銀河太平記・008
階段を下りて蔵前通に出た。ちょうど息せき切ったヒコが現れるのと同時だ。
「だ、だ……だいじょうぶか、ダッシュ!?」
「こっちの台詞だ、俺の後に付いて走って来るなんて無茶だぞ」
「お、オレの事はいい。パスポートは取り返したのか?」
「ああ、おとりを使ったりしやがったけど、このビルの屋上に逃げたのを追い詰めて取り返したところだ」
パスポートをヒラヒラさせてやると、ヒコは安心して盛大な溜息を吐いてしゃがみ込んでしまった。
「よかったぁ……」
「ちょっと待ってろ」
首を巡らせると、隣のビルの前に自販機があるのが目について、ウーロン茶のアイコンに手をかざす。
ゴットン
古典的な音がして、ウーロン茶のペットボトルが二つ転がり出る。
今どきの自販機はレプリケーターで、商品は瞬時に仮想テーブルの上に現れるが、こいつは、中に貯蔵しておくと言う古典的なスタイルだ。これもアキバノスタルジーなのかもしれない。
「ほれ、まずは水分補給だ」
「すまん」
俺は一気飲みだけど。ヒコは半分飲んで、あとはチビチビ。模範的な水分補給方だ。
男同士、無駄なことは喋らない。
この修学旅行を単独に近いグループ行動にしたのはヒコの尽力のおかげだ。
ヒコは、扶桑星府若年寄・穴山新右衛門の息子だ。ふだん親の七光り的なことはめったにやらないが、今度の修学旅行では、メンバーの希望もあって、ちょっと無理をしている。だから、事故が起こったら真っ先に責任を問われる。そういう事故が起こらないように安全に気を配るのが俺の役割だと思っていたから、なんとも、この親友に申し訳が無い。
「いらん気遣いはよせ、女子のパスポートが盗られたら全力で対応するのは男の務めだ」
「おお、おれもそうだ」
ヒコのプライドに関わることに多弁は禁物だ。オレは口が立たねえし、論じてるヒコも、ちょっと苦手だしな。
ヒコのウーロン茶が残り四分の一になったころに、未来とテルがタクシーでやってきた。
「パ、パスポートは!?」
タクシーから転がり出てきた未来情けない顔で迫って来る。
「ハハ、去年の文化祭でたこ焼き食い損ねたとき以来のヘタレ顔だな」
「茶化すなア!」
「あ、その顔かわいいぞ」
「殺すぞお!」
「ほれ、取り返したぞ」
殺されてはかなわないので、パスポートを目の前に出してやる。
ペチョ
ウ!
感極まって抱き付いてくるので二人の顔の間にパスポートが挟まれてしまう。
「パ、パスポートおおおおお! わたしのパスポートおおおおおおおおお! ありがと、ありがとダッシュううう!」
「う、抱き付くなあ(^_^;)、ヨダレが付くう!」
「だって、だって……」
「ちょ、かしなしゃい」
テルが俺と未来を隔てているパスポートを、ヒョイと取り上げる。おかげで未来の涙とヨダレがまともについてかなわねえ。
「……これ、にしぇものだわよさ」
「「「え!?」」」
そ、そんな……