大橋むつおのブログ

思いつくままに、日々の思いを。出来た作品のテスト配信などをやっています。

かの世界この世界:170『飛ぶぞ!』

2021-02-09 10:05:21 | 小説5

かの世界この世界:170

飛ぶぞ!語り手:テル(光子)    

 

 

 飛ぶぞ!

 その声は時美先輩だ。

 声の背後に息をのむ気配、これは美空先輩だろう。

 

 突然の決心に二人の先輩は短く声をあげることと息をのむことしかできなかったようだ。

 

 仕方ない、ここからは自分でやるしか……これまでもそうだったけど、わたしの時空の飛び方に脈絡は無い。たとえ、犬のウンコを握りつぶしたことがきっかけであったとしても、自分の選択だ。

 前を向いて行くしかないよ。

 洗濯機の中を思わせる時空の渦の中をグルグル振り回されながら落ちていく……目が回るようなことはなかった。手にこびりついた犬のウンコが遠心力で飛び散ってきれいになっていく。

 よかった、ババ掴みのままで異世界探訪なんてまっぴらだ。

 しかし、飛び散っていくのはウンコだけではなかった。

 身に着けた制服がビリビリと音を立てて裂けていく。

 ちょ、なによ(;゚Д゚)!?

 手で押さえたり、脚を絡めたりして制服の分解を防ごうとするのだけど、巨大な竜巻に取り込まれたように儚い抵抗でしかない。

 ビリ ビビビ ビリビリビリ!

 上着が スカートが ブラウスが その下にまとっているものも次々と千切れて引き剥がされ、鈍色の渦の彼方へ吹き飛ばされていく!

 ムヘン以来身に降りかかったアレコレに慣れて、気を失ったりパニックになることは無かったけど、スッポンポンにされるのはかなわない!

 プツ

 儚い音を立てて最後の一枚が吹き飛ばされた(#*0*#)!

 キャーーーーー!

 誰が見ているというものでもないのだけど、両膝を抱えるようにして、露出する肌の面積を最小にしようと努力する。これって、羊水の中の赤ちゃんに似てるかも……。

 異世界慣れした感覚が『目だけは開けておけ』と囁く。

 とことんのところは自分の選択だ、巨大な渦に巻き込まれているとしても、自分の意識だけは覚醒しておかなければ、さっきみたく、犬のウンコを握るようなことになってはたまらない。

 それでも、風圧のために日本史で習った土偶のような細目でしか見開けない。

 あの土偶、なんて言ったっけ……ぼんやり思っていると、そのスリットのような視界の中に、何かが見えてきた。

 人か……?

 いや、人の輪郭はしているけど、帽子の下も袖の先も空虚だ……これって、コスのサンプル?

 最初は尖がり帽子に黒を基調としたローブで、袖口の先にはロッドが揺れている。魔導士……黒魔導士。

 次は草色の胴着にレイピア、剣士か。

 枯れ葉色の胴着に短弓、アーチャーだ。

 白のローブにお揃いの尖がり帽子、白魔導士。

 冒険者のコスが、次々に現れて、目の前で数秒留まって流されていく。そして数十秒かかって元のコスが現れて……どうやら、わたしの周りをサンプルのコスが回っているのだ。

 選べと言うことか?

 そうか……以前は剣士をやっていたから、今度は白魔導士くらいがいいかなあ?

 そう思っていると、聞き覚えのある声が風の中から聞こえてきた。

『ごめんなさい、テルは剣士だったわね!』

 あ、荒地の万屋!?

 ペギー!

 そこまで思い出すと、ホワンと音を立ててコスたちは消えていき、体が引き締まったかと思うと、剣士の姿になった。

「ペギー、どこにいるの?」

『ここじゃ、店も姿も現せないのよ。始原のカオスだからね。もう、たいていのことには驚かないだろうから、幸運を祈ってるわよ』

「じゃ、コスの代金は?」

『お得意さんだから、次にあった時でいいわよ。それから、パートナーをひとり選べるから』

「え、そうなの?」

『ちょっと待って……あ、コンプリートしてないから、指定さ……れて……る……みた……い……』

 そこまで言うと、かき消すようにペギーの気配が無くなってしまった。

 あれ? サンプルの消し忘れ?

 コスの一つがボンヤリと残っている……いや、そのコスには、ちゃんと首も手の先も残っている。

 パートナー……?

