大橋むつおのブログ

思いつくままに、日々の思いを。出来た作品のテスト配信などをやっています。

銀河太平記・008『修学旅行・8・取り返したあ!』

2020-09-13 07:43:58 | 小説4

・008

『修学旅行・8・取り返したあ!』   

 

 

 階段を下りて蔵前通に出た。ちょうど息せき切ったヒコが現れるのと同時だ。

「だ、だ……だいじょうぶか、ダッシュ!?」

「こっちの台詞だ、俺の後に付いて走って来るなんて無茶だぞ」

「お、オレの事はいい。パスポートは取り返したのか?」

「ああ、おとりを使ったりしやがったけど、このビルの屋上に逃げたのを追い詰めて取り返したところだ」

 パスポートをヒラヒラさせてやると、ヒコは安心して盛大な溜息を吐いてしゃがみ込んでしまった。

「よかったぁ……」

「ちょっと待ってろ」

 首を巡らせると、隣のビルの前に自販機があるのが目について、ウーロン茶のアイコンに手をかざす。

 ゴットン

 古典的な音がして、ウーロン茶のペットボトルが二つ転がり出る。

 今どきの自販機はレプリケーターで、商品は瞬時に仮想テーブルの上に現れるが、こいつは、中に貯蔵しておくと言う古典的なスタイルだ。これもアキバノスタルジーなのかもしれない。

「ほれ、まずは水分補給だ」

「すまん」

 俺は一気飲みだけど。ヒコは半分飲んで、あとはチビチビ。模範的な水分補給方だ。

 男同士、無駄なことは喋らない。

 この修学旅行を単独に近いグループ行動にしたのはヒコの尽力のおかげだ。

 ヒコは、扶桑星府若年寄・穴山新右衛門の息子だ。ふだん親の七光り的なことはめったにやらないが、今度の修学旅行では、メンバーの希望もあって、ちょっと無理をしている。だから、事故が起こったら真っ先に責任を問われる。そういう事故が起こらないように安全に気を配るのが俺の役割だと思っていたから、なんとも、この親友に申し訳が無い。

「いらん気遣いはよせ、女子のパスポートが盗られたら全力で対応するのは男の務めだ」

「おお、おれもそうだ」

 ヒコのプライドに関わることに多弁は禁物だ。オレは口が立たねえし、論じてるヒコも、ちょっと苦手だしな。

 

 ヒコのウーロン茶が残り四分の一になったころに、未来とテルがタクシーでやってきた。

 

「パ、パスポートは!?」

 タクシーから転がり出てきた未来情けない顔で迫って来る。

「ハハ、去年の文化祭でたこ焼き食い損ねたとき以来のヘタレ顔だな」

「茶化すなア!」

「あ、その顔かわいいぞ」

「殺すぞお!」

「ほれ、取り返したぞ」

 殺されてはかなわないので、パスポートを目の前に出してやる。

 ペチョ

 ウ!

 感極まって抱き付いてくるので二人の顔の間にパスポートが挟まれてしまう。

「パ、パスポートおおおおお! わたしのパスポートおおおおおおおおお! ありがと、ありがとダッシュううう!」

「う、抱き付くなあ(^_^;)、ヨダレが付くう!」

「だって、だって……」

「ちょ、かしなしゃい」

 テルが俺と未来を隔てているパスポートを、ヒョイと取り上げる。おかげで未来の涙とヨダレがまともについてかなわねえ。

「……これ、にしぇものだわよさ」

「「「え!?」」」

 そ、そんな……

 

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ポナの季節・33『Person Of No Account ②』

2020-09-13 06:02:43 | 小説6

・33
『Person Of No Account ②』
     


ポナ:みそっかすの英訳 (Person Of No Account )の頭文字をとった新子が自分で付けたあだ名



 ギギー……

 悪魔の歯ぎしりのような音をたてて旧講堂の裏口が開いた。

「すごい、ホントに開いた!」
 合鍵を持ち出した由紀がびっくりした。
「生徒会って、学校中の合鍵持ってるんだね……」
「昔のはね、新しくオートロックになったとこは、お手上げだけどね」

 生徒会は、学校に内緒で学校中の合鍵……正確には合鍵のスペアを持っている。何十年前の生徒会役員に鍵屋の娘がいて、そのときに作ったもので、顧問にも内緒で歴代の生徒会長と副会長にだけ伝えられてきたものだ。たいがいの校舎が建て変わったりオートロックになってしまったので、実質使えるのは、この旧講堂といくつかの倉庫だけになっていて、もう二十年以上使われたことがなかったが、半信半疑でトライしたら、本当に開いてしまった。

