大橋むつおのブログ

思いつくままに、日々の思いを。出来た作品のテスト配信などをやっています。

ポナの季節・32『Person Of No Account ①』

2020-09-12 06:36:14 | 小説6

・32
『Person Of No Account ①』
     


ポナ:みそっかすの英訳 (Person Of No Account )の頭文字をとって新子が自分で付けたあだ名


 

 三週目でアゴが出た。

 四時間目の体育は、昼食前というだけでも堪えるのに、今日は準備運動の後ストレッチをやって、一周200メートルのグラウンドを5周も走らされている。新任の宇賀先生は容赦がない、遅れ始めると、すぐに朝礼代から叱咤の声が飛んでくる。

 由紀も奈菜も、辛抱強いのか諦めがいいのか黙々とポナの前を汗みずくになりながら走っている。
 ポナだって、一時間目や二時間目なら余裕で走れる。

 だが、ポナは空腹に弱い。

 グ~~~~~~

 特に第三コーナーは食堂に近く、調理のいい匂いがまとわりついてくる。
「ああ、ララランチ……」
 目の前をランチとラーメンのセットのララランチの幻が浮いてくる。

「寺沢、ニヤニヤ、チンタラ走ってんっじゃないわよ!」宇賀先生の檄が飛ぶ。
 その檄が幻にも効いたのか、ララランチの幻は速度を上げ、ポナは人参を鼻先にぶら下げられた馬のように走り出した。
「ポナ、変だよ……」
「ニヤニヤ走ってる……」
「割には、ラストスパートがすごい!」
 クラスメートは一様に驚いた。
「でも、あれって、汗じゃなくてよだれじゃね?」
 由紀は汗とよだれの区別まで付けて驚いた。

「一番寺沢、二番橋本、三番……」宇賀先生がゴールで順位を確認する。補助をやっていた教育実習のオネーサンがタイムを付けていく。
「よーし、いきなり止まらないで、ゆっくりクールダウン、水分補給は今のうちに!」

 これで終わるはずだった。

 が、教育実習のオネーサンが、済まなさそうな声で言った。

「先生、一人分多いんですけど……」
「え、カウントミス?」
「あの、先生の声に合わせてカウントとストップウォッチで確認してたんですけど、どこかでミスったみたいです」
「仕方ないわね、次の授業で取り直すしかないわね」
「エエー!」
 素直な反応が、ポナの口から出た。
「寺沢、なんか文句あんのか?」
「いいえ、あたしじゃないんです。お腹の虫が……」

 腹ペコだと思考能力の落ちるポナは、正直な感想を言って、みんなに笑われてしまった。

「ねえ、ポナ……」
 ララランチのラーメンに箸をつけたところで、奈菜がやってきた。
「え、なに?」
 目だけ奈菜を見て、ポナはガマグチのように口を開けてラーメンを吸い込んだ。奈菜は、普段の三倍ぐらいには開くポナの口に感心しながらあとを続けた。
「体育の時間で、一人多かったじゃない」
「ああ、カウントミスでしょ……」
「それが、そうじゃないのよ……!」
 由紀が割り込んできた。
「体育の後片付けしてて小耳にはさんだんだけどね、何年かに一度出るらしいのよ……」
「出る?」
「定員に入っていない女生徒が……」
「あたしといっしょじゃん」
「それが、冗談じゃなくて……これらしいのよ」

 由紀と奈菜が揃って幽霊よろしく、体の前で手を垂らして見せた……。



ポナの周辺の人たち

父     寺沢達孝(59歳)   定年間近の高校教師
母     寺沢豊子(49歳)   父の元教え子。五人の子どもを、しっかり育てた、しっかり母さん
長男    寺沢達幸(30歳)   海上自衛隊 一等海尉
次男    寺沢孝史(28歳)   元警察官、今は胡散臭い商社員だったが、乃木坂の講師になる。
長女    寺沢優奈(26歳)   横浜中央署の女性警官
次女    寺沢優里(19歳)   城南大学社会学部二年生。身長・3サイズがポナといっしょ
三女    寺沢新子(15歳)   世田谷女学院一年生。一人歳の離れたミソッカス。自称ポナ(Person Of No Account )
ポチ    寺沢家の飼い犬、ポナと同い年。死んでペンダントになった。

高畑みなみ ポナの小学校からの親友(乃木坂学院高校)
支倉奈菜  ポナが世田谷女学院に入ってからの友だち。良くも悪くも一人っ子
橋本由紀  ポナのクラスメート、元気な生徒会副会長

