大橋むつおのブログ

思いつくままに、日々の思いを。出来た作品のテスト配信などをやっています。

せやさかい・171『小鳥が来る街』

2020-09-27 13:16:32 | ノベル

・171

『小鳥が来る街』頼子    

 

 

 あれは『小鳥が来る街』だった。

 

 ほら、ソフィアが感動したパッカー車(ゴミ収集車)のメロディー。

 1964年というから、もう半世紀以上も昔、大阪市の環境緑化運動の曲として作られ、島倉千代子さんという女性歌手の人が歌っている。

 かわいい小鳥ガ来る街は~ 緑を映した空あ~がある~(^^♪

 きれいで可愛い歌詞なんだ。

 世界中にいろんなゴミ収集車があるんだろうけど、こんな可愛いメロディーを奏でながら仕事をしているのは日本だけだろう。

「懐かしいわねえ……」

 ブログの記事にするために原稿を見せに行くと、院長先生は遠い昔の事のように微笑まれた。

「あの、今でもゴミ収集車が流してるんですけど」

「いえね、この歌が出来た時に大阪中の小学校に録音テープが送られてね、運動会じゃ、それにフリを付けて子どもたちに踊らせたのよ」

「え、そのころから先生やってらっしゃったんですか!?」

 わたしは素直に驚き、計算の早いソフィアは院長先生を化け物を見るような目で見ている。そうだろう、院長先生が新任の先生であったとしても66年も昔、86歳以上にはなっている。先生はどう見ても60歳は超えていないはず。

 伸ばした皴をウィンプルの中に隠しているとか? ますます化け物!

「アハハ、違うわよ。わたしが踊らされたの。小学三年生だった」

「あは、そうだったんですか(^_^;)」

「男の子と手を繋いで踊るのよ、男子が外側、女子が内側の輪になって逆に回るの。二回続けてやると、クラスの男子総当たりになって、とっても嫌だった。神父の息子ってのが居てね、他の女子には人気があったんだけど、わたしは嫌いでねえ。女の子って嫌いになると、その子に関わるもの全部が嫌いになって、キリスト教も嫌いになった」

「え?」

「でも?」

「アハハ、それが修道女になって、今ではミッションスクールの学院長。人生って面白いわねえ」

 先生は面白い人生を歩んでこられたようで、含みのある笑顔に、うちのお祖母ちゃんと同質の深さを感じる。これは日を改めて聞いてみたいものだわ。

「そうだ、ゴミ収集車のメロディーって街によって違うから、興味が合ったら調べてみるといいかもしれないわ」

「そうなんですか?」

 ソフィアが身を乗り出す。

「ええ、他にも自治体や街によって独特のメロディー使ってたりするから、そういうのも面白いかもしれないわね」

「はい、調べてみるデス!」

 どうやら、わたし以上にソフィアは散策することに、散策して発見することに燃えてきたようだ。

 軽い気持ちで始めた散策部だけど、ソフィアとコンビなら、まだまだ面白い部活になりそうだ。

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ポナの季節・46『一年五組の佐伯美智』

2020-09-27 06:21:09 | 小説6

・46
『一年五組の佐伯美智』
         
  

ポナ:みそっかすの英訳 (Person Of No Account )の頭文字をとって新子が自分で付けたあだ名




「さっきお母さんから電話があった」

 

 美智は、その一言でホコリがうっすらと積もった相談室の机の上に目を落とした。
 成績はイマイチだが、敏い子だと達孝は思った。


「どうしても演劇部がしたい。でも、うちの学校無いから、勝手に作って連盟に届け出した。先生の名前で……」
「顧問の引き受け手はなかったのか?」
「五人の先生にあたったけど、みんな断られた」
「で、おれの名前を使って連盟に加盟したんか?」
「……もういい」
「なにが、もういいんだ?」
「お母さんが電話してきて……全部ばれちゃったら、もうおしまい。演劇部なんて存在しないし、寺沢先生は顧問でも何でもないこと分かっちゃったら、もう何もできない。連盟加盟も取り消しだし、コンクールにも出られない……」

