大橋むつおのブログ

思いつくままに、日々の思いを。出来た作品のテスト配信などをやっています。

かの世界この世界:173『アメノヌホコ・2』

2021-02-28 09:21:30 | 小説5

かの世界この世界:173

アメノヌホコ・2語り手:テル(光子)    

 

 

 ヒルデに従って飛んでいくと、出来損ないの綿アメのようにカオスが疎らになってきて、人の形をとった七つの澱がハッキリしてきた。

 澱たちはジェット気流に流される雲の切れ端のような速度で突き進んでいく。澱たちの中ほどには、アメノヌホコが見える。

「あいつら、アメノなんとかを盗むつもりだぞ」

「取り返さなくっちゃ!」

 シャリン! 

 ヒルデがエクスカリバーを抜く、さすがに異世界の名刀、冴えた鞘走りの音だ!

 チャリン

 わたしのはシケた音しかしない(^_^;)

「行くぞ!」

 ブワァアアアアアアアア!

 それだけで100メガバイトはかかっていそうなエフェクトを残してヒルデは突撃した。

「させるかあああああああ!」

 敵に言っているのか、ヒルデに怒っているのか分からない雄たけびを上げて、わたしもつき進む!

 ボン

 レンジの中で卵が弾けるような音をさせて、澱どもが散開する。

 チャリン チャリン

 アメノヌホコを持った澱に打ち込むと、寸前に別の澱がやってきてヌホコを取っていく。

 敵ながら連携の取れたラグビー選手のようだ。

「「くそ!」」

 ヌホコを持った澱に切りかかると、剣を振り下ろす直前にヌホコが消える。

 消えるのは錯覚で、目にもとまらぬ速さでかっさらわれているのだ。残された澱を切っても、煙を切ったように手ごたえがない。一瞬飛散したようになる澱だが、すぐにまとまってしまってキリがない。

 自分では分からないが、ヒルデが空振りした時のそれで分かる。わたしも、ヒルデから見ると、そう見えているに違いない。

 シュワン! ブワン!

 名刀とナマクラが空を切る音ばかりする。

「ラチが明かないわよ(;'∀')」

「澱とは言え形があるんだ、どこかに欠点がある!」

「欠点?」

「探すんだ!」

 ブワン! ブワン!

 言いながらも手を休めることなくエクスカリバーを振り回している。

 さすがはヴァルキリアの姫騎士、主神オーディンの娘だ、闘志がハンパない!

 接近すると、澱たちの中にボンヤリと神名が浮かび上がる。

 ☆クニノトコタチ ☆トヨクモノ ☆ウヒヂニ ☆スヒヂニ ☆ツノグヒ ☆イクグヒ ☆オホトノヂ ☆オホトノベ ☆オモダル ☆アヤカシコネ

 さっきよりも輝きが増して、存在感がハッキリしている。

 放っておいてはロクなことにならない気がする。

「その通りだ、とにかく切りまくれ!」

「分かった!」

 シュワン! ブワン!

 澱たちの神名は一定ではない、追い回しているうちにも、同一の澱の中で神名がコロコロ変わっていく。

「こいつら、まだ神名が定着しないんだ、定着する前に倒すぞ!」

「お、おう!」

 返答はするが、こっちはヴァルキリアの戦士じゃない、息切れがしてくる。

 そう言えば、ムヘンではレベル幾つだったか……

 HP:1500 MP:400 属性:テル=剣士

 忘れかけていたステータスが浮かび上がってくる。

 そうか、HP MPのレベル概念があるきりだったな。

 ん?

 待てよ、HPは20000はあったはずだぞ?

 そうか、スタミナを使い果たしかけている!

 ポーションを呼び出そうとしたが、ストックはゼロになってしまっている。

「白魔法をクリックしろ! テルにもケアルぐらいはあるだろ!」

「わたしが?」

 ケアルはケイトに任せていた、そんな白魔法が……あった!

 MPだけは400あったので、100を使って機関銃のように自分にケアルを掛ける。

 ピピピピピピピピピピピピピピピピピピ

「よし、HP10000にまで戻った!」

 気を取り直して再び澱たちに挑みかかる。

 ケアルを掛けるのに遠ざかってしまっていた。

 急いで戻ると、一つのことに気が付いた。

 エクスカリバーの斬撃にも暖簾に腕押しの澱たちだが、近くに居てあおりを受けた澱のHPは一瞬減っているのだ。HPが減ると、すぐに近くの澱が寄ってきてケアルをかけて回復させている。

 そうか、澱たちが無敵なのはヌホコを持っている間だけで、手放した瞬間から防御力は急速に落ちるんだ!

「ヒルデ、ヌホコを持っていない澱は防御力が低い! いや、無いも同然だ!」

「分かった!」

 矛先を変えて、ヒルデと二人で手ぶらの澱たちを切りまくる。

 数秒で六体の澱を打ち倒し、最後の一体は、ヌホコに手を伸ばす前にHPを使い果たして消えて行ってしまった。

「よし、ヌホコを返しに行くぞ!」

「こっちよ!」

 アメノヌホコを回収して、ヒルデと二人、イザナギ・イザナミの二神の元に駆けつけた……。

 

☆ 主な登場人物

―― この世界 ――

  •  寺井光子  二年生   この長い物語の主人公
  •  二宮冴子  二年生   不幸な事故で光子に殺される 回避しようとすれば逆に光子の命が無い
  •   中臣美空  三年生   セミロングで『かの世部』部長
  •   志村時美  三年生   ポニテの『かの世部』副部長 

―― かの世界 ――

  •   テル(寺井光子)    二年生 今度の世界では小早川照姫
  •  ケイト(小山内健人)  今度の世界の小早川照姫の幼なじみ 異世界のペギーにケイトに変えられる
  •  ブリュンヒルデ     無辺街道でいっしょになった主神オーディンの娘の姫騎士
  •  タングリス       トール元帥の副官 タングニョーストと共にラーテの搭乗員 ブリの世話係
  •  タングニョースト    トール元帥の副官 タングリスと共にラーテの搭乗員 ノルデン鉄橋で辺境警備隊に転属 
  •  ロキ          ヴァイゼンハオスの孤児
  •  ポチ          ロキたちが飼っていたシリンダーの幼体 82回目に1/6サイズの人形に擬態
  •  ペギー         荒れ地の万屋

 

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真凡プレジデント・7《姉妹でお料理》

2021-02-28 06:26:52 | 小説3

プレジデント・7

姉妹でお料理》       

 

 

 柳沢琢磨……サイコパスとの噂が高い。

 

 SNSでフォローしていた大臣経験もある有名弁護士に食いついたのが去年の夏。

 この有名弁護士をネット上の論戦で打ち負かしてしまったのだ。

 わたしには難しくて、よく分からないけど、憲法の有り方とか原発問題とか外国人参政権とか……他にもむつかしい問題でぶつかり合っていたらしい。

「柳沢君は、まだまだ若い、なんたって高校生だしね。現場にいる弁護士が非常に頑張っていることやらが感覚的に分かってないんだね。まあ、分かれという方が無茶なんだけどね、しかし前途有望な青年だ、司法試験に受かったら、また論戦しよう」

 週刊文秋が企画した論戦を新幹線の時間が迫っているとして打ち切り、弁護士は、さも残念そうに握手の手を差し出した。

「分かりました、では、同じ司法試験を受けて決着をつけましょう」

「それはいい(^▽^)! では、何年先になるか分からないが、柳沢君が司法試験を受けるまで健康に注意するよ」

 これで有名弁護士は幕を引いたつもりであった。

 

 しかし、この司法試験勝負は、わずか二か月で実現してしまった。

 

 週刊文秋は民放各社に企画を持ち込み、模擬司法試験勝負を実現してしまったのだ。

 放送局は、過去の司法試験を作成した学者や裁判官経験者を動員して、琢磨が提案した模擬司法試験を企画した。

 

 そうして三月にワイドショーのコーナーで特別企画が組まれ、SNSで公言した有名弁護士は受けて立たざるを得なくなった。

 

 結果、琢磨は勝利した。

 中学生の将棋名人が出現したことと合わせて世間の評判になったのは記憶にも新しい。

「いやあ、まいったまいった(*^▽^*)」

 有名弁護士は鷹揚な笑みで拓馬と握手したが、誰の目にも琢磨の余裕の勝利であることは明らかだった。有名弁護士は急きょ世界一周の船旅に出発し、ホトボリの冷めるまで日本から姿を消すことになった。

 その柳沢琢磨が生徒会長に立候補したのだ、わたしに勝ち目があるはずがない。

 

 そんなことを思いながらだったから、その日は、なつきとの試験勉強にも力が入らず、ため息一つつき、とろとろと家の玄関を開けた。

「見たよ、柳沢琢磨が立候補したんだって?」

 なんだか待ち伏せていたみたいにお姉ちゃん。

「うん、待ち伏せ。こんな面白い話、すぐに聞かなきゃでしょ」

 

 引きこもっていても、こういうところは以前のままだ。

 

「そもそも、どうして立候補しようと思ったわけ?」

 そのまま晩ご飯の手伝いをさせられながら、お姉ちゃんが聞いてくる。

「分かんないわよ本人に聞かなきゃ」

「だから聞いてんのよ、ほら、ハンバーグの生地はしっかりこねる」

「え、あ、うん……てか、わたし?」

「そうよ、強敵現るだから、対策うたないといけないでしょ」

 姉は、立候補辞退なんて毛ほども考えてはいないようだ。

「わたしって……」

 言葉を選んでしまう。お姉ちゃんの劣化コピー……というところからは話せない。

「わたしって……特徴ないでしょ。良くも悪くも目立つ子じゃないし、人間関係とかも……メンドイ方だしさ。いっぱつ生徒会とかに出てさ、しっかりとさ……その……慣れておきたかったのよ世の中とかにさ。進学にしろ就職にしろさ、あるでしょ。サークルとかゼミとか懇親会とか、将来は町内会とか地域とのかかわりとか、仕事始めたら、もう仕事そのものが人間関係じゃん。お姉ちゃんの結婚式とか……いろんな人生のイベントでさ……うまくやっていけるようにって思ったわけなのさ」

 とりあえず、当たり障りのない答えをしておく。

「そうじゃなくて、ちゃんと空気抜く!」

「え?」

「抜いとかないと、爆発する」

「あ、えと……」

「……ハンバーグ」

「あ、ああ」

「う~ん、だね、真凡自身の結婚とか家庭生活とかのほうが……先かも」

「え?」

「早いぞお、年とるのって」

 自分の結婚とか家庭とかは微塵も考えていなかったので電車が急停車したみたいになった。

 ペシペシ ペシペシ(わたしの音)

 ビシバシ ビシバシ(お姉ちゃんの音)

「よし、それくらいでいいから。小判型の形にして。要領は、こんな風ね」

 一時期料理番組も担当していたので、意外に料理には詳しい姉なのですよ。わたしは、自分の話にも形をつけなければと思う。

 藤田先生の困った顔が浮かんだが「なにそれ」と返されそうなので、締めくくりに相応しい方を話した。

「辞書で調べたらさ、生徒会長ってpresidentって言うんだよプレジデント! 大統領と同じなんだよ、なってみたいと思わない?」

「アハハハ」

 盛大に笑われる。そりゃ東大出の才媛だ、生徒会長がプレジデントだなんて先刻ご承知。

 でも、姉妹の会話って可愛く締めくくっておくのがデフォルトなんだと思う。

 

 それに、プレジデントという呼び方は本当に気に入ってるんだからね。

 

☆ 主な登場人物

  •  田中 真凡    ブスでも美人でもなく、人の印象に残らないことを密かに気にしている高校二年生
  •  田中 美樹    真凡の姉、東大卒で美人の誉れも高き女子アナだったが三月で退職、家でゴロゴロしている。
  •  柳沢 琢磨    急に現れた対立候補
  •  橘 なつき    入学以来の友だち、勉強は苦手だが真凡のことは大好き
  •  橘 健二      なつきの弟
  •  藤田先生     定年間近の生徒会顧問
  •  中谷先生     若い生徒会顧問

 

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