 それは、懐かしい仲間の姿を取り始めた。

 

 

☆ 主な登場人物

―― この世界 ――

  •  寺井光子  二年生   この長い物語の主人公
  •  二宮冴子  二年生   不幸な事故で光子に殺される 回避しようとすれば逆に光子の命が無い
  •   中臣美空  三年生   セミロングで『かの世部』部長
  •   志村時美  三年生   ポニテの『かの世部』副部長 

―― かの世界 ――

  •   テル(寺井光子)    二年生 今度の世界では小早川照姫
  •  ケイト(小山内健人)  今度の世界の小早川照姫の幼なじみ 異世界のペギーにケイトに変えられる
  •  ブリュンヒルデ     無辺街道でいっしょになった主神オーディンの娘の姫騎士
  •  タングリス       トール元帥の副官 タングニョーストと共にラーテの搭乗員 ブリの世話係
  •  タングニョースト    トール元帥の副官 タングリスと共にラーテの搭乗員 ノルデン鉄橋で辺境警備隊に転属 
  •  ロキ          ヴァイゼンハオスの孤児
  •  ポチ          ロキたちが飼っていたシリンダーの幼体 82回目に1/6サイズの人形に擬態
  •  ペギー         荒れ地の万屋

 

 

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らいと古典 わたしの徒然草『1・徒然草ショック又は事始め』

2021-02-09 06:39:37 | 自己紹介

 わたしの徒然草・1  

『徒然草ショック又は事始め』    

 

 

 十年前、横浜の出版社の依頼で始めたエッセーですが、ちょっと懐かしくて加筆訂正しながら復刻してみることにしました。気づけば当年とって兼好法師の享年になります。これも何かの縁でしょうか。どこまでいけるかわかりませんが、お付き合いいただければ幸いです。

 令和三年二月

 

 徒然草について書こうと気軽に思いました。


 高校の古典で学び、司馬遼太郎や瀬戸内寂聴などのエッセーなどでも時々見かける古典中の名作。それも源氏物語などと違って、二百四十三段のエッセー。『石清水八幡宮の仁和寺の法師』など、すでに知っているものもあります。枕草子、方丈記と並ぶ名作。とは言え、二百四十三もあれば適当にフィーリングの合うものをつまみ食いすれば……ぐらいの感覚で、とりあえず嵐山光三郎氏のジュニア版を読んでみました。監修が司馬遼太郎、田辺聖子、井上ひさしとお馴染みさんなのも気に入りました。嵐山氏の訳も軽妙で、寝ころんでタイ焼きなどをかじりながら、それこそ、ウフフ、アハハと気軽にかじり読み。

 しかし、百五十一段の『五十歳を過ぎたら』で、愕然としてしまった。しまった! 親父ギャグのようであるがまさに、しまった!……大意は以下のようです。

「五十歳を過ぎて上手にならないような芸ならば、それ以上精を出しても将来性がないから捨ててしまったほうがいい」 

 わたしは五十路に入って八年目になっており「いまさら、なにをやってもあきまへんで~」と兼好法師にのっけから言われたように感じたものです。

 五十五で教師を辞め、二十歳から始めた芝居も泣かず飛ばず。「遅い遅い、もうやめときなはれ~」と七百年の過去から兼好法師のオッサンの笑い声が聞こえてきそうな気がしました。これは出版社社の編集さんに泣きをいれんとしゃあないなあ……と、半ばあきらめました。

 花曇りの空の下、満開の桜が並ぶわが町の桜の名所、玉串川沿いの小道をぶらぶらと歩いてみました。近鉄山本駅の踏切を渡りハラハラと舞い落ちる桜の花びらの行方を何気なく追ってみる。 と……そこに『今東光和尚と天台院。西へ……』の銘板。

「あ、せや、今東光はここに住んどったんや!」と、思い出す。

 今東光。ご存じでしょうか、小説家にして衆議院議員、天台宗の悪たれ坊主。三船敏郎、中野良子が出演した『お吟さま』の原作者で、この作品で直木賞をとった……と言っても、若い人にはお分かりにならない……瀬戸内寂聴の師僧。つまり瀬戸内晴美を尼さんにした坊主。え、瀬戸内寂聴がわからない? ネットで検索願います。

 その今東光が若いころに住職をしていたのが天台院で、目を駅前の交番に転ずれば、その西五十メートルに今東光が通った理容店が今も健在。東光和尚が住職になって間もないころ、立ち寄った散髪屋さんがここなのです。

 当時ありきたりだった店名を、女主人が「なんか、ええ店の名前おまへんやろか?」と東光師に尋ねました。

「よっしゃ、まかしとき!」と、東光師。

 数日後墨痕鮮やかに書かれた店名が『美人館』。今も看板はそのままであります。檀家まわりの袈裟も無く、風呂敷を袈裟がわりにしたという豪傑で、なによりもわたしを感動させるのが「カミサンにするんやったら清友の娘やなあ」の一言。清友とは、わたしが教師になった初任校で、東光和尚のころは八尾市立の女子高でありました。口は悪いが気っ風の良さは河内で一番。惜しくも一昨年(当時)の三月で近所の高校と統廃合になってしまいました。大阪府は進学に特化した高校を十校あまり作ることになっていましたが、こういう名物校も残しておいて欲しいものであります。

