大橋むつおのブログ

思いつくままに、日々の思いを。出来た作品のテスト配信などをやっています。

ぜっさん・17『要ちゃん』

2020-09-02 06:21:08 | 小説3

・17 
『要ちゃん』   


 

 転校してきた、その日にあだ名が付いた。

 そのことが大きい。わたしは「敷島絶子(しきしまたえこ)」としてよりは「ぜっさん」で通っている。


「わー、絶賛新発売やてーーーー!」
 食堂で新発売のサンドイッチに「絶賛新発売」のポップが踊っていたので、瑠美奈が囃し立てたことを懐かしく思い出す。
 サンドイッチのポップが面白いんじゃない、まして、わたしが自分の才覚や人としての魅力で受け入れられたのでもない。
 瑠美奈や藤吉が、そうとは意識しないで仲間にしてくれたから、クラスに溶け込めている。

 要ちゃんと話していて、そのことがよく分かった。

「わたしの魅力とか力とかじゃないのよ、みんなクラスの友だちの方から寄ってきてくれて、あ、例えばね……」
 そんな風な言い方をしているうちに、自分で思っている以上に瑠美奈たちの存在の大きさを感じてしまった。
 もし他の学校、ううん、他のクラスに入れられていたら、要ちゃん同様に「とけこめない」と悩んでいたかもしれない。

「でも、そんな風に友だちが構ってくれるのも、敷島さんに魅力があるからですよ!」

 要ちゃんは熱っぽく語る。お世辞じゃないことは、話すにつれて豊かになっていく表情からでも分かる。
 プロムナードは、そもそも校舎の陰。その上校舎と塀の間にあるせいか、弱いビル風みたいなのが吹いていて、思いのほか涼しい。
 だのに要ちゃんのオデコと鼻の頭には汗が粒になっている。少なくとも、この瞬間は、勇気を出して、わたしに話しかけたことでハイになっているようだ。
 こんな感じでクラスメートに接すれば、きっと友だちもできるんだろうけど、単に「やってみれば」というのは無責任だろうと思う。
「魅力がある人の傍に居れば、あたしも少しは変われるんじゃないかと思うんです!」
 
 うーーーーーん、正論ではあると思うけど、わたしのことを買いかぶり過ぎている。

 その時、スマホが鳴った。

「あ、ごめんなさい」
 表示を見ると瑠美奈からだった。
――ぜっさん、明日からホワイトピナフォー! 憶えてた!?――
「もち、覚えてるわよ……って、瑠美奈忘れてた?」
――そ、そんなわけあれへんやんか! ハハ、覚えてたらええねん。ほんなら!――
 電話の向こうで毒島さんの声がした。どうやら忘れていたのは瑠美奈のようだ。

「あ、そうだ。わたし明日からメイド喫茶でバイトするの。日本橋のホワイトピナフォーってお店、5時には上がれるから4時過ぎくらいに来てみない?」
「え、いいんですか!?」

 要ちゃんの目が、ひと際キラキラ輝いた。 
  


主な登場人物

 敷島絶子    日本橋高校二年生 あだ名はぜっさん
 加藤瑠美奈   日本橋高校二年生 演劇部次期部長
 牧野卓司    広島水瀬高校二年生
 藤吉大樹    クラスの男子 大樹ではなく藤吉(とうきち)と呼ばれる
 妻鹿先生    絶子たちの担任
 毒島恵子    日本橋高校二年生でメイド喫茶ホワイトピナフォーの神メイド

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ポナの季節・22『ミス世田谷女学院コンテスト①』

2020-09-02 06:12:35 | 小説6

・22
『ミス世田谷女学院コンテスト①』
    


 ポナとは:みそっかすの英訳 (Person Of No Account )の頭文字をとった新子が自分で付けたあだ名


「ポナ、兄姉多かったわよね?」

 おはようの挨拶もそっちのけで由紀が聞いてきた。
「あ、うん多いよ、いまどき五人兄妹なんてありえないもんね(^_^;)」
「生徒会で考えたんだけどね、ミスコンの候補者のお姉さんとかお母さんとかの写メとか、いっしょに並べてみようかって思ってさ」

 由紀は得意げに腕組んで、組んだ右の親指をさり気に生徒会副会長のバッジに向けた。

「家族の写メ?」
「うん、ミスコンじゃ常識。お姉ちゃんとかお母さんとかは、数年後とか三十年くらいの先の本人の姿を暗示してるわけじゃん。もち個人情報だから強制はしないけどね、本人の写真だけよりもインパクト大きいと思ってさ!」
 どうやら副会長バッジが由紀をハイテンションにして考えさせたアイデアのようだ。

 ちょうどスマホに世田谷女学院を合格した時の家族の集合写真があった。大ニイが休暇の半舷上陸で家にいたので、非番の大ネエも呼んで撮った写メである。その時はポナをサカナに家族で騒ごうというタクラミの序章に過ぎなかった。

「ちょうどいいじゃん、記念写真で、みんな正面向きだから比較がしやすい。じゃ、お母さんとお姉さん二人のいただきね」

 ポナは母と姉二人の顔を拡大して、由紀のスマホに送った。

 その夜、由紀は悩み、かつ楽しんだ。

 世田谷女学院はお行儀も成績もいい。だけど、どこか型にはまった窮屈さがあった。乃木坂はよく似た学校だけど、どこかノビノビしている。
 実は由紀もギリギリまで、世田谷と乃木坂で悩んでいた。お御籤でも引いたらと親には言われたが、神社まで行くのももどかしく、鉛筆を転がして世田谷に決めた。
 入ってみると、設備や制服には文句なかったけど、なんとも型にはまった沈滞ムードが嫌だった。

「じゃ、自分で変えよう!」と、生徒会に立候補し、見事に当選したのだ。

 むろんクラスのみんなも応援してくれた。なかんずくポナと奈菜には世話になった。恩返しの気持ちがちょびっとと、ポナには他の子には無い魅力があると思ったからである。だから奈菜には声を掛けていない。奈菜も、またそんなことを気にするような性格じゃない。あの子の良さは……そこまで考えてパソコンの画面に集中した。
 コンテストのポスターなので、みんな平等な規格に収めなくてはならないが、由紀はポナが一番引き立つ色や構成を考えていた。

「オーシ、これでいくか!」

 淡いピンクを背景に写メを配置し、試しにポナのポスターをプリントアウトしてみた。
「ほう、こんなことを始めたのか」
 仕事から帰って来たばかりの父が、興味深げにプリントアウトしたポスターを見た。
「なるほど、母親の顔を載せるのはアイデアだな」
「でしょ、この子寺沢新子、あだ名はポナって言って、あたしの一押し!」
「女が女に惚れたか。なかなかいい子だな……ん?」

 由紀の父は、職業的な勘でポスターにひっかかった……。



※ ポナの家族構成と主な知り合い


父     寺沢達孝(59歳)   定年間近の高校教師
母     寺沢豊子(49歳)   父の元教え子。五人の子どもを、しっかり育てた、しっかり母さん
長男    寺沢達幸(30歳)   海上自衛隊 一等海尉
次男    寺沢孝史(28歳)   元警察官、今は胡散臭い商社員だったが、乃木坂の講師になる。
長女    寺沢優奈(26歳)   横浜中央署の女性警官
次女    寺沢優里(19歳)   城南大学社会学部二年生。身長・3サイズがポナといっしょ
三女    寺沢新子(15歳)   世田谷女学院一年生。一人歳の離れたミソッカス。自称ポナ(Person Of No Account )
ポチ    寺沢家の飼い犬、ポナと同い年。

