大橋むつおのブログ

思いつくままに、日々の思いを。出来た作品のテスト配信などをやっています。

やくもあやかし物語・64『光ケーブル』

2021-02-17 08:59:36 | ライトノベルセレクト

物語・64

『光ケーブル』    

 

 

 お爺ちゃんは、よく動画で昔の景色を見ている。

 

 リビングの大きいテレビだから、わたしもお茶を飲んだりしながら見るともなく見ている。

「あら、昭和五十年ごろですね」

 東京の昔を映していた画面を見てお婆ちゃんが言う。

「いいや、十五年ほど前の神田だよ」

「え、だって、古本屋さんとか喫茶店とかまんまですよ」

「だから、そういう神田の昔が残ってるところを撮ってるんだよ」

「そうなんですか?」

 わたしも、立て込んだ街並みや、こんぐらがりそうなくらいに掛け渡された電線とかから、お婆ちゃんが正しいと思ってしまった。

「ほら、ここを見たら分かるよ」

「「ええ?」」

 お婆ちゃんと二人、4Kの画面に張り付く。

「だから、この電線の込み具合は昭和ですよ」

「よく見ろよ、光ケーブルが走ってるだろうが」

「「光ケーブルぅ?」」

 

 解説してもらって、やっと分かった。

 

 電線、正しくは電線と電話線とかがあるらしいんだけど、よく分からない。

 電話線に並んで、グルグルとぐろを巻くような線が掛かっていて、そのグルグルに巻き取られるようにして黒いケーブルたちが走っていて、それが光ケーブルなんだそうだ。

「ほら、ときどき、こんな工事やってるだろ」

 慣れた手つきで動画を切り替える。

 あ、ペコリお化け……。

 交通誘導員のおじさんが誘導灯を振りながら頭を下げていて、その向こうにカーゴ付きのクレーン車。カーゴの中にはヘルメット被ったオジサンが、グルグルの中にケーブルを通していて、新しく光ケーブルを増設しているんだと分かる。

「ああ、これって、光ケーブルの工事してたんですかぁ」

 お婆ちゃんが感心。

「そうだよ、この光ケーブルの有る無しで時代が分かる。昭和には無かったからな」

「そうなんだ」

「便利なネットだけど、こういうアナログな仕事があってなりたってるんだよなあ」

 得意そうにお爺ちゃんが締めくくり、ババと孫が頷いて、平和な小泉家のひと時が過ぎていく。

 

 お爺ちゃんの大叔母にあたる人が、樺太の真岡という街で電話の交換手やっていた。その繋がりなのか、わたしの部屋に古い黒電話があって、交換手さんが住み着いていて、ときどき変な電話を取り次いでくれる。

 食後のひと時、光ケーブルに祖父母と孫が感心したのは、そういうお爺ちゃんの大叔母さんと関りがあるかも。

 

 図書当番で遅くなって、茜に染まる二丁目の坂下を歩いている。

 ふと、通学カバンが暖かくなっていることに気付く。

 えと……

 そうだ、中に勾玉を入れていたのを思い出して取り出してみる。

 あったかーい(^▽^)

 両手で愛しんでいると、いつもは目を向けない坂下の道路わきの電柱に目がいく。

「あ、光ケーブル」

 お爺ちゃんに教えてもらったので、すぐにとぐろの中を走っているケーブルの束に目が行く。

 ゾワ ゾワゾワ ゾワワワ

「え!?」

 ケーブルたちが、命があるようにゾワメキだした。

 瞬間で、あやかしだと思った。

 もし、勾玉が無かったら、臆病なわたしは、一目散に坂を駆け上がって逃げただろう。

 でも、これはお地蔵さんの勾玉なんだ。

 あれは、きっと悪いあやかし!

 ギュっと勾玉を握りしめ、握った拳を春闘の労働者のように突き上げた。

 ボタボタボタ

 まるで、黒い寄生虫のようなものが何匹もとぐろの中から落ちてきた。

 ヒャ!

 さすがに飛びのくと、日向に出てきたミミズのようにのたくって、ジュウウウと煙みたいなものをあげて消えていった。

 かすかに断末魔のピーピーいう悲鳴を聞いたような気がしたんだけど、さすがに気味悪くなって走って帰ったよ。

 帰ってから、勾玉にひもを通して首から下げられるようにした。

 カバンの中だと、忘れてしまうと心配になったから。

 当分、勾玉は肌身離さず持っていることにしよう。

 

☆ 主な登場人物

  • やくも       一丁目に越してきて三丁目の学校に通う中学二年生
  • お母さん      やくもとは血の繋がりは無い 陽子
  • お爺ちゃん     やくもともお母さんとも血の繋がりは無い 昭介
  • お婆ちゃん     やくもともお母さんとも血の繋がりは無い
  • 小出先生      図書部の先生
  • 杉野君        図書委員仲間 やくものことが好き
  • 小桜さん       図書委員仲間
  • あやかしたち    交換手さん メイドお化け ペコリお化け えりかちゃん 四毛猫 愛さん(愛の銅像) 染井さん(校門脇の桜) お守り石

