大橋むつおのブログ

思いつくままに、日々の思いを。出来た作品のテスト配信などをやっています。

やくもあやかし物語・62『昇降口と忘れ物』

2021-02-01 09:13:12 | ライトノベルセレクト

物語・62

『昇降口と忘れ物』    

 

 

 小桜さんには見えないみたい。

 ほら、図書室の窓側の席で熱心に本を読んでいる、わたしソックリな女生徒。

 小桜さんは『風邪ひいたみたい』と杉村君に言って先に帰ってしまった。

 先生に頼まれた仕事は四時半には終わったので、わたしも書庫から出て帰ろうかと思った。

 ブルル

 スマホが震えてギクッとする。

 マナーモードだからカウンターの杉村君に知られるはずもないんだけど、やっぱ、こっそり様子を窺っていた後ろめたさからなのか、ギクッとしちゃう。

『ごめん、カウンターのとこに体操服忘れた。昇降口のとこまで戻ってるから持ってきてくれない?』

 小桜さんだ。

 慌てていたんで忘れてしまったんだ。

「うん、いいよ。そこで待ってて」

『サンキュ、恩に着る(^▽^)』

 ほんとは、閲覧室には行きたくない。杉村君居るし、窓側にはわたしのソックリさんが居るし。

 でも、小桜さんは同じ図書委員だし、数少ない友だちだし。

 もう一度、書庫の小窓から閲覧室を確認。

 杉野君はそのまんまだったけど、わたしのソックリさんは書架の方に移って本を探している様子。

 ま、エイヤ!って感じで済ませてしまおう。

 いったん書庫から廊下に出てから閲覧室に向かう。

 先生に頼まれた仕事で来ているんだから、書庫を出て司書室を抜けてもいいんだけど、イレギュラーな現れ方をして、驚かれるのやだし、説明すんのなんて、さらにイヤだ。

「小桜さん、忘れ物したって……」

「お、おう」

 それだけで済んだ。

 体操服の袋を掴んで顔を起こすと、閲覧室にソックリさんの姿が無い。いないと気になる。

「あ、これ、書架に戻す分ね?」

「お、おう」

 カウンターの返却本を戻すふりして書架の向こう側へ。やっぱりソックリさんは居ない。

 返却本を書架に戻すと、小桜さんの体操服入れを持って昇降口へ。

「ありがとう小泉さん」

「いいよ、ちょうど帰ろうかとしてたとこだし」

「ほんと、杉村おかしいから。小泉さんも気ぃつけてね」

「うん、ありがと」

「いっしょに帰ろうか?」

「うん」

「あれ、カバンは?」

「あ、いけない。カバン置いたまま……」

 小桜さんの体操服入れを持って、自分のは忘れてしまったんだ(;゚Д゚)……閲覧室に。

「取りに行くから、先に帰って」

「う、うん。じゃね」

 また杉村君の顔を見るのかと思うと、ちょっと気が重い。

 小桜さんを見送って、階段五六段上がったところで、不意に声をかけられた。

「小泉さん」

 え?

 見上げると昔の制服着た女子が踊り場に立っている。

「あ……染井さん」

 桜の精霊の染井さんが桜のエフェクトに包まれてニコニコしている。

「ほれ、カバンとってきてあげたよ」

「あ、ありがと」

「あれ、ドッペルゲンガーじゃないからね」

「そ、そうなの?」

「あれは、杉村君の幻なんだよ」

「杉村君の?」

 混乱する。

 杉村君の幻が、なんでわたしの姿をしてるんだ?

「ちがうよ。杉村君、やくものこと好きだから、やくもの幻出ちゃうんだよ」

「え……ええ!?」

 杉村君は魔法使いか!?

「杉村君の力じゃないと思う。好きになったのが小泉さんだから見えてしまうんだよ」

「え、どういうこと?」

「化学反応」

「かがくはんのう?」

「化けるほうの化学だけどね」

「は、はあ……」

「思春期の妄想力の為せる技でもあるけど」

「あ、えと……杉村君からは、そういうの感じしないんだけど」

 さっき、閲覧室行ったときも、杉村君の視線感じるようなことはなかったし。

「好きな子が傍に来てガン見するような子いないわよ。閲覧室に入ったら、ソックリさんは居なかったでしょ?」

「うん」

「本物が現れたら幻見てる必要ないものね……あ、それって、杉村君無意識だから、変なやつって思わないであげてね」

「う、うん」

「じゃ、わたしの季節には間があるから、これでね(o^―^o)」

 シャララ~ン

 染井さんは、桜のエフェクトを残して消えてしまった。

 カバン持って校門を出ると、小桜さんの背中が見えたので「おーーい!」って追いかけて、いっしょに帰ったよ。

 

☆ 主な登場人物

  • やくも       一丁目に越してきて三丁目の学校に通う中学二年生
  • お母さん      やくもとは血の繋がりは無い 陽子
  • お爺ちゃん     やくもともお母さんとも血の繋がりは無い 昭介
  • お婆ちゃん     やくもともお母さんとも血の繋がりは無い
  • 小出先生      図書部の先生
  • 杉野君        図書委員仲間 やくものことが好き
  • 小桜さん       図書委員仲間
  • あやかしたち    交換手さん メイドお化け ペコリお化け えりかちゃん 四毛猫 愛さん(愛の銅像) 染井さん(校門脇の桜) お守り石

 

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誤訳怪訳日本の神話・19『国津罪』

2021-02-01 06:34:52 | 評論

訳日本の神話・19

『国津罪(くにつつみ)』    

 

  八岐大蛇(やまたのおろち)を語りたいのですが、高天原で忘れていたことがあるので、ちょっと遡ります。

 

 スサノオがアマテラスへの意地悪でやったことを天津罪(あまつつみ)であると紹介しました。

 天津とは天界(たかまがはら)で侵された罪という意味です。神さまをお祀りすることや農耕に関する罪だと申しました。

 この天津罪と並ぶのが国津罪です。言葉的には地上に国が出来て、その国での罪を記したものとなっています。

 しかし、内容的には天津罪よりも深い罪や穢れの意識が反映されているのではないかと思います。

 

 :国津罪とは

 生膚断(いきはだだち)

 生きた人間を傷つけることで、今でいう傷害罪です。いつの世も人は傷つけてはいけないぞということでしょう。

 :死膚断(しにはだだち)

 死体損壊 あるいは傷つけたことで死に至らしめること(殺人罪・傷害致死)とも言われています。

 :白人(しろひと)胡久美(こくみ)

 共に皮膚に顕著な症状が現れる病気で、白人はハンセン病、胡久美はコブやイボができる病気らしいのですが、詳しいことは分かりません。

 :己が母犯せる罪、己が子犯せる罪

 そのものズバリ近親相姦であります。当たり前だろうと思いますが、兄妹間は禁止されておりません。昔は伯父(叔父)姪や腹違いの兄妹は違法ではありませんでした。天智天皇が大化の改新のクーデターのあと帝位につくのに二十三年がかかっています。その理由の一つが同腹の妹を妃にしたからで、この妹妃が亡くなるまでは憚りがあったからだとも言われています。

 今の日本ではいとこ同士の結婚はノープロブレムですが、新婚旅行に韓国や中国や台湾にいくと「え!?」という顔をされます。中華圏と申しますか、儒教が浸透している国では一般にいとこは兄弟同然なのです。親同士が再婚の義理の兄妹は、たしか結婚できるはずです。『俺の妹がこんなに可愛いわけがない!』PSPのゲームで京介・桐乃の兄妹が結婚して子供まで生まれるというのがあります。この設定は、本当は血のつながりが無かったということにして成立しています。アハハと笑ってよかったよかったと納得しますが、外国では義理の関係でもNGになるところが多いと思います。

 中華ついでにもう一つ。アグネス・チャンが日本に来て公園でたくさんの鳩を見た時「ああ、おいしそうだ♡」と感じたそうです。同じ鳩を見て日本人の多くは「平和のしるし」と思います。フランス人は鳩は「空飛ぶ鼠だ!」と嫌います。

 日本では、脱いだ靴は爪先を外に向けて並べますが、韓国では逆に内に向けます。よその家に行って外向きに揃えると「おまえは、そんなに早く帰りたいのか?」と思われるそうです。

 マレーシアは多民族国家で、中国出身者が力を持っていますが、それでもこんなところに気を遣うそうです。

 中国では十二支の猪は豚のことです。亥年の旧正月になると盛んにブタ料理を作り、豚の張りぼてや飾り物を家や街のあちこちに飾ります。しかし、イスラム系の人たちに気を使って、公には豚の飾り物はしなくなっているそうです。笑ってはいけないのですが、西遊記から猪八戒を抜いたり扱いを小さくしたりもするそうです。三十年近い前には、屋台で売っているラーメンに味の素が使われているということで、屋台の店が襲撃にあうということが頻発しました。味の素の原料に豚が使われているという噂が流れ、現地の味の素関連の日本人が逮捕されるようなことがあったそうです。事の真偽はともかく、異文化が共存するということは、そういうことなのですね。

 ことほど左様に、国や民族や地方によって感性や受け止め方が違います。グローバリズムやリベラリズムは結構なのですが、人類のこういう融通が利かないところは無理に合わせられませんし合わせない方がいいと思います。人類というのは程よく国という垣根を持っていた方がいいと思うのですが、いかがでしょう?

 :畜(けもの)犯せる罪

 えと、獣姦というやつですなあ。気持ち悪いことはすんな! ということのほかに病気のことなどがあったのではと思います。

 :昆虫(はうむし)の災

 農業における虫害のことです。虫が湧くことも、何かよからぬことの報いであると思われていたんですなあ。

 :高津神の災

 落雷だといわれています。平安時代に菅原道真が雷さんになって落雷で宿敵たちを殺したことを恐れて天神さんにされました。

 :高津鳥の災

 鳥による農業災害 不勉強なので具体的にはよく分かりません。

 :畜仆(たお)し

 呪いや呪いで人の家畜を殺すこと。昔は呪っただけで罪になりました。

 :蠱物(まじもの)する罪

 動物の死体を使って呪いをかけること。

 

 なんだか、テスト前のまとめっぽくなりました(^_^;) 次は、もっと工夫いたします。

 

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妹が憎たらしいのには訳がある・48『スナイパー』

2021-02-01 06:23:24 | 小説3

たらしいのにはがある・48
『スナイパー』
         

 


      

 イゾウは閉じた思念の中で装備の最終確認をした。

 義体一体吹き飛ばすのには十分な装備だ。


 炭素繊維の短銃身のグレネードランチャー。本来ゲリラ戦用の使い捨て武器である。イゾウはこれを二本まとめて、二発発射できるようにしていた。一発で仕留める自身はあったが、義体の脳は頭にあるとは限らない。胸や腹に仕込んだもの、中にはバックアップのCPを持っているものもあり、義体を完全に仕留めようとしたら、頭部と胴を同時に破壊しなければならない。
 今まっさかりの極東戦争でも、こういう義体には手を焼いているが。イゾウは仕留め損なったことはない。その腕を買われて、こちらのグノーシスに引き抜かれた。むろん正式にではない。今回佐伯幸子という義体が、スニーカーエイジに出るので、できるだけ派手に破壊して欲しいという要請だ。 
 どうやら、こちらのグノーシスは結論を出したようだ。

 しかし、イゾウは、そのことに関心はない。向こうの世界で、イゾウのようなスナイパーは、南西諸島や大陸の山岳部、時に都市部でコッソリと使われ、報酬だけが与えられ、その名が世に出ることはない。
 それが、部内だけとは言え、今度の仕事は記録に残る。三万の観衆が見守る中、ショ-のように自分の仕事は注目される。腹の中で沸々と喜びが湧いてくるが、それは思念バリアーの中に封じてある。思念バリアーには物理的な防御力は無い。自分の思念が読み取られ、あるいはハッキングされないためのバリアーで、スナイパーには必須のものである。ただ、このバリアーの能力を最大に上げると、聴覚が低下する。視覚とスナイパーとしての能力に集中するのに都合がよく、戦場の様々なノイズを遮断するのに有効である。

 だから、午後の部開始のアナウンスは、はっきりとは聞こえなかった。

 聞こえていれば、ただちに撤収したであろう。

 ステージにターゲットが現れた。あらかじめ登録していた桃畑律子の衣装のシリアルと合致した。

 イゾウは観衆に溶け込むために、演奏にノッた。バリアーのため、歌詞の内容までは分からないが、パワーといい、エモーションといい、人の心を動かす力を十分に持っている。こういうものには素人のイゾウにもいいパフォーマンスのように思えた。

――せめて、最後まで歌わせてやるか――

 ああ ああ レイブン レイブン レイブン 傭兵少女隊……ただ今参上! 

 笑顔で決めポーズになった瞬間、イゾウはトリガーを二度引いた。
0・1秒の間隔を空けて、優奈の頭と胴体は血しぶきをあげて吹き飛んだ。
 会場は騒然となった。
――ブラフか、ターゲットが違う!――
 そう思った瞬間、パルスレーザーが飛んできた。イゾウは磨き抜かれたスナイパーの勘で、跳躍して、ホールの天井板を突き抜けた。
――しまった、こんなところに戦闘用の義体が――

 ねねちゃんはシーリングライトのスペースで演奏を聞いていた。

 ラストの決めポーズになって、拍手の最初の一拍を打ったところで、グレネード弾の発射を感知した。あまりの至近距離なので、グレネード弾の破壊には間に合わなかったが、すぐに発砲者にパルスレーザーを撃った。発射位置を悟られないため、ステージ上のミラーボールに反射させた。その間0・1秒。優奈の胴体が吹き飛んだとき、そいつは天井板をぶち抜き、目の前に現れた。そいつは意図的に現れたのではなく、緊急避難としてここに逃げてきたのだろう。スナイパーらしからぬマヌケ顔にねねちゃんはパルスレーザーのパワーを最大にして撃った。

 バシューーーーーーー

 イゾウは視神経が捉えた映像情報を行動に反映する前に、周囲に僅かな煤をのこしただけで蒸発してしまった。

 舞台の仲間や、観客席の前の方にいた者達は、優奈の返り血を浴びてパニックになっていた。幸子は、無意識にバラバラになった優奈の側に寄り、優奈の前頭葉の破片を探し、優奈の遺体を抱きしめるふりをして、それを飲み込んだ。なかば無意識な行動だった。
「幸子、しっかりしろ!」
 俺は、幸子が義体であることも忘れて、抱き起こした。
「優奈、優奈が……!」
 幸子は、そう叫びながら、優奈の前頭葉を喉の奥経由で自分のCPの予備スペースに保存した。幸子自身、そんな機能が自分にあることに驚いていた。

 そして、その会場にいた人たちは、認識の多寡に差はあるものの、とんでもないことが起こり始めていることを実感することになった……。

 

※ 主な登場人物

  • 佐伯 太一      真田山高校二年軽音楽部 幸子の兄
  • 佐伯 幸子      真田山高校一年演劇部 
  • 千草子(ちさこ)   パラレルワールドの幸子
  • 大村 佳子      筋向いの真田山高校一年生
  • 大村 優子      佳子の妹(6歳)
  • 桃畑中佐       桃畑律子の兄
  • 青木 拓磨      ねねを好きな大阪修学院高校の二年生
  • 学校の人たち     加藤先輩(軽音) 倉持祐介(ベース) 優奈(ボーカル) 謙三(ドラム) 真希(軽音)
  • グノーシスたち    ビシリ三姉妹(ミー ミル ミデット) ハンス
  • 甲殻機動隊      里中副長  ねね(里中副長の娘) 里中リサ(ねねの母) 高機動車のハナちゃん

 

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