大橋むつおのブログ

思いつくままに、日々の思いを。出来た作品のテスト配信などをやっています。

大阪ガールズコレクション:13『グーグルアース・馬場町・4』

2020-09-05 13:18:04 | カントリーロード

大阪ガールズコレクション:13

『グーグルアース・馬場町・4』   

 

 あれ?

 田中先生はマウスを握る手を止めてしまった。

「どうかしました?」

「ここって、馬場町だよね……」

「えと……はい、谷四から馬場町のあたりです」

 画面の表示を確認して返事をする。

「更地ばっかて言うか……JOBKないんだけど」

「JOBK?」

「ジャパン オオサカ バンバチョウのカド」

「なんですか、それ?」

「あ、大阪のNHK。馬場町の角にあるから、むかしからそう言うの」

「ハハ、おもしろおい(^▽^)! っていうか、NHKなら……ちょっと失礼します」

 先生からマウスを預かって、ストリートビューをグリンと回してからドローンビューに切り替える。

「あ、ここですよ。大阪歴史博物館と同居してる、このでっかい建物ですよ」

「……あ、ほんと」

 先生は再びストリートビューに戻し、マウスを転がして付近を散策。

「なんだか別世界だわ……ほら、法円坂とかも……日生球場も青少年会館もないし……そんな何十年も昔ってわけじゃないんだよ……なんだか、思い出たどる縁(よすが)もないよ」

「しばらく行ってらっしゃらないんですか?」

「うん……松屋町からも引っ越したし、間島先輩も彼女できちゃったし、なんとなく行かなくなって……十何年かな」

 落ち込んだ先生の気持ちを引き立てようと、グーグルアースで発見した見どころをいろいろ紹介する。

 先生は「へーー」とか「なるほど」とか喜んではくださるんだけど、なんだか気が入ってなくて、VR布教士のわたしへの義理立てという感じ。

「リアル馬場町に行ってみる」

「今からですか?」

「この目でリアルに確認してみる」

「付いていきましょうか?」

「ありがとう、でも、一人で行ってみる……グーグルアースに昔に行ってみる機能があればね」

 先生は「よし!」と気合を入れて図書室を出て行った。

 

 それが、先生を見た最後の姿になった。

 

 先生は、それっきり行方が知れなくなった。十日目には警察の捜査も入って防犯カメラや監視カメラのチェックで谷四の駅に着いたところまでは分かったが、その後の足取りつかめない。

 

 半月たって、先生のマンションの整理を行うことになった。京都の介護施設にお母さんが入ってらっしゃるんだけど、お体の問題でご自分では行けない。弟さんがアメリカにいるらしいが、すぐには戻ってくることもできず。職場でいちばん親しかったわたしが引き受けることになった。

 先生の部屋には、わたしが差し上げたオキュラスがゲームパソコンに繋がれたままだった。

「あれ?」

 パソコンはスリープのままになっていて、オキュラスのヘッドセットは――ちょっと休憩――という感じに伏せられたまま。

 スリープを解除してヘッドセットを付けてみる。

 やっぱり……復帰したパソコンはグーグルアースになっていた。

 え……これは谷四だ。

 地下鉄谷四の出口……でも、進んで行くと景色が違う。

 南に向かって建物が並んでいて、写真でしか見たことが無かったJOBKの建物が見える。

 交差点には通行人や信号待ちの人たちが映っていて、みんな珍しそうこちらを見ている。グーグルの全方位カメラは珍しいので、注目されることはよくある。

 でも、その中で、一人だけ正面を向いて信号が変わるのを待っている女子高生がいる。

 人間の顔には自動でボカシが入るようになっているので顔までは分からないが、二昔は前の制服だ。

 田中先生!?

 顔は分からないけど、雰囲気がそうなのだ。

 矢印を進めていくと、後姿だけでもカッコいい男子高校生が歩いている。さらに進むと、女子高校生が男子の直ぐ後ろに迫って、さらに進むと、ラノベの表紙絵みたいに向き合う二人。さらに進むと、ちょっと緊張しながらも並んで歩く二人。

 なんだか『君の名は』の二人みたいだ。

 さらに進むと……もう二人の姿は見えなかった。

 え?

 ストリートビューは、今の馬場町。

 JOBKは歴史博物館と同居している他は、大阪府警のビルがいかめしく、反対側はフェンスで囲まれた更地になっている。

 慌てて、元の道を戻ってみるが、もう昔の馬場町に戻ることは無かった。

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ポナの季節・25『ポナの真実』

2020-09-05 06:12:10 | 小説6

・25
『ポナの真実』
            


 ポナ:みそっかすの英訳 (Person Of No Account )の頭文字をとった新子が自分で付けたあだ名


 チイネエの優里は、ポナをベンチに座らせ密着するようにして妹の横に座った。

「新子の実の母親は、十七歳で新子を生んだ……お父さんの教え子。でも生まれてきた新子を親も相手の男の子の親も認知しなかった。放っておけば乳児院行き、そして児童養護施設。見かねたお父さんとお母さんは、新子を自分たちの養女として引き取ったのよ」

 ポナは崩れそうな自分を、胸を抱きしめることで耐えた。チイネエはむやみに抱きしめるようなことをせずに密着させた体の体温で姉妹であることの絆を伝えた。

「大ニイは、いきなり歳の離れた妹ができて、どうしていいかわからずに、偶然見つけた捨て犬のポチを拾ってきたんだよ。ひょっとしたら双子の姉弟みたくなって、うまくいくんじゃないかって……あの朴念仁にしては上出来だった」
「もっと早く言ってくれればいいのに……」
「怖かったんだよ、うちの家族みんな。新子は明るい性格だけど、根っこのところで激しいものがあるのをみんな知ってたから……」
「あたしが激しい……?」
「今だって、あたしがいっしょに居なきゃ、どこに飛び出して、なにをしでかすか分かったもんじゃない……でしょ」

 そう、ポナが家を飛び出したことに目的なんかありはしない。突然の突風に吹き飛ばされた凧みたいなもんだ。切れた糸は辛うじてチイネエが握ってくれている。

「これ見てごらん……」

 意識したわけではないが、習慣でスマホを触っていたら、滋賀県の東近江市で七百キロもある大凧が落下して見物人に大怪我をさせた大阪版の記事がでていた。
「二百メートルも上がったんだ……」
「人も凧も同じかな……自分一人で飛んでるように見えてるけど、実は何十人何百人の人たちが懸命に糸を引っ張ってるんだよね……それでも凧は言うことをきかないこともある」
「凧のせいじゃない……」
「だよね。でも凧も人も落ちたら大変なことになる」
「しばらく一人にしてくれる……」
「だめ、風が出てきたから」

 前線が近づいてきたんだろう、雲の流れが速くなってきた。

「実はね、あたしも……お父さんお母さんの実の子じゃないんだ」
「……え?」

 ポナは公園に来て、初めてチイネエの顔を見た。

「だって、由紀はあたしだけ血縁が無いって言ったんだよ」
「あたしはね、お母さんの妹の子」
「え……!?」
「だって、変だと思うでしょ。あたしと新子は四つ違いだけど、大ネエとあたしは七つも離れてんだよ。大ネエが就職するときに取り寄せた戸籍謄本こっそり見て気づいた」
「知らなかった……」
「その時は、お母さんに、この公園で話してもらった……お母さんは伯母にあたるから、血縁関係はある。ほんとのお母さんは事故で死んじゃった。ま、それは長い話だから、またいずれ。ま、これで我が家が大家族な訳が分かったでしょ。人間は血じゃないよ。凧の紐のような絆だよ……ほら、紫陽花の色が変わりかけてる。ショックだろうけど、いつまでもビックリ色じゃ困るよ」
「うん……」

 ポナは、公園の紫陽花を見て、そう答えたが、それはチイネエの心映えに対しての答えであった。

 ポナの心は確実に、ポナ自身でも気づかないところで変わり始めていた。

 風に加えて、雲も波乱の兆しであった。



 ポナの周辺の人たち

父     寺沢達孝(59歳)   定年間近の高校教師
母     寺沢豊子(49歳)   父の元教え子。五人の子どもを、しっかり育てた、しっかり母さん
長男    寺沢達幸(30歳)   海上自衛隊 一等海尉
次男    寺沢孝史(28歳)   元警察官、胡散臭い商社員だったが、乃木坂の講師になる。
長女    寺沢優奈(26歳)   横浜中央署の女性警官
次女    寺沢優里(19歳)   城南大学社会学部二年生。身長・3サイズがポナといっしょ
三女    寺沢新子(15歳)   世田谷女学院一年生。一人歳の離れたミソッカス。自称ポナ(Person Of No Account )
ポチ    寺沢家の飼い犬、ポナと同い年。

高畑みなみ ポナの小学校からの親友(乃木坂学院高校)
支倉奈菜  ポナが世田谷女学院に入ってからの友だち。良くも悪くも一人っ子
橋本由紀  ポナのクラスメート、元気な生徒会副会長

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かの世界この世界:62『メドューサに徹甲弾!』

2020-09-05 05:58:18 | 小説5

かの世界この世界:62     

メドューサに徹甲弾!』    

 

 

 地図で見るとノルデン鉄橋に向かう道は直線だ。

 

 しかし、実際には微妙に蛇行しているし高低差もある。

 道の両側は草原か灌木林で、道の蛇行や高低差と相まって、地図で見るほどに見通しはよくない。

 時々、車載機銃や75ミリの主砲で榴弾を撃ったりする。

 見通せない向こうを警戒するためだ。

「2シュトリヒ先の灌木林、機銃掃射」

「2シュトリヒ先の灌木林、機銃掃射」

 タングリスの発声を復唱してトリガーを引く。

 タタタタ

 乾いた発射音、灌木林の中で火花が四つする。

「いい勘をしているな、岩か何かがあるぞ」

 火花がたつということは固いものがある証拠だ。

「少し左にも当ててくれ」

「承知」

 タタタ

 再び火花、けっこう大きな岩か金属の構造物がある模様。

「榴弾、撃ってみるか?」

「いや、徹甲弾にしてくれ」

 榴弾に手を伸ばしていたケイトが怪訝な顔をする。シュタインドルフを出てから徹甲弾など撃ったことがないからだ。

「装填急げ」

「徹甲弾装填!」

 測距用ペリスコープで照準を確認。他の乗員もペリスコープにかじりつく気配。

「テー!」

「テー!」

 復唱してトリガーを引く。ガクンと発射の衝撃、主砲基部が後退してリロード。

 リロードの瞬間、装填手のケイトはへっぴり腰になる。主砲基部のリロードから身をかわすためだ。

 最初のころはロキが笑った。その都度ケイトに頭を張られていた。

 今は笑わない。慣れたこともあるが、徹甲弾を撃つというイレギュラーなことに興奮しているのだ。

 

 ズッガーーーン!

 

 灌木林の中で爆発が起こり、火花と破片が舞い散り煙が上がる。

 戦車か?

 思った瞬間、人影がまろび出てきた。

 小柄で髪をなびかせながら道に出てくると、膝をついて頽れてしまった。

「女の子だ!」

 声を発すると同時に、ハッチを開けてロキが飛び出した。見えない糸で繋がったようにポチが続く。

「待て!」

 タングリスの制止も間に合わない。たった一日でロキは四号の構造に慣れてしまって自在に動けるようになったのだ。

「ロキを追え!」

 操縦席と通信手のハッチが同時に開いて、タングニョーストとブリュンヒルデが飛び出す。

 少女戦車兵の傍によって手を掛けたロキが、ストップモーションのように静止した!

「メドューサだ! ゴーグルをかけろ!」

 叫びながら飛び降りたタングリスはゴーグルをかけて走り出した。右手にはなにかを握っている。

 タングニョーストとブリュンヒルデは姿勢を低くして近寄ると固まってしまったロキを引き離しにかかる。

 メドューサはノロノロと起き上がろうとする、おそらく負傷しているんだろう。

 三メートルほどに近づいたタングリスはメドューサに跳びかかると背後から首をロックした。

 はっきり顔の見えたメドューサは哀願の表情の美少女だ。口をパクパクして命乞いをしているようにも見えるが、タングリスは斟酌せずに手にしたものをメドューサの口にねじ込んで飛びのいた。

 ドーン!

 メドューサの首が吹っ飛んで、肉片が四方に飛び散った。

 思わず口を押えるほどに凄惨な光景だったが、数秒後には肉片もろともメドューサのは消えてしまった。

「金の針を!」

 そうだ、石化を直すには金の針を打ち込むしかない。

 始まりの草原で仕入れた金の針をケースごと投げてやる。

「間近でやられたんできついなあ……」

 五本の金の針を使って、やっとロキは元に戻った。心配そうに飛び回っていたポチがすり寄って、やっと人心地がついたようだ。

「さ、おちついたら前進だ」

 車内に戻ろうとして気づいた。

 半身をハッチから乗り出したかっこうで、ケイトが石化していた……。

 

 

☆ ステータス(今回の戦いを終えて)

 HP:2500 MP:1200 属性:テル=剣士 ケイト=弓兵・ヒーラー

 持ち物:ポーション・28 マップ:3 金の針:4 所持金:8500ギル

 装備:剣士の装備レベル10(トールソード) 弓兵の装備レベル10(トールボウ)

 憶えたオーバードライブ:ブロンズヒール(ケイト) ブロンズスプラッシュ(テル)

 

☆ 主な登場人物

―― かの世界 ――

  テル(寺井光子)    二年生 今度の世界では小早川照姫

 ケイト(小山内健人)  今度の世界の小早川照姫の幼なじみ 異世界のペギーにケイトに変えられる

 ブリ(ブリュンヒルデ) 無辺街道でいっしょになった主神オーディンの娘

 グリ(タングリス)   トール元帥の副官 グニ(タングニョースト)と共にラーテの搭乗員 ブリの世話係

 グニ(タングニョースト)トール元帥の副官 グニ(タングニョースト)と共にラーテの搭乗員 グリの相棒 

 ロキ          ヴァイゼンハオスの孤児

 ポチ          ロキたちが飼っていたシリンダーの幼体

―― この世界 ――

 二宮冴子  二年生   不幸な事故で光子に殺される 回避しようとすれば光子の命が無い

  中臣美空  三年生   セミロングで『かの世部』部長

  志村時美  三年生   ポニテの『かの世部』副部長 

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