大橋むつおのブログ

思いつくままに、日々の思いを。出来た作品のテスト配信などをやっています。

銀河太平記・007『修学旅行・7・追跡!』

2020-09-06 14:33:09 | 小説4

・007

『修学旅行・7・追跡!』   

 

 

 降下しながらUDXの壁を蹴る!

 

 追跡まで五秒ほど遅れてしまったが未来(みく)のパスポートを盗んだ犯人を見逃すことは無かった。

 犯人は二百年前のアキバ系オタクファッション。

 目深にキャップ、チェックのガラシャツの裾をきっちりジーンズの中に入れ、背中のリュックをブンブン揺らせながら中央通に向かって逃げていく後姿を目に焼き付けた。

 UDXの壁を蹴った分着地した時には、その差十メートルあまりに近づいている。

 敵はビルの角を曲がって中央通を北に向かった。

 二呼吸遅れて角を曲がる。

 ボフ!

 腹に衝撃がきた。

 敵は角に隠れて、ダッシュが飛び出してきたところをリュックをぶん回してきたのだ。

 とっさに受け止めて衝撃をやわらげられたのは、子どものころから扶桑第一の悪ガキと言われたダッシュがだからだろう。

 同時に悪ガキの勘が働いて、リュックを放り上げる。

 ビシ!

 リュックは空中で閃光を放って落ちていく。信号弾か何かを仕込んでいたんだ、殺傷能力はないが、あんなものが目の前で光ったらホワイトアウトしてしまって追跡どころではなくなっただろう。

 腹にぶちかまされた瞬間に敵の顔を見た。

 キャップの為に上半分は隠れていたが、形のいい鼻と口元。整いすぎているのは義体か? ロボットならとっくに逃げおおせておるだろう。

 史跡AKBシアターまで追いかけると、敵は中央通を渡って蔵前橋通りの方へ逃げていく。

「逃がすか!」

 角を曲がったので一瞬姿を見失ったのは、ほんの三秒ほどだった。

 え!?

 さっきの事を警戒して少し大周りに角を曲がると敵の姿は三人になっていた。その三人がそれぞれ別方向に逃げていく。

 勘が働く。

 三人とも違和感がある。扶桑の城下町で悪戯して走り回っていたガキ大将の勘だ。

 南に逃げた奴を追う……ふりをして、蔵前通の一つ裏の通りに入り、ビルの非常階段を登って屋上に向かう。

 ちょうど見失ったビルの背中合わせのビルだ。

 給水塔の陰から窺うと、ビルの屋上から下を覗いている敵の姿が見えた。

 すぐに飛び移って捕まえようと思ったが、息をのんで立ち止まった。

 なんと、敵は階段室の横で服を脱ぎ始めたのだ。

 ガラシャツを脱ぐと白いワンピを頭から被り、ワンピが肩の下に下りる前にジーパンを脱ぎだした。

 一瞬肩から下が下着姿になった敵にドキッとしたが、赤いカーディガンを羽織ったときにはフエンスを飛び越えて、敵の前に着地した。

 敵は僅かに驚いたが、振り返った顔は人を喰った笑顔だ。

「いけない人、覗いてたんだ」

「パスポート返せ」

「火星人の割にはすばしっこいし頭も働くのね」

「警察呼ぶぞ」

「こんなことで警察呼んだら、お巡りさん可哀そうよ。御即位二十五周年の警備で忙しいのに」

「だったら、返せ」

「しょーがないわね……」

 敵は着たばかりのワンピの裾を持ち上げると、景気よくまくり上げた。

 さっき一瞬しか見えなかった下着姿が盛大に現れる。

「な、なにしてんだ(;'∀')!?」

「こうやんないと出てこない」

 お猪口になった傘のようになって敵はジャンプする。体の部分がプルンプルンと揺れて、見かけより純情なダッシュは真っ赤になったが視線は外さなかった。逃げられたり細工されたりしないためだ。

 パサリ

 パスポートが落ちてきた。ワンピの裏側に特殊なポケットがあって隠していたようだ。

「エッチ、ずっと見てたでしょ」

「取り返すまでは安心できないからな」

「はい、返すから。緒方未来さんに『気を付けろ』って言っといて」

 受け取ったパスポートは仄かに湿って暖かく、ダッシュは、この追跡劇の中で一番動揺した。

「アハハ、好きよ、そういう純情さ。気に入ったから自己紹介しとくわ。わたし、加藤恵っていうの」

「加藤恵……」

「君の名前は……こんど会った時に教えて、じゃね」

 敵は、ごく普通に階段室から下りて行った。

 してやられた気分になって、フェンスから見下ろすと、古典ラノベのヒロインのように後ろ手組んで見上げていた。

「嬉しい、やっぱ、振り返ってくれたんだ(◍>◡<◍)」

 敵は、ソヨソヨと蔵前通を西に消えて行った。

 

 

 

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ポナの季節・26『母豊子、あの頃と今と』

2020-09-06 06:24:19 | 小説6

・26
『母豊子、あの頃と今と』
          


ポナ:みそっかすの英訳 (Person Of No Account )の頭文字をとった新子が自分で付けたあだ名



 気軽な気持ちで……と言ったらウソになる。

 まだ携帯はもちろんポケベルさえない時代だった。連絡するには、学校に電話して自分の名前と用件を伝え、場合によっては校内放送で呼び出してもらわなければならなかった。豊子は、この三月に高校を卒業し、今では考えられないことではあるが、一流商社の総合職で入社した。
 緊張の研修期間は一か月ほどで終わり、やっと明日から春のゴールデンウィークである。

 晴れ姿を見てもらいたかった。寺沢先生に……。

 豊子は、研修期間が終わると専務付きの秘書を命じられた。これも異例中の異例。大抜擢といってよかった。
 むろん大きな商社なので、専務の秘書だけで三人もいる。豊子は年度末で退職した中堅秘書の交代要員であった。先輩二人の秘書が、気位だけ高くて付き合いづらい大卒者よりも、無垢な高卒の豊子を一から育てようと思ったのである。

 地味な普段着で来たつもりだったが、一か月の研修で、高校生には無い華やぎを身に着けたのだろう、校門をくぐってから何人もの生徒が振り返る。親しいとは言えなかった先生たちも気軽に声をかけてくれた。

 正直気持ちが良かった。

「よう、すっかり一流商社の専務秘書だな!」
 寺沢先生は、期待通りに明るく迎えてくれた。
「ま、こんな掃き溜めみたいなとこで話もなんだ、ちょっと付き合え!」
 陽気に駐車場の自分の車に案内してくれた。当時でもクラシックカーに近かったホンダN360Zのハッチバック。 

 着いたところは、寺沢の友人が経営する多国籍料理の『TAKEYONA』というおもちゃ箱のように雑多なオブジェの多い店だった。
 後年、ジブリが『ハウルの動く城』を制作した時、ハウルの部屋を見て、TAKEYONAと一緒だと思った。

 寺沢は元担任として、一方的に喋る豊子の話を楽しげに聞いてくれた。
 でも勘のいい豊子は、オブジェや鏡に映る寺沢の後姿や横顔に屈託を感じた。
――相変わらず苦労してるんだ、あたしには元気で楽しそうな顔しか見せないのに――

 寺沢は、日の丸や君が代、数だけ多くて効果のない学校行事や慣習、生徒指導、教条主義的な組合などにいつも疑問を投げかけ、また自分独自で取り組み、その成果は、三年間の担任業務の中で、留年生を出さないことにも現れていた。生徒の進路選択に親身で。中退者にも次の進路が決まるまで付き添うことに現れていた。当然ストレスや校内での反発も大きい。

 豊子は、なんとか寺沢の力になりたいと思った。

 寺沢が本音で喋り距離が縮まるのに半年の月日がかかった。気づいた時には互いに師弟を超えた愛情を感じ、豊子は妊娠してしまった。

 あれから三十年。夫婦となった寺沢と豊子は、いろんな山を乗り越えて、自分たちにできるかぎりのことをしてきた。
「その一つが、優里と新子を引き取ったことなのよ……」
 母親と、ここまで話すのは初めてだった。感動はしたが傷は癒えないポナ。親友の由紀は涙まみれになりながら聞いていた。

「ねえ、新子……」
「うん?」
「お母さんとお父さん、他人に見える?」
「え、あたしにとって……」
「ちがうわよ、お母さんとお父さんの関係」
「……ううん」
「でしょ。でも元々は他人だったのよ。偶然あたしがお父さんの生徒になり、お互い真剣に生きていることを知って夫婦になった。新子とは血のつながりはないけど、お父さんといっしょ。もうとっくに他人じゃないのよ」

 その二日後、宅配便が来た。

「新子、ポチがペンダントになって戻って来たわよ!」

 ポチの骨は琥珀色の宝石のようになっていた。
「ポチが帰ってきた……」
 首に付けながらポナは思った。
 ポチとだって血のつながりはないんだ。でも姉弟みたい、少なくとも肉親と言ってよかった。

 ポナは、少し吹っ切れた気になれた。


ポナの周辺の人たち

父     寺沢達孝(59歳)   定年間近の高校教師
母     寺沢豊子(49歳)   父の元教え子。五人の子どもを、しっかり育てた、しっかり母さん
長男    寺沢達幸(30歳)   海上自衛隊 一等海尉
次男    寺沢孝史(28歳)   元警察官、今は胡散臭い商社員だったが、乃木坂の講師になる。
長女    寺沢優奈(26歳)   横浜中央署の女性警官
次女    寺沢優里(19歳)   城南大学社会学部二年生。身長・3サイズがポナといっしょ
三女    寺沢新子(15歳)   世田谷女学院一年生。一人歳の離れたミソッカス。自称ポナ(Person Of No Account )
ポチ    寺沢家の飼い犬、ポナと同い年。死んでペンダントになった。

高畑みなみ ポナの小学校からの親友(乃木坂学院高校)
支倉奈菜  ポナが世田谷女学院に入ってからの友だち。良くも悪くも一人っ子
橋本由紀  ポナのクラスメート、元気な生徒会副会長

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かの世界この世界:63『ペギーとの再会』

2020-09-06 06:11:53 | 小説5

かの世界この世界:63     

 

『ペギーとの再会』     

 

 

 

 ケイトの石化を解いてやると金の針が残り一本になってしまった。

 

「面倒だが、車外に出る時は必ずゴーグル着用だ。車内でも覗視孔から外を見る時はゴーグルだ。石化しても直しようがないからな」

「メドューサなんて聖戦以来だな」

 タングリスの注意に応えながら、タングニョーストはアクセルを踏む。

 ブルンと身震いして四号は再び走り始めた。

「来るときは、強敵だったがシリンダーと融合体に出会っただけだった。プレパラートとかメスシリンダーだとか、クリーチャーが多すぎないか」

「主神オーディンの力が弱っているのかもしれない、心して進まなければな」

「下手をすれば、また戦争が始まるかもしれない……」

「真っ赤に錆びついてるよ……」

 ペリスコープから先ほどの戦車を見て、ケイトが呟く。わたしも意外だ。メドューサのとは言え、戦車兵のナリで少女は転がり出てきたのだ。当然生きた戦車だと思う。

「メドューサは、廃墟や残骸を依り代にして現れるんだ。戦車そのものは先の聖戦で撃破されたスクラップさ。ムヘン川沿いは激戦地だったから、あちこちに残骸がある」

「あ……変なオバサンが居た」

 ペリスコープを覗いたままロキが呟く。

「オバサン?」

「メドューサか!?」

「違うと思う、ニコニコしていたし、大きな荷物を担いでいた」

「どこにいた?」

「草が少し禿げたとこ」

「タングニョースト、戻ってみてくれ」

「了解」

 グィーーーーーーーン

 四号が遊園地のコーヒーカップのように回れ右をした。超進地旋回というやつだろう、ちょっと目が回る。

 戻ると、そのオバサンは道の真ん中に出てきて陽気に手を振っているではないか。

「あ、ペギーさんだ! 出ていい? いいよね!」「あたしも!」

 ろくに返事も聞かないでブリュンヒルデとケイトが飛び出す。

 そのオバサンは、始りの荒野で店を開いていたペギーだ。

「ペギ―、夜逃げでもするのか?」「重そうだな」

 知り合いらしく、タングリスもハッチを開けた途端に声をかけている。

「行商に出た方が儲かりそうな気がしてね」

「まあ、ちょうどよかった、少しばかり金の針が欲しい」

「おや、あれ以来だけど、あんたらもたくましくなったね。その子は?」

「ああ、わけあって預かってるんだ」

「そうかい、まあ、旅は賑やかな方がいいさね。で、金の針は使いきっちまったのかい」

「ああ、残り一本。ついさっきメドューサのってのに出くわして、その坊主が間近で目を見ちまったんでな」

「メドューサ……やっぱ、復活したんだ(⌒∇⌒)」

「嬉しそうに言うなよ」

「少しは女らしい喋り方をした方がいいよ、ちゃんとしたナリをしたらいい女なのにさ」

「軍人に性別はないよ」

「ああ、トール元帥の副官なんかをしてちゃなあ」

「ポーションも少し欲しいんだ、1000ギルで買えるだけくれ」

「1000ギル? しみったれてるねえ」

「あれから稼いでないんでね」

「ウィンドウ開いてごらんよ、もっと貯まってるはずだよ」

「あ、そんなものがあったな」

 

 日々のことに追われて、しばらくご無沙汰のウィンドウを開いた。

 

 HP 2500  MP 1200  所持金 8500ギル

 

「すごい、いつの間に?」

「ステータスはこまめにチェックしなきゃ。これだけあるなら石化防止の指輪も買っときな、一個1000ギルに負けといてやるわよ。おや、四号に六人も乗ってるんだ、リクライニングシートにして、エキストラシートも付ければ快適になるよ」

「とても、そこまでのギルはないよ」

「消耗品以外はリポ払いにすればいいさ」

「リポ払いってなに?」

 ケイトが身を乗り出す。

「リボ払いみたいなもんじゃないか?」

 前世の知識が蘇る。

「冒険者の予測経験値で組めるローンみたいなもんさ。あんたたちは前途有望だから……10万ギルまでいけるよ」

「え、すごいじゃん!」

「うんうん」

 ロキが目を輝かせ、ケイトがウキウキしてペギーのペースになっていく。

 ロキを除く五人でリポ払いで80000ギルも使わされてしまった。

「あんたには武器も売りつけたかったけど、トールの技物を持っていたんじゃねえ。お、坊主、珍しいもの持ってるじゃないか!」

 ペギーに目を付けられ、ロキは後ずさりする。

「シリンダーの幼体が人に懐くとは珍しい! 売りなよ、20000ギルで引き取るよ!」

「やだ、ポチは売り物じゃねえ!」

「残念、売りたくなったら、いつでも言っとくれ。必要な時、必要な所には現れるからさ。ところで……」

 

 それから一時間以上喋って、ペギーと別れた。タングリスたちとペギーの話は半分も分からなかったが、互いに情報を交換して有意義であったようだ。

 明日にはノルデン鉄橋に着けそうだ。

 

 

☆ ステータス(買い物を終えて)

 HP:2500 MP:1200 属性:テル=剣士 ケイト=弓兵・ヒーラー

 持ち物:ポーション・35 マップ:4 金の針:20 所持金:500ギル(リポ払い残高80000ギル)

 装備:剣士の装備レベル10(トールソード) 弓兵の装備レベル10(トールボウ)

 憶えたオーバードライブ:ブロンズヒール(ケイト) ブロンズスプラッシュ(テル)

 

☆ 主な登場人物

―― かの世界 ――

  テル(寺井光子)    二年生 今度の世界では小早川照姫

 ケイト(小山内健人)  今度の世界の小早川照姫の幼なじみ 異世界のペギーにケイトに変えられる

 ブリ(ブリュンヒルデ) 無辺街道でいっしょになった主神オーディンの娘

 グリ(タングリス)   トール元帥の副官 グニ(タングニョースト)と共にラーテの搭乗員 ブリの世話係

 グニ(タングニョースト)トール元帥の副官 グニ(タングニョースト)と共にラーテの搭乗員 グリの相棒 

 ロキ          ヴァイゼンハオスの孤児

 ポチ          ロキたちが飼っていたシリンダーの幼体

―― この世界 ――

 二宮冴子  二年生   不幸な事故で光子に殺される 回避しようとすれば光子の命が無い

  中臣美空  三年生   セミロングで『かの世部』部長

  志村時美  三年生   ポニテの『かの世部』副部長 

 

 

 

 

 

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