大橋むつおのブログ

思いつくままに、日々の思いを。出来た作品のテスト配信などをやっています。

かの世界この世界:171『最初の仲間』

2021-02-15 09:02:48 | 小説5

かの世界この世界:171

最初の仲間語り手:テル(光子)    

 

 

 ひょっとしたら分岐?

 

 ハチャメチャな異世界を巡ってきたけど、あとから思うと分岐のようなところがいくつもあった。

 その時は分岐だなんて思っていなかったから、流れるままに身を任せたけども……。

 いま形を現わそうとしている仲間は、はっきりイメージを思いうかべないと、とんでもない事態になりかねない。冴子との関係がこじれたのも、肝心の時にきちんとした選択ができていなかったからという気がしてくる。

 ええと……ええと……

 ケイト……ブリュンヒルデ……タングリス……タングニョースト……ロキ……ポチ……とストロボのように巡っていく。

 あ……あ……

 迷っているうちに、その巡りそのものが薄くなってき始めた。このままでは消えてしまう。

 シュボン!

 唐突にエフェクトが入ったかと思うと、それはブリュンヒルデの姿に固着した。

「もう、自分で出てきたぞ!」

 

 まずはブリュンヒルデとの再出発になった。

 

「懐かしい、もう会えないかと思ったわ(#*0*#)」

「そのわりには迷っていたようだな」

「ごめん、ちょっと気弱になっているのかもしれない」

「まあいい、わたしの旅も中断してしまったからな」

「他の仲間は?」

「バラバラだ、この先再び現れるのか、テルと二人旅になるのかも判然としない」

「し、しかし……足元が定まらないわね……」

 ヒルデの姿こそ定まったけれど、周囲は穏やかになったとはいえ、相変わらず鈍色の渦で、慣れないスカイダイビングをしているような感じ。

「キャ」

「す、すまん、不可抗力だ(n*´ω`*n)」

 わずかに流れが変わったかと思うと、急にヒルデの顔がわたしの胸に密着した。

 互いに押して離れたかと思ったら、クルンと回って、今度はお尻同士で密着、ドンケツして離れたら、またまた回転して、今度はあやうく女子同士でキスしてしまいそうになる。

「アハハ」

「しかし、どうして、こんなに不安定なんだろ(^_^;)」

「ここは、ムヘンでもヴァルキリアの世界でもないからな……ちょっと待て」 

 なにやらゴソゴソしたかと思うと、ヒルデはアーマーの胸板からスマホを取り出した。

「スマホ……あ、わたしも持ってる」

 胴着のポケットをまさぐると、わたしもスマホを持っていた。

 そしてGPSを使うと表記が出てきた。

「The Japanese mythology?」

「えと……日本神話?」

「どうやら、テルの国の異世界のようだな」

 北欧神話にも暗いわたしだけど、日本神話も似たり寄ったり、アニメやラノベで知っているだけで、全体の流れと言うと、小学一年のそれと変わらない。

「あ、なにか現れるぞ!」

 斜め上から気配が降りてくる。

 互いに、それに気づくと、シャリンと音をさせて剣を鞘走らせた。

 最初からボス戦……それは勘弁してほしい……

 口に出さずに身構えていると、気配は20世紀フォックスのロゴのような形を現した。

『天地(あめつち)のはじめ』

 それは、巨大なタイトルとなって、二人の前に立ちふさがった……。

 

 

☆ 主な登場人物

―― この世界 ――

  •  寺井光子  二年生   この長い物語の主人公
  •  二宮冴子  二年生   不幸な事故で光子に殺される 回避しようとすれば逆に光子の命が無い
  •   中臣美空  三年生   セミロングで『かの世部』部長
  •   志村時美  三年生   ポニテの『かの世部』副部長 

―― かの世界 ――

  •   テル(寺井光子)    二年生 今度の世界では小早川照姫
  •  ケイト(小山内健人)  今度の世界の小早川照姫の幼なじみ 異世界のペギーにケイトに変えられる
  •  ブリュンヒルデ     無辺街道でいっしょになった主神オーディンの娘の姫騎士
  •  タングリス       トール元帥の副官 タングニョーストと共にラーテの搭乗員 ブリの世話係
  •  タングニョースト    トール元帥の副官 タングリスと共にラーテの搭乗員 ノルデン鉄橋で辺境警備隊に転属 
  •  ロキ          ヴァイゼンハオスの孤児
  •  ポチ          ロキたちが飼っていたシリンダーの幼体 82回目に1/6サイズの人形に擬態
  •  ペギー         荒れ地の万屋

 

  

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らいと古典・わたしの徒然草・6『第二十二段 何事も古き世のみぞ慕わしき』

2021-02-15 06:44:17 | 自己紹介

わたしの徒然草・6

『第二十二段 何事も古き世のみぞ慕わしき』




 人間五十七年も生きていると、なにかしら昔のことが懐かしく、良いように思われます。

 仕事柄(金にはなりませんが)芝居を観る機会が多くあります。二年ほど前までは、病気のせいで、芝居を観る機会は少なかったのですが、去年から、がぜん観る機会が増えました。

 一つ気のついたことがあります。

 昔に比べて、モギリや場内整理係の応対が非常にいいのです。

「大橋さまでございますね、はい、うけたまわっております。はい、こちら半券とパンフレットになります。どうぞごゆっくり御観劇くださいませ」「はい、自由席になってございますので、お好きな席におつきくださいませ……あ、前のほうがご覧になりやすうございます」「あ、わたし後ろのほうがええんです(観客の反応を見るためにも、後ろで観ることにしている)」「そうですか(ちょっと困惑の表情)……それではご自由に。お足元にご注意くださいませ(懐中電灯で、照らしてくれる)」ワンベルが鳴って、客電がおち、MCのオネエチャンが、飛行機のキャビンアテンダンドのような慇懃さであらわれる。「本日は、○○劇団第○回公演にご来場くださいましてまことにありがとうございます……(以下、それこそ、キャビンアテンダントのごとく、微にいり細をうがつ慇懃さで、観劇のマナーや、トイレの案内、緊急時の避難方法、終演後のアンケートなどにつて、ご説明してくださる)」

 わたしは、吹けば飛ぶような、ほとんど無名な劇作家なので、いただく招待券は比較的若い人たちや規模の小さい劇団が多い。むかしの劇団は、アイソが悪かったような記憶があります。モギリのオネエチャンもせいぜい「どうぞ」「はい」 ひどいのになると「うん」 もっとひどいのになると無言で半券をつきだす。

 では、中味の芝居は昔の方が良かったかかというと、必ずしもそうではあいません。

 ただ、むかしの芝居にはどこかしら毒があったような気がします。なにやら鬱積したものがヘタクソながら滲み出ていました。今の芝居は予定調和というか、大団円というか、ファンタジーというか。良くも悪くも毒が薄いように感じます。多少の波乱やケレンミがあっても、最後は信頼や友情などのカタルシスで幕が下りる。わたしが若かったころは石油ショックのあとではありましたが、今ほどの不景気ではなく、それほどの閉塞感もありませんでした。しかし、なにやら、不安や不満、喪失感が上演作品にあらわれていたように思います。

 首をひねりました。この慇懃さと毒気の無さはなんだろう?

 はたと気がつきました。

 この慇懃さは、ファミレスやファーストフードのバイトのマニュアル化された慇懃さと同じ……かれらは、バイトや派遣で、そういう接客態度が身にしみこんでいるのではないかしらん。なかば気の毒に思い、なかば、このマニュアル化された慇懃さが鼻につきます。
 では、この毒気の無さはなんであろうか? 思うに、芝居とはこういうものだと思いこんでいるのではないでしょうか。たとえ、公演後、派遣切りに遭おうとも観客に夢を与えることが芝居の使命なんだと。いや、考えすぎか……

 いまの若い人たちは、芝居のウラのことには、わたしたちが及ばないほど知識が豊かであり、小屋の機材の使い方にも慣れている様子であります。照明や音響による心理描写や、情景描写がうまい。しかし肝心の表現する本が貧しい。創作劇が多いですね。既成の台本はあまりやりたがろうとはしない。わたしたちが若かったころは、別役実、安部公房、清水邦夫、つかこうへい、イヨネスコ、ブレヒト、ベケットなどをよくやりました。いまは、それだけ若い人の心をつかむ作家が見あたらないのかもしれませんが、ハナから読んでいないのではないだろうかという気がします。

 書店の演劇書コーナーが無くなった、もしくは大幅に縮小されてきたことがそれを証拠だてているように思うのですが。単に、出版不況のあらわれ……なのかもしれませんが。

 わたしは、二十歳のころから本を書くようになりましたが、それまでに、二百本ほどは他人様の本を読んでいました。それでも年寄り……もとい、先輩たちは、「大橋君、君の本はおもしろいんだけど、もっと古典を読まなくっちゃ」と、にこやかに苦言を呈されました。そのうちのお一人は、わざわざ、大阪にお立ちよりのとき、わたしを呼び出され、三時間にわたって、お小言をいただきました。このお方は六十歳から、独学でノルウエー語を独習され、十年かかって、イプセンの全作品を翻訳された原千代海師であります。師は、ハリハリ鍋をつつきながら、「大橋君。きみは何冊くらい他人様の本を読んだの?」「はあ、四五百本は……」「ふーん……少し少ないなあ」「どのくらい少ないんでしょうか……?」「ゼロが二つほど足らない」「…………」

 何事も古き世のみぞ慕わしき……でありました。 

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妹が憎たらしいのには訳がある・62『春奈の秘密・2』

2021-02-15 06:19:41 | 小説3

たらしいのにはがある・62
『春奈の秘密・2』
         

        


 三十くらいの女がエレベーターで降りてくる。

 女がマンションから出てくると、十秒数えて優子とわたしは道を分かれて追跡した。
わたしたち義体にはGPS機能が付いているので相手に気づかれることはない。道の分かれ目で合流し、追跡を交代すれば、よほど慣れたスパイや、アナライザーロボットや義体でも、二回まではごまかせる。
 女は野川沿いの緑地帯に入っていった。顔見知りなんだろう、犬を散歩させているオバサンに声を掛けて、犬とじゃれ合った後、ベンチに座った。

 少し離れたベンチで、女のパッシブスキャンをやる。

 体から放出される体温、水蒸気、呼気、脳波、電波などから、相手が人間かロボットか義体なのかを見分けるのだ。


「……人間?」
「確かめよう」

 ベンチに座ったまま優子と石の投げっこをする。
 優子が軽く投げた石ころを、わたしが別の石で当てるという無邪気な遊びである。ほんの数メートルの距離だけど、女子高生がじゃれているぐらいにしか見えない。他にもキャッチボールをやったり、フリスビーで遊んでいる家族連れがいるので目立たないのだ。
「真由、いくよ」
 優子が、小さく呟く。
「OK……」

 わたしは二百キロのスピードで小石を投げ、優子の小石をはじき飛ばした。はじかれた石は、まっすぐに女の顔に向かい、女は二百キロで飛んできた小石を軽々とかわすと、アクティブレーダー波を発した。

――義体かロボットだ――

 優子は、すぐにジャミングをかけ、わたしは小石をキャッチボールをしている親子のボールに当て、ボールを緩く女の足もとに転がした。
「どうも、すみません」
「いいえ、ボク、投げるわよ」
 女は正確に少年のグロ-ブに投げてやった。
 その隙に、わたしと優子は女の後ろに回り、アクティブスキャンをかけた。

――ロボットだ!――

 スキャンに気付いて女が行動を起こす前に、耳の後ろのコネクターに手を当てると、CPをブロックし、アイホンに見せかけたケーブルを繋いだ。
「C国の最新型ね。並のスキャンじゃ人間と区別つかない」
「メモリーにロックされてるのがある」
「……待って、下手に解除したら自爆するわ」
「そんなドジはしない……わたしの勘に狂いがなければ……ほら、ロックが解けた」
「どうやったの?」
「ダミーのM重工の情報を流した……大当たり。M重工のロボット技術の機密でいっぱい」
「産業スパイ?」
「兼秘密工作員。奥にまだロックのかかったのがある……このキーは軍事用だわ」
「いっそ、破壊する?」
「もっと、いい手がある……」
「なにしてんの?」
「こいつのCPにウィルスを送り込んだ。掴んだ情報に微妙な係数がかかるようにね。C国が気づくのに半年、解析に三ヵ月はかかる」
「でも、八か月で、バレちゃうじゃん」
「解析したらね……多摩で出会った二世代前のロボットのスペックが出るようにしといた」
「真由って優秀!」
「優子にも同じスキルがあるんだけど、優奈の脳細胞生かすのにCPに負担かけられないからね……」
「ごめん」
「それよりも、M重工の技師やらエライサンの秘書やら愛人に五体、同じのが送り込まれてる」
「機密情報ダダ洩れじゃん!」
「ハニートラップに特化したロボット……意外と間が抜けてる。五体でネットワークしてる。このウィルスは自動的に、他のにも感染するね」
 そこで、わたしたちはロボットを解放した。ロボットは浮気相手の娘が来たので、避難した記憶しか残っていない。

 この間、わずかに二秒。緑地帯に居る人たちは、貧血の女性を女子高生が労わっていたとしか見えていないだろう。

 春奈には悪いけど、もう少し親の不倫に悩んでもらわなければならない。春奈のフォローのためにマンションに戻った……。

 

※ 主な登場人物

  • 佐伯 太一      真田山高校二年軽音楽部 幸子の兄
  • 佐伯 幸子      真田山高校一年演劇部 
  • 千草子(ちさこ)   パラレルワールドの幸子
  • 大村 佳子      筋向いの真田山高校一年生
  • 大村 優子      佳子の妹(6歳)
  • 桃畑中佐       桃畑律子の兄
  • 青木 拓磨      ねねを好きな大阪修学院高校の二年生
  • 学校の人たち     加藤先輩(軽音) 倉持祐介(ベース) 優奈(ボーカル) 謙三(ドラム) 真希(軽音)
  • グノーシスたち    ビシリ三姉妹(ミー ミル ミデット) ハンス
  • 甲殻機動隊      里中副長  ねね(里中副長の娘) 里中リサ(ねねの母) 高機動車のハナちゃん
  • 木下くん       ねねと優奈が女子大生に擬態生活しているマンションの隣の住人
  • 川口 春奈      N女の女子大生 真由(ねねちゃんと俺の融合)の友だち 
  • 高橋 宗司      W大の二年生   


 

 

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