大橋むつおのブログ

思いつくままに、日々の思いを。出来た作品のテスト配信などをやっています。

銀河太平記・011『修学旅行・11・九段坂』

2020-09-28 12:36:30 | 小説4

・011

『修学旅行・11・九段坂』   

 

 

 江戸時代は九段坂から海が見えたという。なんだかお伽話のようだ。

 

 その九段坂を見下ろす大鳥居の脇に立っていると、坂道の両脇が人の海のようになっている。

 東京から見ればド田舎と言っていい火星からやってきたので、人が大勢いるという状況そのものがお伽話のようだ。

「アキバの人出もすごかったけど、ここは、もっとすごいわね!」

「持ち物には気を付けろよ、もう追いかけっこはたくさんだからな」

「失礼ね、もう、あんなドジはしないわよ」

「わたしも注意してゆし、だいじょうぶなのよさ」

「陛下がご参拝になるんだ、警備も厳重だし、めったなことはないだろう」

「ヒコの言う通りよ、天皇陛下の車列に狼藉を働いた者は三百年前の虎ノ門事件以来ないわよ」

「おまえ、虎の門事件なんて知ってんのか?」

「いちおうね、テルといっしょに調べてみたの、天皇や皇族方が参加される行事のセキュリテー記録。ほかの国家的行事にくらべて事件や事故は、すんごく少ないの」

「それは言えてるだろうな、扶桑でも将軍御隣席の行事関係では犯罪率が低くなる傾向がある」

「でも、ほんとに気を付けろよ」

「だいじょうぶ、いつもとは違うとこにしまってるし」

「腹にでも巻いてるのか?」

「へへ、ここよ」

「う」

 未来が胸を押えて、思わずガン見してしまう。

「わ、なに赤くなってんのよ!」

「なってねえよ!」

「あははは」

「お、おちょくるな(-_-;)」

 俺たちは小学生のように興奮している。

 

 おれたち火星人と月人は大鳥居近くのスペースを与えられている。

 あ、火星人てのは一世紀前から移住した火星居留民のことだ。とっくに独立して、俺たち日本出身の者はアルカディア平原に扶桑政府を作っている。

 扶桑というのは昔の日本の美称だ。大東亜戦争の時代に戦艦扶桑というのがあった。国産初の超ド級戦艦で、進水式の時に扶桑と命名された。言ってみりゃ戦艦日本と呼ぶのと同じで、政府も海軍も国民も、それだけ大事大切に思ったってことだ。

 俺たちの先祖は火星に永住すると決めた時、自分たちのベースを扶桑と名付け、五十年前の独立で、扶桑を国名として受け継いだ。

 政体は立憲君主国で、元首は将軍(正式には征夷大将軍)だ。

 今上陛下の二代前から日本では女性天皇を立てようという動きが盛んだった。

 王位や皇統を巡っての争いは世の乱れの元になる。

 そこで男系継承なら皇位に付くであろうと言われてきた、その名も扶桑宮さまは、自分から望まれて火星開拓団の一員となられた。火星のベースが扶桑と名付けられたのは扶桑宮に由来……かどうかは、当の宮さまが否定なさって居られるので曖昧のままだ。

 扶桑政府樹立の時に、日本政府に働きかけて、宮さまは徳川慶喜以来廃止されていた征夷大将軍の宣下を受けられた。

 自ら火星開拓の先頭に立って扶桑国の求心力になるとさるとともに、自分は日本の皇位継承者からは外れることを内外に示されたのだ。

 普段は意識しない扶桑のことをあれこれ思ってしまうのは、そういう歴史的配慮をした火星人への配慮が、鳥居横と言う特等席の用意に繋がっているのだと思ったからだろう。

 ウワーーー

 潮騒にも似た歓声が九段下の方から湧き上がってきた。

 いよいよ陛下の車列が見えてきたようだ……。

 

 ※ この章の主な登場人物

大石 一 (おおいし いち)    扶桑第三高校二年、一をダッシュと呼ばれることが多い

穴山 彦 (あなやま ひこ)    扶桑第三高校二年、 扶桑政府若年寄穴山新右衛門の息子

緒方 未来(おがた みく)     扶桑第三高校二年、 一の幼なじみ、祖父は扶桑政府の老中を務めていた

平賀 照 (ひらが てる)     扶桑第三高校二年、 飛び級で高二になった十歳の天才少女

 ※ 事項

扶桑政府   火星のアルカディア平原に作られた日本の植民地、独立後は扶桑政府、あるいは扶桑幕府と呼ばれる

 

 

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ポナの季節・47『ちょっといいかな』

2020-09-28 05:59:40 | 小説6

・47
『ちょっといいかな』
    
  

