大橋むつおのブログ

思いつくままに、日々の思いを。出来た作品のテスト配信などをやっています。

魔法少女マヂカ・175『原宿旧駅舎前・3』

2020-09-15 14:09:40 | 小説

魔法少女マヂカ・175

『原宿旧駅舎前・3』語り手:マヂカ    

 

 

 大正十四年だ……

 

 ペンキの臭いも初々しい原宿駅舎を前にして呆然とした。

 ほんの6カ月時を遡るつもりが97年も遡ってしまっている。

 令和二年において解体が始まった原宿駅旧駅舎は97年前の大正14年に完成している。

「えーー! なんで、そんな昔に飛んでしまったの!?」

 事態を呑み込んだノンコがやっと驚く。

「途中で手を離してしまっただろ」

「あ、そういやみんな居ない!」

「そこに遠心力が重なって、はるか97年前に飛ばされてしまったんだろ」

「じゃ、ほかのみんなは?」

「飛ばされたんだんだろうが、どこの時代か分からないよ」

「そんな……二人でもとの時代には戻れないの?」

「……ま、なんとかなるだろ」

 あてがあるわけじゃないが、ノンコを不安がらせてもどうにもならない。

「せっかく完成したばかりの原宿駅があるんだ、見学していこう」

「うん(^▽^)/」

 パニックにさせてはいけないので、余裕ぶって駅舎を見学する。

「自動改札じゃないんだね、改札ごとに駅員さんが立って……あ、券売機もない」

「乗車券は、外の窓口だ」

「どれどれ」

「こっちだ」

「あ、なんか宝くじ売り場みたい」

 なるほど、令和の時代に対面販売は宝くじかパチンコの景品交換所ぐらいのものだものな。

「こういう壁と木材の半々の構造をハーフティンバー方式っていうんだ、原宿以外では日光とか奥多摩駅とか軽井沢の別荘なんかにも見られる洋式だ。まあ、この時代のモダンの先端だな」

「へえ、マジカって物知りなんだ」

「当たり前だ、この時代に……」

 そこで言いよどんでしまった。

 大正十四年なら、わたしは旧帝国陸軍の特務師団に所属していていた。つまり、この時代にはもう一人の魔法少女マヂカが存在している。

 頭の片隅では、この時代の特務師団に連絡をとればという気持ちがあったが、もし、もう一人のわたしに出会ってしまったらどうなるか……予想が付かない。

 最悪、過去の自分に出会ってしまえばタイムパラドクスに陥って、両方とも存在を失ってしまうかもしれない。失わずとも同じ磁極が反発するように別の時代や時空に飛ばされてしまうかもしれない。

 それに、大正十四年は滅法忙しく帝都を中心に走り回っていたが、自分に出会ったという記憶がない。

 つまり、この時代の魔法少女マヂカや特務師団の救けは得られないということ。

 どうしよう……。

 表情には出さずに思いあぐねていると、制服の裾をツンツン摘ままれた。

 ん?

 振り返ると、この時代には珍しい洋装のJS(女子小学生)がニコニコと見上げている。

「ん、きみは?」

「わたしよわたし」

「わたしって……」

「上野公園で会ったでしょ」

「あ……!」

「思い出した?」

 

 そう、こいつはJS西郷だ!?

 

 

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ポナの季節・35『Person Of No Account ④』

2020-09-15 06:24:44 | 小説6

・35
『Person Of No Account ④』
     


ポナ:みそっかすの英訳 (Person Of No Account )の頭文字をとって新子が自分で付けたあだ名


「あたしもポナなんだよ」

 たまたまニックネームが同じだったように、浜崎安祐美は気楽に言った。ポナは少し反発を感じる。

 こないだまでのポナなら気楽に聞き流せたが、寺沢家の実の子ではないと分かった時のショックが癒えずに心の疼きとして残っている。たとえ幽霊だってお気楽に言われてはムナクソが悪い。

