大橋むつおのブログ

思いつくままに、日々の思いを。出来た作品のテスト配信などをやっています。

滅鬼の刃・14『遺品の写真』

2021-02-18 08:48:51 | エッセー

 エッセーノベル    

14・『遺品の写真』   

 

 

 2011年に亡くなった父の遺品を整理していた時の事です。

 

 うわあ……

 姉が『えらいものを見つけた』という声をあげました。

「え、なに?」

 姉の手元を見ると、丸まった卒業証書……と思いきや。

 開いて見せてくれたのは天皇陛下御成婚のお写真でした。

 天皇陛下と言っても今上陛下ではなくて、先年退位された上皇陛下のそれです。

 上辺の中央に菊の御紋があって、鳳凰が向かい合って、長い尻尾の羽根がお二人のお写真を縁取っています。

 父の遺品は仏壇を除いて全て処分しました。

 でも、このお写真は捨てられません。

 これは、子どものころに額装されて居間の長押の真ん中に永年勤続の賞状と並んで掛けてあったものです。

 姉は、特段、皇室に思い入れがあったり、古い日本を懐かしがるような性格をしていないのですが、軽々とゴミ箱に突っ込んだり古紙回収に出していいものではないという感覚なのです。

 いまの若い人なら平気なのかもしれませんね。

 おそらくは、新聞社かなんぞが昭和33年の御成婚記念に作って頒布したものでしょう。

 それなら、古新聞と同じじゃん。若い人なら、これでおしまいでしょう。

 姉も私も躊躇しました。

 結局、わたしが仏壇と共に引き取って、車ダンスの一番上の引き出しにしまいました。

 孫には「お祖父ちゃんが死んだら棺桶に入れておくれ」と言ってあります。

「え、あ、うん……」

 孫娘の反応はそれだけでした。

 

 数年前に、友人に誘われて日帰りの温泉に行った時のことです。

 増改築を繰り返した温泉宿は、男湯の入り口から脱衣場まで五メートルほどの通路になっています。

 宿の主人の趣味なのか週刊誌大の写真のパネルが数十個かけてあります。

 昔の菊人形、運動会、街の景色や街の人たちの日常を切り取った趣味の写真のようでした。

 順繰りに見ていくと、中年のオッサンとオバハンの大写しの顔写真が目につきました。

 写真の技術は分からないのですが、広角と言うんでしょうか、真ん中が強調される写し方で、端に行くほど小さく写って、それだけ広い面積が撮れるやり方です。

 そういう撮り方なので、鼻の下が強調されて顎や額などの周辺は小さく写っています。

 浮世絵で言えば大首絵という感じです。不思議の国のアリスの挿絵にあるハートの女王と言ったらイメージしてもらえるでしょうか。

 鼻の下は髭剃り後の毛穴まで分かる精細さです。

 二人とも、ニッコリ微笑んでいるのでしょうが、そういう撮り方をしているので、ひどく間の抜けた、ちょっと醜い写り方をしています。

 これは誰だろう……?

 数十秒見て気が付きました。

 昭和天皇と香淳皇后の、おそらくは、昭和三十年代。植樹祭かなにかの行事にお出ましになられ、子どもか若い人の挨拶をにこやかに聞いておられるときのものかと思われました。背後にボンヤリとテントの端っこや、礼服姿が見て取れるのです。

 昔なら不敬罪でしょう。

 個展を兼ねているのかなあ……とも思いましたが、脱衣場に繋がる通路ではやらないでしょう。

 よく見ると、焼けているものや、パネルの上に埃が付いているものもあり、相当前からかけっぱなしにしてあるものと思えました。

 フロントに言いに行くのも大人げなく……というか、右翼のオッサンと思われるのも業腹だし、一緒に行った友人まで変な目で見られては困るので、そのままにしました。

 こんな写真があったでえ!

 風呂上がりの友人に言うと『あっそ』という表情で話題を変えられました。

 いま振り返ると、こういう感性も滅鬼の刃なのかもしれません。

 

コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

らいと古典・わたしの徒然草・9『第二十九段 過ぎにし方の恋しさのみぞせんかたなき』

2021-02-18 06:53:13 | 自己紹介

わたしの徒然草・9

『第二十九段 過ぎにし方の恋しさのみぞせんかたなき』  

 


 兼好のオッサンはだれか親しい人を亡くしたらしく、この二十九段と、三十段はブルーであります。

「国体」

 ……おわかりになるでしょうか?

