大橋むつおのブログ

思いつくままに、日々の思いを。出来た作品のテスト配信などをやっています。

銀河太平記・029『宇宙一のガラクタ船『ファルコンZ』』

2021-02-07 10:04:04 | 小説4

・029

宇宙一のガラクタ船『ファルコンZ』ヒコ   

 

 

 トモヅルというのは戦後作られた汎用駆潜艇だ。

 

 いわゆる条約型だ。

 あの戦争が終わってから、世界中の国が集まってウラヤス軍縮会議が開かれた。

 日・米・英・独・仏・伊・露・満・中(新制中国で、三か国に分かれていたが、軍縮会議ではまとまっていた)の九か国。火星の植民地国家を入れていないのでナンセンスという評論家もいるが、宇宙軍を含む総括的な軍縮が出来たので画期的な軍縮であったと評価する政治家も多い。

 このウラヤス軍縮で、主力艦の保有トン数に制限が加えられた。主力艦の保有トン数に力点を置いた日本政府は、補助艦艇で妥協した。

 その妥協の産物の一つがトモヅルだ。

 700トンという総重量の中に、1500トン駆逐艦並みの装備を載せて、建造当初からトップヘビーの危険を指摘されていた。

 トップヘビーとは、まだ船が海の上でしか走れなかったころの用語だ。

 喫水線上に過剰な装備を積載して、船の重心が上がり過ぎ、ひどいものになると、わずか30度の傾斜で転覆した。

 宇宙船だから転覆はあり得ないのだが、最大戦速を出すと船がコントロールを失い不規則なスピンを繰り返して操船不能に陥ることを指して転覆と呼んでいるのだ。

 トモヅルは、太陽風警報が発令されている中、最大戦速で艦隊運動の訓練中に転覆を起こした。

 スピンは見る間に13回転/毎秒に達し、乗員は操艦どころか、自分たちの姿勢保持もできなくなって、洗濯機の脱水層に入れられたフィギュアのように攪拌され、生存者はわずか10名という、日本宇宙軍創設以来の大事故になった。

 トモヅルは三百年前の帝国海軍時代の水雷艇友鶴でも転覆事故を起こしており、縁起が悪いというので解体処分になったはずだ。

 それが目の前にアンカーを下ろして舫っている。

 幽霊……か。

 慄いていると、トモヅルから牽引ビームが出され、あっという間に係船竿(けいせんこう)に繋がれてしまった。

「宇宙一のガラクタ船『ファルコンZ』にようこそ、森ノ宮親王殿下、児玉元帥、扶桑第三高校の諸君。わたしが船長のマークです。こちらが航海長のバルス」

「バルスであります」

「こっちが女房役で船務長のコスモス」

「コスモスです、よくおいで下さいました」

 扶桑組がそろってため息をつく。コスモスさんは『掃き溜めに鶴』を地でいったような美人だ。

「女房役って……」

 ダッシュが良からぬ呟きをするので、ミクとテルの両方から睨まれる。浅はかなやつだ。

「すみません、遅れま……」

 遅れて来た女の子が犬を抱いて現れ……ビックリした。

「「「え?」」」

 ユニホームを着てはいるが、ミクにソックリな姿かたちなのだ。

「こら、ニュートラルにせんか」

 船長がたしなめると、瞬間で、女の子は可愛いという属性のまま別の少女に変わった。

「船務員のミナホです。ベースがAct Mine(アクトマイン)なもので油断すると、すぐに変身してしまいます」

「ミナホです、ご乗船光栄であります」

 ビシッと敬礼を決めると、優秀な女性クルーそのものだ。

「きたねえ船だが、クルーは、まあまあだ、気楽にやって……モゴモゴ」

 急に喋り出した犬の口をミナホが塞いだ。とりあえず、ミナホと犬はロボットか。

「失礼しました。こいつは、アナライザーのポチです。以上の乗員で火星までお供いたします」

「よろしく頼む。のちほど話をしたいが、とりあえずキャビンに案内してくれないか、ずっと雑役艇だったもんでな」

「よろしくお願いします」

 元帥が直截に言って、殿下が柔らかく締めくくって、僕たちは狭い船内を案内された。

 火星までの帰還の旅が始まった。

 

