大橋むつおのブログ

思いつくままに、日々の思いを。出来た作品のテスト配信などをやっています。

せやさかい・168『耳をすませば』

2020-09-10 12:19:29 | ノベル

・168

『耳をすませば』    

 

 

 感動というのは伝染する。

 

 と言うのは、松任谷由実さんをディスった某大学のS先生のツイート。

 ちょっと騒ぎになったけど、それがきっかけで文芸部でジブリのアニメを観ることになったいうのんは言うたよね。

 最初に松任谷由実さんが主題歌を歌ってる『魔女の宅急便』を観ようと思たんやけど、ブルーレイが間に合ったのが『耳をすませば』やったんで、それをリビングの4K60インチで鑑賞。

『耳をすませば』は、主演:清野菜名 松坂桃李で実写映画化されるんで、まあ、話題性もあってね。

 わたしも留美ちゃんも観たことあるねんけど、銀ちゃん(夏目銀之助)は始めてやった。

 エンドロールが流れてお茶にしようかと思ったら、ソファーに座ったま銀ちゃんは固まってた。

「素敵です……」

「どないしたん、銀ちゃん?」

「先輩、今から図書館に行きましょう!」

「え?」

「学校以外の図書館は行ったことが無いんです」

「え、そうなの?」

 留美ちゃんが目をむく。

「必要な本は買ってました、図書館の本は不衛生ですから」

 たしかに図書館の本はくたびれてるのが多いけど、不衛生いう感じはなかった。留美ちゃんも、彼女には珍しく、ちょっと心外という顔になってる。

「でも、銀ちゃんは古本も買うんでしょ?」

「中古の本は消毒してありますし、小口のところなんかは削って新品同様にしてあります」

「え、そうなん?」

「はい、何カ月も棚ざらしになっている新刊書よりもきれいだったりします」

 そうか、ブックオフなんかで買った文庫本は微妙に小さかったりするのは削ってたからやねんなあ。新発見に感心する。

「でも、図書館の本を汚いって決めつけるのはどうかと思うわよ」

「あ、気に障ったらすみません。母が、そういう人だったんで自然に身に付いて。というか、図書館の本で、こんなドラマが生まれるって素敵なことだと思います」

「それで、図書館に行ってみたいというわけやねんな」

「でも、いまの図書館てニューアーク方式はとってないわよ」

「「ニューアーク?」」

「あ、本のカードに記録が残るやり方。今は、どこでもポスだから」

「ああ、レジみたいにピってやるやつ?」

「アニメが公開された時はすでにポスシステムだったけど、あの図書カードの方式じゃないとドラマが成立しないから」

「あ、そか、ポスだったら、雫は聖司とは出会わないもんね」

「それに、今から図書館行くと、帰りは夜になっちゃうよ」

「あ、中央図書館やもんな」

「じゃ、こんど」

「うん、いいわよ。わたしたちも去年初めて行ったんだけど、堺で一番の図書館だから、きっと感動よ!」

「はい、楽しみにしてます!」

「ほんなら、お茶にしようか」

「うん」

「あ、ぼくも手伝います」

「男は黙って座ってなさい」

「あ、でも……」

 

『あなたたちも座ってていいわよ』

 

 キッチンからおばちゃんの声がする、と思たら、ええ匂いのする紙袋持って現れる。

「ちょうど試作のパンケーキもらってきたところだから、試食してみてえ。とりあえず、パンケーキ」

「すみません」

「あら、これ『耳をすませば』じゃない」

「うん、文芸部で鑑賞会やってて、いま観終ったとこ」

「いやあ、なつかしいなあ。かけていい?」

「あ、どうぞうどうぞ、再生押したら頭から再生やさかい」

 おばちゃんはソファーの真ん中に腰を下ろして、観る気満々になってしもた。

「これね、諦念君と初めていっしょに観た映画だったのよ」

「え、おっちゃんと?」

「うん、ごめん桜ちゃん、お茶淹れてきてくれるぅ?」

「え、あ、はいはい」

 けっきょく、あたしと留美ちゃんでお茶を淹れることになる。

 あたしらは、おばちゃんらの恋バナが聞けるんちゃうかなあと、ちょっとウキウキしてきた。

 

コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

ポナの季節・30『ポナ チイネエの場合』

2020-09-10 06:15:31 | 小説6

・30
『ポナ チイネエの場合』
        


ポナ:みそっかすの英訳 (Person Of No Account )の頭文字をとった新子が自分で付けたあだ名


 あれは四年前、春一番が荒れ狂う夜の事だった。

「火事だ!」という叫びが、通り二つほど向こうから聞こえてきた。その時寺沢家は女しかいなかった。
 父の達孝を始め、長男の達幸も次男の孝史も家にはいなかった。仕事だったり家を離れて寄宿していた。
 優里は火事騒ぎをトイレの中で耳にして、母や姉妹よりも出遅れた。

