大橋むつおのブログ

思いつくままに、日々の思いを。出来た作品のテスト配信などをやっています。

せやさかい・192『シルシをつける』

2021-02-23 09:28:22 | ノベル

・192

『シルシをつける』詩(ことは)          

 

 

 ドアを開けると、それが目についた。

 

 机の上の一枚の封書。

 封書の表には聖真理愛女学院大学・事務局のロゴと酒井詩様と、わたしの氏名。

 中身は分かっている、大学の入学金と前期授業料の領収書が入っている。

 先週、お母さんから「振り込んでおいたから」と言われて「うん、どうも」としか返せなかった。

 釈然としないのよ、この四月から大学生。

 それもエスカレーター式に聖真理愛女学院の大学。

 三年の十一月まで吹部の部長をやっていて、自分の進路は二の次だった。

 前任の涼宮先輩は偉大な人で、わたしが部長を引き受けた時には、全ておぜん立てが整っていた。

 わたしが困らないように、各パートの事や生徒会との関係とか、先生たちへの根回しとか、連盟のことや、コンクールのことなど、全て済ませていてくれていた。

 最初は――わたしも、やればできるもんだ――と思っていたけど、それは、全部涼宮さんたち先輩のお蔭だ。

 二年生も後半になって引継ぎの事を考え始めたんだけど、やってみると結構大変。

 なによりも、後継ぎと狙いをつけていた後輩たちが「酒井先輩のようにはできませんし」と、みんな尻込みをしてしまって、ギリギリまで決まらなかった。

「今年の二年生は!」

 三年生は憤っていたけど、分かってる。わたしの力が及ばなかったんだ。

 だから、正直、進路のことは後回し。

 せめてもの意地で、聖真理愛女学院大学を一般入試で受けた。

 自分の成績なら楽勝だと分かっていたし、潔く一般入試で受けることを担任の先生も進路の先生も「酒井さんらしいケジメの付け方」と褒めてくださった。

 二年生も「酒井先輩は自分の進路を犠牲にしてまで吹部の面倒を見てくれたんだ!」と感激してくれて、多少の不安には目をつぶって後を継いでくれた。

 入学した時は……ううん、涼宮先輩から引き継いだころまでは、大学は国公立。だめでも、うちの系列ではない大学に行こうと決めていた。

 わたしは、いろんなことを言い訳にして、けっきょく安易な道を選んでしまった。

 吹部なんて、所詮は高校の部活なんだし、部活の経営なんて一義的には顧問の仕事だし。ほんとに、その気なら自分の事だけに没頭することもできた、みんなもそれでいいって認めてくれたよ。

 そんな気持ちがあるから、合格通知をもらった時も感動は薄かった。

 こうやって、入学金受領の書類をもらっても。そうなんだ、で、お終い。

 くさっていても仕方ないので、リビングへ降りて、お母さんに「ありがとう、書類見たよ」って、身内としての仁義を切ろうと思った。

 え……!?

 リビングでニヤついている我が兄を見て怖気を振るった。

「また、そんなの買って!」

「でや、ええやろ(#^0^#)」

 リビングのテーブルには『けいおん』メンバーのフィギュアが、ただいま演奏中!という感じで並んでいる。

 ドラムの律 ギターのユイ 同じくアズニャン(梓) ベースの澪 キーボードのムギ(紬)ちゃん

 わたしも『輝けユーフォニアム!』と並んで好きなアニメだからメンバー全員の名前が分かったりするんだけど、フィギュアを集めようとは思わない。

「澪ちゃんは、ちゃんと縞パンやねんぞ(#^▽^#)」

「もう、変態ボーズ!」

 兄の変態ぶりに呆れていると、廊下の向こうからさくらがオイデオイデをしている。

「ああ、ごめん。変態ボーズが変なの並べてるから……」

 入りにくいのかと思ったら、じっさい、さくらも並んで立ってる留美ちゃんも赤い顔をしている。

「ちゃうねん、ちょっと三人で決めたいことがあるねん」

「なに?」

「これからは、女子三人だけ洗濯物を別にすることにしたん!」

 おやつを前にしたユイのように鼻息が荒い。

「三人て?」

 わたしとさくらとお母さん?

「それで、三人とも似たようなもの着てるし、シルシを付けることにしたん!」

「え、ええ……ああ!」

 留美ちゃんが、いっそう赤くなったので分かった。

「そうか、留美ちゃん決心したんだね!」

「は、はい、お世話になります(#´~`*#)」

「キャミとかは裾、パンツとブラは後ろの裏側、靴下は履き口の裏に刺繍糸でシルシ! OK!?」

「う、うん、いいわよ」

「すみません、めんどう掛けます!」

「色は、赤、青、黄の三色!」

「ちょ、声おっきい!」

 注意するのが遅かった。

「なにをコソコソやってんねん」

「もう、変態ボーズ!」

「え、あ、すまん!」

 一言で、変態兄貴は退散する。

 振り返ると、さくらの手にはシルシ見本の下着がにぎられていました(^_^;)。

 如来寺も少しずつ春の準備が始まってきました。

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らいと古典・13『第三十三段 今の内裏作り出されて……』

2021-02-23 06:30:36 | 自己紹介

わたしの徒然草・13

『第三十三段 今の内裏作り出されて……』 

 


 この段は、二条富小路の内裏が再建されたときのことであります。

 花園天皇が内裏のお入りになる前に、祖母の玄輝門院が下見をされて「あ、閑院殿ののぞき窓のカタチがちゃいますよ」と指摘された。
 それを兼好のオッサンは「いみじきこと」と、喜んでいる。

「いみじ」とは、程度が甚だしい事に使う形容詞で、平安時代この方、よく使われる。
 兼好のオッサンには、申し訳ないのですが、女子高生の「かわいい」と大差ない頻度(品度にかけたシャレですが(^_^;))でつかわれています。

 今回は、兼好のオッチャンの「いみじ」にこだわってみます。

 この閑院殿の窓とは、やんごとなき皇族の方々が、役人たちの仕事ぶりなどを「のぞき見」するための小窓のことであります。この内裏が再建されたのは、じつに五十八年ぶりのことで、「カタチちゃやいますよ」と指摘した玄輝門院は、そのとき七十二歳。焼亡前の内裏のころは十四歳の少女でありました。
 つまり、玄輝門院は、オチャメな少女で、この閑院殿の窓から、のぞき見をしていたのであります。その少女の「オチャメな少女時代」を、無意識に「その窓ちゃいますよ」で、出してしまったことを、兼好のオッサンは「いみじ」と感じたのです。
 その少女時代のみずみずしいオチャメを「いみじ」と感じられ程の歳に、兼好自身が感じたのであれば、彼自身かなりの歳になっているだろうと思って調べたら、この三十三段以後を四十代の作とする先生達が大半であります。

 現職であったころ、昼休みに教室を覗いてみると、前日に同じ短大を受験した二人の女生徒が言い争っていました。
「準備万端」と黒板に書かれており、「これに読み仮名をつけなさい」という問題であったらしい。真面目そうなセミロングが気弱にこう言った。
「『じゅんびばんたん』やと思うけど……」
 元気印のショ-トカットは自信たっぷりに、こう言った。
「『じゅんびマンタン』やなあ、先生!?」自信マンタンに鼻を膨らませた。
「『じゅんびばんたん』やでえ」と、答えてやった。
「え、うそ……」鼻を膨らませたまま、ショ-トカットはフリ-ズした。
 これに似た感性を七十二歳の玄輝門院が、不覚にも見せてしまったことを兼好は感じたのでしょう。兼好自身いい感性をしていると思います。

 ここからは、わたしの感性であります。

 兼好というひとは、よく「無常観の人である」と言われますが、この無常観は、変わらぬものへの信頼があっての上であろうと思うのです。
 兼好は有職故実に詳しい。
 有職故実とは、ブッチャケて言えば形のことであります。挨拶のしかたに始まる礼儀作法や、衣装、儀式のありようなのです。
 象徴的なことだけ書きます(言い出せばきりがないので)と、看護婦さんという言い方が公には消えました。今は看護師と書きます。
 保母さんという言い方が公には消えて保育士と書きます。「婦」という字には「帚」という字が入っていて、差別的なのだと聞いています。でも、現場の病院や保育所にいくと「看護婦さん」「保母さん」が、まだ現役の言葉として残っているのではないでしょうか。
 ある社会的な考え方に右へならえで、前世紀の終わり頃に変わったと思うのですが、現役の言葉として生きているということは、やはり新しい言葉には無理があるのではと思うのですが、いかがでしょう。

 平塚雷鳥や、市川房枝が戦ってきたのは「婦人解放運動」であります。「女性解放運動」と言わなければならないのでしょうか。また「主婦」という言葉は置き去りにされていると思うのですが、どうなんでしょう?
 また、「看護師」「保育士」では「し」の字が違います。浅学のわたしには分かりません。ご教示いただければ幸いです。
 わたし一人の感覚かもしれませんが「婦人」という言葉には、独立したイッパシの女性の姿と尊厳が感じられるのですが、間違っているのなら教えてください。

 話は飛びますが、おおかたの学校から「仰げば尊し」「蛍の光」が消えました。
 教師は聖職ではなく労働者だと、現職のころよくいわれました。
 ブッチャケ、わたしはどちらとも言い切れません。ただ人の人生に大きな影響を与える責任の大きな仕事であるとおもいます。むりやり言えと言われれば「教育職の公務員」でしょうか。

 詩的な言葉でいえば「先生」ですね。この言葉だけは幕末から変わっていないように思います。
 詩的ではありますが、この「先生」という言葉は垢にまみれ、傷だらけでもありますが、学校を学校たらしめる最後の砦のような言葉だと思います。
 東京では「机間巡視」のことを「机間支援」というと聞きましたが本当でしょうか?

 言葉には、言霊が宿っています。

「仰げば尊し」「蛍の光」は、戦時中に作られた軍歌ではありません。日本が、明治に国民国家として自立していく中で作られた、言霊を宿した歌であります。
「ビルマの竪琴」という映画で、僧侶になった水島上等兵が、最後無言で竪琴で弾いた曲が「仰げば尊し」でした。この曲で、仲間達の兵隊、観客は自分の惜別の感情と共に水島の決意を感じるのです。これが今どきの年ごとにコロコロ変わる卒業ソングでは生きてきません。

「軍艦マーチ」が、海上自衛隊の儀仗曲であることはわりに知られています。
「抜刀隊」が陸上自衛隊の儀仗曲であることはご存じでしょうか。

 この曲は、昭和十八年、明治神宮外苑での雨の学徒出陣壮行会で流された曲で、かなりのご年配の方でも良い印象をお持ちではないと思います。歌詞の冒頭はこうです。
「我は官軍。我が的は、天地入れざる朝敵ぞ……」こう書いただけで拒絶反応でしょう。
 この曲は、西南戦争のおり、あまりに強い西郷軍に悩まされた政府が、士族が多い警視庁の巡査で部隊を編成したときの曲で、今の警察の公式儀仗曲でもあります。

 兼好が思ったように、世の中は無常なものであります。しかし、その中にけして無常ではないもの、無常にしてはいけないものがあるのではないでしょうか。兼好の心の底にはそれがあったと思います。
 我々も、へたな言葉いじりばかりしていないで、たまには無常ではないものに心を寄せてみてはどうでしょうか。

 一つ思い出しました。国鉄がJRになったとき、国電をE電と言うことにしました。令和の、この時代E電などと言う人はいないと思うのですが……

 もう一つ思い出しました。
「お父さん、お母さん」という言葉を我々は平気で使う。これは思想信条には関わりなく、この両親への呼称に異を唱える人はまずいないでしょう。
 しかしこの「お父さん、お母さん」は明治になって、文部省が作った言葉なのであります。語源は定かではありませんが、江戸の下町言葉である「おっかさん、おとっつあん」という説があります、明治の初年「そんな下卑た言葉を学校で教えるとは何事か!」と、怒鳴り込んだ人がいたらしいです。この人たちは「父上、母上」「おたあさま、おもうさま」と呼んでいた人たちでした。

 また、近頃では「お母さん・お父さん」という性差を感じさせる呼び方はいけないので「親一号」「親二号」と呼ぶべしという人もいるとか。

 先日、アメリカの議会で就任宣誓した議員は、「アーメン」ではなく「アウーメン」としめくくりました。連邦議会では性差を感じさせる言葉を使ったら罰金なのだそうです。

 


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真凡プレジデント・2《橘なつき》

2021-02-23 05:48:54 | 小説3

プレジデント・2

《橘なつき》       

 

 

 フルネームは田中真凡(たなか まひろ)。

 

 苗字は平凡なのに、名前は非凡。

 マヒロとはなかなか読んでもらえない。シンボンとかマフ(凡を風の略字と勘違い)とかマホ(帆と凡は一瞬間違える)とか読まれる。マヒロと主張しておいても元来影の薄いルックスとキャラなので直ぐに忘れられて平凡な方の田中で呼ばれる。

「二年A組の田中……さん、立候補ありがとう、ちゃんと受理させていただきます」

 立候補の届け出をしにいくと、藤田先生は席を外していたので、もう一人の中谷先生に書類を渡す。

 中谷先生はお礼を言ってくれるのだけど、真凡(まひろ)が読めなくて苗字の後に間が開いてしまう。

「すみません、ルビ振っておきます」

 名前の上にタナカマヒロと付け加える。

「タナカマホさんね、ありがとう」

 間違っているけど訂正はしない。パソコンに打ち込むときにはきちんと見てくれるだろうし、今の中谷先生は新任二年目の先生らしく教材研究に忙しそうなのでね。

 

 それに、今日の放課後はわたしも忙しい。

 

 特別な用事じゃない、掃除当番なのですよ。

「ごめん、待たせちゃったわね!」

 清掃区域の本館外階段に行くと、相棒の橘なつきが二人分の掃除用具を持って待ってくれている。

「ううん、なつきも来たところだし」

 気弱な笑顔でホウキを渡してくれる。

「じゃ、上やるから、なつきは下お願いね」

「うん」

 外階段は四階~三階の上と、二階~一階の下に分かれる。

 わたしはいつも上をやる。

 ごくタマになんだけどタバコの吸い殻が落ちていたり、カップルが居たりする。

 そいいうイレギュラーなことになつきは弱い。どう対応していいか分からずにオタオタしてしまう。

 なつきは中学ではチョイ悪だった。

 まあ、周囲に流されてのチョイ悪で、気弱な性格から悪ぶらざるを得なかったんだ。

 入学以来の付き合いで、そのへんのところはよく分かっている。だから、わたしが上に回る。

 二階まで終えると、下を掃き終えたなつきが塵取り片手に待ってくれている。

 

「真凡……新しいメニューができたんだ」

 

 掃除が終わると小さな声でなつき。

「そっか、もうそんな時期なんだ」

「え、あ、そだね……」

 これだけで理解し合って、なつきの家に向かう。

 

 なつきんちはお好み焼き屋さん。

 時々メニューを変えては、それを理由に試食に行く。

「こんどのは、こんにゃくが入ってんの」

「こんにゃくって、去年の夏も……」

「こ、こんどは進化系だし(;'∀')!」

 ムキになるなつき。

 

 じつは、なつきの試験勉強に付き合うのだ。

 なつきはギリギリの成績で受かっている。

 だから授業についていくのが厳しい。

 わたしも、そうそう勉強のできる方じゃないけど、なつきほどじゃない。

 もう、きっかけは忘れたけど、試験前には勉強に付き合うようにしている。

 なつきも当てにしているんだけど、言い出せないので「新メニューができたから」と振ってくる。

 なつきのお母さんも――わたしもメニュー考えるのが楽しくなってきたから――と言う。

 世の中、こういう微妙な心配りで成り立っているんだよね。

 

 それに、なつきはわたしの真凡の読みを一発で覚えてくれた子でもあるしね……。

 

☆ 主な登場人物

  •   田中 真凡    ブスでも美人でもなく、人の印象に残らないことを密かに気にしている高校二年生
  •   田中 美樹    真凡の姉、東大卒で美人の誉れも高き女子アナだったが三月で退職、家でゴロゴロしている。
  •   橘 なつき    入学以来の友だち、勉強は苦手だが真凡のことは大好き
  •   藤田先生     定年間近の生徒会顧問
  •   中谷先生     若い生徒会顧問
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