 

 

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らいと古典・わたしの徒然草・8『第二十八段 諒闇の年ばかりあはれなることはあらじ』

2021-02-17 06:44:27 | 自己紹介

わたしの徒然草・8

『第二十八段 諒闇の年ばかりあはれなることはあらじ』  




 この二十八段は、後醍醐天皇の母后が亡くなられて、その喪に服した様をジンワリと心にしみるところがあり、ため息のように書かれた段であります。

 後醍醐天皇は、持妙院統の花園天皇から譲位された。本来なら、後二条天皇の皇子である邦良親王に譲位されるところでありましたが、邦良親王がわずかに九歳であったっため、邦良親王(くによししんのう/くにながしんのう)の叔父ながら中継ぎの天皇として位についたものであります。

 読者もご存じのとおり後醍醐天皇は、その後持妙院統にも、同じ大覚寺統である邦良親王の遺児にも位を譲らず、建武の新政を始め、自分の皇子恒良親王(つねながしんのう/つねよししんのう)に譲位し、いわゆる南北朝時代の混乱をまねいた天皇であります。

 兼好法師のオッサンはまだそんな(その時代の彼にとって)未来のこともわからずに、母后の死に喪に服する後醍醐の姿にあわれを感じ、書いたのでありますが、この兼好のオッッサンあまりそのことには気をもんだ様子が、徒然草二百四十三段のどこにも出てきません。もともと邦良親王の里内裏の堀川家の執事のような仕事をしていたんだから、出家していたとはいえ、このオッサンの分からないところであり、また魅力でもあります。

 この南北朝時代の朱子学に基づく、正閏論(せいじゅんろん。片一方が正統で、もう片方はまちがいではないが正統ではないという、ムツカシイ理屈)にはあまり踏み込みません。もとが浅学非才のわたしには荷が重いし、わたしが想う日本という国を考える上ではあまり意味のないことでもあり、兼好のオッサンもそう感じていたフシがあります。
 
 日本史の中で、後醍醐という天皇は異形の存在であります。

 わたしの知る限り、自分で政治をやった(正確には、やろうとして失敗した)天皇は、記紀神話に出てくる武烈天皇くらいのもので、この武烈天皇の悪逆非道ぶりは、そのスグ後の継体天皇を正当化するためにねつ造されたフシがあります。
 日本の天皇というのは、世界史的にみても、権力をもったり、自分一人で政治の方針をうちたてたことが皆無に等しいようです。

 秦の始皇帝や、ルイ十四世のような絶対的な権力を持ったことがないし、持とうとしたこともありません。だから、わたしたちが若かったころ先生達に教えてもらった、天皇がロシアのツアーリやドイツのカイゼルとよばれる皇帝たちのように絶対的な権力を持つという意味での絶対主義など存在しなかった(高校を四年、大学を五年も通ったしごく不真面目劣等生のわたしは、ろくに授業を幸いにも聞いておらず、その手の感覚はすり込まれずにすんだ)

 わたしの独学から得た感覚(知識と言えるほど体系だってはいない)で言うとこうなります。

 天皇とは世界に類を見ない「祈る者としての王者」である。

 マツリゴトとしての政治(戦争も含めて)は、皆、時の為政者たちが行ってきました。

 為政者たちは、関白であったり、幕府であったり、AKB48以上の数の大名であったり、明治政府であったりしました(その延長線上に戦前の昭和がある)。天皇はその中で、ほとんど自分の意志を通したこともなく、表そうともせず、ただひたすらにこの国とこの国の民の平穏、安寧(あんねい)を祈る存在でありました。
 あくまで梅や桜の下でビール片手の話として聞いていただきたいのですが。日清戦争も、日露戦争も、第一次大戦への参戦も、大東亜戦争も、天皇の意志でおこなわれたものは一つもありません。

 ただ一度、大東亜戦争を終結させるときに、時の為政者たちは、天皇の意志に頼りました。本来禁じ手のはずなのですが、それで三百万以上の犠牲を出し、本土決戦を叫んでやまなかった軍部を沈黙せしめ、戦争を終結させ、マッカーサーをして「天皇の存在は百個師団の軍に匹敵する」と言わしめました。それを例外として、以来、昭和、平成、令和の三代の陛下は、祈りの存在であり続けておられます。

 やや、揮発性の高い話をしているかもしれません。あくまでも缶ビール片手のお話であります。今の政府、政党、議会のオメデタサにヘキエキされている方は多いと思います。しかし、日本人は革命も暴動もおこしません。それは日本の魂のあり場所が内閣にも議会にも無く、もっと別のところにあることを無意識的に知っているからではないでしょうか(幸か不幸か、欧米やイスラムで言うところの神や教会の存在も量的に言って無いに等しい)。

 むつかしい言葉を並べましたが、日本は深刻な闘争や騒乱をせずに国の統一が保てていることを喜んでいるということであります。

 それだからこそ、徒然草には、その手の話題が少ないのではないかと思う次第なのです。

 

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妹が憎たらしいのには訳がある・64『オーマイガー!?』

2021-02-17 06:17:36 | 小説3

たらしいのにはがある・64
『オーマイガー!?』
         

     


 それから、表面上は穏やかな学生生活が続いた。

 裏ではいろいろあった。

 春奈の父親は、C国のハニートラップ、それもロボットに騙され情報を流し続けたということで、他社や自社の重役や役人達といっしょに社会的に抹殺され、今は長崎に帰って妻と少しずつ「夫婦」に戻りつつあった。春奈は、これを機に東京での学生生活に本腰を入れた。むろん宗司のサポートがあってのことだが。
 日本政府とC国の関係は一触即発の状態になり、グノーシスの仲間割れも休戦状態で、隣の木下クンのところからも、日本とC国の腹のさぐり合い以上の情報は流れてこず、緊張を孕んだ平和が続いた。

 そんな中、W大の理工学部と自動車部の肝いりで自動車ショーが開かれた。

「足としての車 足は第二の頭脳である」

 もっともらしいコンセプトで、自動車部が持っているガラクタ同然のクラシックカーに理工学部が適当な解説をつけ、お祭り騒ぎをやろうという学生らしい企みであった。
 むろん参加料はタダだが、自動車メーカーや玩具メーカーとタイアップしてブースを出してもらい、一稼ぎしようという目論見。
 企画は、我らが「となりの木下クン」で、彼自身ネット上にブースを設け、中古車から、クラシックカーのパーツ販売の仲介までやって稼いでいた。宗司クンは、スーパーの知識と料理の腕をを生かし、友人とB級グルメの店を出して楽しんでいた。宗司クンの出店は、いわば客寄せで、ほとんど儲けはないが、趣味人として楽しみ、春奈も喜々としてウェイトレスをしている。
 
「この車かわいいね」

 優奈が一台のクラシックカーに目を付けた。ホンダN360Zと表記された車は「古典的未来の魅力」というキャプションが付いていた。
 百年前の車だけど、21世紀に対する無垢なあこがれがフォルムに現れていた。21世紀を感じさせるフロントグリル、コックピットと言っていいような乗車スペース。大胆な黒縁のハッチバック。切り落としたような車体後部。
「極東戦争の前にヒットした『オーマイガー!!』に出てくる車だよ」
「主人公のマドカが『ファルコンZ』って名前付けて、イケメンの外人講師乗せたり、過去の世界に戻って、高校生時代の母親を助けたりするんだよね」
 優子は、頭脳の元になっている幸子か優奈が好きだったんだろう、『オーマイガー!!』の映画への思い入れと知識に詳しい。
「良かったら試乗してください。オートでしか運転できませんが、時代の雰囲気は満喫していただけます」
 W大生にしては、可愛いミニスカ・キャンギャルの女の子が、にこやかにドアを開けてくれた。

「ウワー、カッチョイイ!」

 その一言で、わたしは優子といっしょに「コックピット」に乗り込んだ。
「うわー、これ音声認識もしないんだ!」
「はい、三世代前の手動入力になっています」
 キャンギャルの子が、目をへの字にして、興味をそそる。
「じゃ、神楽坂に出て、渋谷……」
 優子が、山手線の内側をなぞるようにコース設定をした。
「ウウ、たまらん、このアナログ感!」
「ファルコンZ、しゅっぱーつ!」
 優子が、映画のマドカのように声を上げた。
 車が一般道に出るまで、キャンギャルの子は笑顔で手を振っ見送ってくれた。

 車が見えなくなると、キャンギャルはへの字目のままブースの陰でミニのコスを脱ぎ捨て、隠しておいた国防軍のレンジャーのユニホ-ムになり、迎えに来た高機動車に乗り込んだ。

 木下クンも、宗司も春奈も、会場の誰も気づかなかった……。

 

※ 主な登場人物

  • 佐伯 太一      真田山高校二年軽音楽部 幸子の兄
  • 佐伯 幸子      真田山高校一年演劇部 
  • 千草子(ちさこ)   パラレルワールドの幸子
  • 大村 佳子      筋向いの真田山高校一年生
  • 大村 優子      佳子の妹(6歳)
  • 桃畑中佐       桃畑律子の兄
  • 青木 拓磨      ねねを好きな大阪修学院高校の二年生
  • 学校の人たち     加藤先輩(軽音) 倉持祐介(ベース) 優奈(ボーカル) 謙三(ドラム) 真希(軽音)
  • グノーシスたち    ビシリ三姉妹(ミー ミル ミデット) ハンス
  • 甲殻機動隊      里中副長  ねね(里中副長の娘) 里中リサ(ねねの母) 高機動車のハナちゃん
  • 木下くん       ねねと優奈が女子大生に擬態生活しているマンションの隣の住人
  • 川口 春奈      N女の女子大生 真由(ねねちゃんと俺の融合)の友だち 
  • 高橋 宗司      W大の二年生   


 

 

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