大橋むつおのブログ

思いつくままに、日々の思いを。出来た作品のテスト配信などをやっています。

ポナの季節・40『オレの妹なんだから』

2020-09-20 06:33:27 | 小説6

・40
『オレの妹なんだから』
        
  

ポナ:みそっかすの英訳 (Person Of No Account )の頭文字をとって新子が自分で付けたあだ名




 アメリカの大統領が声明を出した。

『今回の尖閣沖で起こった事件は、中国の危険な火遊びで、全責任は中国にある。これに機敏に対応した日本の海上自衛隊『ひとなみ』の艦長と砲雷長の決断と行動は軍人として当然であり、また卓越していた。アメリカは日本の二人の海軍将校を称賛する』

 これにEU諸国、ASEAN諸国、果てはロシアまでが同意し、国際的に大ニイは英雄になってしまった。

 日本では軍事的英雄行為は野犬に立ち向かった子犬ほどにも興味も感心も持たれない。しかし外圧に弱い政府は、大慌てで艦長と大ニイの謹慎を解除した。マスコミも市民団体も蒸発したようにいなくなってしまった。

「明日から艦にもどるよ」
 大ニイも、風邪で学校を休んだ生徒が日常に戻るような気楽さで言った。
「大ニイ、悔しくないの?」
「特にはな、こんなことは防大にいたころから教えられてたからな。それよりポナ…………」

 大ニイが正面からポナの顔を覗き込んだ。

「な、なによ」

「おまえ、可愛くなったな」
 
「や、やっと気づいた。あたしは昔から可愛い子なのっ(^_^;)」
「そうだよな、オレの妹なんだから」

「ふぇ?」

 ポナは、この一言にジーンときた。

 まだ心のどこかで血がつながっていないことの引け目があった。可愛いと言われたことよりも、当然のように「妹だから」と言われたことが嬉しかった。

「ハハ、赤くなることはないだろ。自分でも可愛いって言ってるんだから」
「もう、妹イジルんじゃないって!」
「女の子が可愛くなるのには二通りある。恋をしているときと、自分に自信を持った時だ。ポナのは……恋してるわけではさそうだ」
「なんで、そんなこと分かんのよ。あたしだって恋の一つや二つ」
「無理すんな。自衛隊で長いこと飯食ってると、分かるんだ人の顔が変わるのが。新入隊員が基礎訓練を終えると、そういう顔になる」

 ポナは、少し迷って幽霊の安祐美の話をした。大ニイは笑うと思ったが、意外に真剣に聞いてくれた。

「そういうことはある。積極的には言わないけど、自衛隊にもそういう話はいろいろある。出港の時旧海軍の人たちが見送ってくれていることもあるし、嵐の中で、当直が励ますように並走してる旧海軍の艦船を見たりとかな……」
「励ましに……」
「うん。思いを残して逝った人たちばかりだからな……夢の中で特訓とか言ってたけど……」

 安祐美は、夢の中で特訓すると言っていたけど、ポナにも、他のメンバーにも記憶はなかった。ただ、指のタコと、喉に違和感があるきりだった。ただ、タコがこないだとは少し違っていた。大ニイはギターじゃなくてドラムのタコだと言っていた。

「生活文化局から、こんなの来てた」

 奈菜がA4の封筒を見せた。
「え、これ、ヘブンリーアーティストのオーディションの案内じゃん!」
「あたし自覚ないんだけど」
 不思議を語る由紀と奈菜の声も少し変わっていた。
「あ、みなみからメール……」
「あ、乃木坂の?」
「えー、貸しスタジオが借りられたって……で、みなみにも自覚なしだ」
「これって、安祐美かな……」

 いつの間にか安祐美に「ちゃん付け」をしなくなったことに気づくと同時に、放課後の中庭で安祐美の気配を感じている三人だった。


ポナの周辺の人たち

父     寺沢達孝(59歳)   定年間近の高校教師
母     寺沢豊子(49歳)   父の元教え子。五人の子どもを、しっかり育てた、しっかり母さん
長男    寺沢達幸(30歳)   海上自衛隊 一等海尉
次男    寺沢孝史(28歳)   元警察官、今は胡散臭い商社員だったが、乃木坂の講師になる。
長女    寺沢優奈(26歳)   横浜中央署の女性警官
次女    寺沢優里(19歳)   城南大学社会学部二年生。身長・3サイズがポナといっしょ
三女    寺沢新子(15歳)   世田谷女学院一年生。一人歳の離れたミソッカス。自称ポナ(Person Of No Account )
ポチ    寺沢家の飼い犬、ポナと同い年。死んでペンダントになった。

高畑みなみ ポナの小学校からの親友(乃木坂学院高校)
支倉奈菜  ポナが世田谷女学院に入ってからの友だち。良くも悪くも一人っ子
橋本由紀  ポナのクラスメート、元気な生徒会副会長
浜崎安祐美 世田谷女学院に住み着いている幽霊

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かの世界この世界:77『ローゼンシュタットを出発』

2020-09-20 06:18:53 | 小説5

かの世界この世界:77     

 『ローゼンシュタットを出発』    

 

 

 見送りは町長夫人だけだった。

 

 ローゼンシュタットの町は降誕祭の後始末……というよりは、メデューサ被害の後始末で、とてもわたしたちの見送りどころではないのだ。

 石化した町長に成り代わって夫人が指揮を執っている。

「あくまでも、降誕祭の後始末です」

 きっぱり言い切ったのは、町の人々が落ち込まないようにとの配慮からだろう。

 広場を中心に道路や建物が破壊されただけではなく、石化が解けた人たちも倦怠感の他に関節痛などの後遺症が出ているのだ。

「じゃ、出来るだけ早く金の針を手に入れて町長さんを治療してお返しします」

「よろしくお願いします」

 

 ブロン キュロロロ~~~~~

 

 四号戦車は軽快に走り出した。

 町長は、石化して文字通り石像のようになっているので車内に入れることはできず、砲塔後部のゲペックカステン(物入れ)に括りつけてある。

 車体の振動くらいで壊れることはないだろうが、クリーチャーの襲撃があるかもしれず、見張りの為にポチが張り付いている。

「ポチ、もう一回練習だ」

 ロキが声を掛けると、ポチは砲塔の上で跳ねまわる。ただ跳ねまわっただけでは車内に伝わらないので、スパナを持たせてある。跳ねながらスパナで叩けということだ。

 でも、シリンダーであるポチにはスパナを持つべき手が無いので、割れ目の所で咥えさせている。

「健気ではあるが、なんかイメージが……」

 ブリュンヒルデが言葉を濁すが、意味はよく分かる。シリンダーと言うのはボール状のプニプニした体にスリットというか割れ目があって、淡いピンク色の肌とあいまって、桃のように……あるいは桃によく似た体の一部のように見える。

 そいつが、やる気満々でスパナを咥えているのは猥褻な感じが拭えない。

 

 カンカンカンカン!

 

 スパナを振ってポチが砲塔を叩く。

「なにか、怒ってるみたいだな」

「みたいじゃなくて、怒ってるよ」

 あちこちのハッチから身を乗り出したクルーが「ホーー」と感心する。

「意外に可愛いものだな」

 素直な性質のようで、ポチは割れ目の両脇の所をポッと赤くしている。

「まあ、ロキもポチもがんばれ」

「うん!」

「ペギーからメールが入ってるぞ」

 操縦手ハッチから顔を出したタングリスが通信手ハッチを指さす。

「いけね!」

 猿のようなすばしこさでロキが戻る。通信手はロキの役割だ。

「ムヘン街道との合流点で待ってるって!」

 

 東に進路を取って、合流点を目指した。

 

 幸い、クリーチャーに出くわすこともなく半日で合流点が見えてきた。

「あ、出店を開いてる」

 ペギーは、十字路の南東の角に屋台を出して景気よく商売の真っ最中だ。

「やあ、メールもらったのに済まなかったね、ちょっと忙しくしていたもんで。ちょっと頼むね……」

 いつに間に雇ったのか、二人のバイトに任せて通りに出てきた。

「ここじゃ、通行の邪魔になるから……あっちの空き地で」

 街道は相変わらずの混雑ぶりだ。ペギーが交通整理をして四号を空き地に誘導してくれた。

「この石像みたいなのが、ローゼンシュタットの町長さんなんだ。金の針で治してやりたいんだが」

「あーーーーこりゃ無理だね」

「無理か?」

「強力な石化魔法がかかっている上に時間がたちすぎている、金の針でも無理だ」

「我にエスナの黒魔法が使えれば……」

 額に皴を寄せ右手の五本の指をあてるという中二病ポーズでブリュンヒルデが呟く。

「あんたは、もうエスナが使えるよ」

「ほ、本当か!?」

「ただ、この町長さんの石化はエスナラ以上の力が無いと解除できない。それにエスナは白魔法だからね」

「わ、我は、漆黒の堕天使なるぞ」

「手立てはないのか?」

 電波なブリュンヒルデは放置して、クルーはペギーを囲んだ。

「む、無視すんなああ!」

「あるにはあるが……」

「どこだ?」

「東の果てにエスナルの泉がある。そのエスナルの水で清めれば治るだろう」

「東の果てか……」

 

 我々は、北のノルデンハーフェンを目指している、それを東に変更……。

 また、大きな寄り道になりそうだ……。

 

☆ ステータス

 HP:4000 MP:2000 属性:テル=剣士 ケイト=弓兵・ヒーラー

 持ち物:ポーション・50 マップ:5 金の針:0 所持金:500ギル(リポ払い残高40000ギル)

 装備:剣士の装備レベル10(トールソード) 弓兵の装備レベル10(トールボウ)

 憶えたオーバードライブ:ブロンズヒール(ケイト) ブロンズスプラッシュ(テル)

 

☆ 主な登場人物

―― かの世界 ――

  テル(寺井光子)    二年生 今度の世界では小早川照姫

 ケイト(小山内健人)  今度の世界の小早川照姫の幼なじみ 異世界のペギーにケイトに変えられる

 ブリュンヒルデ     無辺街道でいっしょになった主神オーディンの娘の姫騎士

 タングリス       トール元帥の副官 タングニョーストと共にラーテの搭乗員 ブリの世話係

 タングニョースト    トール元帥の副官 タングリスと共にラーテの搭乗員 ノルデン鉄橋で辺境警備隊に転属 

 ロキ          ヴァイゼンハオスの孤児

 ポチ          ロキたちが飼っていたシリンダーの幼体

―― この世界 ――

 二宮冴子  二年生   不幸な事故で光子に殺される 回避しようとすれば光子の命が無い

  中臣美空  三年生   セミロングで『かの世部』部長

  志村時美  三年生   ポニテの『かの世部』副部長 

 

 

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