国民体育大会ではない。
国語と体育の時間割でもない。

英語でnational polity(ナショナルポリティー)というんだそうです。
揮発性の高い言葉で、この漢字で二文字。平仮名で四文字の言葉は、わたしが現職であったころ、口にするだけでこう言われました。

「反動」とか「保守反動」とか「アナクロ」とか。

 これにかわる言葉として、前世紀の終わり頃からがこんな言葉が使われ始めました。

「この国のかたち」

 この言い方は、みなさん抵抗がないようで、テレビのコメンテイターや国会議員の先生方もよく使われます。
 よく使われて、近頃では、いささか手垢のついた感じもしないではありません。しかし示す中味は国体同じであると思うのですがいかがでしょう。

「この国のかたち」を考えると、天皇と日本の関わりについて触れざるをえないのですが、触れてしまうと、その時点でレッテルを貼られそうなので、切り口を変えます。

 わたしの教え子で、優秀な理学療法士の子がいます。子、といってもこの道十六年のベテランですが。もとは大手市中銀行で、やり手の女性行員でありまし。仮にTさんとしておきます。
 阪神大震災のおり、あまりの惨状に居ても立ってもいられず、被災現場にボランティアとして救援活動に参加したTさんは。そこで運命の出会いをしました。色っぽい話ではありません。

 彼女は、被災現場で、「この国のかたち」に出くわしてしまいました。
 秩序ある被災者の人々。我が身のことのように挺身する警察、消防、自衛隊、そしてボランティアの人たち。

 彼女がボランティアとしてアシスタントになったのは、ある若い女医さんでした。
 この女医さん、自分自身がほとんど不治の病に冒されながら、被災現場での医療活動に挺身されていました。
 Tさんは、この女医さんに緒方洪庵の弟子のように付き添ううちに心が傾斜してしまいました。

 今風に言えば、心がヤバくなって、それまでの自分の銀行員としての安穏とした生活を捨ててしまい、
長期のボランティア活動に入って、完全にこの女医さんの助手になってしまいました。
 やがて、本格的に理学療法士の学校に通い、資格をとり、プロの理学療法士になってしまいました。
 震災で重傷を負った被災者を女医さんが治療し、回復期に入った人はTさんがリハビリを受け持つようになりました。
 そして、震災復興が一段落したころ、この女医さん自身の病気は重篤となって、ついに帰らぬ人になられ、Tさんは、その臨終にも立ち会いました。

 Tさんは、この女医さんとの出会いで「この国のかたち」に向き合ってしまったのだと思います。

 今般の東北大震災でも、このような「この国のかたち」が随所に現れたと思います。
 こういう国民性も包含した上で「国体」と言ってはいけないでしょうか。
 七十余年前の国家的災厄からの呪縛がまだ解けない現状では、まだこの言葉には揮発性の高い思い入れ、思いこみがあります。わたしも、人前では「この国のかたち」または「ナショナルアイデンティティー」という自家製の言葉を使っております。

 エピソ-ドをもう一つ。

 わたしの初任のS高は、当時大阪で、大関か前頭筆頭に入る困難校でありました。
 授業が成立しないのはもとより、生徒達からの教師への暴行は日常茶飯でありました。
 今だからこそ言えますが、職員室の前の廊下で教師が頭から袋をかぶせられ、数十名の生徒から集団暴行……平たく言えば、殴る蹴るの「リンチ」すらありました。
 教員室には、たびたび十人前後の生徒が殴り込みをかけてくれました(^_^;)。
 授業中に廊下を花火の水平発射もしてくれました(;'∀')。
 教科書に火を付け、燃やされたこともありました(-_-;)。
 板書をしているスキに、えんま帳が奪われ、戻ってきたときには、中味が改ざんされていたこともあります(;^_^。
 

 当時の先輩、同輩の先生方の名誉のために、念のため申し上げますが、この荒れようは、教師集団が、本気で学校を建て直そうとしていた諸々の試行錯誤と、努力への生徒達の反抗と、いら立ちの現れであります。
 この現状は府教委も知ってはいましたが、信じられないことに、オオヤケにはこう言っていました。
「大阪に、困難校は存在しない。課題を抱えた学校があるのだ」……大本営発表に似ています。
 グチっぽくなってきました。話を本筋に戻します。