 そこまで呟くように言うと、美智は大粒の涙を流したかと思うと「ワッ!」と机につっぷして泣きだした。

「なんで演劇部作ろうって思ったんだ?」

「幕を上げたかった、あた、あたしらの、あたしらの幕を……!」
「『幕が上がる』でも観たのか?」
 達孝は、空気を柔らかくするつもりで、半ば冗談で言った。


「なんで分かるの?」


 意外な答えだったが、美智の情熱は、幼くはあるが、ちょっとばかり本物のニオイがする感じた。
「あれははた迷惑な映画だ。演劇部なんてあんなに簡単なものじゃないし、あの吉岡という女の先生は無責任だ。新任の一年間も全うせずに教師を辞めて教科指導も、学校の仕事も演劇部も捨てて女優になる。オレが指導教官なら、ぜったい引き留めた」
 達幸は映画は観ていないが、原作の小説は読んでいた。正直な感想である。案の定美智は、しゃくりあげながらも恨めし気な目で達幸を見上げた。
「でも、それを通り越して芝居をやることの楽しさや素晴らしさを佐伯たちは受け止めたんだろう」
「……うん、これだって思った。中学は三年間しょぼくれてたけど、高校に入ったら、あんなのが出来るんだって、たった一つの虹だった。でも、もうおしまいなんだ……」
「どこで稽古していたんだ?」
「カラオケ屋とか、学校の空いてる教室」
「空き教室は、鍵がかかってるだろう」
「仲間に鍵開けが上手いのがいるから……」

 並の教師なら、この教室の施錠を破って侵入したことだけで話を打ち切り、懲戒にかけていただろう。

「それほどやりたい芝居があるのか……?」
「うん…………映画の芝居は細切れで良く分からないけど、あの中で吉岡先生は言うんだ『あたしは過去十年に遡って全国大会の芝居は観た』って。だから基礎練習とかは、まだまだだけど、パソコン持ち込んで、高校演劇の作品観まくった……」
「で、いい芝居が見つかった……そうだな」
「なんで分かるの……?」
「そうでなきゃ、日曜の夜十時過ぎまで家に帰らないなんてことないだろ。それに、なにより、佐伯、お前の目は目標を見つけた目だ」

 再び道の目から、大粒の涙が溢れてこぼれた。

「そんな風に言われたの……初めて。少しだけ気持ちが軽くなった」
「本はなんだ?」
「これ……」


 美智は四六判のくたびれた本を出した。『ノラ バーチャルからの旅立ち』という表題の戯曲集だった。四編の戯曲が入っていたが、お目当ては手垢の付き方で分かった。


「『すみれの花さくころ』か……」
「うん、最初ネットで名古屋音楽大学がやってるの見つけて、大阪の天王寺商業が本選でやったの観た。切なくて悲しくて、でも人間っていいもんだって、心が温まるの!」
「そうか、いいものに出会ったんだな」
「先生、お母さんには、あたしから謝る、シバカレたっていい。このまま、このまま演劇部続けさせてくれないかな。お願い、お願いします!」
 美智は勢いよく頭を下げた。ゴツンと痛そうな音がした。

「謝るのは、オレがやっておいた。演劇部が無いなんて言ってないからな」
「ほ、ほんと……ですか!?」
「これも何かの縁だろう。オレは一年で定年、その間しか付き合ってやれない。それでいいなら、いけるところまで行ってみるか?」
「は…………はい、やります。ありがとう、ありがとうございます寺沢先生!」
「ドアの外の三人も入ってこい」


 ドアの外に聞き耳頭巾が三人いることはお見通しだった。みんな揃って校則違反のナリだったが、目は輝いていた、そして美智の顔を見ると大笑いした。ホコリだらけの机に突っぷして泣いていたので、目を中心にしみだらけ、おまけに額にタンコブ。達孝もいっしょに笑ってやった。

 かなり波風が立ちそうだったが、定年前に、いい仕事ができそうな予感のする寺沢達幸先生ではあった。

 



ポナの周辺の人たち

父     寺沢達孝(59歳)   定年間近の高校教師
母     寺沢豊子(49歳)   父の元教え子。五人の子どもを、しっかり育てた、しっかり母さん
長男    寺沢達幸(30歳)   海上自衛隊 一等海尉
次男    寺沢孝史(28歳)   元警察官、今は胡散臭い商社員だったが、乃木坂の講師になる。
長女    寺沢優奈(26歳)   横浜中央署の女性警官
次女    寺沢優里(19歳)   城南大学社会学部二年生。身長・3サイズがポナといっしょ
三女    寺沢新子(15歳)   世田谷女学院一年生。一人歳の離れたミソッカス。自称ポナ(Person Of No Account )
ポチ    寺沢家の飼い犬、ポナと同い年。死んでペンダントになった。

高畑みなみ ポナの小学校からの親友(乃木坂学院高校)
支倉奈菜  ポナが世田谷女学院に入ってからの友だち。良くも悪くも一人っ子
橋本由紀  ポナのクラスメート、元気な生徒会副会長
浜崎安祐美 世田谷女学院に住み着いている幽霊
吉岡先生  美術の常勤講師、演劇部をしたくて仕方がない。
佐伯美智  父の演劇部の部長

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かの世界この世界:84『エスナルの泉を目前に』

2020-09-27 06:09:58 | 小説5

かの世界この世界:84     

『エスナルの泉を目前に』    

 

 

 

 やっぱり無傷では済まなかった。

 

 石化したミュンツァー町長の体には縦に亀裂が入っていて、今にも二つに割れてしまいそうになっている。

「エスナルの泉まではもたないなあ」

 エンジンを止めて操縦手ハッチから出てきたタングリスはため息をつく。

「わたしがリペアをかけてみよっか……」

 オズオズと手を上げるケイトにみんなが注目する。

「リペアレベルを見せてみろ」

「えと……こんなだよ」

 ケイトが開いたウィンドウにはキロリペアとある。

 リペアには、キロ、メガ、ギガ、テラ、ペタとある。つまり、ケイトの使えるリペアは一番下の単位だ。

「これじゃ、十五分に一回はリペアしないともたないな」

「しかたない、エスナルの泉に着くまでは町長さんに張り付いてるよ」

 ケイトは砲塔後部のゲペックカステン(道具入れ)の上に身を晒し、一人後ろ向きに座って町長に付き添うことになった。

 

 山一つ回り込めばエスナルの泉が見えてくるところで妙な音がし出した。

 シュッ……シュッ……シュッ……

 

