大橋むつおのブログ

思いつくままに、日々の思いを。出来た作品のテスト配信などをやっています。

銀河太平記・009『修学旅行・9・二転三転』

2020-09-18 12:35:37 | 小説4

・009

『修学旅行・9・二転三転』   

 

 

 こんなことも分からないのかという鼻息でテルが怒る。

 見かけ七歳、実年齢十歳、実学年は飛び級の高校二年というテルが腰に手を当てふんぞり返って息巻くというのは、なんとも可愛らしいのだが、頭の良さと根性の座り方はグループ一番、いや、扶桑第三高校一番の頭脳に、俺たちは言葉が無い。

 

「扶桑は二十三世紀の現代においても、チョーアナログなパスポートを使っていりゅけど、じちゅは、銀河一の心映えがありゅのよさ! 地球や他の火星政府みたく生体パスにしにゃいのは、扶桑国人として自覚と誇りをもたせゆためだけじょ、じちゅは、しゅごい偽造防止がされているにょよさ!」

「あ!?」

 テルの次に頭のいいヒコが声をあげる。

「パスポートの台紙が偽物!?」

「しょうよ、ベースの紙しょのものが認証登録しゃえてゆ。だかや、額面やチップ情報をコピーしても、台紙の組成が一致しにゃければ偽ものよさ! 敵は、あやかじめ用意のフェイクベースに額面とチップ情報をコピーして、コピーした方をダッシュに返したのよしゃ」

「テル、台紙の組成まで分かるのか?」

「分かゆよ、伊達に飛び級してにゃいのよさ<(`^´)>」

「じゃ、すぐに警察に届けなきゃ!」

「そうだ、大使館にも!」

「待ってくれ」

「なんだ、ヒコ?」

 未来と二人腰を浮かせたまま固まった。

「あ……いや」

「こんどのグループ行動は、ヒコがじゅいぶん骨を折ってくれたのよしゃ」

「あ……すまん、こんな不祥事、ヒコの立場ねえよな」

「あ、いや、やっぱり届けよう。パスポートを盗もうってやつらだ、どんな悪いことに使われるか分かったものじゃないからな」

「ごめん、ヒコ、あたしがボンヤリしていたばっかりに……」

「気にするな、たまたま狙われたにすぎないんだ。さ、それより、直ぐに連絡しよう」

「うん、当事者だから、あたしが……」

 ハンベを緊急通信にする未来、その手をテルの小さな手が遮る。

「あくまで紛失にゃ、アキバのイベントの最中に無くにゃった。グラビティーコントロールにゃんて、まだまだ危にゃい技術にゃんだかや」

「う、うん、分かった」

 

 緊張した手で未来がハンベにタッチすると、すぐに在日扶桑大使館のバーチャルオペレーターの上半身がハンベの上に現れた。

 

『扶桑第三高校の緒方未来さんとグループの人たちですね』

「は、はい」

 オペレーターは直ぐに未来と俺たちを認識した。未来のIDが表示されているんだろうけど、早い、さすがは大使館。

「ご用件はパスポートのことですね」

「あ、は、はい」

 すげえ、用件を言う前に分かって……え、なんで?

『たった今、アキバで緒方未来さんのパスポートを拾った届け出がされました』

 え、どういうことだ?

『一応大使館でチェックしますので、恐れ入りますが、大使館までお越しください』

「は、はい、大使館へは……三十分で着きます、ありがとうございました!」

『あせって、事故おこされませんように、お気を付けください。では、インフォメーションの桔梗がお相手いたしました、では、お待ち申し上げています』

 ハンベでは人かロボットかは分からなかったが、凛とした笑顔が頼もしかった。

 俺たちは、九段の大使館を目指した。いろいろ刺激的な修学旅行初日ではある。

 

 ※ この章の主な登場人物

大石 一 (おおいし いち)    扶桑第三高校二年、一をダッシュと呼ばれることが多い

穴山 彦 (あなやま ひこ)    扶桑第三高校二年、 扶桑政府若年寄穴山新右衛門の息子

緒方 未来(おがた みく)     扶桑第三高校二年、 一の幼なじみ、祖父は扶桑政府の老中を務めていた

平賀 照 (ひらが てる)     扶桑第三高校二年、 飛び級で高二になった十歳の天才少女

 ※ 事項

扶桑政府   火星のアルカディア平原に作られた日本の植民地、独立後は扶桑政府、あるいは扶桑幕府と呼ばれる

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ポナの季節・38『大ニイ自宅謹慎に』

2020-09-18 06:20:29 | 小説6

・38
『大ニイ自宅謹慎に』
         

ポナ:みそっかすの英訳 (Person Of No Account )の頭文字をとって新子が自分で付けたあだ名

 