 ある年の秋、ヤンチャクレの一人が就職の面接を受けに行きました。

 面接で、こう言われました。
「君の学校は、あんまりええ噂聞かんなあ……朝の登校のときなんか地元の人がえらい迷惑してるらしいなあ。うちの社員のなかでも……」
 と、いう内容のことを言われました。
 申し上げておくが、これは四十年も昔の話で、言った方も、言われて反応した生徒君にとっても、とっくに時効が成立しています。
 ヤンチャクレの生徒君は、ここでブチギレた。

「こんな会社、こっちから願い下げじゃ!」

 彼は、いすを蹴飛ばして、会社を飛び出してしまいました。
 彼の頭はスクランブルエッグになってしまいました。
 ふだん、あんなに嫌っていた学校の悪口をあからさまに言われて、急に湧きだしてきた愛校心をもてあましてしまったのです。
 彼は、学校に戻り、それまで一度も下げたことのない頭を、進路の教師に初めて下げました。

「せんせ(大阪弁は先生の最後の「え」「い」が、ちぎったようにない)ごめんな。オレ学校の顔つぶしてしもた」
 進路の教師は、あわてて、その会社にお詫びの電話を入れました。

 しかし、この生徒君は、不思議というか、めでたく合格となりました。

「今時めずらしく、愛校心がストレートに表現できる人物」というのが決め手であったらしい。
 彼の中には、知らず知らずのうちに「S高アイデンティティー」が身に染みついてのでしょう。

 兼好法師の中には、ここに示した「この国のかたち」というか「ナショナルポリティー」への信頼感があったのではないかと思います。
 彼の生きた時代は南北朝時代の前半にあたり、世は混沌としていました。
 しかし、彼の中では揺るがぬ、この国への信頼があったと思うのですが、いかがでしょう。
 それゆえに、過ぎにし方に想いをはせることもできたのでは……。

 深読みかもしれませんが、この過ぎにし方から揺るぎなき「ナショナルポリティー」を感じていたのではないでしょうか、教え子のTさんが女医さんからうけとめたように。

 乱暴なものいいですが、小学校から英語を必修にするまえに、「ナショナルポリティー」を、静かに、ゆっくりと。しかし真面目に考えるときではないかと思ったりします。

 どうも、ポテチ片手の話し方ではなくなってしまいました。それほど今般の東北大震災と多くの日本国民の態度は、わたしごとき者にも深い衝撃と感銘を与え、眠っていて何かを起こしてしまったようです。


コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

妹が憎たらしいのには訳がある・65『荒川事件』

2021-02-18 06:22:27 | 小説3

たらしいのにはがある・65
『荒川事件』
         


     

 

 探すのにずいぶん時間がかかったよ。こちらも、それだけに構っていられなかったんだけどね。

 ホンダN360Zは、入力したコースを離れ、荒川の河川敷に停まると、そう話しかけてきた。

「油断したわ」
『いや、ここまで隠れていたんだ、大した者だと誉めておくよ』

「だれ!?」
 優子が腰を浮かしてドアロックに手を掛ける。
「待って優子、この声……ユースケね?」

『その名前は気に入っているよ。祐介は完全に取り込んだけど、このロボットの行動や思考の力は祐介の想いが原動力になっているからね』
「……祐介は、どうなっているの?」
 抑えた声で優子がたずねると、ダッシュボードのモニターに赤ん坊のように丸まった祐介の姿が映った。粘膜や血管のようなものが繋がり繭のようなものの中で眠っている。
『そして、これがわたし……ユースケのMCPだよ。どうせ君たちのスキャン能力じゃ分かってしまうことだろうからね。友好のシルシにお見せしておくよ』
「ホンダN360Zの擬態はやめたのね。どこにでもあるアズマの大衆車だわよ、これじゃ」
 わたしの不満にユースケは、正直に答えた。
『わたしも、あれのほうが好きなんだけど、目立つからね、山手線のガードを潜った時に変えた。ちょうど周りはアズマの同型車が四台も走っていたからね。途中、衛星の目の陰になるところでシリアスもナンバーも何度も変えたよ。見てごらん、営業の途中に休息をとっているアズマが、この河川敷に何台もいるだろう』
「なるほど、都心の道路じゃ、すぐに交通監視員のオジサンがやってくるものね」
『窓開けていい?』
「いいわよ」

