大橋むつおのブログ

思いつくままに、日々の思いを。出来た作品のテスト配信などをやっています。

ポナの季節・28『6月はジュンなんだ!』

2020-09-08 06:10:22 | 小説6

・28
『6月はジュンなんだ!』
         



ポナ:みそっかすの英訳 (Person Of No Account )の頭文字をとった新子が自分で付けたあだ名


 拍手が鳴ったとたん、それまで考えていたプレゼンテーションが全部とんでしまった。

 それほど一位の下馬評高い三年の渡辺麻友子のプレゼンは完璧だった。伝説のAKBのセンターより一字多いのが幸か不幸かは分からないけど、一字足らずの御本家には無い大人びた確かさがあり、可愛さ三分に大人の魅力七分。それがギンガムチェックの夏服にも合って、図らずして生徒のほとんどをスタンディングオベーションさせるほどの力になっていた。

――なんで、こんな人の後になったんだろう――

 そう思いながら、ポナは世田谷女学院ミスコンのスピーチ台に向かった。

「ええ……渡辺先輩のスピーチがあまりのも素晴らしので、何を言っていいか分からなくなってしまいました。あたしって、人と話すとき、話に空白ができるのが嫌なんで、その時頭に浮かんだことをそのまま喋ってしまいます。
 テレビの録画じゃないから、後で編集なんかできないから、まずいこと言ったらマイクのスイッチ落としてください。あ、落とすなんて禁句ですよね(^_^;)、こんなとこじゃ。えと、あの……だから上げます!
 あ、マイクのボリュ-ムじゃないから! アハハ、お茶目なスタッフです。
 え、上げるのはポスターです。で、上げてなにを言うかと言うと……これ、副会長の橋本由紀さんが作ってくれました。とってもいい出来です。あ、修正とかはしてないと思います……。
 アハハ、なにをじっくり見て居るかと言うと、お姉ちゃんとお母さん。自分で言うのもなんですが、イケてます。下の優里お姉ちゃんなんか、身長やらスリーサイズはいっしょなんで、服は同じものが着られます。優里姉ちゃんは乃木坂なんで、乃木坂に行ったらお古の制服着せられるので、世田谷女学院を選びました(みんなの笑い)あ、もちろん世田谷女学院が素晴らしいからです。素敵な友だちもいるし、学校の仲間も先輩のみなさんも素敵です。こんなことなら姉が高校選ぶときに世田谷女学院を勧めときゃよかったと思います。
 あ、あたしっておバカですね。そんなことしたら、今ごろ姉のお古を着ているところでした(笑)
 でも、姉とは似てるけど血のつながりはないんです(あたしってば、何を言いだすんだ!?)
 えと、えと……先日分かったばかりなんです! だけど、わたしお父さんお母さんの子どもじゃないんです(バカバカバカ!)
 ある女性が、生まれて間のないわたしを持て余して、それをお父さんお母さんが引き取って育ててくれたことが分かりました。最初はパニくっちゃったけど、チイネエ、あ、世田谷に来損ねた優里です。親身になって話してくれました……チイネエはお母さんの妹の娘で、わたしと同じように生まれて間もないころに引き取られたことを話してくれました。チイネエも知った時はショックだったようです。
 

 えと……えと…………

 一番上の兄が、わたしが引き取られた時に子犬を拾ってきました。ポチっていいます。いかにも日本の犬らしい名前で。わたしのニックネームのポナと片仮名で並べて書くと、よく似あっていました。
 先週、そのポチが亡くなってしまいました。赤ん坊のころからいっしょにいたポチだったので、まるで双子の姉弟を亡くしたように悲しかったです。
 で、家族は、わたしに教えてくれました。
 わたしはポチとは血縁関係がありません。ハハ、あったら、わたし犬少女ですよね。あたし兎です。あ、生まれた干支が。別に人参かじって育ったわけじゃありませんから。
 で、そうそう。血縁関係が無くても、人間は絆があれば家族なんです。そして仲間なんです。わたしルックスやスタイルにアドバンテージはありません。でも、素敵な家族、素敵なクラスメート、友だち、先生に恵まれました。
 えと……で、まとまりないですけど、世田谷女学院好きです。大好きです。わたしを立ち直らせてくれた家族、友だちといっしょに……。
 はい、一年の寺沢新子でした!」

 ポナらしいぶっつけ本番のプレゼン。思いがけずみんなに明かしてしまった未整理の身の上話。でも梅雨の中休みの青空のような明るさに盛大な拍手が返ってきた。ポナも、やっと吹っ切れた気持ちになった。もう結果なんかどうでもいい。

 でも、ポナは六月の名前の通りジュン・ミス世田谷女学院になってしまった。



ポナの周辺の人たち

父     寺沢達孝(59歳)   定年間近の高校教師
母     寺沢豊子(49歳)   父の元教え子。五人の子どもを、しっかり育てた、しっかり母さん
長男    寺沢達幸(30歳)   海上自衛隊 一等海尉
次男    寺沢孝史(28歳)   元警察官、今は胡散臭い商社員だったが、乃木坂の講師になる。
長女    寺沢優奈(26歳)   横浜中央署の女性警官
次女    寺沢優里(19歳)   城南大学社会学部二年生。身長・3サイズがポナといっしょ
三女    寺沢新子(15歳)   世田谷女学院一年生。一人歳の離れたミソッカス。自称ポナ(Person Of No Account )
ポチ    寺沢家の飼い犬、ポナと同い年。死んでペンダントになった。

高畑みなみ ポナの小学校からの親友(乃木坂学院高校)
支倉奈菜  ポナが世田谷女学院に入ってからの友だち。良くも悪くも一人っ子
橋本由紀  ポナのクラスメート、元気な生徒会副会長

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かの世界この世界:65『装甲列車の進入』

2020-09-08 05:58:45 | 小説5

かの世界この世界:65     

 

『装甲列車の進入』    

 

 

 鉄橋上の制限速度は時速15キロという自転車並みだ。

 

 文字通り歩道を走る自転車と並走している……いや、抜かされてしまった。

「なんで停止するんだ!」

 車長ハッチから身を乗り出していたブリュンヒルデが潜り込みながら苦情を言う。

「停止信号です」

「信号?」

「ブリ、車長なんだから信号くらい見とけよ」

「そ、そんな、橋の上に信号なんか……」

 再びハッチから身を乗り出して沈黙、トラス上部にある赤信号に気づいた。

「なんで信号なんか付いてんのだ!?」

 ご機嫌斜めのお姫様に、タングリスは操縦手ハッチを開けて答える。

「古い鉄橋なんで、橋の土台の間隔で重量制限をやってるんです。1スパン二百メートルで1000トン、四号は自重30トンありますから1スパン30両として900トン、ほかにも鉄道が走っていますから、15両が限界です」

「そ、そうなのか」

 先のスパンも満杯なようで大勢の車両が停止したままだ。

「なにか叫んでいる……」

 タングリスの呟きで、車内のみんなが五か所のハッチから身を乗り出す。

 二つ前のスパンで、交通整理の下士官がトラスの鉄骨に足を掛け、メガホンで怒鳴っているのだ。

「なんて言ってるんだ?」

「さっぱり分からん」

 落ち着いた声だがハッチに掛けた指がコツコツとハッチを叩いている、タングリスもいら立っているのだろう。

 ケイトはブリュンヒルデにキャンディーを勧めている、ここはお姫さまをなだめるところだろうと心得ているのだろう。

 ポチを肩につかまらせて、ボーーっとしていたロキだが、驚いたように車内に潜る。無線連絡が入ったようだ。

「鉄橋の守備隊長から連絡――鉄橋上の車両は速やかに渡って、新規の鉄橋通行は遮断する――ってさ」

 ようするに、鉄橋の上を空にしたいらしい。

「とにかく渡れるようだな」

 二三分で車列が動き始めた。橋の南北は渡橋を禁止された車両が溜まっている。我々もグズグズしていたら渡れなくなったところだ。

 鉄橋を渡り終えると、並行している鉄道のレールがカタンカタンと鳴りだした。遅れて重々しいくも調子の外れた機関音がしてきた。

 ゴトゴトゴットン ゴットンゴトゴト ガクンガタガタ ゴトゴトガッタン……

 それは、いかつい装甲列車だ。

 全ての車両が装甲で鎧われて、重戦車から流用したような砲塔が載っている。

 なるほど、あの一編成の装甲列車を通すだけで鉄橋の積載荷重は一杯だろう。

「あれを通していいのか……」

 タングリスが眉を寄せる。

 彼女の心配は装甲列車の重さだけではなかった、後ろ二両が手厳しくやられて、最後尾の機関車が懸命に押しているのだ。

 あたりまえなら後ろの二両は破棄されるんだろうが、それでは最後尾の機関車も外さなければならなくなる。

「あんなもの切り離して線路脇に捨てて来ればいいのに!」

 ブリュンヒルデは言いながらキャンディーを噛み砕く。

 渡り終えた車両が、渡り終えた安心から心配げに。足止めを食った車両からはいら立った目で見られながら、装甲列車は橋上に進入する。

 ゴットンゴトゴト! ガクンガタガタ! ゴトゴトガッタンガッタン! ガッタン!……

 最後尾が中央に差し掛かったあたりで、後部の車両から煙が上がった。まずい!

 思った瞬間。

 

 ドッカーーーン!!

 

 後部の車両が大爆発して、完全に停止してしまった。

 

☆ ステータス

 HP:2500 MP:1200 属性:テル=剣士 ケイト=弓兵・ヒーラー

 持ち物:ポーション・35 マップ:4 金の針:20 所持金:500ギル(リポ払い残高80000ギル)

 装備:剣士の装備レベル10(トールソード) 弓兵の装備レベル10(トールボウ)

 憶えたオーバードライブ:ブロンズヒール(ケイト) ブロンズスプラッシュ(テル)

 

☆ 主な登場人物

―― かの世界 ――

  テル(寺井光子)    二年生 今度の世界では小早川照姫

 ケイト(小山内健人)  今度の世界の小早川照姫の幼なじみ 異世界のペギーにケイトに変えられる

 ブリュンヒルデ     無辺街道でいっしょになった主神オーディンの娘の姫騎士

 タングリス       トール元帥の副官 タングニョーストと共にラーテの搭乗員 ブリの世話係

 タングニョースト    トール元帥の副官 タングリスと共にラーテの搭乗員 ノルデン鉄橋で辺境警備隊に転属 

 ロキ          ヴァイゼンハオスの孤児

 ポチ          ロキたちが飼っていたシリンダーの幼体

―― この世界 ――

 二宮冴子  二年生   不幸な事故で光子に殺される 回避しようとすれば光子の命が無い

  中臣美空  三年生   セミロングで『かの世部』部長

  志村時美  三年生   ポニテの『かの世部』副部長 

 

 

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