大橋むつおのブログ

思いつくままに、日々の思いを。出来た作品のテスト配信などをやっています。

せやさかい・170『散策部の部活動』

2020-09-22 12:49:50 | ノベル

・170

『散策部の部活動』    

 

 

 散策部の活動は週に二三回。

 

 一回は看板通りの散策。先月の末から四回散策した。月に四回だから、ちょっと少ない。

 ほんとうは、もっと出歩きたかったんだけど、校外に出る時はソフィアが同行しなければならない。

 ヤマセンブルグの王位継承者だから校外での単独行動は控えなければならない。ソフィアはすでに剣道部に入部しているので、彼女の部活が無い日でなければ出られないのだ。

「剣道部は辞めます」

 散策部を始めたことを知った時は、あっさりこういうことを言うんだけども、ソフィアの部活を辞めさせるのは不本意だ。

 でも、やってみて分かった。

 散策中に撮った写真やメモを整理したり調べたり、それをブログに上げたりするのは結構な作業量で、結果的には週一二度の散策が適量なことが分かった。

 あ、それと、顧問には院長先生自らがやってくださっている。

 週に一度はブログの原稿を見てもらいに院長室を訪れる。そういうことを入れると、やっぱり週に一二度。

 

 今日は五回目の散策。

 まだまだ最初だから、学校のほんの周辺。

 

「日本の街は、どこもきれいデス」

「そうね」

 日本生まれ日本育ちのわたしには当たり前なんだけど、この春に来日したばかりのソフィアは、あちこちで感動してくれる。

「ほら!」

 ソフィアが立ち止まる。

「こっちデス!」

 ソフィアのあとを付いていくと、大阪市清掃局のパッカー車がバックしてくるところだ。

――バックします バックします バックします――

「かわいいデス! さいしょは女の人が乗ってるんだと思いました、録音したのを流しているだけなのを知って、ちょっと残念でしたけど、録音でも、やさしく『バックします』はとてもプリティーデス!」

「ああ、エディンバラにもヤマセンブルグにも無いもんね」

「それに、パッカー車はどれも清潔……デス。ゴミもちゃんと分別して袋に入ってるデス」

「うん、日本はゴミをむき出しにしないもんね」

「……これ見てくださいデス」

 手馴れた手つきでスマホを操作して、動画を見せてくれる。

「ニューヨーク?」

「はい、ニューヨークのゴミ収集車デス」

「うわ~」

 ニューヨークはパッカー車ではなくて、ごっついトラック。

 トラックの荷台と運転席の間にリフトみたいなのがあって、道路わきに据えられている背丈ほどのゴミ箱を救いあげて、荷台の上でひっくり返してガボガボとむき出しのゴミを投下する。これは、ホコリとか舞い散るし、きっとすごい臭いがするに違いない。

「日本のはゴミの回収すら清潔デス……ほら、それに、この音楽デス!」

 収集を終えたパッカー車は発車すると、定番の曲を流しながら次の現場へと移動していく。

「パッカー車が来るのを音楽で知らせるって、キュートデス!」

 パッカー車がメロディー付なのも生まれた時からだから、改めて言われると新鮮だ。

「あの音楽はなんていう曲なんでしょう?」

「あ……」

 小さいころから聞いてきたメロディーなんだけど、曲の名前を意識したことは無い。

「うん、あとで調べてみよう」

「はいデス」

「殿下、道の舗装がところどころレッドブラウンになっています、なんでしょうか?」

「え?」

 言われて見てみると、四つ辻や三叉路の交差点が、そこだけレッドブラウンのカラー舗装になっている。

「それに、クロスやTのマークが付いていて不思議デス」

 そう言われれば、舗装道路であればよく見かける……グルッと見回して、見当がつく。

「これって、離れたところからでもジャンクション(四つ辻とか三叉路)だと分かるようになってるんだよ」

「あ、そうか……でも、ジャンクションでも無いところがありますデス」

「え、あ……ほんとだ」

「調べましょう! デス!」

「あ、待ってえ(^_^;)」

 ソフィアといっしょに走り回って見当がついた。

 カラー舗装がされていないのは、曲がっても袋小路になって侵入してもバックで戻らなければならないものだ。

 ガードに付いて来るだけのソフィアは、ちょっと気の毒だと思ったけど、ちょっと楽しくなってきた散策部。

 

 

 

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ポナの季節・42『幕が上がる……か②』

2020-09-22 05:43:54 | 小説6

・42
『幕が上がる……か②』
        
  