 中学を卒業して、乃木坂学院への入学も決まって少しだらけた生活をおくっていたので、食べ過ぎと運動不足で便秘気味になり、おいそれとはトイレから出てこられなかった。
 やっとトイレから出て、今や消防自動車や救急車の音がけたたましくなったとき、火事場に急ごうとして、ふと姉の優奈と共用にしている部屋があきっぱで、机の上の書類が散乱したままになっていることに気づいた。
 姉の優奈は、この四月から警察学校に入学する。それに関する大事な書類であることがすぐに分かった。
「もう、大事な書類を……」

 優里は、部屋に入って書類が散乱しないように、辞書でも乗っけてやろうとして、それが目についた。
 戸籍謄本が開かれたまま。

 で、ごく自然に自分に関する記述が目に入った。

――養女――

 という単語が目に入った。
「うそ……あたし養女?」
 よく読むと、実母・吉岡優子となっている。吉岡というのは母の旧姓だ、で、優子というのは母の亡くなった妹。たった今まで叔母だと思っていた人だ。頭が混乱した。今年は、この叔母の……十七回忌にあたり、生涯独身で、両親も死別しているので、寺沢の家で法事をすることになっている。それが自分の母……地面が消えたように不安になった。

「見てしまったのね……」

 いつの間にか、母が後ろに立っていた。
「これ……どういうこと?」
 母は優里の肩を掴むと、自分の方に向かせた。
「優子は、結婚しないまま優里を生んだの。仕事が報道カメラマンだったから、優里を置いたまま中東の取材に行った」
「そこで死んだんだよね」
「ええ、車ごとミサイルで吹き飛ばされてカケラも残らなかった。生まれた時から、ほとんどうちに預けっぱなしだったから、そのままあたしたちの養女にしたの」
「じゃ、他の兄妹は、あたしのイトコってこと?」
「この際だから知っておいて欲しいんだけど、新子も養女なの……」
「……新子も?」
「優里は小さかったから、はっきりと覚えてはいないでしょうけど、ある日突然来たでしょ?」

 まだ四つにもなっていなかった優里には、突然新子という赤ちゃんが来たことしか記憶が無かった。妹だと言われたので、たった今まで実の妹と思っていた。新子は発育が悪く、小さなときはずっと母がつきっきりであった。かわいい妹なので、いっしょに遊んでいたかったが、保育所の年長になったころは優里にも自分の世界ができてしまい、新子には、あまり構ってやれなかった。

 小学校に入ったころからようやく発育が追いつき、新子は優里とは相似形と言っていいほど体格が似てきた。小学校の通学服から普段着まで優里のお古で間に合った。そういう相似形なところからも実の妹とだとずっと思っていた。

「新子の実のお母さんは? この名前には見覚えがないけど」
「……お父さんの教え子」
「え、まさかお父さん!?」
「ばかね。相手は未成年の高校生。両方の親が認めないんで乳児院に入れられるところを引き取ってきたのよ」
「新子には、いつ伝えるの?」
「そろそろだとは思うんだけど、事情が優里とは違うから……」

 そこに新子がポチを連れて戻って来た。

「すごいんだよ、大ネエが火の中に飛び込んでお婆ちゃん救けたの!」
「うそ! で、優奈は!?」
 母の顔色が変わった。

「大丈夫、ちょっと煤吸い込んじゃって、顔が黒くなっちゃったけど……」

 優奈が、鼻の穴を中心に真っ黒な顔をして戻って来た。
「あなたも病院に行かなくちゃ!」
 救急隊員が追いかけてきて、優奈をそのまま救急車に乗せてしまった。

 それから、寺沢家の重大問題は、長いインターバルに入った。

――へへ、準ミス世田谷女学院になっちゃった!――

 能天気な写メ付のメールが新子から来た。どうやら吹っ切れたようだ。優里は、少し軽い足取りで大学の校門を出たところだった。


ポナの周辺の人たち

父     寺沢達孝(59歳)   定年間近の高校教師
母     寺沢豊子(49歳)   父の元教え子。五人の子どもを、しっかり育てた、しっかり母さん
長男    寺沢達幸(30歳)   海上自衛隊 一等海尉
次男    寺沢孝史(28歳)   元警察官、今は胡散臭い商社員だったが、乃木坂の講師になる。
長女    寺沢優奈(26歳)   横浜中央署の女性警官
次女    寺沢優里(19歳)   城南大学社会学部二年生。身長・3サイズがポナといっしょ
三女    寺沢新子(15歳)   世田谷女学院一年生。一人歳の離れたミソッカス。自称ポナ(Person Of No Account )
ポチ    寺沢家の飼い犬、ポナと同い年。死んでペンダントになった。