 砲塔側面のハッチから身を乗り出すと、ゲペックカステンの上でケイトが焦っている。

「どうした?」

「だめだ、MPが足りなくてリペア出来ない」

 音は、ケイトが白魔法を空振りする音だったのだ。

 ガクン ブロロロ…………

 軽く前のめりになって四号が停車した。タングリスが気づいてゆっくりと停めたのだ。

「エーテルはないのか?」

「使い果たしてしまったよ、さっきの戦いで」

 ケイトはみんなのHPを回復させるためにケアルやケアルラを使いまくっていたのだ。

「こんなときに限ってペギーは現れない……」

 ブツブツ文句を言いながらブリュンヒルデは砲塔の上に立って遠くを捜すふりをする。

「そんな見える範囲ににはいないぞ」

「ムヘン街道で商売繁盛だったからな……」

「ブリねえちゃんのエスナは使えないのか?」

「我がMPは、とうにからっけつだ」

「仕方がない、ここから歩く」

 タングリスが路上に飛び降りた。

「歩くのかあ?」

「町長は四号の振動にはたえられないでしょう」

「しかし、町長をどうやって運ぶ?」

 石化した町長は、とても一人でオンブできるようなものじゃない。

「姫の御髪(おぐし)を使います」

「わ、わたしの髪の毛!?」

「はい、姫の髪は玄武を怯ませ足止めをする力があります。その強さなら石化した町長でも運べます」

 乗員一同の目がブリュンヒルデに集中する……。

「ハ、ハハハ、何を言う! その玄武との戦いで、我がツインテールはロキと変わらぬショートヘアになっておるではないか、こんな短い髪で何ができると言うのだ!?」

「失礼します」

 一言言うと、タングリスはブリュンヒルデの両足首をムンズと掴んだ。

「な、なにをする!?」

「ごめん!」

 タングリスはブリュンヒルデの両足首を掴んだまま、ヘリコプターのローターのように振り回し始めたではないか!

「ヒエーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー」

 呆気に取られて見ていると、しだいにブリュンヒルデの髪が伸び始め、三十秒ほどしたころには三メートルほどの長さになった。

「すごい、遠心力で戻してしまった!」

「まだまだこれから!」

 タングリスは、さらに回転速度を速め、その勢いで振り回したまま浮き上がると、二分ほどで十メートルを超えた。

「戻し過ぎだぞ、わたしはラプンツェルではないぞおおおおおお……」

 それでもタングリスは回転速度を緩めず、さらに倍の二十メートルほどに伸ばした。

「このようにします。姫を先頭に、残りの者は後ろに回ってくれ」

 言われたままにすると、ブリュンヒルデの髪を四つの束に分けてそれぞれに持たせた。

「なんなんだ、これは?」

 それには応えず、四つの束をブリュンと振ると、髪束は波打ち重なり合って、クッションの効いた橇のようになった。

「みんな、ゆっくりと町長を橇の上に移してくれ」

「「「お、おお」」」

 そう言うと、ゲペックカステンに括り付けてあった町長を橇に横たえた。

「ウオ! ちょ、ちょ、ちょーーーーーータングリス!」

「これも修行! さ、行くぞ!」

 

 ブリュンヒルデを先頭に、その髪を荷車のように引っ張って、我々は山一つ向こうまで迫ったエスナルの泉を目指したのだった。

 

☆ ステータス

 HP:6000 MP:3000 属性:テル=剣士 ケイト=弓兵・ヒーラー

 持ち物:ポーション・55 マップ:6 金の針:0 所持金:500ギル(リポ払い残高35000ギル)

 装備:剣士の装備レベル15(トールソード) 弓兵の装備レベル15(トールボウ)

 技: ブリュンヒルデ(ツイントルネード) ケイト(カイナティックアロー)

 白魔法: ケイト(ケアルラ) 

 オーバードライブ: ブロンズスプラッシュ(テル) ブロンズヒール(ケイト)

☆ 主な登場人物

―― かの世界 ――

  テル(寺井光子)    二年生 今度の世界では小早川照姫

 ケイト(小山内健人)  今度の世界の小早川照姫の幼なじみ 異世界のペギーにケイトに変えられる

 ブリュンヒルデ     無辺街道でいっしょになった主神オーディンの娘の姫騎士

 タングリス       トール元帥の副官 タングニョーストと共にラーテの搭乗員 ブリの世話係

 タングニョースト    トール元帥の副官 タングリスと共にラーテの搭乗員 ノルデン鉄橋で辺境警備隊に転属 

 ロキ          ヴァイゼンハオスの孤児

 ポチ          ロキたちが飼っていたシリンダーの幼体 82回目に1/6の人形に擬態

―― この世界 ――

 二宮冴子  二年生   不幸な事故で光子に殺される 回避しようとすれば光子の命が無い

  中臣美空  三年生   セミロングで『かの世部』部長

  志村時美  三年生   ポニテの『かの世部』副部長 

 

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