※ この章の主な登場人物

  • 大石 一 (おおいし いち)    扶桑第三高校二年、一をダッシュと呼ばれることが多い
  • 穴山 彦 (あなやま ひこ)    扶桑第三高校二年、 扶桑政府若年寄穴山新右衛門の息子
  • 緒方 未来(おがた みく)     扶桑第三高校二年、 一の幼なじみ、祖父は扶桑政府の老中を務めていた
  • 平賀 照 (ひらが てる)     扶桑第三高校二年、 飛び級で高二になった十歳の天才少女
  • 姉崎すみれ(あねざきすみれ)    扶桑第三高校の教師、四人の担任
  • 児玉元帥
  • 森ノ宮親王
  • ヨイチ               児玉元帥の副官
  • マーク               ファルコンZ船長 他に乗員(コスモス バルス ミナホ ポチ)

 ※ 事項

  • 扶桑政府   火星のアルカディア平原に作られた日本の植民地、独立後は扶桑政府、あるいは扶桑幕府と呼ばれる
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

滅鬼の刃12・『卒業ソング』

2021-02-07 06:48:22 | エッセー

 エッセーノベル    

12・『卒業ソング』   

 


 今年(2021年)も卒業式のシーズンがやってきました。

 日本全国四万校あまりの、小学校から大学まで、学校の数だけ卒業式が行われます。
 中には、卒業式とは言わずに、卒業証書授与式というところもあります。

 ちょっとしっくりきません(^_^;)。

 わたしのいる大阪などは、公には卒業証書授与式となっていますが、みんな卒業式と言っています。

 卒業式で歌う歌を「卒業ソング」とか「卒業生の歌」とか言います。
 ちなみに検索してみると、以下のような歌が出てきました。

 〇贈る言葉         海援隊

 〇卒業写真         松任谷由実

 〇My Graduation       SPEED

 〇3月9日          レミオロメン
 
 〇道            EXILE

 〇桜の栞          AKB48

 〇Yell           いきものがかり

 〇旅ダチノウタ       AAA

 〇Best Friend        西野カナ

 〇振り向けば…       Janne Da Arc(ジャンヌダルク)

 〇桜の木になろう     AKB48

 〇10年桜         AKB48

 〇手紙 〜拝啓 十五の君へ〜 アンジェラ・アキ

 〇Best Friend        Kiroro

 〇遥か           GReeeeN(グリーン)

 ○卒業          斉藤由貴

 〇卒業          尾崎豊

 〇卒業-GRADUATION-   菊池桃子

 たいていの学校では、卒業生が候補曲をいくつか出して、投票で決めるケースがほとんどでしょう。だから、240人の卒業生がいて、候補曲が7曲ほど出て、50人ほどの賛成で決まってしまうこともあります。そう言う場合、残りの190人は不本意で、斉唱するときにも意気が上がらないこともあるのではないでしょうか。
 
 これらの卒業ソングの中には、定番と言っていい言葉があります……。

 桜 友 友だち 思い出 旅立ち 別れ 春 卒業 君 果てしない 道 喜び 懐かしい 涙 等々。

 逆に、ほとんど出てこない言葉があります……。

 師 教え 先生

 師に至っては、このエッセーを書くにあたり聞いた卒業ソングの中には出てきませんでした。学校生活で、もっとも濃密な関係は、友だちと先生でしょうね。
 わたしが小学生のころは、『仰げば尊し』と、在校生や先生、保護者、来賓の方々の『蛍の光』と決まっていた。今でも地方や私学では、この二つの曲を大事にされているところがあります。公立の学校ではほぼ絶滅してしまったように感じます。卒業ソングで検索しても、この伝統的な二曲は、ほとんど出てきません。

 昭和30年代までは、この二曲は定番でした。

『ビルマの竪琴』という映画があります。
 水島上等兵が、ビルマの僧侶になり、捕虜収容所の仲間たちのところに会いに行く有名なシーンです。
「水島、水島じゃないか。いっしょに日本に帰ろう!」
 仲間達は、鉄条網の中から、水島に呼びかける。
 水島は、一言も語らず、竪琴で『仰げば尊し』を奏でます。それで全てが伝わります。水島は日本人であることさえ卒業して、戦争で亡くなった人たちの冥福を祈ることに、残った人生をかける。その想いと決意が、この曲を奏でることだけで通じます。
『二十四の瞳』の中でも、校庭での卒業式のシーンは、この『仰げば尊し』です。この曲は明治17年から歌われ、長年作者不詳となっていましたが、『The Song Echo: A Collection of Copyright Songs, Duets, Trios, and Sacred Pieces, Suitable for Public Schools, Juvenile Classes, Seminaries, and the Home Circle.』の中にあるアメリカの楽曲の中にあるということを一橋大学の桜井雅人名誉教授が2011年に突き止められたそうですが、まだ作者不詳と紹介しているものもあります。
 いずれにしろ、これは日本軍国主義が作ったものではないことは確かなようです。
「仰げば尊し」と歌いだした、この曲はわたし達日本人が歴史の中で育んできた感性の発露であると思うのですが、どうでしょう。

 授業前の「起立・礼・着席」などに、その名残が残っています。また師を「先生」と呼ぶ言い方もそうでしょう。わたしは現職のころ心配しました。「先生」という呼称が「教育士」などにならないかと。

 ここまで読んで、大橋というのは「なんというアナクロ!」と言われるかもしれませんね(^_^;)。師の恩とは何事かと。
 よく、命の大切さを教えるときに「人の命は山よりも重い」と校長先生が言いますね。これは、その「アナクロ」そのものであることに先生自体が気づいていないように思います。この言葉の大元は司馬遷の報任少卿書の中にあります。
「人の命は泰山より重く」からきています。そして、この言葉には下半分があります「鴻毛より軽し」
「人の命は泰山より重く、或いは鴻毛より軽し」が正しいのです。
 我々は、『君が代』を取り戻しました。式典で起立斉唱しない教職員は、ほとんど皆無になってきましたね。そして皆無になったことを嘆く日本人もほとんどいないのではないでしょうか。
 
 もう、ナショナルスタンダードとして、『仰げば尊し』を思い出してもいいのではないでしょうか。

 むろん、いわゆる卒業ソングは否定しません。Graduation ceremonyに続くプロム(舞踏会=パーティー)のようなところで大いにハジケればいいと思います。アメリカでは、公の卒業式が終わった後、生徒達自身で企画して、こういうイベントをやります。型を決められた卒業式で、わずか数分意気の上がらない卒業ソングを歌うのではなく、自分たちで、自分たちのためのイベントを企画してはどうでしょう。それとも、そんな自由も発想も、今の若者にはないのでしょうか。スタンダードでトラディッショナルな卒業式は、きちんと受け継ぎ、自分たちがハジケルためのものは、自分たちでやればいいとオッサンは思います。

コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

妹が憎たらしいのには訳がある・54『羊水の中のオレ』

2021-02-07 06:16:02 | 自己紹介

たらしいのにはがある・54
『羊水の中のオレ』
         

 


      