高畑みなみ ポナの小学校からの親友(乃木坂学院高校)
支倉奈菜  ポナが世田谷女学院に入ってからの友だち。良くも悪くも一人っ子
橋本由紀  ポナのクラスメート、元気な生徒会副会長

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かの世界この世界:59『みんなの呼び方を変えた件』

2020-09-02 06:01:34 | 小説5

かの世界この世界:59     

『みんなの呼び方を変えた件』   

 

 

 テルとケイトはそのままだ。

 

 というか、本来がテルとケイトなのだから戻しようもない。

 ブリはブリュンヒルデだ。主神オーディーンの娘にして無辺の囚人であった。始まりの草原からやってきたわたしとケイトと行動を共にして脱走。そして、わたしたちを引き連れてヴァルハラを目指している。

 グリはタングリス。ムヘンの総督トール元帥の副官をグニと二人で務めている。トール元帥の意向でブリュンヒルデのお供をしている。美人のキャリア風だが、意外にフレキシブルな対応ができそうだ。

 グニはタングニョースト。タングリスの同僚でトール元帥の副官、陰ながら我々の旅のサポートをやってくれるらしい。今回もヴァイゼンハオスのわんぱく坊主ロキを連れて行かなくなって、小さな二号戦車ではどうにもならないところ、四号戦車を持ってきてくれた。それが、タングニョースト自身の意思なのかトール元帥の指示なのかは分からない。とりあえずムヘン北端の港であるノルデンハーフェンまでは同行してくれるようだ。

 わたし?

 最初に言ったじゃないか、テルだよ。ケイトといっしょに始りの草原からやってきた冒険者。短い名前だから短縮にもしなかったしな。え? ああ、こんな言葉遣いをしていても女だよ。文句あるか? タングリスとキャラが被ってるって? さっきも言ったけど、タングリスは臨機応変だ。なんせトール元帥の副官を務めるほどだからな。わたしは見たまんまの男勝りさ。文句あっか?

 え、なんか忘れてるっぽいって? なんだろう……ああ、んなことはいいよ。あれこれ考えるのは苦手なんだ、ま、気楽にわたしらの旅に付き合っておくれよ。

 これを読んでいる読者さん。

「なに書いてるの?」

 気づくと間近にケイトの顔。

「ハハ、長旅になりそうだから、時々メモっておこうと思ってな。まずは、みんなの呼び方を変えた件……とタイトル書いておしまい」

 タッチして、仮想タブレットを消した。

「呼び方変えようって言ったのはオレだから、ちゃんと書いといてよ」

 尾栓の下からロキが言う。

「そうだったな」

 今一度仮想タブレットを出して『ロキの提案』という副題を付けてやった。

 

 四号戦車は、ムヘン川の南岸を東に進んで北岸に渡るノルデン鉄橋を目指した。

 

 

☆ ステータス

 HP:2000 MP:1000 属性:テル=剣士 ケイト=弓兵・ヒーラー

 持ち物:ポーション・25 マップ:3 金の針:5 所持金:8000ギル

 装備:剣士の装備レベル10(トールソード) 弓兵の装備レベル10(トールボウ)

 憶えたオーバードライブ:ブロンズヒール(ケイト) ブロンズスプラッシュ(テル)

 

☆ 主な登場人物

―― かの世界 ――

  テル(寺井光子)    二年生 今度の世界では小早川照姫

 ケイト(小山内健人)  今度の世界の小早川照姫の幼なじみ 異世界のペギーにケイトに変えられる

 ブリ(ブリュンヒルデ) 無辺街道でいっしょになった主神オーディンの娘

 グリ(タングリス)   トール元帥の副官 グニ(タングニョースト)と共にラーテの搭乗員 ブリの世話係

―― この世界 ――

 二宮冴子  二年生   不幸な事故で光子に殺される 回避しようとすれば光子の命が無い

  中臣美空  三年生   セミロングで『かの世部』部長

  志村時美  三年生   ポニテの『かの世部』副部長 

 

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