「ウ……かび臭い」
「……何年も開けてないんだね。窓開けようか?」
 奈菜がスカタンを言う。
「開けたら、秘密で入ってるの丸わかりじゃんよ!」

 裏口は、そのまま舞台のソデに繫てっている。目が慣れるとカーテンの隙間から差し込んでくる梅雨時の鈍い光でも様子が分かるようになってきた。ポナは持ってきた大型の懐中電灯で、あたりを照らしてみた。

 舞台の上は、何かの儀式のときのように、演壇や色あせた金屏風がそのままになっていた。客席はガランとした特大の洞穴のようで、LEDの懐中電灯でも全体を明るく照らすことはできない。LEDの明るさで、かえって光が届かないところの闇が際立った。

 三人の好奇心娘は、勇をフルって客席に降りてみた。

「やっぱりね……」
 LEDにてらされた舞台の上には『第九十九回入学式』と書かれた横断幕が、少し傾いてぶら下がっていた。
「九十九回ってことは……あたしたちの二十六年前か……」

 三人は、古参の技能員さんの話を思い出していた。

「九十九回目の入試でね、合格した後事故で亡くなった子がいるんだよ。よほど入学に未練があったんだろうね……入学式の後片付けをしようとすると、必ず怪我人が出るんだ。で……客席の、ちょうど新入生の席のところに新品の制服着たお下げの女の子が、瞬間見えるんだ。それで、建て替えも決まって、新しい講堂ができたし、ずっとそのまま……ちょうどバブルがはじけちまって、取り壊しは繰り延べ。やっとこの秋に取り壊しが決まったんだけどね、時々姿は見えないけど出るんだよ。体育や行事で人数数えると一人多いんだ……そうか、君らの授業でも出たんだね……」

「入学する前に死んだってことは……定員に入ってないのよね」
「式の直前だったんで補欠入学も間に合わなくって、その学年は、ずっと欠員一名のままだったんだって」
「その子は、ずっと数に入れてもらえなかったのね……」

 その時、客席の前の方に、新しい制服でお下げ髪の後姿が浮かび上がった……。

 で…………出たああああああああああ!!

 

ポナの周辺の人たち

父     寺沢達孝(59歳)   定年間近の高校教師
母     寺沢豊子(49歳)   父の元教え子。五人の子どもを、しっかり育てた、しっかり母さん
長男    寺沢達幸(30歳)   海上自衛隊 一等海尉
次男    寺沢孝史(28歳)   元警察官、今は胡散臭い商社員だったが、乃木坂の講師になる。
長女    寺沢優奈(26歳)   横浜中央署の女性警官
次女    寺沢優里(19歳)   城南大学社会学部二年生。身長・3サイズがポナといっしょ
三女    寺沢新子(15歳)   世田谷女学院一年生。一人歳の離れたミソッカス。自称ポナ(Person Of No Account )
ポチ    寺沢家の飼い犬、ポナと同い年。死んでペンダントになった。

高畑みなみ ポナの小学校からの親友(乃木坂学院高校)
支倉奈菜  ポナが世田谷女学院に入ってからの友だち。良くも悪くも一人っ子
橋本由紀  ポナのクラスメート、元気な生徒会副会長

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かの世界この世界:70『ローゼンシュタット・3』

2020-09-13 05:51:28 | 小説5

かの世界この世界:70     

 『ローゼンシュタット・3』    

 

 

 プリンツェシン・ローゼンの降誕祭にやってきたのは偶然だ。

 

 ノルデン鉄橋を通過する装甲列車が擱座して通行不能となり、ムヘンの首邑ムヘンブルグとムヘン最大の港湾都市ノルデンハーフェンを結ぶ街道はグスタフで途切れてしまい、街道上の宿場は足止めを食らった隊商や旅人で一杯になってしまった。

 やむなく街道を逸れた町か村で泊らざるを得なくなり、広げた地図で、たまたま見つけたのがローゼンシュタットだったのだ。

 見つけたのが、気まぐれ姫のブリュンヒルデなのだから、深慮遠謀などあるはずもない。

 それが、ローゼンシュタットの司祭で老白魔導士でもあるゼイオン・タングステンの予言通りで、横断幕やら迎賓館まで用意しての歓待ぶりだ。

「なにか隠していることはないのか?」

 歓迎レセプションが終わった後、迎賓館の庭にタングリスを連れ出して聞いてみた。

「無いと思うが」

「オーディンに会いに行くのは、オーディンとブリュンヒルデの間に確執……話し合わなければならないことがあるからなんだよな?」

「さすがはテルキ、ポイントを絞った質問だな」

「なんなんだ、その確執とは?」

「それは……意見が合わぬからなのだ」

「なにについての意見だ?」

「言えぬ」

「なあ、これから長い旅になりそうだ。できるだけ、信頼関係をもって旅をしたいじゃないか、思わないか?」

「思うよ。思うし、あんたのこともケイトのことも支持てはいるんだ」

「だったら……」

「ここで、あんたに分かりやすく説明することはできるんだが、それでは一面しか説明したことにしかならないんだ。そういう浅い理解は有害でさえある」

「しかし……」

「たとえばだ……」

 すると、戦車兵用の手袋を外して、ちょうど目の前のバラの花に止まった蝶々に手を伸ばす。見かけの割に男勝りのタングリスだが、こういう仕草は意外に女性的だ。

「蝶々の説明をしたいのに、目の前にいるのは毛虫だったとしろ。説明を受けているあんたは蝶々を見たこともないとしろ。毛虫の説明をしても蝶々のイメージは分からないだろう、毛虫の説明をいくらしても本質である蝶々からは離れていくばかりだ。もし、蝶々の姿が見たいなら、もう少し我々に付き合ってくれ」

「蝶々ね……そんなふうにはぐらかすあんたは、可愛くないよ」

「ハハハ、これでもトール元帥の副官を務める軍人だからな」

「もう一つ聞いていいか?」

「答えられることならな」

 蝶々を離してやると、タングリスはわたしに向き直った。

「グスタフからこっち、クリーチャーには出くわさないんだが?」

「じつはな……クリーチャーと共生しようという奴らが居るんだ」

「クリーチャーと?」

「ああ、テルキ、あんたらがこの世界に来て出会ったクリーチャーはほんの一部だ。説明は難しいが、この世界にはいろんなクリーチャーが居る。そのクリーチャーと対決するんじゃなくて共生しようと言うんだ」

「クリーチャーとか~?」

「他にも事情はあるんだが、そいつらが、力で我々を……オーディーンの秩序を破壊しようとしている。その戦いがあるんだ」

 

 タングリス殿ーーーーぉ!

 

 迎賓館の方で呼ばわる声がして、ヒョイと肩をすくめて、タングリスは大股で行ってしまった。

 

 すぐに戻るのも億劫だ。

 ふと見上げた夜空には恐ろしいほどクリアーな月が浮かんでいる。

 そう言えば、マジマジ月を見ることなど久しぶり……思わず見入ってしまった。

 

☆ ステータス

 HP:2500 MP:1200 属性:テル=剣士 ケイト=弓兵・ヒーラー

 持ち物:ポーション・35 マップ:4 金の針:20 所持金:500ギル(リポ払い残高80000ギル)

 装備:剣士の装備レベル10(トールソード) 弓兵の装備レベル10(トールボウ)

 憶えたオーバードライブ:ブロンズヒール(ケイト) ブロンズスプラッシュ(テル)

 

☆ 主な登場人物

―― かの世界 ――

  テル(寺井光子)    二年生 今度の世界では小早川照姫

 ケイト(小山内健人)  今度の世界の小早川照姫の幼なじみ 異世界のペギーにケイトに変えられる

 ブリュンヒルデ     無辺街道でいっしょになった主神オーディンの娘の姫騎士

 タングリス       トール元帥の副官 タングニョーストと共にラーテの搭乗員 ブリの世話係

 タングニョースト    トール元帥の副官 タングリスと共にラーテの搭乗員 ノルデン鉄橋で辺境警備隊に転属 

 ロキ          ヴァイゼンハオスの孤児

 ポチ          ロキたちが飼っていたシリンダーの幼体

―― この世界 ――

 二宮冴子  二年生   不幸な事故で光子に殺される 回避しようとすれば光子の命が無い

  中臣美空  三年生   セミロングで『かの世部』部長

  志村時美  三年生   ポニテの『かの世部』副部長 

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