 オートで窓が開いた。広い荒川の川風が吹き込んできて気持ちがいい。

「子供の頃、こういう河原で石投げをしたものよ。ちょっとやってもいい?」
『それは、話が済んでからにしてもらえないか。君たちのノスタルジーに付き合うために、ここまで来たんじゃないんだから』
「ち……」
『それに、うかつに外に出て走り回られちゃ、擬態を解いてロボットの姿に戻らなきゃならないからね。休憩をとっているサラリーマン諸君の邪魔はしたくない』
「ま、とにかく話を聞いてみようよ」
『友好的な態度に感謝するよ』
「で……?」
『C国が予想以上に我が国に浸透してきている。M重工の重役にハニートラップがかけられていた事でも分かるだろう?』
「ええ、あれはショックだったわ。C国の技術が、あそこまで進んでいるとは思わなかった」
『的場みたいな抜けたやつが防衛大臣をやっていたからな。民自党の時代に相当やられてる。それだけじゃない。君たちが多摩でクラッシュしてくれた古いロボットの他にも、相当なスリーパーが潜り込んでいるようで、対馬を中心に、周辺海域をしらみつぶしにあたっている』
「で、その間は、グノーシスの仲間割れは中断なのね」
『ああ、この国がなくなっちゃ元も子もないからね』
「だったら……」

 わたしと優子は手話に切り替えた。

――向こう岸の、ミッサンのバンに気を付けて――
――上空をノンビリ飛んでるアズマテレビのヘリコプターにもね――

 そのとき、ミッサンのバンが方向転換をしたかと思うと、ヘッドライトから対地ミサイルを、こちら岸のアズマの営業車に撃ち込んできた。

 ズッドーン! ズッドーン!

 二台目が吹き飛んだとき、わたしたちはドアから飛び出し、ユースケはアズマの擬態を解いてロボットの姿に戻って荒川をジャンプ、ミッサンのバンの擬態を解きつつあるC国のロボットに飛びかかっていった。すると上空をノンビリ飛んでいたアズマテレビのヘリコプターが、空対地ミサイルをユースケ目がけて発射した。ユースケは予定進路を変え、同時にジャミングをかけた。
 わたしたちが義体であることに気づくのには、少し時間がかかり、わたしたちは擬態を解いたC国のロボットの後ろにまわり、至近距離から手首のグレネードを四発首筋にお見舞いし。ロボットは擱座した。真由の二発で間に合ったので、わたしは上空のアズマテレビのヘリコプターを撃って、重力誘導で荒川の真ん中に墜落させた。

「ビックリするよね」
「あ、ユースケ、フケやがった」

 あちこちで、アズマの車や、ロボット、ヘリの残骸が燃えている。わたしと優子は体温を地面と同じにし、衛星のサーモセンサーにかからないようにして、すぐに街中に逃げ込んだ。

 これが、C国多摩事変と呼ばれる局地戦争の始まりだった……。

 

※ 主な登場人物

  • 佐伯 太一      真田山高校二年軽音楽部 幸子の兄
  • 佐伯 幸子      真田山高校一年演劇部 
  • 千草子(ちさこ)   パラレルワールドの幸子
  • 大村 佳子      筋向いの真田山高校一年生
  • 大村 優子      佳子の妹(6歳)
  • 桃畑中佐       桃畑律子の兄
  • 青木 拓磨      ねねを好きな大阪修学院高校の二年生
  • 学校の人たち     加藤先輩(軽音) 倉持祐介(ベース) 優奈(ボーカル) 謙三(ドラム) 真希(軽音)
  • グノーシスたち    ビシリ三姉妹(ミー ミル ミデット) ハンス
  • 甲殻機動隊      里中副長  ねね(里中副長の娘) 里中リサ(ねねの母) 高機動車のハナちゃん
  • 木下くん       ねねと優奈が女子大生に擬態生活しているマンションの隣の住人
  • 川口 春奈      N女の女子大生 真由(ねねちゃんと俺の融合)の友だち 
  • 高橋 宗司      W大の二年生   


 

コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする