魔法少女マヂカ・197
礼法室に連れて行ってくださらない?
三時間目が終わって四時間目は図書室で自習という休み時間、ブリンダはランチボックスをぶら下げて霧子の机の前に立った。
「あら、礼法室で早弁?」
霧子が面白そうに見上げると、鼻の脇に皴を寄せてウインクする。
めっぽうお茶目で可愛い顔になるのだが、ブリンダの可愛い顔はクセモノだ。
こないだは、霊雁島の第七艦隊のレーガン提督の前でやってくれて大冒険をやらされてしまったぞ。
「じゃ、急いで行かなくっちゃ(o^―^o)!」
やれやれ、霧子も一秒でブリンダ党になってしまう。
ノンコも行きたそうにしていたが、うまい具合に占いをせがむ級友たちに囲まれている。
ノンコも魔法少女候補生なんだけど、ブリンダが絡んでくると、たいてい荒事になるのでお留守番だ。
「ここからはオレに仕切らせてくれ」
「お、オレ?」
礼法室に入るとブリンダの口調がガラリと変わって、霧子が目を丸くする。
「これが、こいつの生(なま)なのよ」
「すまんな霧子、ネコを被ったままじゃ仕事にならないんでな」
「う、うん。面白いわ!」
こいつら、いいコンビニなるかも。
「オレのコンビはマヂカだ」
「ええ、わたしはのけ者(#`Д´#)?」
「いや、ここからはトリオだ」
「うれしい!」
やれやれ……あっという間に雰囲気を作りやがった。
これは……運命の扉だな。
凌雲閣の地下、八枚の扉を一つ一つ確かめてブリンダは結論付けた。
「運命の扉?」
「アメリカじゃタスクドアって呼んでる。効率よく任務に向かわせてくれるけど、自分たちで探ったり調べたりという調整ができない。とりあえずは、このドアだな」
八枚の内、一枚のランプが灯る。
「じゃ、まずは腹ごしらえしてからね」
こういう状況で食欲が湧くというのは霧子の長所なんだろうが、ブリンダは犬にオアズケを命ずるように制した。
「リーダーはオレ」
「あ、そうね」
霧子も素直に巾着の口を閉める。
「ランチは小道具になりそうなのでな」
「ブリンダ、任務の内容が分かっているようだな?」
「ああ、このタスクドアは米国式だ。ランプが点けばベースの情報は分かる」
「米国製だとは知らなかったわ」
「米国式と米国製は違うよ……ドアの向こうは、列車の中のようだ、足もとに気を付けて」
わっ!
ドアの向こうに踏み込んだ途端に霧子がよろめいた。
列車の中とは言われたが、まさか動いているとは思わなかったんだろう。
「中央線……」
踏み込んだところは車両の端のデッキ、ドアの窓から景色が見える。
「胸ポケットにチケットが入っている……この車両だな」
「あ、わたしの二枚あるわ」
「四人分のチケットで三人……意味があるんだろ?」
「多分な」
客室に入ると、指定席はほぼ埋まっていて、わたしたちのリザーブと思われる四人掛けが空いている。
通路を歩くと、女学生の三人組が珍しいのだろう、チラチラと視線を感じる。大正デモクラシーと言われる時代でも、ちょっと目立つ。
しかし、三人のうち一人が金髪の外国少女だと分かると、たいていは納得した顔になる。
行先は軽井沢、外人の避暑に日本人のブルジョア少女が付き合っているの図になっているんだろう。
あ……
旅客が広げている新聞、日付を見て緊張した。
大正十二年九月二日
麻スーツのオッサンの腕時計は午前11時25分を指している。
大震災が起こる23分前だ。
ブリンダのやつ、なにをさせようと言うんだ?
「ア、ココデス! ココ、ワタシタチノリザーブデス(^▽^)!」
ブリンダが、いかにもという外人口調で手招きした。
※ 主な登場人物
渡辺真智香(マヂカ) 魔法少女 2年B組 調理研 特務師団隊員
要海友里(ユリ) 魔法少女候補生 2年B組 調理研 特務師団隊員
藤本清美(キヨミ) 魔法少女候補生 2年B組 調理研 特務師団隊員
野々村典子(ノンコ) 魔法少女候補生 2年B組 調理研 特務師団隊員
安倍晴美 日暮里高校講師 担任代行 調理研顧問 特務師団隊長
来栖種次 陸上自衛隊特務師団司令
渡辺綾香(ケルベロス) 魔王の秘書 東池袋に真智香の姉として済むようになって綾香を名乗る
ブリンダ・マクギャバン 魔法少女(アメリカ) 千駄木女学院2年 特務師団隊員
ガーゴイル ブリンダの使い魔
※ この章の登場人物
高坂霧子 原宿にある高坂侯爵家の娘
春日 高坂家のメイド長
田中 高坂家の執事長
虎沢クマ 霧子お付きのメイド
松本 高坂家の運転手