ポナ:みそっかすの英訳 (Person Of No Account )の頭文字をとって新子が自分で付けたあだ名



『吉岡茜』と、吉岡先生は黒板に大書した。

「草冠に西で、あかねって読むんだけど、まあ、読めるのは三人に一人。だから普段は平がな。よろしくね」
「先生は常勤講師ですか?」
 トモちゃんという頭の良さそうな子が聞いた。
「ストレートな質問だな。そうだよ、常勤講師。いちおう採用試験には通ったんだけどね、美術って学校に一人しか先生いないじゃん。で、空き待ちしてる間に有効期限過ぎちゃって。だから、実力は正規の先生と同じ。そこんとこよろしく!」
「美術で、吉岡……ももクロの『幕が上がる』の吉岡先生と同じだ!」
「ハハハ、あれは美人てことになってるけどね。ついでだから、あの吉岡先生は下の名前みどりって言うんだ。正規の先生なのに、半年で辞めちゃうんだよね。陰に採用されない、あたしみたいな合格者がいっぱいいるのにね。ああいうのは好きくない」
「先生は、演劇部作らないんですか?」
 由紀が調子に乗って質問した。
「あったら、やるんだけどね。この学校ないんだよね」
 意外な答えが返ってきた。
「でも先生、先生は美術だから、美術の顧問しなきゃいけないでしょ?」
「うん、畑中先生がやってたから、やらなきゃなんないでしょうね……」
 そう言いながら、吉岡先生は耳をほじくった。

「でかい耳クソ!」

 ほじって自分で驚いている。フッと耳クソを吹き飛ばすと、その指を白衣で拭った。女らしくないけど、ポナはカッコいいと思った。むろん眉をひそめる子もいた。
「あ、ごめん。男も女もあんまし関係ないとこにいたから」
「ひょっとして、自衛隊ですか?」
 自衛隊に、こんな行儀の悪いやつはいない。大ニイが自衛隊なので、ポナには良く分かった。
「ううん、劇団。学生演劇じゃ、ちょっとしたもんだったんだよ」
「よ、学生演劇の女王!」
「女王てのはなあ……『幕が上がる』の吉岡先生のタイトルだろ。あたしは学生演劇のプリンセス!」
 見かけとのギャップが大きいのでみんなが苦笑。
「笑うことはないでしょ。ほんとに、そう言われてたんだから。そうだね、無いんだったら、作っちゃお! だれか演劇部やりたい子いないかな!?」
 ここで、手が上がったら、ももクロの映画みたいに出来すぎだ。
「ないか……ま、気長にやるか。じゃ!」
 ポンと手を叩いて授業のモードになった。

 そのあくる日、食堂で吉岡先生といっしょになった。

「あ……!」
 吉岡先生は、ポナのビックリにすぐ気が付いた。
「あら、同じメニュー!」
「これ、ララランチっていうんです」
「なんだか楽しげな名前ね」
「ランチと、ラーメンの組み合わせ、仲間内じゃ大食いってバカにされてます」
「なんか気があいそうね、どうよ演劇部?」
「ん……部活じゃないけど、他にやってることがあるんで……」
「そっか、ま、よかったら、あたしの横に座んなよ」
「はい」
 そこに由紀と奈菜が加わってララランチで、また盛り上がった。

 正直、この時期に演劇部を作るのは難しいと三人娘は思った。先生があまりに無邪気で熱心なので、昨日学校のパソコンで調べてみた。
 高校演劇連盟への加盟は、すでに終了していた。連盟に加盟できなければ、今年のコンクールには出られない。コンクールに出られない演劇部なんて、ラーメンかランチのどちらかがないララランチみたいなもんだ。
 癖なんだろう、吉岡先生は髪をかきあげてため息をついた。

 ポナが名付けたアールデコがあらわになって、そのラインはそのままバランスを保ちながら女優らしい形になっているのが分かった。ただホッペは、いたずら小僧のように膨らんでいる。自分でホッペを押して「プ!」という音をさせた。いかにもつまらなさそうだった。


ポナの周辺の人たち

父     寺沢達孝(59歳)   定年間近の高校教師
母     寺沢豊子(49歳)   父の元教え子。五人の子どもを、しっかり育てた、しっかり母さん
長男    寺沢達幸(30歳)   海上自衛隊 一等海尉
次男    寺沢孝史(28歳)   元警察官、今は胡散臭い商社員だったが、乃木坂の講師になる。
長女    寺沢優奈(26歳)   横浜中央署の女性警官
次女    寺沢優里(19歳)   城南大学社会学部二年生。身長・3サイズがポナといっしょ
三女    寺沢新子(15歳)   世田谷女学院一年生。一人歳の離れたミソッカス。自称ポナ(Person Of No Account )
ポチ    寺沢家の飼い犬、ポナと同い年。死んでペンダントになった。

高畑みなみ ポナの小学校からの親友(乃木坂学院高校)
支倉奈菜  ポナが世田谷女学院に入ってからの友だち。良くも悪くも一人っ子
橋本由紀  ポナのクラスメート、元気な生徒会副会長
浜崎安祐美 世田谷女学院に住み着いている幽霊

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かの世界この世界:79『ポチの冒険・2』

2020-09-22 05:32:57 | 小説5

かの世界この世界:79     

 『ポチの冒険・2』     

 

 

 

 上昇気流に乗って尾根を越え、勢いのまま雲を突き抜けるとシリンダーの群れが居た。

 

 ポチはシリンダーの幼生であるが、ごく小さいころからロキたちヴァィゼンハオスの子たちと暮らしてきたので、大人のシリンダーを見ても親近感などは湧かない。

 ヤ、ヤバイところに出てきてしまった!

