大橋むつおのブログ

思いつくままに、日々の思いを。出来た作品のテスト配信などをやっています。

ポナの季節・49『ちょっと、あんたねえ!』

2020-09-30 05:26:12 | 小説6

・49
『ちょっと、あんたねえ!』
     
  

ポナ:みそっかすの英訳 (Person Of No Account )の頭文字をとって新子が自分で付けたあだ名


 

「ちょっと、あんたねえ!」

 四時間目の数学の時間が退屈だったので、つい居眠り。で、自分で「ちょっと、あんたねえ!」と大きな寝言を言ってポナは恥をかきながら目が覚めた。

 覚えてはいないけど、安祐美のせいだ。

 安祐美の夢の中でのレッスンは日ごとに厳しくなっている。もうヘブンリーアーティストに合格しようというレベルではない。なんだかレコード大賞でも獲ろうかという迫力……なんだと思う。
 思うというのは夢の事は覚えていないけど、起きた時の疲労感がハンパではないからだ。

 で、今の「ちょっと、あんたねえ!」は確定的だった。

「あんたって、誰の事よ!?」と数学の先生には誤解されるし、散々だった。
「ちょっと食べ過ぎじゃね?」
 由紀が言うくらい、そのあとの昼ご飯はすごかった。
 いつものララランチではあるが、ランチのご飯もラーメンも大盛りの上にアイスキャンディー。それもララランチに手を付ける前に食べてしまった。
「順序逆……」
「とりあえず頭と、煮えくり返ったお腹鎮めなきゃ、ララランチが収まらないの!」
 と言いながら、脚がプリプリの16ビートのリズムをとっている。
「ひょっとして、安祐美の特訓?」
「そうでなきゃ、あんな寝言言わないし、こんなに昼飯増量しないわよ……てか、あんたたちは、どうよ?」
 由紀も奈菜もかぶりをふる。
「なんだって、あたしだけ」
「ポナ、脚がリズムとってる……」
「くそ……!」

 すると目の前に、とうの安祐美が実体化して現れた。姿は同じ世田女の制服なので、まるで違和感がない。

「あのね、ドラムはパンチが命なの。ポナは、歌に熱中すると、ドラムがお留守になるし、だいたいドラムだけが、微妙に違和感」
「違和感でもいいじゃん。とりあえずヘブンリー合格すりゃいいんだからさ」
「でもね、どうせやるんなら、プリプリの再来くらい言われてみたいじゃん」
「再来の前に災難だわよさ!」
「さて、あたしも」
「ちょっと、どこ行くのよさ!?」
「ランチ食べんの。実体化するとお腹空くのよね……」
「さっさと食べて、行こう。この調子じゃリアルに稽古させられないよ!」

 安祐美はリアルの稽古までは要求しなかった。なんとか無事に午後を過ごして帰宅の途中……。

「ちょっと、あんたねえ!」

 今度は、駅の改札を出たところで叫んでしまった。
 振り返ったそこにいたのは修学院の蟹江大輔であった。

「ごめん、こんなとこまで付いて来て」
「ちょっと、ストーカーだわよ」
「ごめん。でも返事、まだ聞いてないから……」
「好きになってくれるのはいいけど、名前しか書いてないんじゃ返事のしようもないでしょ!」
「え、メアドとか書いてなかったけ!?」
「なーんも。それで、付きまとわれてもキモイだけなんですけど!」
「じゃ、よかったら、ここでメアド書くから」
 大輔は律儀にメモ用紙を取り出した。
「バカね。メアドなんか交換したらしまいじゃない」
「え……じゃあ?」
「まあ、メル友の一人ってことで。しつこいと、すぐに切っちゃうからね」

 メアドを交換すると、いいとこの子どもが品よく喜んだように、意外に素直な笑顔を返してきた。

「と、いうことで、今日はここまで」
 ポナは回れ右をして、さっさと行きかけた。
「電車の中で口ずさんでいた曲、最高だから」
「え……!?」
「プリプリのダイアモンズ。いかしてた!」
「そ、それはどうも」
――安祐美めえ!――

 ポナはプリプリだった……。




ポナの周辺の人たち

父     寺沢達孝(59歳)   定年間近の高校教師
母     寺沢豊子(49歳)   父の元教え子。五人の子どもを、しっかり育てた、しっかり母さん
長男    寺沢達幸(30歳)   海上自衛隊 一等海尉
次男    寺沢孝史(28歳)   元警察官、今は胡散臭い商社員だったが、乃木坂の講師になる。
長女    寺沢優奈(26歳)   横浜中央署の女性警官
次女    寺沢優里(19歳)   城南大学社会学部二年生。身長・3サイズがポナといっしょ
三女    寺沢新子(15歳)   世田谷女学院一年生。一人歳の離れたミソッカス。自称ポナ(Person Of No Account )
ポチ    寺沢家の飼い犬、ポナと同い年。死んでペンダントになった。

高畑みなみ ポナの小学校からの親友(乃木坂学院高校)
支倉奈菜  ポナが世田谷女学院に入ってからの友だち。良くも悪くも一人っ子
橋本由紀  ポナのクラスメート、元気な生徒会副会長
浜崎安祐美 世田谷女学院に住み着いている幽霊
吉岡先生  美術の常勤講師、演劇部をしたくて仕方がない。
佐伯美智  父の演劇部の部長
蟹江大輔  ポナを好きな修学院高校の生徒

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かの世界この世界:87『エスナルの泉の秘密』

2020-09-30 05:15:14 | 小説5

かの世界この世界:87

『エスナルの泉の秘密』    

 

 

 ここがエスナルの泉でしたか……

 

 すっかり元気を取り戻したミュンツァー町長がしみじみと言う。

「ムヘン街道から東へはめったに行かないので……むろん、エスナルの泉は初めてです」

 石化してからここまでの記憶は無いので、テルとタングリスが説明してやったが、さすがに町長を務めるだけのことはあって理解が早い。テルもタングリスもここまで来るまでの苦労は語らない。

 わたしならいっぱい言うぞ、町長の事がなければ、ムヘン街道で北進して、今頃はノルデンハーフェンから船に乗っているところだった。

「しかし、ここまで来るにはご苦労があったんじゃないですか? 町の外に出ただけでクリーチャーに出くわすようになりましたし、ましてムヘン街道の東は魑魅魍魎の世界と言われています」

「こうやってみんなが揃っているのが答えだ、あまり気にされるな」

 くそ、タングリスは、こういうところでも大人だ。

「その妖精さんは?」

「ああ、ロキが連れていたシリンダーの変異体です」

「ヘンタイじゃないもん!」

 聞き違えたポチが文句を言う。みんな穏やかに笑ったりして! くそ、シリンダーのくせに可愛じゃないか!

「シリンダーの変異体とは創世記に書かれている以外には、トール元帥の聖戦に二つほど例があるだけです、いずれも幼生のうちに心が通い合い、その上に共に激戦を経験しなければならないとか……あなた方も、それだけの戦いを……どうも大変なご迷惑をかけてしまったようです」

「頭を上げられよ、こうして全員無事なのですから」

「ハハハ、そうですね。わたしも良い体験をしました、こうして泉の恩恵をこうむるとは……トール元帥の聖戦では、傷ついた神々や兵士がここで傷を養ったとか、幼いころに司祭のお説教で……うる憶えですがな」

「しかし、泉の効能もすばらしいが、景色の良いところですね。周囲の木々や岩など専門の庭師が設計したような美しさだ」

「たしかに……」

 町長はタングリスやテルと共に泉を見はるかす、なんだか、温泉のCMにそのまま使えそうな風情だ。

 あまりの穏やかさにウトウトしかける……。

「……いかん、ここを直ぐに離れなければ!」

 町長の叫びで、熟睡する寸前で目が覚める。

「フワ!?」

「え?」

「あ?」

「どうしたんです!?」

 なにかに怯えたように町長は後ずさり「早く逃げて!」と叫んで山への道を駆けだした、放っておくわけにもいかず、我々は町長を追って山道を峠の向こう、泉が見えなくなるところまで逃げた。

 

「こ、ここまで来れば大丈夫でしょう……」

 泉で石化が解けた町長は、効果が効きすぎて陸上選手並みの脚で駆けてきたのだ、追いかけた我々も息が荒い。

「ど、どういうことなんだ、町長?」

 目が回りそうだったが、タングリスとテルばかりじゃ面白くない、苦しい息を堪えて聞いた。

「殿下、エスナルの泉というのはクリーチャーの一種なんです!」

「「「「「クリーチャー!?」」」」」

「はい、傷ついた者を癒すのは、癒したうえで形のいい木々や岩石に変えて、自分の身を飾るのが習性なのです。心地よさにグズグズしていると、ご覧になったような岩や木々に変えられてしまいます」

「そうだったのか!?」

「危ないところだったんだな」

「ん? ロキの鼻……」

 なんとロキの鼻はピノキオのように木になって伸び始めているではないか!

 セイ!

 テルがすかさずソードを抜いて木になったところを切り落とした。

「えーと……お礼を言わなくっちゃならないんだろうけど、オレの鼻は、もうちょっと高くなかったっけ?」

「いやいや、そんなもんだ。さ、日も暮れる、みんな四号に戻るぞ」

 

 五人乗りの四号に六人はギュウギュウだったが、なんとか乗り込み、一路無辺街道を目指して走り出した。

 

☆ ステータス

 HP:7000 MP:3000 属性:テル=剣士 ケイト=弓兵・ヒーラー

 持ち物:ポーション・55 マップ:6 金の針:0 所持金:500ギル(リポ払い残高35000ギル)

 装備:剣士の装備レベル15(トールソード) 弓兵の装備レベル15(トールボウ)

 技: ブリュンヒルデ(ツイントルネード) ケイト(カイナティックアロー)

 白魔法: ケイト(ケアルラ) 

 オーバードライブ: ブロンズスプラッシュ(テル) ブロンズヒール(ケイト)

☆ 主な登場人物

―― かの世界 ――

  テル(寺井光子)    二年生 今度の世界では小早川照姫

 ケイト(小山内健人)  今度の世界の小早川照姫の幼なじみ 異世界のペギーにケイトに変えられる

 ブリュンヒルデ     無辺街道でいっしょになった主神オーディンの娘の姫騎士

 タングリス       トール元帥の副官 タングニョーストと共にラーテの搭乗員 ブリの世話係

 タングニョースト    トール元帥の副官 タングリスと共にラーテの搭乗員 ノルデン鉄橋で辺境警備隊に転属 

 ロキ          ヴァイゼンハオスの孤児

 ポチ          ロキたちが飼っていたシリンダーの幼体 82回目に1/6の人形に擬態

―― この世界 ――

 二宮冴子  二年生   不幸な事故で光子に殺される 回避しようとすれば光子の命が無い

  中臣美空  三年生   セミロングで『かの世部』部長

  志村時美  三年生   ポニテの『かの世部』副部長 

 

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