 花曇りの玉串川の小道の向こうから、和服に杖の老人が……あ、莫山先生?……似ていました。榊莫山、ご存じの方は五十以上の年配の方でありましょう。昭和を代表する書道家で、その飄々とした風貌はテレビなどで覚えておられる読者もおられるかもしれません。その莫山先生のお散歩道もこの玉串川沿いでありました。
 
 なにやら、わが町自慢のようになってきましたが、そういう先達の人々を頭にうかべて、自分自身をヨイショしているのであります。わたしたちは団塊の世代のしっぽであり、三無主義といわれた無気力世代の頭でもあります。団塊の世代ほどのガッツもなければ、おとなしく自分の殻の中で充足する落ち着きもありません。
 そこで考えてみました。兼好法師の生きた鎌倉末期と、この平成の二十年代の違いを。鎌倉末期の日本人の平均寿命はいいところ四十に手が届くかどうか。兼好法師の六十八という享年は当時としては超長寿であります。較べてこの平成の御代の平均寿命は、男でほとんど八十歳。これを当てはめてみれば、兼好法師のいう五十歳は現在の九十歳くらいと思えますがいかがでしょうか? とすれば今の五十八など当時の三十路そこそこ。うん、この感覚でいこう! 

 今、図書館から講談社の徒然草(三木紀人全訳注)を借りてきた。財政きびしいわが町の図書館ではありますが、『徒然草』だけで六十余冊の本がある。まず我が徒然草事始め。ショックの百五十一段からでありました。    

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妹が憎たらしいのには訳がある・56『となりの木下クン』

2021-02-09 06:02:27 | 小説3

たらしいのにはがある・56
『となりの木下クン』
         


     

 

「ハナちゃん、名古屋ナンバーに変えて」

『なに、企んどりゃーすね、怪しいてかんわ♪』
 ハナちゃんは、古典的な名古屋弁で冷やかしながら、ナンバーを変えた。
「大阪出身じゃだめなの?」
 急な変更にわたしは戸惑った。
「念には念を。パパが用意してくれたIDの信頼性は高いけど、万一ってことがあるから」
「さすが、甲殻機動隊副長の娘ね」

 わたし達はN女子大に近い神楽坂の若者向けのマンションの住人になった。

 不動産屋には女子学生専用のを勧められたが、わたしと優子(幸子と優奈の融合)は、あえて普通の中級チョイ下のマンションを選んだ。同郷の女子大生が住むのには、ワンル-ムのマンションよりは、この程度のマンションをシェアして借りた方が自然だと思ったからだ。それに隣人がぴったりだった 

「隣りに越してきましたものですが、ご挨拶にうかがいました……」

 しばらくすると、Tシャツにヨレたジーパンの若者がドアを開けた。
「あ……ども」
 不器用な挨拶だったけど、脈拍、呼吸、瞳孔を観察すると、一瞬で二人に興味を持ちすぎるほどに持ったことが分かった。
「わたしが大島、こちらが渡辺っていいます。今まで学生用のワンル-ムに居たんですけど、不経済なんで、二人でいっしょに住むことにしたんです」
「ひょっとして、N女子?」
「ええ、木下さんは……W大ですか?」
「ええ、まあ、在籍は。お二人は地方から?」
「ええ、名古屋です」
「まだ西も東も分からなくって……」
 優子が粉をふる。木下は、すぐにひっかかった。
「そりゃ大変だ、よかったら上がりませんか。近所の情報レクチャーしますよ」
「どうしよう……」
  

 駆け出しの女子大生らしく、ためらってみせる。

「じゃ、ちょっとだけ」

 呼吸を合わせて、自然なかたちで上がり込む。

 駆けだし女子大生らしく興味深げに部屋を見渡す。見渡すまでもなく、このマンションに来たときから、この部屋のことは調べ済みだ。
「あ、お茶入れますね。こう見えても実家は静岡でお茶作ってるんで、ちょっとマシなお茶ですから」
 そう言いながら、木下は自然に寝室のドアを閉め、お茶を入れ始めた。キッチンと、こっちの部屋はやもめ暮らしにしては整理されていたが、寝室はグチャグチャで女の子に見せられないものもいろいろある様子だ。
「東京に居てなんなんですけど、引っ越しのご挨拶の人形焼きです。どうぞ」
「ああ、こりゃ、お茶請けにぴったりだ」
「木下さんの部屋って、なんだかパソコンやらIT関連の機械が多いですね」
「趣味と実益兼ねてるんじゃないですか?」
 と、くすぐってみる。
「いやあ、鋭いな大島さんは。ネット販売の中継で小遣い稼ぎ程度ですけどね」
 触法ギリギリの商品の出所をごまかして、けっこうな稼ぎをしていることは、スキャニング済みである。
「スマホあります? この街の情報コピーしてあげますよ。あ、危ないウィルスなんか付いてませんから。でも、一応スキャンしてから入れて下さい」
 木下は、ケーブルを取り出すと、パソコンとわたしたちのスマホを繋いだ。
「大丈夫、安全マーク出ました」
「よかった。じゃ、送りますね」