 信じられないことに、中国はミサイルとドローンの撃墜に抗議してきた。

 新型ドローンの試験飛行であり、ミサイルはひとなみを狙ったものではない。ミサイルは無弾頭の模擬弾である。という言い分であった。

 日本の巡視船が、ドローン(無人飛行機)とミサイルの残骸を回収した。

 日本は米軍とともに、回収したドローンを調査した。ドローンは汎用品のツギハギで、方位測定は市販のカーナビを改造したものであり、ミサイルの固体燃料の容量もひとなみに届くほどの大きさがなく、なによりも弾頭の炸薬は重量が同じ小麦粉が使われていた。
――攻撃力はゼロであり、ひとなみに対する打撃力もない――
 この第一報がマスコミに載り、ひとなみの艦長と砲雷長は一方的に責められた。

 調査報告には後半部分があった。

 ドローンとミサイルの構造材は木製で、破壊されても沈まないように出来ている。ブラフである可能性が極めて高い。
 要するに、ひとなみはハメられたのである。
 世論はマスコミが先頭に立って艦長と砲雷長の大ニイを非難した。

 防衛大臣は、ドローンとミサイルが管制レーダーを照射していたことなどを挙げて、これは攻撃の意志ありと判断せざるを得ないと国会などで力説したが、日本は軍事評論家まで市民派で、その非難の大きさに屈し、艦長と砲雷長の二人は謹慎ということになってしまった。

「ただいま、しばらく世話になるよ」
「大ニイ!」
「達幸!」

 与野党の協議で、営内謹慎ではなく、自宅謹慎という、まるで高校生のような処分になった。
「こりゃ、パソコンと電話が大変なことになるぞ」
 チイニイは、パソコンと電話に手を加え、非難してくる者は自動でカットし、応援者には自動音声で対応できるようにした。
「孝史、こんなテクニック、どこで覚えたんだ?」
「警察と商社かな。乃木坂学院でないことは確かだ」と、逃げた。

 いや、本当に逃げるようにしてチイニイは、以前のアパートへ越して行ってしまった。

 日本政府のやることは芸がないが、アメリカはおもしろい反応に出た。

 南シナ海で、中国が不法占拠している環礁に巡航ミサイルを撃ち込んだ。中国は数発のミサイルを撃ったが墜とすことができず、ミサイルは環礁の手前二百メートルで自爆。数万枚の抗議ビラをまき散らした。

 中国は事実上沈黙してしまったが、日本は、良くも悪くも民主国家。大ニイの謹慎は解けなかった。

「日本は本当に情けない国だ!」
 父は怒ったが、大ニイは平気だった。
「父さんと母さんの恋愛ほどにはドラマチックじゃないよ」
 と、まぜっかえす。どうも寺沢家で一番腹の座っているのは大ニイのようだ。
「ポナ、その手、どうしたんだ?」
「え……?」
「指のタコ、気が付かなかったのか?」
「うん、少し硬くなってる……」
「ポナ、これはギターのタコだぞ」
「ほんと!?」
「ポナ、声もおかしい」

 夢の中で安祐美から、ギターとボーカルの猛特訓を受けていることなど、きれいに忘れているポナだった。
 


ポナの周辺の人たち

父     寺沢達孝(59歳)   定年間近の高校教師
母     寺沢豊子(49歳)   父の元教え子。五人の子どもを、しっかり育てた、しっかり母さん
長男    寺沢達幸(30歳)   海上自衛隊 一等海尉
次男    寺沢孝史(28歳)   元警察官、今は胡散臭い商社員だったが、乃木坂の講師になる。
長女    寺沢優奈(26歳)   横浜中央署の女性警官
次女    寺沢優里(19歳)   城南大学社会学部二年生。身長・3サイズがポナといっしょ
三女    寺沢新子(15歳)   世田谷女学院一年生。一人歳の離れたミソッカス。自称ポナ(Person Of No Account )
ポチ    寺沢家の飼い犬、ポナと同い年。死んでペンダントになった。

高畑みなみ ポナの小学校からの親友(乃木坂学院高校)
支倉奈菜  ポナが世田谷女学院に入ってからの友だち。良くも悪くも一人っ子
橋本由紀  ポナのクラスメート、元気な生徒会副会長
浜崎安祐美 世田谷女学院に住み着いている幽霊

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かの世界この世界:75『広場の激闘』

2020-09-18 06:09:49 | 小説5

かの世界この世界:75     

 

『広場の激闘』     

 

 

 目を見てはならん!

 

 わたしたちと同時に気づいたゼイオン司祭が叫んだ。

「この中にメデューサが紛れ込んでおる!」

 声を出したのが間違いだし、順序も逆だ。

 声に出せばパニックになる。パニックになれば、互いに顔を見かわしてしまう。

 瞬くうちに、十数人が驚愕の表情のまま石化してしまった!

 おかげで、石化した人たちの中央にいる少女がメデューサだと見当が付く。

 見当が付いたとたんに、メデューサは逃げ惑う人々に混じってしまう。

「みんな、広場から出るんだ!」

「しゃがんで目をつぶれ!」

 相反する指示が下される!