ポナ:みそっかすの英訳 (Person Of No Account )の頭文字をとって新子が自分で付けたあだ名



「ちょっといいかな」

 これは、日本においては、相手との関係性を深化させるための常套句で、日本中で一日に何千万回と使われている。
 むろん相手によって反応は異なる。
 友だち同士なら「え、なに?」と気楽に人の、主に悪口を中心とした噂話になったり。お巡りさんだったら職務質問の枕詞で、こちらにヤマシサがなければ普通に答える。母親なら、なにか用事をたのまれる前兆。親父なら、一般的に説教の前兆……とかね。

 今日、ポナは、この「ちょっといかな」を二回も聞いてしまった。

「ちょっといいかな」の最初は吉岡あかね先生である。
「ほんの三十分ほど観て欲しいものがあるんだけど」
 放課後のピロティーで気軽に声をかけられた。
「「いいですけど」」
 由紀と奈菜がいっしょだったので、互いにチラ見して、お気楽に返事した。
 で、玄関わきの相談室に入ると、鈴木友子がいた。父達孝の公立と違って、掃除も設備も行き届いていた。その行き届いた設備が、ある状態にしてある。
「じゃ、いくわね」
 程よい冷房、締め切った暗幕、目の前のスクリーンがわりのホワイトボードにプロジェクターとパソコン。

 いきなり『アルプスの少女ハイジ』のテーマ曲が流れて画面の中の緞帳が開く。

 ほとんど女の子一人の芝居。

『クララ ハイジを待ちながら』というロゴが入っていて女の子がクララであると察せられる。
 このクララは、ハイジとオンジのお蔭で立つようになれたあとのクララの話し。
 立てるようになっただけで、しばらくは人生バラ色だったが、やがて学校にいくと意に沿わないことが多く、クララは明るく元気に不登校をつづけている。一日の大半を同じ不登校の女の子とのチャットで潰している。相手の女の子のハンドルネームは「あなた」であり、観客は、いつのまにかクララが自分に語り掛けてくるように思える。
 途中シャルロッテという新人のメイドがチラリと出てくる。ロッテンマイヤーさんの声も、時々する。

 大阪の天〇寺商業という学校の演劇部が、数年前に上演したのをYouTubeから拾ってきたものらしい。そんなに上手い演技ではないけど、一生懸命さと、ストーリーと台詞の面白さは、はっきり分かった。

「どうかな、これをアゴダ劇場で演ろうと思うんだけど、シャルロッテとロッテンマイヤーさんをやってもらえないかな……」

 由紀は生徒会があるので、自動的に奈菜とポナが引き受けることになってしまった。
 新入りの常勤講師とはいえ、先週初顔合わせのときに人間関係ができてしまっている。それにクラスメートにして唯一の演劇部員である鈴木友子に、すがり付くような目で見られては断れるものではない。ま、ほんのチョイ役だし……と思い直すポナであった。

 二度目の「ちょっといいかな」は、帰りの電車の中だった。

 知らない(相手はポナをよく知っているが)修学院の男子生徒だった。
「よかったら、この手紙読んで!」
 顔を真っ赤にして手紙を押し付けると、ちょうど停まった駅で、そそくさと降りてしまった。
 駅に着いてから、歩きながら手紙を読んだ。
「……バカじゃない?」

 手紙には「付き合ってください。蟹江大輔」とだけあった。



ポナの周辺の人たち

父     寺沢達孝(59歳)   定年間近の高校教師
母     寺沢豊子(49歳)   父の元教え子。五人の子どもを、しっかり育てた、しっかり母さん
長男    寺沢達幸(30歳)   海上自衛隊 一等海尉
次男    寺沢孝史(28歳)   元警察官、今は胡散臭い商社員だったが、乃木坂の講師になる。
長女    寺沢優奈(26歳)   横浜中央署の女性警官
次女    寺沢優里(19歳)   城南大学社会学部二年生。身長・3サイズがポナといっしょ
三女    寺沢新子(15歳)   世田谷女学院一年生。一人歳の離れたミソッカス。自称ポナ(Person Of No Account )
ポチ    寺沢家の飼い犬、ポナと同い年。死んでペンダントになった。

高畑みなみ ポナの小学校からの親友(乃木坂学院高校)
支倉奈菜  ポナが世田谷女学院に入ってからの友だち。良くも悪くも一人っ子
橋本由紀  ポナのクラスメート、元気な生徒会副会長
浜崎安祐美 世田谷女学院に住み着いている幽霊
吉岡先生  美術の常勤講師、演劇部をしたくて仕方がない。
佐伯美智  父が顧問をする演劇部の部長

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かの世界この世界:85『ボルガの船曳』

2020-09-28 05:45:10 | 小説5

かの世界この世界:85

『ボルガの船曳』    

 

 

 まるでボルガの船曳だ。     ヴォルガの船曳き - Wikipedia   

 

 主神オーディンの娘にしてヴァルキリアの主将! 堕天使の宿命を背負いし漆黒の姫騎士たるブリュンヒルデが……なんでこんなことをせねばならんのだあああああ!

 わたしのツインテールを二股の四つに分けて、それを我が下僕ともリトルデーモンとも呼べる者ども、タングリス、テル、ケイト、ロキに持たれ……ま、それは見ようによっては我が魔力、我が威光にひれ伏す者どもを導いているようにも見えないでもない。

 しかし。

 その麗しき二股ツィンテールの上に石化した町長を載せて引っ張っている姿は、まるでボルガの船曳だ!

 知っているか、ボルガの船曳!?

 帝政ロシアのころ、ボルガ川を遡上する船を引っ張っていた人足たち。

 数人から数十人の人足たちが、船の舳先から延ばしたロープを牛か馬のように肩や頭に掛けて、お頭の音頭に合わせて――エイコーラ エイコーラ もーひとーつエイコーラ――って船を川上に引っ張っていくんだ。あの奴隷みたいにこき使われたボルガの船曳を彷彿とさせる姿だ!

 こんなことをやるなら、父オーディンに命ぜられたままムヘンで幽囚の身であった方がよっぽどマシと思う。

 並のツィンテールならば、バリバリと頭の皮ごと持っていかれてしまっていただろう。

 

 エイコーラ…………エイコーラ…………

 

「その歌唄うなあああ!」

「自然と出てきてしまう」

「ジト目こわ~い」

「ジト目とはなんだ! この体勢で振り返ることもできないんだぞーー!」

「背中でジト目が分かるしい」

 ケイトとロキが好き放題を言う。タングリスは気づかないふりをして、テルは笑いをこらえているのも癪に障る。

「峠を越えました、木の間隠れに泉が見えます!」

「わ、分かってる……」

 タングリスの言いようは、子どものころにお八つを欲しがってむずかるわたしをなだめた婆やにソックリだ。

 くそ……無性にお腹のすく性質で、お昼を食べて三十分もするとお八つを欲しがるわたしに「ほら、あの時計の針が五センチも下がればお八つでございますよ」となだめおった。

「五センチとはどのくらいじゃ?」

「ほんの、これくらいでございますよ」

 そう言って指を広げて見せおった。あの時の婆やのオタメゴカシを思い出してしまう。

「ブリ、がんばれ! がんばれ、ブリ!」

 人間の姿になったポチが、目の前を飛びながら励ます。

 ポチは健気なもので、その三十センチにも満たない体に紐を町長の首と自分の肩に結び付けて引っ張っている。

 この健気さがなければ、右手の先をハエたたきにして叩き落しているところだぞ!

「がんばれ、ブリ!」

「ブリブリゆーな! 我はオーディンの娘にして堕天使の筆頭たるブリュンヒルデなるぞおおお!」

「あ、MPが戻った!」

 ケイトが嬉しそうに叫ぶ。ケイトのMPは歩くと回復するようだ。

「町長をリペアしながら行けるじゃないか!」

「それなら四号を持ってこいいいいい」

「四号を取りに戻っている間に泉にたどり着けます」

 タングリスは容赦がない……クソ!

 

 そうしてニ十分。ようやくエスナルの泉についた。

 

「姫の御髪を戻してさしあげろ」

 タングリスの一声で、石化した町長を下ろし、頭皮ごと抜ける寸前の髪を解放してくれた。

「ウ、ウワーーーー!」

 姫! ブリ! ブリュンヒルデ! 

 みんなが叫ぶ!

 急にツインテールの負荷が無くなったので、わたしは前のめりのまま泉に突進して飛び込んでしまった。

 

 ドッポーーーーン!

 

☆ ステータス

 HP:6000 MP:3000 属性:テル=剣士 ケイト=弓兵・ヒーラー

 持ち物:ポーション・55 マップ:6 金の針:0 所持金:500ギル(リポ払い残高35000ギル)

 装備:剣士の装備レベル15(トールソード) 弓兵の装備レベル15(トールボウ)

 技: ブリュンヒルデ(ツイントルネード) ケイト(カイナティックアロー)

 白魔法: ケイト(ケアルラ) 

 オーバードライブ: ブロンズスプラッシュ(テル) ブロンズヒール(ケイト)

☆ 主な登場人物

―― かの世界 ――

  テル(寺井光子)    二年生 今度の世界では小早川照姫

 ケイト(小山内健人)  今度の世界の小早川照姫の幼なじみ 異世界のペギーにケイトに変えられる

 ブリュンヒルデ     無辺街道でいっしょになった主神オーディンの娘の姫騎士

 タングリス       トール元帥の副官 タングニョーストと共にラーテの搭乗員 ブリの世話係

 タングニョースト    トール元帥の副官 タングリスと共にラーテの搭乗員 ノルデン鉄橋で辺境警備隊に転属 

 ロキ          ヴァイゼンハオスの孤児

 ポチ          ロキたちが飼っていたシリンダーの幼体 82回目に1/6の人形に擬態

―― この世界 ――

 二宮冴子  二年生   不幸な事故で光子に殺される 回避しようとすれば光子の命が無い

  中臣美空  三年生   セミロングで『かの世部』部長

  志村時美  三年生   ポニテの『かの世部』副部長 

 

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