転校してきた、その日にあだ名が付いた。
そのことが大きい。わたしは「敷島絶子(しきしまたえこ)」としてよりは「ぜっさん」で通っている。
「わー、絶賛新発売やてーーーー!」
食堂で新発売のサンドイッチに「絶賛新発売」のポップが踊っていたので、瑠美奈が囃し立てたことを懐かしく思い出す。
サンドイッチのポップが面白いんじゃない、まして、わたしが自分の才覚や人としての魅力で受け入れられたのでもない。
瑠美奈や藤吉が、そうとは意識しないで仲間にしてくれたから、クラスに溶け込めている。
要ちゃんと話していて、そのことがよく分かった。
「わたしの魅力とか力とかじゃないのよ、みんなクラスの友だちの方から寄ってきてくれて、あ、例えばね……」
そんな風な言い方をしているうちに、自分で思っている以上に瑠美奈たちの存在の大きさを感じてしまった。
もし他の学校、ううん、他のクラスに入れられていたら、要ちゃん同様に「とけこめない」と悩んでいたかもしれない。
「でも、そんな風に友だちが構ってくれるのも、敷島さんに魅力があるからですよ!」
要ちゃんは熱っぽく語る。お世辞じゃないことは、話すにつれて豊かになっていく表情からでも分かる。
プロムナードは、そもそも校舎の陰。その上校舎と塀の間にあるせいか、弱いビル風みたいなのが吹いていて、思いのほか涼しい。
だのに要ちゃんのオデコと鼻の頭には汗が粒になっている。少なくとも、この瞬間は、勇気を出して、わたしに話しかけたことでハイになっているようだ。
こんな感じでクラスメートに接すれば、きっと友だちもできるんだろうけど、単に「やってみれば」というのは無責任だろうと思う。
「魅力がある人の傍に居れば、あたしも少しは変われるんじゃないかと思うんです!」
うーーーーーん、正論ではあると思うけど、わたしのことを買いかぶり過ぎている。
その時、スマホが鳴った。
「あ、ごめんなさい」
表示を見ると瑠美奈からだった。
――ぜっさん、明日からホワイトピナフォー! 憶えてた!?――
「もち、覚えてるわよ……って、瑠美奈忘れてた?」
――そ、そんなわけあれへんやんか! ハハ、覚えてたらええねん。ほんなら!――
電話の向こうで毒島さんの声がした。どうやら忘れていたのは瑠美奈のようだ。
「あ、そうだ。わたし明日からメイド喫茶でバイトするの。日本橋のホワイトピナフォーってお店、5時には上がれるから4時過ぎくらいに来てみない?」
「え、いいんですか!?」
要ちゃんの目が、ひと際キラキラ輝いた。
主な登場人物
敷島絶子 日本橋高校二年生 あだ名はぜっさん
加藤瑠美奈 日本橋高校二年生 演劇部次期部長
牧野卓司 広島水瀬高校二年生
藤吉大樹 クラスの男子 大樹ではなく藤吉(とうきち)と呼ばれる
妻鹿先生 絶子たちの担任
毒島恵子 日本橋高校二年生でメイド喫茶ホワイトピナフォーの神メイド