高畑みなみ ポナの小学校からの親友(乃木坂学院高校)
支倉奈菜  ポナが世田谷女学院に入ってからの友だち。良くも悪くも一人っ子
橋本由紀  ポナのクラスメート、元気な生徒会副会長

コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

かの世界この世界:67『腹が鳴る』

2020-09-10 06:03:44 | 小説5

かの世界この世界:67     

 

『腹が鳴る』     

 

 

 ローゼシュタットに向かうには街道を西に外れる。

 

 西に外れるまでには宿場町が二つある。

 シュタインドルフを出てからベッドで寝たことが無いので、ホテルや軍の宿泊施設を横目に殺すのは努力がいった。

 燃料補給に立ち寄った補給処はちょうど昼食の準備中で、揚げ物のいい匂いがしていた。

「燃料補給が済めば、直ちに西に進路をとる。昼食は走行中にレーション(携行食糧)で済ませる」

 ブリュンヒルデの、ちょっとムキになった宣言は命令と言うよりは自分自身への戒めの響きがある。

 タングリスが車長にしたのは正解のようだ。ブリュンヒルデは与えられた立場によって変わっていく性格であるようなのだ。

 補給処の整備兵がエンジンとトランスミッションのチェックをしてくれて、予定よりも五分オーバーで出発。

 

 グーーーーーーーー

「あ~~揚げ物の匂いが離れないよ~」

 

 ロキが盛大にお腹を鳴らしながらグチる。

「あたしも……」

 歳が近いケイトも装填手シートでお腹を押さえている。

 この嗅覚的幻想が消えない限り大味なレーションを食べようという気にはならない。

 それにしても、この匂いはしつこい。恥ずかしながら唾が湧く。

「警戒を代わろう」

 半身を外に晒して警戒しているブリュンヒルデに声を掛ける。車内で腹の虫が鳴ってはみっともないのだ。

 身をよじってブリュンヒルデと交代……しようとしたら揚げ物の嗅覚的幻想が一段と強くなった。

「食べる余裕がなかったので調達してきた」

 操縦席から紙袋が差し出された。

 なんと、タングリスが人数分の揚げ物を、コッソリと仕入れていてくれていたのだ。

「いつのまに!?」

「停車するわけにはいかないが、食べてくれ」

 補給の間もタングリスは四号を離れていない、おそらくは、補給処の隊員とはツーカーの仲なのだろう。

 こういう気の利かせ方も含めてのコマンダーだということをブリュンヒルデに示しているのだろう。

「ローゼンシュタットの受け入れはいいのか?」

 揚げ物を受け取りながらブリュンヒルデが聞く。

「補給処の定時連絡で入れてもらっています、むろん暗号ですが。十マイルに差し掛かったところで、もう一度連絡、それは車長からお願いします」

「暗号でか?」

「これが暗号書です、ロキも勉強しておけ」

「オレも? うわー、なんだか数学の本みたいだ!」

 四号は、ローゼンシュタットを見下ろす峠に差し掛かろうとしていた……。

 

☆ ステータス

 HP:2500 MP:1200 属性:テル=剣士 ケイト=弓兵・ヒーラー

 持ち物:ポーション・35 マップ:4 金の針:20 所持金:500ギル(リポ払い残高80000ギル)

 装備:剣士の装備レベル10(トールソード) 弓兵の装備レベル10(トールボウ)

 憶えたオーバードライブ:ブロンズヒール(ケイト) ブロンズスプラッシュ(テル)

 

☆ 主な登場人物

―― かの世界 ――

  テル(寺井光子)    二年生 今度の世界では小早川照姫

 ケイト(小山内健人)  今度の世界の小早川照姫の幼なじみ 異世界のペギーにケイトに変えられる

 ブリュンヒルデ     無辺街道でいっしょになった主神オーディンの娘の姫騎士

 タングリス       トール元帥の副官 タングニョーストと共にラーテの搭乗員 ブリの世話係

 タングニョースト    トール元帥の副官 タングリスと共にラーテの搭乗員 ノルデン鉄橋で辺境警備隊に転属 

 ロキ          ヴァイゼンハオスの孤児

 ポチ          ロキたちが飼っていたシリンダーの幼体

―― この世界 ――

 二宮冴子  二年生   不幸な事故で光子に殺される 回避しようとすれば光子の命が無い

  中臣美空  三年生   セミロングで『かの世部』部長

  志村時美  三年生   ポニテの『かの世部』副部長 

コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする