大橋むつおのブログ

思いつくままに、日々の思いを。出来た作品のテスト配信などをやっています。

せやさかい・193『満開の梅にことよせて』

2021-02-27 13:24:20 | ノベル

・193

『満開の梅にことよせて』詩(ことは)          

 

 

 境内の梅が満開になった。

 

 写真を撮ろうかと提案したら、みんなが手を挙げて、けっきょく家族総出の記念写真になる。

 いちおうお寺なので、パイプ椅子三つ出して坊主席を最前列に。

「わしらは後ろでええで」

 そう言うと、お祖父ちゃんは留美ちゃんを手招きして、さっさと座らせてしまう。

「あ、わたし、立ってます(^_^;)」

「ええからええから( ^)o(^ )」

 愚兄に促されて、わたしとさくらが留美ちゃんを挟んで座る。

「留美ちゃん、こいつも頼むわ」

 愚兄がダミアを留美ちゃんの膝にのせて重しにして留美ちゃんの遠慮を封じてしまう。

 お父さんが愛用のカメラを出してきて、手際よくセッティング。

 檀家とか坊主仲間の集まりで慣れているので、こういうことをやらせると手際がいい。

 クンクン クンクン

「もう、女の子が前に座ってるからって、クンカクンカしないでよね」

「い、いや、ちゃうて! 花粉症や花粉症!」

「まあ、どうだかあ~」

「留美ちゃん、うちと替わりい」

 さくらが上手いことを言って、留美ちゃんを真ん中に据える。

 わずか三十秒で、留美ちゃんを真ん中にした記念写真のポジションが決まる。

 三枚撮って、みんなも自分のスマホを出して、同じものを何枚も撮る。

「う~ん、釣鐘堂の脇もええし、紅梅のとこもええし……」

 さくらもノッテきて、女子三人、境内のあちこちで続きを撮ってみる。

「あ、夕陽丘さんも呼んであげたらよかったね」

 分かっていながら、わざわざ苗字の方で言ってみる。

「あ、それはまた日を改めて……でも、なんで苗字で?」

「えへ、ちょっと実験」

 言いながら、お祖父ちゃんと山門の方へ歩いて行く愚兄を見る。愚兄には『頼子さん』でインプットされているので、とっさには反応しない。

「写真、頼子さんには、わたしから送っていいですか?」

 留美ちゃんの素直な反応に愚兄の耳がピクリと動いたような気がしたのは考えすぎ?

「ああ、それやったら俺から……」

 アハハハ

 アグレッシブな反応に、三人思わず笑ってしまう。

「ちょっと、みんな来てみい」

 お祖父ちゃんが、山門の前からオイデオイデしている。

「なあに?」「なになに?」「なんですか?」

 山門の脇をを見て新鮮な驚き。

「あ、あ、すみません((ノェ`*)っ))」

 留美ちゃんが表札を見て顔を赤くする。

 うちはお寺なので、表札が二つある。

 大きな『如来寺』という大きいのと、普通サイズの『酒井』の表札。

 ずっとお寺の看板だけやったんやけど、去年、さくらの担任の先生が迷われてから家の表札もかけるようになった。

 その『酒井』の表札が新しくなって『酒井』の横に小さく『榊原』と書き加えてある。

「郵便とか宅配さんとか困らんようにな」

 郵便と宅配のためだと言ってるけど、留美ちゃんを家族の一員として受け入れていることの意味の方が大きい。留美ちゃんの顔が、また赤くなった。

「ね、ここでも写真撮ろう!」

 お父さんとお母さんは抜けていたけど、再びの撮影会。

 これで最後の一枚……と思ったら、山門の前を真っ新な聖真理愛女学院高校の制服着た女の子が自転車で駆け抜けていった。

 そう言えば、今日あたりが合格者登校日。

 この近所にも聖真理愛の生徒がいるんだと、三年前の自分を見るようで、少し胸が熱くなった。

 

 

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誤訳怪訳日本の神話・27『生き返ったオオナムチ』

2021-02-27 09:24:29 | 評論

訳日本の神話・27
『生き返ったオオナムチ』    

 

 

 オオナムチと八十神の父親は共にアメノフユキヌですが、母親が違います。

 オオナムチの母はサシクニワカヒメですが、八十神たちの母は、父のアメノフユキヌがあちこちの女神と交わって生まれた神々です。上代や古代においては母親が違えばほとんど他人と変わりません。異母兄妹なら、平気で結婚もできました。

 兄の八十神たちはオオナムチの惨たらしい遺体をサシクニワカヒメに送りますが、そういう惨いことができたのも自分たちの母親ではなかったからでしょう。

 八十神たちに、どこか遠慮の有ったサシクニワカヒメは、息子の遺骸に涙して、ただただ祈る事しかありませんでした。

 どうか、どうか、息子の命を、オオナムチの命を戻してください、返してください……。

 祈った神は、彼女の父のサシクニオオカミかオオナムチの七代前のスサノオか、あるいは大元のイザナギであったのか……。

 やがて、その祈りの甲斐があって、キサガヒヒメ(赤貝の精)ウムギヒメ(蛤の精)がやってきてオオナムチの命を呼び戻してくれます。

 おそらくは、死んで黄泉の国へ行ったんでしょうが、イザナミのように黄泉戸喫(ヨモツヘグイ)をしていなかったのでしょう。黄泉戸喫、憶えておられるでしょうか、イザナギが亡くなったイザナミを連れ戻しに行った時、黄泉戸喫してしまったイザナミは「自分の意思では戻れないので、黄泉の神々と相談するので、けっして覗いてはいけません」と言われ、待ちきれないイザナギは覗いてしまって、えらい目に遭いました。

 オオナムチは、ご先祖のイザナミの失敗を知っていたのか、母親のサシクニワカヒメがなんとかしてくれると思っていたのか、とにかく蘇りました。

「おまえが生き返ったということは、すぐに八十神たちの知るところになるわ」

「どうしよう、せっかく生き返ったのに(;゚Д゚)」

「よく聞きなさい、木国(きのくに)のオホヤビコの神を頼っていきなさい、きっと助けてくれます!」

 オオナムチは木国を目指します。

 木国は、おそらく紀国のことでしょう、名前の通り日本有数の森林地帯で、江戸時代には幕府や紀州藩の御用林がありました。奈良と三重の間に和歌山県の飛び地がありますが、江戸時代の御用林の分布の名残だと言われています。

 しかし、敵は八十神、名前の通りでも八十人、実際はもっと多かったかもしれません。やがて居場所が知られてしまいます。

「どうも、ここでは匿いきれない。根の国堅州国(ねのくにかたすくに)に行って、スサノオ命に頼りなさい」

 なんとも運の無い男ですが、見ようによっては、どんな逆境に陥っても、必ず助けてくれる人が現れるという強運の持ち主であるとも言えます。

 この歳になって人生を振り返ると、ああ、こういうことってあるよなあと思います。

 まさに『捨てる神あれば拾う神あり』ですなあ……

 高校を四年通うハメになったわたしは、不器用な生徒で、アルバイトもろくに見つけることができませんでした。

「こんなバイトがあるでえ」

 友だちが落第した説教をする前にバイトを紹介してくれました。

 大学も五年通うハメになったのですが、その五年間も、いろんな人がバイトや人の繋がりを仲介してくれました。

 部活指導という名目でグズグズ母校の演劇部に顔を出していると、賃金職員や非常勤講師の口をかけていただきました。

 三十路を目前にして校長からはやんわりと「学校から出ていけ」と言われましたが、ほかの先生たちは、こんな道あんな道を示して、力も貸して下さり、いつの間にか採用試験に通って本職になってしまいました。

 あいつは、いつまで独り身でおるねん!?

 周囲の人たちは、心配をして下さり、しばしばお見合いの機会を設けて下さり、四十路を前に、やっと所帯を持つことができました。

 四十路の結婚と言うのは、初婚でもきまりの悪いもので、カミさんとも相談して結婚式などはあげませんでした。

 それは、もったいない!

 ということで、先輩の先生たちがおぜん立てをして下さり、出席者100人を超える結婚披露パーティーを開いてくださいました。

 なんか、我田引水になってきましたが、こういう世話焼きが、日本の良き伝統であるような気がします。

 若いころから、日本神話には親しんできましたが、オオナムチの下りで、そういうことに思い至ったのは、いい意味で歳なのかもしれません。

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らいと古典・わたしの徒然草・16『第三十六段 さもあるべき事なり』

2021-02-27 06:43:44 | 自己紹介

わたしの徒然草・16

第三十六段 さもあるべき事なり』    

 

 

 さもあるべき事なり、つまり「そういうこともあるべきだ」という兼好のこだわりが書かれています。

「そういうこと」とは、以下の内容です。

 あるオッサンが、何かの事情というか、気が乗らなかったというか、今まで通っていた女のところへ、しばらく行けず(行かず)、少し敷居が高くなっちまったなあ……と思っていたら、彼女のほうから、こう言ってきました。

「今さ、使用人のニイチャンが一人足りないのよね、いい子がいたら紹介してよ」という便りです。

「ずいぶんご無沙汰じゃないのよさ」などと、アカラサマに責めるのではなく、人手が足りないことにこと寄せて、そのオッサンが自然に来やすいようにする便りでありました。

 で、オッサン……彼は、彼女のところに自然なカタチで行きやすくなりました。そういう彼女の機転の利いた心映えに「そういうこともあるべきだ」なのであります。

 日本人は一般に気の利いた言葉がヘタクソですね。国会中継などをみていてもセンセイがたのボキャ貧に、思わずチャンネルを変えてしまったりします。

 
 先年、オバマ大統領がスピーチ中に、演台のエンブレムがポロリと取れて、コロリンと落ちてしまうというハプニングがありました。気づいた大統領は、子どものように、エンブレムが取れたところを覗き込み。

「これが無くても、ボクが誰だかみんな分かってるよね?」

 これが日本なら、首相は無視し、係りの役人がコソっと落ちたエンブレムを拾い、NHKは、その部分のテープをカットするか、アングルを変える。で、あとで、営繕担当の役人が始末書を書かされますねえ。

 エンブレムで思い出しました。

 昨年アジアの某国高官が来日し、首相が使っている演台でスピーチをされて、その様子が某国で放送されると、こんなクレームがつきました。

「あのマーク(桐の紋所)は、わが国を侵略した豊臣秀吉のマークであり、侮辱である」というものであります。日本の総理大臣は「大いなる臣」であるので、皇室の副紋である桐の紋を使っているのです。また、戦後日本国の紋章も菊紋をやめて桐紋に切り替えているので、日本国の紋章でもあります。歴代功績のあった、臣にはこの紋の使用が許されてきました。だから江戸時代の小判にも桐紋の刻印があります。

 それに、総理大臣の桐紋は「五七の桐」で、秀吉の「五三の桐」とは違います。こういう一見ささいなことではありますが、政府はきちんと説明をすべきでしょうねえ。

 話がそれました。言葉の問題です。

 チャーチル首相が、二日酔いで、議会に出たとき、ある婦人議員から、こう言われました。
「神聖な議会にそんな(二日酔い)顔で来るとはなにごとですか!?」
 チャーチル首相は、こう答えました。
「どうも失礼、あなたのお顔はずっとそのままだが、わたしの顔は明日には元にもどりますんで、ご容赦を」
 日本で言えば、問責決議かもしれません。いまのイギリスでもこのジョークは言えないかもしれませんが、わたしは上手い返し方であったと思います。

 このチャーチルのエピソードを雑談の中で話した時、同年配のご婦人は『それは差別や』的な表情をされました。ジョークを言うのもむつかしい時代になりました。

 ケネディー大統領が、宇宙飛行士に勲章を授与するときに、ポロリと落としてしまったことがありました。テレビで全米中継の真っ最中(アメリカのテレビは、アングルを変えたりしない)なので全米が見ていました。 大統領はにこやかに落ちた勲章を拾い上げ、こう言続けました。

「地上の大統領より、宇宙の英雄の栄誉を讃えて!」

 ドゴールだったと思うのですが、ドイツがまだ東西に分裂していたころ、記者からこう質問された。
「東西ドイツの統一について、どうお考えでしょうか?」大統領はこう答えました。
「わたしはドイツが大好きです。そのドイツが二つある。それが一つになってしまうのは寂しいね」
 こういう政治家は日本にはいません。しかし、この言葉については、「もうちょっと、お勉強なさっては」と、いう程度の問題である。欧米は、国の中で人種や宗教、思想の違いが大きく、自然と言葉や、その言い回しが発達してきました。
 日本は、そういう問題が比較的に小さい。元来が人の和を尊ぶ農耕社会であるので、言葉には「推し量る」ということが尊ばれますかね……。

 

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真凡プレジデント・6《対立候補》

2021-02-27 06:12:05 | 小説3

プレジデント・6

《対立候補》       

 

 

 お姉ちゃんとコロッケで乾杯したあくる日の事。

 

 物理の教室移動で校舎を出たら、昇降口の方から藤田先生と中谷先生が出てくるのが見えた。

 模造紙丸めたのと画びょうのセットを持ってニコニコしている。心なし足取りも軽いように思えた。

――あ。立候補者が揃ったんだ!――

 持っているものと足どりの軽さで直感した。

 

「おう、真凡! おかげで出そろったよ!」

 

 藤田先生も気づいて模造紙を持ったままの手を振ってくれた。

「さっき出そろったんでポスターを貼って来たところだ」

「え、揃ったんですか!?」

 実直な藤田先生が嬉しそうにしているのは、見ていても気持ちがいい。

 先日、中庭で候補者の名前が埋まらない書類とにらめっこしていた時の消沈ぶりが嘘のようだ。

 やっぱり藤田先生はニコニコしている方がいい。

「よかったですね!」

「そうよ、会長候補は二人になったから、久々に面白い選挙になるわよ(^▽^)/」

 中谷先生も屈託がない。てか、なに、いまの?

「え、対立候補が出たんですか!?」

「ああ、真凡も頑張れよ!」

「さ、次はピロティーの掲示板です」

「じゃあな、真凡!」

 両先生は足取りも軽く行ってしまった。

 

 キンコーンカンコーン……キンコーンカンコーン……

 

 すぐにでも見にいきたかったけど、始業のチャイムが鳴ったので、あきらめて物理教室に急いだ。

 

 物理の授業は気もそぞろだった。

 だって対立候補だよ!

 どうしよう、生徒会選挙に落ちるなんてメチャクチャカッコ悪い。

 無風の信任投票になると見越して立候補したんだ。対立候補なんか居たんじゃ、ぜったい落選する。

「大丈夫だよ、真凡ならぜったい通るよ」

 並んで座っているなつきが密やかに言う。なんで分かったのよ?

「だって……」

 なつきは、わたしの手元を指さした。

「あ……」

 わたしってば、ノート一面に――対立候補――の四文字を呪文のように書き散らしていた。

 

 キンコーンカンコーン……キンコーンカンコーン……

 授業が終わるのももどかしく、なつきを連れて昇降口に向かった。

 

 令和二年度前期生徒会候補者と書かれた模造紙には、わたしの名前に並んで、もう一人の会長候補の名前が書かれていた。

 会長候補  三年六組 柳沢琢磨

 

「これって……あの柳沢琢磨だよね……」

 ついさっきまで、わたしの当選を請け負って止まなかったなつきの声があからさまに萎んでいった……。

 

☆ 主な登場人物

  •   田中 真凡    ブスでも美人でもなく、人の印象に残らないことを密かに気にしている高校二年生
  •   田中 美樹    真凡の姉、東大卒で美人の誉れも高き女子アナだったが三月で退職、家でゴロゴロしている。
  •   橘 なつき    入学以来の友だち、勉強は苦手だが真凡のことは大好き
  •   橘 健二      なつきの弟
  •   藤田先生     定年間近の生徒会顧問
  •   中谷先生     若い生徒会顧問
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