「気に障ったようね。でも、あなたにも、あたしのPerson Of No Account は分からないわ」
「分かりたくもないわよ。さっさと、あたしの靴返してよ!」
 安祐美に幽霊らしさがないもんで、ついツッケンドンな物言いになってしまう。
「もう返してるわよ。あたしが意地悪したような目で見ないでよ」
 足許を見ると、両足のローファーが揃っていた。でも感覚的には、片足が裸足のままだ。
「え、どうして……?」
「あなたが、ちゃんとあたしに向き合ってくれていないから、靴の実感が戻ってこないの。一度幽霊が手にしたら共感してくれない限り靴の実感は、戻ってこないわ。靴は、ちゃんと履いているのよ」
「いいわ。ありがと。実感なくても、ちゃんと靴が履けてるんだから……って、なにこれぇ?」

 二三歩歩くと、違和感で歩けなくなった。

「実感が無いというのは、そういうこと。ポナも実の子同様に育てられてきたけど、血の繋がりが無いって分かって……拭いきれていないんでしょ。違和感」
「どうして、そんなこと……?」
「あの子が教えてくれたの」
 安祐美は、かなたの客席の入り口あたりを指さした。

 ……そこにはポチがいた!

「ポ、ポチ!」
「あの子は、ペンダントになっても、まだああやってあなたの傍から離れないの。あの子のお蔭、あなたとお話しできるのも」
「ポチ、こっちおいで! ポチ!」
 ポチは、ポナの傍に行きたがって尻尾を振って足踏みしているが、なにか見えないバリアーがあるように、そこからは近寄れなかった。

「ポチ!」

 客席に降りると、ポチの姿は消えてしまった。

「あたしを受け入れてくれたら、ポチは実体としてポナの傍に現れるわ」
「意地悪しないで!」
「意地悪じゃない。これはポナが作っている距離だから」
「あたしが……」

 ポナは、数歩無意識に安祐美に近づいた。

「あたし、三十六年前の三月三十一日に死んだの……もう一日遅ければ、世田女の学籍簿に載せてもらえたのにね。校長先生は入学式で、あたしの入学を宣言してくれたけど、あくまで名誉上のこと。学籍簿にも乗らない員数外。つまり、ポナ以上のPerson Of No Account なんだ」
「そうなんだ……」
「あたし、生きて入学出来たら軽音に入るつもりだった。うちは家族そろってJポップ好き。あたしは特にプリプリの大ファン……DIAMONDSだよ、霊柩車が出ていくときの曲。みんな涙ながらに歌ってくれてさ、あたしも棺桶の中で歌ってたよ……灰になるまで歌ってた……」
「そう……」

 気づくとポチが、すぐそばまでやってきていた。

「少し分かってくれたんだ。一つお願いしたいことがあるんだけど……」

 視線を戻すと安祐美は恋人だったらキスするような近さになっていた。

「!!……ち、近い(;'∀')」

 


ポナと周辺の人たち

父     寺沢達孝(59歳)   定年間近の高校教師
母     寺沢豊子(49歳)   父の元教え子。五人の子どもを、しっかり育てた、しっかり母さん
長男    寺沢達幸(30歳)   海上自衛隊 一等海尉
次男    寺沢孝史(28歳)   元警察官、今は胡散臭い商社員だったが、乃木坂の講師になる。
長女    寺沢優奈(26歳)   横浜中央署の女性警官
次女    寺沢優里(19歳)   城南大学社会学部二年生。身長・3サイズがポナといっしょ
三女    寺沢新子(15歳)   世田谷女学院一年生。一人歳の離れたミソッカス。自称ポナ(Person Of No Account )
ポチ    寺沢家の飼い犬、ポナと同い年。死んでペンダントになった。

高畑みなみ ポナの小学校からの親友(乃木坂学院高校)
支倉奈菜  ポナが世田谷女学院に入ってからの友だち。良くも悪くも一人っ子
橋本由紀  ポナのクラスメート、元気な生徒会副会長
浜崎安祐美 世田谷女学院に住み着いている幽霊

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かの世界この世界:72『ローゼンシュタッテンの儀』

2020-09-15 06:04:41 | 小説5

かの世界この世界:72     

 

『ローゼンシュタッテンの儀』   

 

 

 いつまでこのナリでいなければならないのだ……

 

 わたしとタングリスの思いは同じだ。

 夕べは試着と言うことで、ほんの十分ほどで解放されたが、今朝はプリンツェシン・ローゼンの降誕祭本番。

 顔を洗うと、すぐに昨夜のフランス人形のようなナリにされてしまった。

 ロキとケイトはハローウィンの仮装のように喜んでいる。ブリュンヒルデは日ごろのナイトメアの設定とは違う赤バラのドレスに戸惑いはあるが、まんざらでもない様子で、朝食のベーコンエッグにナイフを入れている。

「食べておかないと夕方までもたぬぞ」

「食べてからの着替えにしてほしかった」

「こう、コルセットを締め上げられては……レンジャーの訓練の方が百倍もましです……」

 タングリスの判断でパンは残すことにして、ベーコンエッグとサラダ、バナナ一本をなんとか胃袋に収めて本番に臨む。

 

 パパパパーン! パパパパーン! パパパパーン!!

 

 出迎えの時の三倍ほどの花火が上がって、パレードが始まった。

 そう広くもないローゼシュタットの町だが、時速二キロほどのバラの山車に乗って、にこやかに手を振っていると、けっこうな時間に感じられた。

 町の人たちは、わたしたちの衣装ほどではないが、色とりどりのバラをイメージした衣装で沿道に並び立ち、山車が目の前を通ると、そのままパレードに加わった。

 人々が喜んでいるというのは一種のエネルギーになるのだろう、パレードが広場に戻ってくるころには平気になってきた。

 

「それでは、本年のプリンツェシン・ローゼン、ブリュンヒルデ殿下によるローゼンシュタッテンの儀を執り行いまーす!」

 

 ミュンツァー町長が良く通る声で宣言すると、町の子どもたちによって五つのフラワーポッドが持ち込まれた。

「バラの花には、弱きもの悪しきものが一定の割合で咲いてしまいます。見かけは、どのように美しく華やかであろうと、シュタッテン、つまりは剪定いたしませんと、全体としては祝福の力が弱まります。そのシュタッテンを姫にお願いいたします」

 ゼイオン司祭が恭しく金の剪定ばさみを差し出した。

「あ、でも、どの花を切ってよいやら、わたしには分からぬが」

「鋏を構えていただければ分かります。むろん、司祭にして一級白魔導士であるわたしにも見えてはおりますが、聖人、あるいは王家の地を引く方が剪定しなければ効果がありません。さ、鋏を……」

「分かった……お、司祭の言う通りだ、黒く見える花が現れる……ん?」

「いかがなされました?」

「一株抜けているような……」

 町長が役人に、こっそりと聞いている。

「神聖花壇より運ぶ途中で取り落とし、埋め戻した時に抜けたようです。が、一株の事、どうぞ今見えているものをシュタッテンなさってください」

「分かった」

 

 ブリュンヒルデは、最初の一株を手に取ると、チョキンと音を立ててバラを選定し始めたのだった。

 

☆ 主な登場人物

―― かの世界 ――

  テル(寺井光子)    二年生 今度の世界では小早川照姫

 ケイト(小山内健人)  今度の世界の小早川照姫の幼なじみ 異世界のペギーにケイトに変えられる

 ブリュンヒルデ     無辺街道でいっしょになった主神オーディンの娘の姫騎士

 タングリス       トール元帥の副官 タングニョーストと共にラーテの搭乗員 ブリの世話係

 タングニョースト    トール元帥の副官 タングリスと共にラーテの搭乗員 ノルデン鉄橋で辺境警備隊に転属 

 ロキ          ヴァイゼンハオスの孤児

 ポチ          ロキたちが飼っていたシリンダーの幼体

―― この世界 ――

 二宮冴子  二年生   不幸な事故で光子に殺される 回避しようとすれば光子の命が無い

  中臣美空  三年生   セミロングで『かの世部』部長

  志村時美  三年生   ポニテの『かの世部』副部長 

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