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かの世界この世界:69『ローゼンシュタット・2』

2020-09-12 06:26:39 | 小説5

かの世界この世界:69     

 

『ローゼンシュタット・2』   

 

 

 ローゼンシュタットの町はバラだらけだ。

 

 町の周囲だけではなく、町の中のちょっとした空き地にも花壇があって、色とりどりのバラが咲き誇っている。

「ようこそ! ローゼンシュタットへ!」「ブリュンヒルデさま!」「いらっしゃいませ!」

 歓待の声に目を向けると、家々の玄関先や窓辺にもバラの鉢植えやフラワーポットがひしめいている。

 町の中央は広場になっていて、居並ぶ人垣によって、我々の四号は誘われていく。

「バラの香りがする!」

 広場の噴水の水しぶきを浴びると、そこはかとなくバラの香りがして、ロキもケイトも無邪気に喜んでいる。

 ロキがハッチから身を乗り出すので、ポチも飛び出してきて、ロキの周囲を飛び回る。ポチは幼生とは言え、シリンダーなのでヤバいと思ったが、可愛いシリンダーだと、町の人、とくに子どもたちには人気だ。

「ローゼンシュタットのバラは、この世の始まりに神さまがおつかわしになったという伝説があります」

 溢れるようなバラに圧倒されている我々に、ミュンツァー町長が説明してくれる。

「バラをおつかわし?」

 人間っぽい言い方に、ブリュンヒルデが興味を持つ。

「遣わされたのは、神の姫でありました。姫は、町を護りムヘンに祝福を与えるには、この身一つでは賄いきれぬ。そう仰せになり、その身を数多のバラに変え、あまねく町に広まったと云われています」

「素敵なお話……!!」

 わたしたちも素敵に思ったが、ブリュンヒルデは過剰なほどに目を潤ませている。なにか敏感に感じるものがあるのだろうかと思っていると、タングリスが愛しむような眼差しでブリュンヒルデを見ているのに気付く。

 どうも、我々が知らない秘密がある……ような気がするが、当人たちが言わない限り聞いてはいけないような気がした。

 

 広場で、改めての歓迎を受けた後、町の迎賓館に案内された。

 

 迎賓館と言っても二階建ての民家風なのだが、使ってある材料や手入れのされ方に念がいっている。

「実は、明日が四年に一度のプリンツェシン・ローゼンの降誕祭なのです。ことしの降誕祭にはオーディンの姫君が訪われると予言されたのです」

 迎賓館に入ると、町長が告げた。

「予言?」

「はい、町の司祭であり一級魔導士であるゼイオンが……」

 町長がホール前方の十字架を示すと、オボロな人影が浮かび上がり、十秒ほどで、白髪に白の法衣を着た老人の姿になった。

「初めてのお目通りの栄に浴します。ローゼンシュタットの司祭職を務めますゼイオン・タングステンでございます」

 静かに寄ってくると、ゼイオンはブリュンヒルデの前で片膝をついて名乗った、なんだか、有名な宗教絵画を見ているように、厳かな空気になった……。

 

 

☆ ステータス

 HP:2500 MP:1200 属性:テル=剣士 ケイト=弓兵・ヒーラー

 持ち物:ポーション・35 マップ:4 金の針:20 所持金:500ギル(リポ払い残高80000ギル)

 装備:剣士の装備レベル10(トールソード) 弓兵の装備レベル10(トールボウ)

 憶えたオーバードライブ:ブロンズヒール(ケイト) ブロンズスプラッシュ(テル)

 

☆ 主な登場人物

―― かの世界 ――

  テル(寺井光子)    二年生 今度の世界では小早川照姫

 ケイト(小山内健人)  今度の世界の小早川照姫の幼なじみ 異世界のペギーにケイトに変えられる

 ブリュンヒルデ     無辺街道でいっしょになった主神オーディンの娘の姫騎士

 タングリス       トール元帥の副官 タングニョーストと共にラーテの搭乗員 ブリの世話係

 タングニョースト    トール元帥の副官 タングリスと共にラーテの搭乗員 ノルデン鉄橋で辺境警備隊に転属 

 ロキ          ヴァイゼンハオスの孤児

 ポチ          ロキたちが飼っていたシリンダーの幼体

―― この世界 ――

 二宮冴子  二年生   不幸な事故で光子に殺される 回避しようとすれば光子の命が無い

  中臣美空  三年生   セミロングで『かの世部』部長

  志村時美  三年生   ポニテの『かの世部』副部長 

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