 タングリスは歴戦の経験から、司祭は言い伝えられてきたメデューサ対処法からの、とっさの指示を叫んだのだ。

 広場は混乱するばかり、阿鼻叫喚の中を1/3ほどの人々は広場から逃れ、次の1/3ほどは目をつぶってしゃがみ込み、残りの1/3ほどは次々と石化していった。

 メデューサは祭りの衣装を着ているので、同じ年ごろの少女たちと見分けがつかない。あとで分かったことだが、タングリスはメデューサが剪定し損ねた悪いバラと融合したものだと判断していた。バラと融合したものなら、植物性のクリーチャーで、そう遠くには移動できないと考え、町の人々を広場から逃がしてしまえば、被害も抑えられるし、残った一人がメドューサだと判断もできるとふんだのだ。

「そいつがメデューサだ!」

 石化した人たちに混じって静止していたメデューサだったが、折からの風にそよいだ髪で分かってしまった。石化した人間の髪はそよぎはしないのだ。

「どうやって戦う? こんなナリで、武器も持ってないよ!」

 戦闘も始まらないのにケイトが弱音を吐く。ロキは、そのケイトの陰に隠れて、ポチと共に震えている。

「自分が戦うさまを念じろ!」

 そう言いながらタングリスは戦闘モードに移行して、いつもの戦闘服に得物の鞭を構えた姿に変わった。

「三人とも、タングリスに倣うんだ!」

 そう叫んで、戦いの姿をイメージした。

 ポンと弾けるような感じがして、手にソードの感覚が湧き出してきた。

 視界の端にケイトとブリュンヒルデが見える。二人の変身は中途半端で、二人とも弓やソードは持っているが、まとっているのは降誕祭のドレスのままだ。

 こちらの意気に反応するようにメデューサも力を貯める。瞳は蛇のように細くなりながらも金色に輝き、髪はウネウネと逆立って、無数の蛇のようにうごめいている。

「かかれ!」

 タングリスの号令でメデューサを取り巻くように旋回し、二周目に入ったところで最初の一撃を食らわせた。タングリスの獲物は鞭で、目で追うのが難しいくらいのスピードがある。

 トリャー! セイ! セイ!

 三撃立て続けに食らわせるが、メデューサは身軽に躱して、ヒットしたのは、わたしの一撃だけだ。やはり、連携した攻撃が大事なのだ。

 ウオーーーー!

 渾身の気迫を込めてソードを振りかぶる。

 振りかぶった手は戦闘服の袖をまとってはいなかった。わたしの変身も不十分なようだ。

 キエーー!

 構わずに振り下ろす斬撃!

 ビリ

 服のどこかが裂けた! 構ってはいられない、ブリュンヒルデとケイトにアタックを促し、タングリスに連携の目配せをする。

 攻撃は五回に一回ほどしかヒットしないが、メデューサを確実に弱らせていく!

 セイ! トアーーー! ウオーーー!

 時にメデューサは躱したモーメントを利用して追いかけてくるが、広場の外縁に近くなると、見えないゴム紐に引き戻されるように広場中央に戻ってしまう。やはりバラとの融合体なので、根を張った広場からは出られないようだ。タングリスの判断は正しかった。

 十数回アタックして、ようやく、こちらの呼吸もあってきた。

―― 一斉に……! ――

 思念の半分だけ聞いて、四人が同時にアタック!

 ケイトの矢が胸を貫き、わたしの剣とブリュンヒルデのツインテールが胴を払い、タングリスの鞭が頭に炸裂した。

 グエ!

 一瞬空中で静止したようになったかと思うと、次の瞬間、分子結合を失ったようになってメデューサは飛散し果てていった。

 ジャキジャキジャキーーン

 ステータスが音を立てて上昇した。

 

☆ ステータス

 HP:4000 MP:2000 属性:テル=剣士 ケイト=弓兵・ヒーラー

 持ち物:ポーション・50 マップ:5 金の針:117 所持金:500ギル(リポ払い残高40000ギル)

 装備:剣士の装備レベル10(トールソード) 弓兵の装備レベル10(トールボウ)

 憶えたオーバードライブ:ブロンズヒール(ケイト) ブロンズスプラッシュ(テル)

 

☆ 主な登場人物

―― かの世界 ――

  テル(寺井光子)    二年生 今度の世界では小早川照姫

 ケイト(小山内健人)  今度の世界の小早川照姫の幼なじみ 異世界のペギーにケイトに変えられる

 ブリュンヒルデ     無辺街道でいっしょになった主神オーディンの娘の姫騎士

 タングリス       トール元帥の副官 タングニョーストと共にラーテの搭乗員 ブリの世話係

 タングニョースト    トール元帥の副官 タングリスと共にラーテの搭乗員 ノルデン鉄橋で辺境警備隊に転属 

 ロキ          ヴァイゼンハオスの孤児

 ポチ          ロキたちが飼っていたシリンダーの幼体

―― この世界 ――

 二宮冴子  二年生   不幸な事故で光子に殺される 回避しようとすれば光子の命が無い

  中臣美空  三年生   セミロングで『かの世部』部長

  志村時美  三年生   ポニテの『かの世部』副部長 

 

 

 

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