ポナの季節・34
『Person Of No Account ③』
ポナ:みそっかすの英訳 (Person Of No Account )の頭文字をとった新子が自分で付けたあだ名
出たあああああああああああああ!!
三人はポナを先頭に、狭い裏口では一ムギュっと詰まって、次の瞬間はじき出されたように旧講堂を飛び出し、グラウンドを横切り、中庭をつっきり、ピロティーを突き抜け、正門まで逃げてしまった。
「……で、出たって……なにが?」
由紀が意外なことを聞いてきた。
「せ、生徒よ、女生徒。お下げの後姿で、前の席に座ってたでしょうが!?」
「あ、あたしは見えなかった」
「じゃ、なんで叫んで逃げ出したのよさ……?」
「だって……」
「ポナが逃げ出すんだもん!」
「叫んだのもポナが最初だし」
奈菜が口を尖らせる。
「じゃ、見えたのは、あたしだけ?」
奈菜と由紀が顔を見合わせる。
「……のようね」
「じゃ、なんか幻覚でも見えたんだろうね……だよね? だよね?」
同意を求めるような眼差しでポナは、二人の親友を上目づかいに見た。
「いや、あれはポナ……ほんとに見えたって感じだったよ」
「あ、それに、こんなこと言っちゃなんだけど……ポナの靴片方無いよ」
「あ、裏口で押し合い圧し合いしてる時に……」
「脱げたんだろうね」
由紀が他人事のように言い。事故の時のテレビインタビューを受けた目撃者ように奈菜がコックリした。
ポナのすがり付くような眼差しに、旧講堂の裏口までは付き合うが、中にはポナ一人が入ることで話がついた。
逃げる時は、まるでリニアモーターカーのようだったが、再び旧講堂に戻る時は、とろくさい各駅停車のようだった。
「失礼しまーす……」
裏口から五十メートルは離れている由紀と奈菜をしり目に、ポナは裏口を開けた。
予想に反して靴は裏口のあたりにはなかった。目が慣れると、舞台の真ん中、胸の高さあたりで靴がプラプラしているのが分かった。
やがて、靴を持っている手、腕、体、そしてお下げの顔が明らかになった。
「あたし、浜崎安祐美。よろしくね!」
お下げ髪は、弾むような明るさでポナに迫ってきた。
ポナの周辺の人たち
父 寺沢達孝(59歳) 定年間近の高校教師
母 寺沢豊子(49歳) 父の元教え子。五人の子どもを、しっかり育てた、しっかり母さん
長男 寺沢達幸(30歳) 海上自衛隊 一等海尉
次男 寺沢孝史(28歳) 元警察官、今は胡散臭い商社員だったが、乃木坂の講師になる。
長女 寺沢優奈(26歳) 横浜中央署の女性警官
次女 寺沢優里(19歳) 城南大学社会学部二年生。身長・3サイズがポナといっしょ
三女 寺沢新子(15歳) 世田谷女学院一年生。一人歳の離れたミソッカス。自称ポナ(Person Of No Account )
ポチ 寺沢家の飼い犬、ポナと同い年。死んでペンダントになった。
高畑みなみ ポナの小学校からの親友(乃木坂学院高校)
支倉奈菜 ポナが世田谷女学院に入ってからの友だち。良くも悪くも一人っ子
橋本由紀 ポナのクラスメート、元気な生徒会副会長