 とっさに思ったのは、このままUターンして尾根一つ戻ったところを上って来る四号に戻ることだ。

 しかし、軽い体を思いっきり強い上昇気流に吹き上げられているので容易には速度が落ちない。

 

 プニョ~ン プニョ~ン

 

 大人のシリンダーに二度ばかりぶつかって、やっと群れのど真ん中で停まった。

「おや、お母さんとはぐれてしまったのか?」

「保育所のお散歩の途中かい?」

「ここらじゃ見ない顔だね」

 人間とは違う言葉で話しかけられるが、意味ははっきり分かる。どうやらポチを迷子かなんかと思っているようだ。

 人間の話を聞いたり、戦闘中なのを遠くからしか見たことがないのだが、同じシリンダーなので分かってしまう。

「え……えと……えと……」

 初めて間近に出会ったシリンダー、それも、何千何万もうじゃうじゃと、とっさに言葉も出てこない。

 それに、尾根の向こうからは四号戦車のみんながやってくる。みんなに知らせてやらなきゃ!

 そう閃くと、ポチはクルンと方向転換して眼下の雲海にダイブした。

 

 早く知らせなきゃ!

 

 がむしゃらに雲海を突き抜けていると、弾力のある雲にぶつかってしまった。

 プニョ~~~~~~~~ン!

 弾き飛ばされながら横目で見ると、それは、雲に擬態したシリンダーの融合体だ!

 さっきの群れにも驚いたが、融合体からは猛烈な邪悪な思念が放射されていて、さっきの百倍も恐ろしい!

 

 ヒヤアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!!

 

 人間の女の子のような悲鳴を上げて一気に十キロほども逃げてしまった。

――フレアがフレイの背中にブリ虫を入れて、びっくりした彼がヴァィゼンハオス中に響き渡る悲鳴を上げた時のようだなあ――

 逃げながらも、そんな呑気なことを思うポチだ。

――女の子にイタズラされて、女の子みたいな悲鳴をあげるんじゃないわよ――

 フリッグ先生に呆れられていたっけ……いけない、そろそろ止まらなきゃとんでもないところまで行ってしまう!

 ポチは、ボールのようにまんまるい体なので空気抵抗がない。

 意に反して勢いの付いた体は、なかなか止まらない。

 ヤバイ!

 こんな時、ロキたちはどうしていたっけ?

 ムヘン川の土手を滑り降りて、そのままの勢いだと川に飛び込んでしまいそう……そうだ!

 子どもたちは、土手の草に手を伸ばして、草をむしってブレーキにしていたっけ!

 そう思うと、まん丸の体から可愛らしい突起が伸びてくる。

 突起は四本が二センチくらいで、一本が一センチほど。

 ああ、土手を滑り降りるフレイアのイメージだ。

 フレイもロキもいっしょだったのに、なんで女の子のフレイアのイメージなんだろう?

 あ、フレイアが一番運動神経発達してたもんな!

 ポチは、フレイアのイメージで足元を流れていく草や木の葉っぱに突起を触れさせてブレーキをかけていった。 

 

☆ ステータス

 HP:4000 MP:2000 属性:テル=剣士 ケイト=弓兵・ヒーラー

 持ち物:ポーション・50 マップ:5 金の針:0 所持金:500ギル(リポ払い残高40000ギル)

 装備:剣士の装備レベル10(トールソード) 弓兵の装備レベル10(トールボウ)

 憶えたオーバードライブ:ブロンズヒール(ケイト) ブロンズスプラッシュ(テル)

 

☆ 主な登場人物

―― かの世界 ――

  テル(寺井光子)    二年生 今度の世界では小早川照姫

 ケイト(小山内健人)  今度の世界の小早川照姫の幼なじみ 異世界のペギーにケイトに変えられる

 ブリュンヒルデ     無辺街道でいっしょになった主神オーディンの娘の姫騎士

 タングリス       トール元帥の副官 タングニョーストと共にラーテの搭乗員 ブリの世話係

 タングニョースト    トール元帥の副官 タングリスと共にラーテの搭乗員 ノルデン鉄橋で辺境警備隊に転属 

 ロキ          ヴァイゼンハオスの孤児

 ポチ          ロキたちが飼っていたシリンダーの幼体

―― この世界 ――

 二宮冴子  二年生   不幸な事故で光子に殺される 回避しようとすれば光子の命が無い

  中臣美空  三年生   セミロングで『かの世部』部長

  志村時美  三年生   ポニテの『かの世部』副部長 

 

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