大橋むつおのブログ

思いつくままに、日々の思いを。出来た作品のテスト配信などをやっています。

銀河太平記・032『ヤバい話』

2021-02-25 09:45:27 | 小説4

・032

『ヤバい話』ダッシュ   

 

 

 そこまでしなくても……

 

 マーク船長の言葉は途中で止まってしまった。

 怪しげな交易船の船長だけど、相手が宮さまとなると奥ゆかしいのか、宮さまの柳に風を思わせる風格のせいかは分からないけども、その中断が、会話の内容の重大さを感じさせる。

 四人ともダクトの真下に場所を移した。

「隠遁するんだったら田舎でしょう」

「火星なら、どこに行っても田舎だと思いますよ」

「でもね、扶桑の領域の内じゃ、いざという時に幕府に迷惑をかけてしまう」

「ザックリ言って、火星は西部劇の世界ですよ。比較的治安のいい扶桑でも、地方の町に行けば所属・国籍不明のやつらが自由にやってます。お奉行所も、その辺の力加減は分かっていて、無用の干渉はしてこない。宮様お一人、いくらでも身を忍ばせられます。火星の辺境で暮らすなら、水や空気の心配からしなくちゃなりませんよ。地方の町なら、最低、空気と水は保証されてますから」

「ありがとう船長。でもね、やるなら中途半端はいけないと思うんだ。やっぱり……少なくても二三年は姿をくらましていたいんだ」

「しかし、なんでそこまでなさるんですか?」

「それは……」

 間が空いたと思ったら、今度は元帥が語り始めた。

「実は……謀反の兆候があるんだ」

 謀反? なんか超時代劇みたいなことを言ってる。

「クーデターですか?」

「いや、謀反だ。クーデターなら政府が倒れて、軍部なり野党なりが政権を握ってメデタシメデタシだ」

「え? どこが違うんですか? ポリティカルなことは、とんと苦手で……」

「謀反は、皇室そのものをひっくり返すことさ」

「え、皇室を!?」

 え!?

 俺たちも、ダクトの下で息が止まりそうになった。

「こないだ、靖国の前で陛下の車列を襲った奴らがいただろう」

「ヤタガラスだな」

「たぶん、悪だくみしているのはヤタガラスだけじゃないから確証はないがな」

「でも、あれは騒ぎを起こして、政府を倒すことが狙いなんだろう?」

「そうとばかりは言えんのだ、今上陛下は満州戦争の折に女性天皇を認めることになって即位された、その正閏を言い立てる勢力が出てきているんだ」

「ええ、今更か!?」

「ああ、それ以前の皇統でいけば、畏れ多いことだが森ノ宮さまだからな」

「そんなことが……」

「下手をすれば、南北朝の争乱になりかねない……そのために、殿下には、しばらく息を潜めていただく」

「アハハ、いやいや、僕は、そういうことは大の苦手なんでね、さっさ逃げちまおうって、そういうことなんだ。なに、僕が臆病なだけさ。ほとぼりが冷めたら、こっそり戻って『ボンヤリ宮様遁走記』でも書いて小銭を稼ごうと思ってる」

「ついては、火星で頃合いの隠棲地とかないだろうか、船長」

「本格的に身を隠したいと……」

「ロシア革命で、レーニンが身を隠したフィンランドの沼沢地みたいな……」

「火星に沼沢地はないからな……そうだ、扶桑の辺境に一つあることにはある……持ち主にことわらなきゃならんがな」

「どこだ?」

「カサギ、ちょっとした山だ」

「持ち主とは?」

「アルルカン」

 ダクトの下で息が止まりそうになった。

 アルルカンと言えば、太陽系を股にかけて暴れまわっていると言う賞金首の空賊。奉行所の指名手配のトップに、この十年不動の一位のポジションを確保している悪党だぞ。

「オラア! いつまで起きとる!!」

 不意を突かれてビックリした、すみれ先生が仁王立ちで、俺たちの後ろに立っていたぞ!

 

※ この章の主な登場人物

  • 大石 一 (おおいし いち)    扶桑第三高校二年、一をダッシュと呼ばれることが多い
  • 穴山 彦 (あなやま ひこ)    扶桑第三高校二年、 扶桑政府若年寄穴山新右衛門の息子
  • 緒方 未来(おがた みく)     扶桑第三高校二年、 一の幼なじみ、祖父は扶桑政府の老中を務めていた
  • 平賀 照 (ひらが てる)     扶桑第三高校二年、 飛び級で高二になった十歳の天才少女
  • 姉崎すみれ(あねざきすみれ)    扶桑第三高校の教師、四人の担任
  • 児玉元帥
  • 森ノ宮親王
  • ヨイチ               児玉元帥の副官
  • マーク               ファルコンZ船長 他に乗員(コスモス バルス ミナホ ポチ)
  • アルルカン             太陽系一の賞金首

 ※ 事項

  • 扶桑政府   火星のアルカディア平原に作られた日本の植民地、独立後は扶桑政府、あるいは扶桑幕府と呼ばれる
  • カサギ    扶桑の辺境にあるアルルカンのアジトの一つ
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らいと古典・わたしの徒然草・15『第三十五段 手のわろき人の』

2021-02-25 06:52:05 | 自己紹介

わたしの徒然草・15

『第三十五段 手のわろき人の』    

 


 ありがたい段です。

 字や文章のヘタクソなやつが、ばんばん書きちらしているのはいい! と言ってくれています。まるで、悪筆、乱筆、支離滅裂な戯曲や駄文を書いているわたしに対して、七百年の時空を超えて兼好が励ましてくれているようです。

 わたしはパソコンに馴染むまでは手紙魔でありました。常に定形最大の封筒と、便せん代わりの原稿用紙、それに八十円と十円の切手(よく、二十五グラムを超えて九十円になったので)と、万年筆のインクカートリッジは座卓横の小引出や、棚の上に常備していました。
 たいがいの人は返事をくださる。封筒で返事がくるときは、迷惑がらず「また、お便りちょうだいね」であり、葉書ですます人は「もう、しばらくよこさんといて、邪魔くさいよってに!」という気持ちがこめられている。
 勢い、封筒でくれる人には沢山送ることになる。たいてい四五通やりとりすると葉書になる。
 そんな中で、わたしの手紙にめげず、それどころか倍の量にして送り返してくるやつがいた!
 わたしの駄文の中にたびたび登場する、映画評論家のタキガワである。こいつとは二十歳ごろからの付き合いなのですが、仕事を辞めてから、付き合いが濃厚になりました。

 昼は自分のパスタ屋でコックをやり、土日に映画を観て、評論の下書きを兼ねて手紙をよこしてくる。ときに、便せんに性格とは真逆の小さな字で四十枚を超えることもありました。いただいた手紙は、どなた様に関わらず、五年間は保存しています。このタキガワの手紙だけで、茶箱一杯分になり、溢れそうで広辞苑で蓋をしております。
 
 現役のだったころ、定期考査の問題は、退職するまで手書きでやっていました。悪筆なのですが、ガリ版時代からの手書きで、芝居の台本のガリ切りなどやっていたので、「読みやすさ」には自信がありました。ところが、ある日、生徒にこう言われました。
「今時、手書きの問題出すのん、センセだけやで」
 調べてみると、職員全員が、いわゆる「ワープロ」で問題を作っておられました。公文書も手書きで書いていましたが、わたしにとって最後の教頭が赴任してきたときに宣告されました。
「大橋センセ、公文書は、パソコンでやってください」
「そやかて、こないだまでは手書きでやってましたけど」
「あれ、前の教頭さん、パソコンで打ち直してはったんですよ」
 と、あわれむように言われました。

 駄洒落でもうしわけないのですが「ワープロ」では「わー、プロや」とは思えないのです。手書きの字には、人格や、その人の、そのときの気分が反映されます。わたしもパソコンに毒され、たいがいの便りはパソコンを使うようになりましたが、それでも手紙にしなければならないとき(上演許可の返事などは、手書きです。くだんのタキガワには、もちろん手書きで)。
 逆に、わたしにくる手紙のほとんどがワープロであります。ワープロの文章は、いくら名文で書かれていても、見たとたんに、心が萎えます。

 われながら前世紀の遺物です。ちなみに、わたしは携帯電話を持っていません。家人には「原始人!」といわれております。電話そのものを、ほとんどかけません。相手の状況や気持ちも分からぬまま、脳天気に「もしもし元気~!?」などとは、気の弱いわたしにはできかねます。ケータイに関しては、また別の駄文で書きたいと思います。

 後半の「見ぐるしとて、人に書かするは、うるさし」であります。
「字も文章もヘタッピーなんで、人に代筆してもらうのはウザイんだよな」という意味で、ここでいう代筆とは、恋文のことなのですが、恋文について書くと、これも長くなるので別の機会に。
 

 代筆について。

 卒業式の、送辞や、答辞は、たいがい教師の加筆訂正が入っていて、ほとんど教師の文章であります。
「梅の香匂い、桜も硬い蕾を付け始めた今日の良き日。先輩方をお送りするのは、嬉しくもありますが、後輩としては、一抹の寂しさを禁じ得ません。思い起こせば……」などと始まったら、まず間違いなく教師の代筆です。

 生徒会の担当で、思いがけず送辞の監修係りにあたったわたしは、どうせ代筆になるなら、思い切り大橋色にしてやろうと思いました。
「梅の香匂い……」の慣用句の後、こうつづけさせました。
「ここには、百十二名の先輩方がいらっしゃいますが、三年前、同じ席に新入生として座られていたときは、二百四十名の先輩方がいらっしゃいました。ぼくは、今ここにいない百二十八人の先輩に想いをいたします。心ならず、中退し、別の道を歩まれている、その先輩方にもエールを送りたいと思います……」という意味のことに向けて行きます。

 式場が少しずつ静かになっていきます。
 近所や世間からは、「あかん学校」と、言われてきました。たしかに行儀も成績も良くありません。
 しかし、あの子達は、中途で辞めていった仲間たちへの気がねがあったのです。事故に遭ったとき、自分だけが生き残った人が持つ心の痛みに似ていると思いました。代筆したわたしも、この反応には驚きました。アクタレに見える子供たちの心の中にも、ヒトガマシイ心がちゃんとあるのです。

 しかし、そのくだりが終わると、また式場の空気が緩み始めます。

 それでも、送辞担当の生徒は、間違えないよう、声が小さくならないよう、走らないよう気を付けながら最後まで読み通して、盛大に安堵のため息をつきました。

 ハアアアアアアアアアアアア……

 式場は暖かい拍手と微笑ましい笑い声が湧いてきました。溜息、グッジョブでありました。



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真凡プレジデント・4《なつきと勉強》

2021-02-25 06:07:15 | 小説3

プレジデント・4

なつきと勉強》       

 

 

 それほど勉強のできる方じゃない……わたしもね。

 

 だから、なつきの勉強をみてやるといっても大層なことはやらない。

「憶えたあ?」

「う、うん……自信ないけど」

「無くっていいよ、じゃ、問題五つほどやってみよう」

 シャーペンのお尻で例題と練習問題を示す。

 なつきが公式を暗記している間に、わたしはページを二枚めくって、次の公式を確認する。

 一枚めくったところには応用問題があるんだけど、それはパス。

 テストの2/3は基本問題だ。

 うちは上から数えて2/3くらいの偏差値。むつかしい問題はそんなに出ない。

 評定の5だとか4だとかを目指すんなら応用問題もやらなきゃならないけど、普通の3を目指すんだったら基本だけでいい。

 3というのは点数で50点から69点。実に20点の幅がある。

 進学や就職に向けての成績は評定で表される。だから、50点でも69点でも同じ3がつく。だから60点くらいのところを狙っていればいい。60点を狙えば55点くらいに落ち付く。

 だってそうでしょ、評定4を目指そうと思えば70点は取らなきゃならない。湯気が出るほど頑張って69点だったら、適当にやって取った69点と同じ評定3になる。

 そりゃ、うちのお姉ちゃんみたくスイスイ100点取っちゃう奴もいるけど、そんなの真似したら息苦しくってかなわない。

 まして、わたしの横で基本問題をやってるなつき……

 

「コラーーー!」

 

 なつきはコタツの下で可動式のフィギュアをいじっている。シャーペンのお尻でオデコを叩いてやる。

「イテ!」

「サッサとやる!」

「はーい(^#▽#^)」

 甘えた声を出して、渋々という感じで練習問題に取り掛かる。

「それやったら、次の公式ニ十回、例題二問やっておしまいだから」

「う、うん」

 

 わたしは、公式の確認を終えて世界史のノートを出す。ざっと読み直してポイントを絞りなおす。

 アンダーライン引いたところを全部なんてやれやしない。絞って外れるところも出てくるけど、ま、目標は評定3だ。

 なんとか終わって顔を上げるとフィギュアがアラレモナイポーズをとっている。

「もー、ちゃんとやれたの?」

「ほら」

 一応見てやる、五問の内の二つを間違えている。

「だめでしょ、単純な代入ミスなんかしちゃあ、ダラダラやってたら時間かかって嫌になるだけなんだから!」

「ちゃ、ちゃんとやるわよ(^_^;)」

 なつきが勉強できないのは能力じゃなくて、やる気だ。一時間ちょっとの勉強でフィギュアのポーズが三回も変わるようじゃね。

 なんとかノルマを果たすと階段をドスドス上がってくる音がする。

 

「コラ、健二!」

 

 ノラクラしていたなつきがスイッチが入ったように飛び出る。

――もう、靴下脱いでから上がれって、何度も言ってだろ! おまえ、汚ねーんだからさ!――

――ちょ、階段で怒るなよ、あぶねーからさ、け、蹴るなよ!――

 ドシンバタンと追いやる音と声が続く、弟の健二が帰って来たようだ。家と弟のことになれば、やっぱ立派にお姉ちゃんをやっている。

「健二、あんまりお姉ちゃん困らせんじゃないよ」

「あ、もう帰る?」

「送ってこうか!」

「ハハ、女の子をエスコートするには十年早いわよ。じゃ、また明日ね」

 框を下りると――ありがとうね、真凡(まひろ)ちゃん!――おばさんの声がお好み焼きのいい匂いと共に響く。

 営業中の時はお店を通れないので路地に面した玄関の方から出ていくんだ。

 

 路地を抜けると商店街。

 

 お肉屋さんの方から揚げ物のいい匂い。コロッケなんか買って食べたくなるけどガマンガマン。

 ナイスバディーじゃないけどブサイクというほどでもない。生徒会長に立候補するんだ、せめて普通はキープしておきたい。

 コロッケを我慢して少し行くと電気屋さん。店の中の4Kテレビが夕方のニュースをやっている。

 おすましした女子アナが首相の悪口同然のニュースを流している。ほんの三月まではお姉ちゃんがやっていた……こんどの女子アナはお姉ちゃんほどにはイケてない。

 すると、濃厚なコロッケの香りが後ろの方から。

 

 振り返ると、ジャージ姿にマスクした自堕落お姉が立っていた……。

 たった今の感想返してよ。

 

☆ 主な登場人物

  •   田中 真凡    ブスでも美人でもなく、人の印象に残らないことを密かに気にしている高校二年生
  •   田中 美樹    真凡の姉、東大卒で美人の誉れも高き女子アナだったが三月で退職、家でゴロゴロしている。
  •   橘 なつき    入学以来の友だち、勉強は苦手だが真凡のことは大好き
  •  橘 健二     なつきの弟
  •   藤田先生     定年間近の生徒会顧問
  •   中谷先生     若い生徒会顧問

 

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