魔法少女マヂカ・175
大正十四年だ……
ペンキの臭いも初々しい原宿駅舎を前にして呆然とした。
ほんの6カ月時を遡るつもりが97年も遡ってしまっている。
令和二年において解体が始まった原宿駅旧駅舎は97年前の大正14年に完成している。
「えーー! なんで、そんな昔に飛んでしまったの!?」
事態を呑み込んだノンコがやっと驚く。
「途中で手を離してしまっただろ」
「あ、そういやみんな居ない!」
「そこに遠心力が重なって、はるか97年前に飛ばされてしまったんだろ」
「じゃ、ほかのみんなは?」
「飛ばされたんだんだろうが、どこの時代か分からないよ」
「そんな……二人でもとの時代には戻れないの?」
「……ま、なんとかなるだろ」
あてがあるわけじゃないが、ノンコを不安がらせてもどうにもならない。
「せっかく完成したばかりの原宿駅があるんだ、見学していこう」
「うん(^▽^)/」
パニックにさせてはいけないので、余裕ぶって駅舎を見学する。
「自動改札じゃないんだね、改札ごとに駅員さんが立って……あ、券売機もない」
「乗車券は、外の窓口だ」
「どれどれ」
「こっちだ」
「あ、なんか宝くじ売り場みたい」
なるほど、令和の時代に対面販売は宝くじかパチンコの景品交換所ぐらいのものだものな。
「こういう壁と木材の半々の構造をハーフティンバー方式っていうんだ、原宿以外では日光とか奥多摩駅とか軽井沢の別荘なんかにも見られる洋式だ。まあ、この時代のモダンの先端だな」
「へえ、マジカって物知りなんだ」
「当たり前だ、この時代に……」
そこで言いよどんでしまった。
大正十四年なら、わたしは旧帝国陸軍の特務師団に所属していていた。つまり、この時代にはもう一人の魔法少女マヂカが存在している。
頭の片隅では、この時代の特務師団に連絡をとればという気持ちがあったが、もし、もう一人のわたしに出会ってしまったらどうなるか……予想が付かない。
最悪、過去の自分に出会ってしまえばタイムパラドクスに陥って、両方とも存在を失ってしまうかもしれない。失わずとも同じ磁極が反発するように別の時代や時空に飛ばされてしまうかもしれない。
それに、大正十四年は滅法忙しく帝都を中心に走り回っていたが、自分に出会ったという記憶がない。
つまり、この時代の魔法少女マヂカや特務師団の救けは得られないということ。
どうしよう……。
表情には出さずに思いあぐねていると、制服の裾をツンツン摘ままれた。
ん?
振り返ると、この時代には珍しい洋装のJS(女子小学生)がニコニコと見上げている。
「ん、きみは?」
「わたしよわたし」
「わたしって……」
「上野公園で会ったでしょ」
「あ……!」
「思い出した?」
そう、こいつはJS西郷だ!?