崎安祐美の願い、そういうもののために、先生の話は上の空になっていた……というのがポナの言い訳。

 初めて乗る土曜の電車は空いている。会社はほとんど休みだし、公立の生徒は乗っていない。

 ポナは、電車の中でスマホをイジルようなことはしない。大した生活信条からではなく、ただボンヤリしていたいというのが理由で、ただひたすら、ボンヤリと外の景色を見て居る。天然のボンヤリでもあるが、そうすることによって、日々の煩わしいことや、現在進行形の悩みから解放される……という大義名分の言い訳を持っているが、ポナのために、あえて詮索はしないでおこう。

 ポナは気づいていないが、軽くプリプリの曲を口ずさんでいる。これは安祐美のせいだ。夢の中で毎晩歌の練習をしている。                        

 で、イメージトレーニングのために安祐美と会ったあくる日からこんな調子なのだが、ごく小さな声なので誰に聞かれることも無い。

 だが、今日は土曜日である。

 隣に立っている修学院高校の男子生徒には聞こえていた。

 この修学院の生徒は四月から、ずっとポナの横や後ろにいるのだが、ボンヤリのポナは、全く気が付いていなかった。この修学院の男子生徒も、この先ポナに影響してくるのだが、これも、今は淡い高校生の恋心と、そっとしておこう。
 ただ、この日、修学院の男子君は、ポナが近頃呟いているのがプリプリの曲であることを発見したことだけを記しておく。

 学校に着いてびっくりした。ピロティーの掲示板に吉岡先生がポスターを貼っているところに出くわした。

――アゴダ劇場公演出場者スタッフ大募集!――と書いてあったからだ。

「先生、アゴダ劇場でやるんですか!?」
「あ、うん。ちょっとしたコネで、キャンセル押えられたんでね。まあ、運も実力の内よ」
 良く見ると、ポスターの端っこには『演劇同好会』の文字と、現在の部員数が書かれていた。部員数一名。
「え、この一名ってだれですか?」
「あ、あんたのクラスの鈴木友子。最初に質問してくれた子」
「でも、演目書いてませんけど」

 いつのまにか、由紀と奈菜もやってきて、ポスターを見上げている。

「もう少し人が集まらないと決められないもんね」
「あ、それもそうだ……」
 奈菜が、間の抜けた感心をする。
「ももクロみたいに創作劇やるんですか?」
「あたしは、あの吉岡先生じゃないの。そんな無茶しないわ。人数と個性に合った既成の脚本。レパは五十くらいはあるから、なんとかなる」

 この吉岡先生の粘着力もなかなか。ひょっとしたら、幕は上がるかもしれない……。


ポナの周辺の人たち

父     寺沢達孝(59歳)   定年間近の高校教師
母     寺沢豊子(49歳)   父の元教え子。五人の子どもを、しっかり育てた、しっかり母さん
長男    寺沢達幸(30歳)   海上自衛隊 一等海尉
次男    寺沢孝史(28歳)   元警察官、今は胡散臭い商社員だったが、乃木坂の講師になる。
長女    寺沢優奈(26歳)   横浜中央署の女性警官
次女    寺沢優里(19歳)   城南大学社会学部二年生。身長・3サイズがポナといっしょ
三女    寺沢新子(15歳)   世田谷女学院一年生。一人歳の離れたミソッカス。自称ポナ(Person Of No Account )
ポチ    寺沢家の飼い犬、ポナと同い年。死んでペンダントになった。

高畑みなみ ポナの小学校からの親友(乃木坂学院高校)
支倉奈菜  ポナが世田谷女学院に入ってからの友だち。良くも悪くも一人っ子
橋本由紀  ポナのクラスメート、元気な生徒会副会長
浜崎安祐美 世田谷女学院に住み着いている幽霊
吉岡先生  美術の常勤講師、演劇部をしたくて仕方がない。

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かの世界この世界:80『遭遇戦・1』

2020-09-23 06:03:51 | 小説5

かの世界この世界:80     

 『遭遇戦・1』    

 

 

 ポチーーーーーーーーーーッ!!

 

 叫んでみたけど、ポチの姿はすぐに小さくなって見えなくなってしまった。

「落ち着いたら帰って来るさ」

 ロキの頭をワシャワシャ撫でて慰めてやる。ケイトも「こんなこともあるさ」と、ロキに付き合って空を見上げてやっている。

「ポチは我が使い魔でもある。必ず戻って来る」

 中二病全開だけど、ブリュンヒルデも慰めている。

 慰めながらも思った。ヴァィゼンハオスで初めて見た時は空飛ぶ桃くらいに思っていたのだが、だんだん反応が犬っぽく……どうかすると人間の子どものようになってきた。シリンダーというのは口もきけない単細胞生物くらいに思っていたのだが、ポチは個体進化の可能性を秘めているのかもしれない。

 しかし、ポチの騒ぎで、みんなの車酔いは吹っ飛んだように治ってしまった。

 

 ピピピ ピピピ ピピピ

 

 Cアラームが鳴った。

 ポチポチと鳴ればポチが帰ってきたシグナルだが、ピピピはクリーチャーの接近を表している。

「……ロキは町長を護れ! 方位は東だ、四号を出て戦うぞ! タングリスは四号を頼む!」

 一瞬のタメがあって、ごく自然にブリュンヒルデが凛とした声で命じる。

 ラジャー!

 ブリュンヒルデを先頭にケイトと共に東に駆ける。

 峠を越えると一気に空が曇ってきた。

 いや、雲ではない……雲に擬態した融合体とシリンダーの群れだ!

「ケイト、矢で穴を開けろ!」

 見える限りの空がシリンダーのように見えている。どこかに穴を開けなければ攻撃のとっかかりも掴めない。

「承知!」

 キリリと弓を引き絞ると「カイナティックアロー!」と叫んで、炎を引く矢を放った。

 ケイトも経験値を積んで進化しているようだ。

 

 ズボ!

 

 雲に吸い込まれたところで、くぐもった音をたてて炸裂し、畳六畳ほどの穴が開いた。

「今だ!」

 穴に向かって飛び上がる。イケる、ジャンプ力もスピードも伸びている!

 ソードを腰だめにして構えると、開いたばかりの穴がジワジワと窄まっていく。

 トアーーーーーーーーーー!

 勢いをつけソードを8の字に振り回して飛び込む。雲は融合体で、ムクムクと回復させつつある。剣先に触れた融合体は綿あめのように溶けていく。溶けた融合体は霧のようになって体にまといつく。まずい、体がベトベトしている、ベトベトが続けば水あめが絡みつくように自由を奪われる!

 オリャーーーーーーーーー!

 身体を急速旋回させ、遠心力でベトベトを振りとばして、数秒後には融合体の雲の上に出た。

 

 ヒヒヒヒヒヒヒヒ ヒヒヒヒヒヒヒヒ ヒヒヒヒヒヒヒヒ ヒヒヒヒヒヒヒヒ

 

 妖精の笑い声のような飛翔音をさせて襲ってきたのはプレパラートの大群だ!

 一センチ四方のガラス片に似たクリーチャー。それが雲霞のように襲ってくる!

 一つ一つはしれているが、叩き落すか躱さないと体中を切り刻まれる!

 

 オリャーーーーーーーーー!

 

 四方八方に旋回しながらせん滅するが、キリがない、一分とたたないうちに切られ始めた。

 旋回していると、遠心力で傷口から血が吹き出してしまう。このままでは失血死してしまう!

 

 気が遠くなりかけた時、下方の雲が円形に盛り上がり、ズボッと穴が開いたかと思うとツインテールをヘリコプターのように振り回してブリュンヒルデが上昇してきた。

「我が命を待たずに飛び出してはならぬぞ!」

 不敵に笑いながらプレパラートの群れを包み込むようにせん滅してくれる。

 それに応えて攻撃を強めたいが、いかんせん力が出ない。

 いかん、HPが赤く点滅するところまで減っている。

 

 ケアルラアアアアアアア~🎵

 

 雲の下から聞こえてきて、みるみるうちにHPバーがブルーに変わって満タンになった。

 ケイトの白魔法もレベルが上がってきたようだ。

 

☆ ステータス

 HP:4000 MP:2000 属性:テル=剣士 ケイト=弓兵・ヒーラー

 持ち物:ポーション・50 マップ:5 金の針:0 所持金:500ギル(リポ払い残高40000ギル)

 装備:剣士の装備レベル10(トールソード) 弓兵の装備レベル10(トールボウ)

 技: ケイト(カイナティックアロー)

 白魔法: ケイト(ケアルラ) 

 オーバードライブ: ブロンズスプラッシュ(テル) ブロンズヒール(ケイト)

☆ 主な登場人物

―― かの世界 ――

  テル(寺井光子)    二年生 今度の世界では小早川照姫

 ケイト(小山内健人)  今度の世界の小早川照姫の幼なじみ 異世界のペギーにケイトに変えられる

 ブリュンヒルデ     無辺街道でいっしょになった主神オーディンの娘の姫騎士

 タングリス       トール元帥の副官 タングニョーストと共にラーテの搭乗員 ブリの世話係

 タングニョースト    トール元帥の副官 タングリスと共にラーテの搭乗員 ノルデン鉄橋で辺境警備隊に転属 

 ロキ          ヴァイゼンハオスの孤児

 ポチ          ロキたちが飼っていたシリンダーの幼体

―― この世界 ――

 二宮冴子  二年生   不幸な事故で光子に殺される 回避しようとすれば光子の命が無い

  中臣美空  三年生   セミロングで『かの世部』部長

  志村時美  三年生   ポニテの『かの世部』副部長 

 

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