 オレは特大の胎児標本のように羊水の中に浮かんでいる。

「今度の任務は長くなりそうだから、羊水保存させてもらったわ」
 水元中尉が、まるで熱帯魚の移し替えをやったような気楽さだ。
「おもしろかったわよ。みんなでお兄ちゃんのこと裸にして、エイヤ、ドッポーンってこの羊水の中に放り込んだの。頭の中身はそっちに行ってるはずなのに、裸にするときは嫌がってね。パンツ脱がせる時は一騒動だった。ねえ、チサちゃん」
「知りません、わたしは!」
 チサちゃんは顔を赤くして、あさっての方を向いてしまった。その後ろでは、親父とお袋がいっしょに笑っている。
「ほ、ほんとに自分たちでやったの!?」
 ねねちゃんの中に入っている俺の自我が、ねねちゃんの声でうろたえた。
「チサちゃん、あそこつまんでさ、まるで親指姫みたいだって」
「そ、それはあんまり……」
「そんなことしてませーん!」
 チサちゃんがムキになる。幸子が悪魔に見えてきた。
「素人じゃできません。専門の技官が、やりました。サッチャンは冗談を言ってるんです」
「なんだ、そうか……」
「ただ、法規上、身内の方には立ち会っていただきましたけど」
「なんだ、そうか……って、みんな見てたの!?」
「うん。だからチサちゃんは、親指姫みたいだなって」
「わたしは、身内じゃないから見てません!」
「冗談です。大事なところは見えないようにしてやりましたから」
「じゃ、親指姫って?」
「親指のことよ。ほら、今だって、手は握ってるけど、親指は立ててるじゃない」
「ハハ、幸子の仕返しよ。いつもメンテナンスで太一には、その……見られっぱなしでしょ」
「それは、必要だから、やってることで……」
 俺の半分のねねちゃんが、あとを言わせなかった。

「大部隊の行動では目に付く。当面は二人でやってもらう」

 里中副長の意見で、東京に出撃するのは、わたし(ねね)と幸子になった。
「えー、わたしは、ここで毎日お兄ちゃんの餌やりしようと思ったんですけど」
「これは、並の人間じゃ勤まらない。戦闘用の義体でなくちゃな。それにねねは向こうの信用も得ている。幸子クンは、その顔ではまずい。優奈クンに偽装してもらおうか、若干意表はつくが、ロボットのユースケを信用させるのには一番の偽装だ。向こうの世界から送り込まれた義体情報をヤミで流しておく」
「でも、国防軍の中枢だから、こちらから流した情報は、解析されれば分かってしまうでしょ?」
「チサちゃんに、ほんの数分向こうの世界へ戻ってもらって流してもらう」

 その夜、チサちゃんは、詳しい事情も知らされないまま、向こうの世界に送られた。

 スマホで、向こうの古いエージェントに、暗号化した情報を流すためだ。
 チサちゃんは、元々は向こうの世界の幸子なので、短時間なら、痕跡も残らない。向こうのグノーシスはナーバスで、こちらの人間が向こうにいくとすぐに、その兆候が分かるようになっている。二三分なら個体識別まではできない、チサちゃんは、ちょっと表でスマホをかけたぐらいに思ってもどってきた。
「これでよし。移動は高機動車のハナを使え、鹵獲されたことにしておく」
『え、わたし鹵獲されちゃうんですか!?』
 部屋のスピーカーからハナちゃんの声がした。
「おまえ、どうしてこの部屋が分かった!?」
『わたしは、優秀なアナライザーでもあるんです。この真田山駐屯地のことは、一般隊員のグチまで分かります』
「司令に注意しなくちゃいかんな」

 と言うわけで、わたしとサッチャン、いや、優子はハナちゃんに乗って、その夜のうちに東京を目指した。ブラフではあるけど、もう一度ユースケたちを疑ってみるところから始めた……。

 

※ 主な登場人物

  • 佐伯 太一      真田山高校二年軽音楽部 幸子の兄
  • 佐伯 幸子      真田山高校一年演劇部 
  • 千草子(ちさこ)   パラレルワールドの幸子
  • 大村 佳子      筋向いの真田山高校一年生
  • 大村 優子      佳子の妹(6歳)
  • 桃畑中佐       桃畑律子の兄
  • 青木 拓磨      ねねを好きな大阪修学院高校の二年生
  • 学校の人たち     加藤先輩(軽音) 倉持祐介(ベース) 優奈(ボーカル) 謙三(ドラム) 真希(軽音)
  • グノーシスたち    ビシリ三姉妹(ミー ミル ミデット) ハンス
  • 甲殻機動隊      里中副長  ねね(里中副長の娘) 里中リサ(ねねの母) 高機動車のハナちゃん


 

コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする