大橋むつおのブログ

思いつくままに、日々の思いを。出来た作品のテスト配信などをやっています。

やくもあやかし物語・63『三寒四温の今日このごろ』

2021-02-10 09:18:49 | ライトノベルセレクト

物語・63

『三寒四温の今日このごろ』    

 

 

 お風呂上りは油断してしまう。

 

 三寒四温の今日この頃。

 今日は、その四温の日で、お風呂にゆっくり浸かって上がると、昨日までの三寒よりもホコホコしている。

 我が家は部屋が十個以上もあるので三寒の日は寒々しさひとしおなんだけど、ちょっと油断してしまうくらいに暖かい。

 スリッパを履かずに裸足で部屋まで戻る。

 昨日まで冷たいと感じていた廊下がヒンヤリと足の裏に心地いい。

 広い家の、どこかとどこかが開いていて、微かに空気が流れている。閉め切っておくと、空気が淀んで陰気だし、冬場でもカビが生えたりするそうなので、そういう造りになっているのよとお婆ちゃんが説明してくれたけど、まだ確認したことはない。

 三寒の昨日までなら、そういう開いているところから魔物とかが入って来るんじゃないかと心配になったけど、四温の湯上りは、春の兆しを伝える妖精さんとかが入って来るんじゃないかとウキウキするから面白い。

 部屋に戻って、頭のタオルを外して、本格的にゴシゴシ拭く。

 ホワワワ~

 蒸された頭からシャンプーの香りが部屋いっぱいに広がる。

 我ながらいい香り。

 つい、鼻をクンクンしてしまう。

 俺妹のフィギュアたちがニコニコして、アノマロカリスの縫いぐるみは「変なやつ」と言っているような気がする。

 プルルル プルルル

 机の上の黒電話が鳴って、フィギュアたちが注目して、アノマロカリスが触覚使って受話器を耳元に寄こす。

『お地蔵さんからお電話がかかっています』

 受話器の向こうで交換手さんが伝えてくれる。

「お地蔵さん?」

『はい、メイドお化けに追いかけられた時庇ってくださった、ほら、お守り石借りてるでしょ?』

 あ、ちかごろ挨拶にも行っていない、お守り石も借りっぱなしだし、マズかったかな(^_^;)?

『繋ぎますね』

「は、はい……もしもし、やくもです(^_^;)」

『ごめんなさいね、お風呂上りにくつろいでいるところ』

「あ、いえいえ、こちらこそ、お守り石とか借りっぱなしで……」

『いいのいいの、今日はね、ちょっとお願いがあって電話させてもらったの』

「お願いですか?」

 ちょっと身構える。

「なんでしょ?」

『やくも、啓蟄って知ってる?』

 ちょっと戸惑ったけど思い出した。ラノベに出てきた言葉だ『春めいてきて、虫たちも穴から出てくる』とかいう意味だ。

『そう、その啓蟄。でも、出てくるのは虫たちだけじゃなくてね、あやかしとかもチラホラとね』

「あ、あやかし(;^_^?」

『悪い奴ばかりじゃないんだけど、中にはね……』

「は、はあ……」

『だいじょうぶ、やくもならやっつけられるから!』

「え、やっつけるって……」

『悪い虫は、早めに退治しないと、梅雨とか夏になったら大変だから』

「でも、退治なんて、わたし」

『だいじょうぶ、とっておきのお守り石、明日には届くからそれ使ってやっつけられる。明日あたり宅配便で届くから。じゃ、お願いね(^▽^)/』

「あ、おじぞうさま……」

 プツ…………切れてしまった。

 

 あくる日、ほんとうに黒猫の宅配便が持ってきた。

 ほんとうにっていうのは、宅配さんそのものが黒猫さんだという意味もある。

 そのお守り石は、由緒有り気な勾玉の形をしていたよ。

 おじぞうさま、本気なんだ……。

 

☆ 主な登場人物

  • やくも       一丁目に越してきて三丁目の学校に通う中学二年生
  • お母さん      やくもとは血の繋がりは無い 陽子
  • お爺ちゃん     やくもともお母さんとも血の繋がりは無い 昭介
  • お婆ちゃん     やくもともお母さんとも血の繋がりは無い
  • 小出先生      図書部の先生
  • 杉野君        図書委員仲間 やくものことが好き
  • 小桜さん       図書委員仲間
  • あやかしたち    交換手さん メイドお化け ペコリお化け えりかちゃん 四毛猫 愛さん(愛の銅像) 染井さん(校門脇の桜) お守り石

 

 

 

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らいと古典 わたしの徒然草・2『あやしうこそものぐるほしけれ』

2021-02-10 07:01:26 | 自己紹介

わたしの徒然草・2  

『あやしうこそものぐるほしけれ』    

 


 さて、第二回目。いよいよ本題。

 高校生なみ……以下の知識しか持ちあわせていないわたしは、とりあえず『徒然草』について書かれた本にあたってみるしかない。と思いさだめ、図書館から『徒然草』について書かれた本を借りてくることから始めました。
 
 結論は「こら、あかんわ……」であります。

 図書館にある六十冊の中の数冊を見ただけですが、ありていに言えば、うまい料理を味わうのではなく。料理の材料の産地や、脂肪がどうの、タンパク質、ビタミンがどうのと成分分析をしているようなものばかり。高校生用の『国語便覧』にいたっては、いかにも「これ暗記しとけ!」というような記号化された情報だけ。「成立、千三百三十年から~千三百三十一年。学問、芸術、男性論、女性論、飲酒論、説話的なもの、有職故実。中心的思想をなすものは仏教的無常観……」 大人むけの本でも「ひぐらし」が正しいのか「ひくらし」がいいのか、まことに人体解剖図。人を理解するために、その人柄を知るのではなく。エイヤ! とぶち殺して解剖しているような感じです。
 
 これはもう原文と適切な現代語訳を読んで、自分の感覚で「なるほど、そうでっか……」と、自分のアンテナにとらえられたものを「兼好さんは、そない思わはりますか。わたしはね……」と、それこそつれづれなるままに、書いていくしかないと思いました(^_^;)。
 
 最初にアンテナにひかかったことば、百五十一段「五十歳をすぎたら」であったので、厳密には二番目であるが。「やるぞ!」と、思い定めてからはこれが第一号なので、最初としておきます。
 
 最初のことば、それは「あやしうこそものぐるほしけれ」です。口語訳はさまざまですが「ふしぎに、物狂おしくなる」が、標準的。「物狂おしい」が、ちょいムズイ「気ぃにかかってしゃあないで!」といったところでしょうか。この「気ぃにかかってしゃあない」が、さらにむずかしい。自分の信条や意見にあわないことが「気ぃにかかってしゃあない」ということで手を打ちます。
 
 ふだん、「これが自分の意見だ」と、思っていることは人の受け売りであることが多いものです。
 
 教師時代、多くの先生にとって、「日の丸、君が代」に反対することや、「三十人学級の実現」が疑いようのない「自分の意見」でありました。

 わたしは「気ぃにかかってしゃあない」でした。 わたしは、幸か不幸か、高校からずっと劣等生でした。高校は四年、大学は五年、就職するのに、さらに三年かかってしまいました(-_-;)。ろくに授業など聞いていなません。だから、わたしの知識や感覚は学校で学んだものではありません。

 学校で習って身に付いたものは中学までの読み書きと計算力だけです。

 それ以外はバイトや、つれづれなるままに読み散らした本などから自得したものばかりです。わたしが小学校のころ、昭和四十年ぐらいまでは、正月の旗日には多くの家で日の丸が掲げられていた。卒業式に「仰げば尊し」「蛍の光」は定番でありました。多くの先生たちが、それらを侵略戦争の象徴であると、思いこんでおられて。また、いまも思いこんでおられます。その思いこみが正しければ、戦後すぐに日本人の多くがそれらを拒絶したはずなのではないでしょうか。
 
 昭和四十年ごろは、戦後の教育をうけた人たちが、社会の中核になりはじめたころです。
 
 侵略戦争の象徴ならほかにいっぱいあります。所得税の源泉徴収をはじめとする税制。大規模な私鉄や電力会社など戦時中に統合されたもので、戦時中の国策がそのまま残っているものです。また横左書きの文章は、今やだれも不思議には思いませんが、戦時中の一時期までは左右混交。多くは右書でした。昔の写真や資料をみれば歴然としています。左書になったのは、旧南洋庁が出した通達によるものであります。南方の植民地の人たちが旧宗主国の欧米の文章に慣れているため、左右混交の表記では混乱するためであり、昭和二十七年の内閣通達がこれを追認したかたちになったものなのです。ことほどさように、その気になって探せば、戦時中の国策の結果現状にいたっているものが多く残っています。その中で「日の丸」をはじめとする特定のモノに対する反対が、教育現場で多数になってきたのは、わたしの記憶がまちがっていなければ、昭和四十年ごろだと思うのですが、どうでしょう。

『三十人学級』もそうです。わたしが現職であったころ、わたしの勤務校は入学者が二百四十名。卒業する生徒は毎年百人をきっておりました。二三年生は三十人学級はおろか、二十人学級が実現していました。問題はもっとほかにある……が、ヤボな話になりかけてきたのでこれくらいにしておきます(^_^;)。「物狂おしい」とは、かくもやっかいなものであるようですね。
 
 通り雨がすぎたあとの、街の香りがほのかに夏を感じさせるようになってきました。次回は夏にかかわる「よしなしごと」を書ければと思う。

〈注〉原文は夏に書いたもので季節感があわなくてすみません(n*´ω`*n)

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妹が憎たらしいのには訳がある・57『でんでらりゅうば』

2021-02-10 06:35:35 | 小説3

たらしいのにはがある・57
『でんでらりゅうば』
         


    

 

――しばらく様子を見る――

 二日後にユースケに宛ててメールを打った。
 当然、となりの木下クンのPCを中継してメールの出所は分からなくしてある。

――さすが甲殻機動隊。発信源も分からないし、着信履歴も残らないな――

 折り返し、ユースケからメールが来た。ユースケも、なかなかやるもんで、発信はペンタゴンになっていた。もっとも原文は――バグダッドは快晴、雲一つ無し――で、世界中に駐留するアメリカ軍、関係施設に一斉送信され、そのどこかのCPをハッキングしているCPをいくつも経由して、木下クンのCPに入ってきたものだ。通信コードからペンタゴンと知れただけである。木下クンのハッキングは秒単位で移動して、しかも痕跡を残さない。ペンタゴンも、軍の情報局も、甲殻機動隊でも見抜くことはできないだろう。

 どうせ、腰を落ち着けるなら、適度なPCマニアの側がいいだろうぐらいのネライだったが、大ヒットだった。

 その週のうちに国防省で佐官級の人事異動が小さなニュースになった。表向きは、極東アジアの警備の都合ということであったが、裏にグノーシスの権力闘争があることは、わたし(真由=ねねちゃんと俺の融合)も優子(幸子と優奈の融合)も分かっていた。対馬に移動した佐官二名がウミドリ(オスプレイの発展系)の不時着事故で死亡している。
 ユースケからの連絡も――連絡あるまで待機――のメールを最後に途絶えた。ちなみに、このメールはあるタレント政治家が愛人に宛てた――しばらくいけない。愛してるよ――に偽装されていた。このメールは週刊BSにも流れ、その週の最大のスキャンダルになった。これはユースケのちょっとしたウサバラシだろう。

 わたしたちは、思いがけず、平穏な女子大生生活を送ることになった。

 わたしは国文、優子は史学科だった。こないだまで女子高生だったけど、義体なので、N女子大の学生としては、中の上ぐらいの能力設定にしてある。また、それに合わせて生体組織も変態させ、プラス四歳。胸も念願のCカップにした。

 国文の講義で、こんなことがあった。

 コロコロコロ……

 講義中、足もとに消しゴムが転がってきた。斜め後ろの席で小柄なショートヘアがキョロキョロしている。
「これ、あなたのでしょ?」
「あ、どうも」
 これだけの会話だったけど、なんだか友だちになれそうな気がした。

「さっきはどうも」

 講義がが終わると、その子はちょこんとお辞儀をした。
「あなた、長崎の人でしょ?」
「え、分かります(^_^;)!?」
「なんとなく。よかったら学食でお昼でもどう?」
「は、はい」 
 その子は、弾けたような笑顔になった。

「真由さん、こっちこっち!」

 手際よく、その子は学食の席を二つ確保した。わたしは、まだこの子の名前を知らない。「わたし、渡辺真由。名古屋から……」
 そこまで言うと。
「取りあえず、席キープしてきます!」
 そう言って、ショートヘアをフワフワさせて学食へまっしぐらに駆けていった。

「あ、まだ自己紹介もしてませんね!?」

 それまで、東京に越してきたカルチャーショックについて、ひとくさり喋って、その子のスイッチが切り替わった。
「あ、わたしばっか喋って、えと、川口春奈っていいます(;'∀')。真由さんがN女にきて最初のお友だちです!」
 そう言って、特盛りのエビカツカレーの、最後のお楽しみに取っておいたのだろうエビカツの尻尾を美味しそうにかみ砕いた。
「友だちだったら、さん付けはよそうよ真由・春奈でいこうよ」
「え、いいんですか?」
「ってか、友だちなら、それが自然じゃない?」
「じゃ、真由……さん(n*´ω`*n)」
「ハハ、ボチボチいこうか」
「デザート、なにか食べます?」
「じゃ、イチゴのショ-トにコーヒー」
「承知!」
 春奈はすっとんで、デザートをあっと言う間に確保してきた。わたしは、お金を渡しながらタマゲタ。春奈のデザートは、大盛りのかけそばだった。
「春奈、よく食べるわね!」
「エネルギー効率が悪いの」
 そう言うとサロペットのボタンを外すと、七部袖のTシャツを脱いで、勢いよくキャミ一枚になった。小柄だけど均整のとれた体だ。
「もう一杯、なんか飲もうか。わたしおごるから」
「嬉しい、じゃ、ジンジャエール。大……ごめんなさい」
「いいわよ、わたしも、それにしようと思っていたから」
 わたしは、義体のわりには要領が悪く。直前に三人組に入り込まれ少し遅れた。席に戻ると春奈が、何やら手で遊んでいた。
「なにやってるの?」
「あ、えへへ(〃´∪`〃)ゞ長崎の手遊び」
「それ、大昔、テレビで見たことある」
「ほんと!?『でんでれりゅば』っていうのよ」
「わたしにも教えて!」
「簡単よ、こんなふう『でんでれりゅうば、でてくるばってん、でんでられんけん、でてこんけん、こんこられんけん、こられられんけん、こ~ん、こ~ん』やってみて!」
 歌に合わせて、右手のグーと親指、人差し指と小指を交互に拍子を取るように左の手のひらに打ちつける……案外むずかしい。
 わたしは、あえて義体の能力を閉じて、人間の能力でやってみた。
「だめだね、こうだってば……」

 この人間らしいもどかしさが、とても愛おしく思えた……。

 

 

※ 主な登場人物

  • 佐伯 太一      真田山高校二年軽音楽部 幸子の兄
  • 佐伯 幸子      真田山高校一年演劇部 
  • 千草子(ちさこ)   パラレルワールドの幸子
  • 大村 佳子      筋向いの真田山高校一年生
  • 大村 優子      佳子の妹(6歳)
  • 桃畑中佐       桃畑律子の兄
  • 青木 拓磨      ねねを好きな大阪修学院高校の二年生
  • 学校の人たち     加藤先輩(軽音) 倉持祐介(ベース) 優奈(ボーカル) 謙三(ドラム) 真希(軽音)
  • グノーシスたち    ビシリ三姉妹(ミー ミル ミデット) ハンス
  • 甲殻機動隊      里中副長  ねね(里中副長の娘) 里中リサ(ねねの母) 高機動車のハナちゃん
  • 木下くん       ねねと優奈が女子大生に擬態生活しているマンションの隣の住人
  • 川口春奈       N女の女子大生(真由=ねねちゃんと俺の融合)の友だち 

 

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