 ソフトそのものは大したもので、神楽坂界隈からN女子、W大近辺のお店の情報やら、お巡りさんのパトロールのルート、果ては、界隈の犬猫情報まで入っていて、かわいい犬猫ベストテンまで付いていた。


「タッチすると、さらに細かい情報が出てきます」
 木下が、ある犬をタッチすると、飼い主から、お散歩ルートまで分かる。
「わあ、かわいい!」
 優子がブリッコをする。このソフトを人間に当てはめれば、人間の情報まで取り込めるということであることは当たり前である。実際木下のオリジナルのソフトには組み込まれている。また、木下のパソコンに繋いだ時点で、スマホは木下のパソコンで自由に閲覧できるようにされている。それも、わたしたちは承知であった。
 あとは、近所やら、互いの大学のいろんな話をして、一時間近く過ごし、程よいご近所になって部屋に戻った。


「あの人使えそうね」
 わたしが言うと優子は声を立てて笑った。
「フフフ、ほら、これが今の木下クン」
 優子がスイッチを入れると、テレビに木下の部屋が映った。なにやら、パソコンをいじっている。
「画面が見えないなあ」
「これで、どうよ」
 画面が、飛行機のように揺れて画面のアップになった。わたしたちの部屋が映っている。ただ現実のそれとは違って荷ほどきをやっている。
「よくできたダミーじゃない」
「これから微調整。彼がかましたソフトは、わたしたちのみたいに優秀じゃなくて、解像度悪いから、それに合わせるのが、ちょっと大変」
 木下が感染させたウイルスは、わたしたちの部屋中のセンサーやコントローラーをカメラにする機能が付いている。つまり、この部屋に何十個も監視カメラをつけたようなものである。
「木下クンの努力に合わせて、オートにしときゃいいじゃない」
「だって、お風呂の人感センサーや、トイレのウォシュレットにも付いてるんだよ」
「いいじゃない。全部ダミーの画像なんだから……って、今わたしをお風呂に入れる!?」
「いいじゃん、ダミーだから」
「あのな(#ToT#)」
「それより、こっちのモスキートセンサーで、よーく調べなきゃ……」
「ちょっと、脱衣場の感度下げてよ!」
「へいへい……木下クン悲しそう……でも、彼のネットワークはすごいわよ。10の20乗解析しても、情報の発信元が分からなくなってる。これを何億ってCPかましたり、なりすましたりしたら、発信元は絶対分からないわよ」
「じゃ、そろそろリンクしますか」
 優子がリンクボタンをエンゲージした。

――どこに行ったんだ。連絡が欲しい。ユースケ――

 いきなり、ユースケのメールが入ってきた。
「わ、いきなりだ!」
「大丈夫……世界中のCPに無作為に送っている。こっちはキーがインスト-ルされてるから、解読できてるの。ユースケには分からないわ」
「そう、でも気持ちは落ち着かないわね」
 優子は、少し不安顔になった。しかたがない。つい最近ユースケと渡り合ったところなんだから……で、横のモニターを見るとダミー画像のわたしは、非常にクリアーな映像のまま浴室に入っていくところだった(;'∀')。

 

※ 主な登場人物

  • 佐伯 太一      真田山高校二年軽音楽部 幸子の兄
  • 佐伯 幸子      真田山高校一年演劇部 
  • 千草子(ちさこ)   パラレルワールドの幸子
  • 大村 佳子      筋向いの真田山高校一年生
  • 大村 優子      佳子の妹(6歳)
  • 桃畑中佐       桃畑律子の兄
  • 青木 拓磨      ねねを好きな大阪修学院高校の二年生
  • 学校の人たち     加藤先輩(軽音) 倉持祐介(ベース) 優奈(ボーカル) 謙三(ドラム) 真希(軽音)
  • グノーシスたち    ビシリ三姉妹(ミー ミル ミデット) ハンス
  • 甲殻機動隊      里中副長  ねね(里中副長の娘) 里中リサ(ねねの母) 高機動車のハナちゃん
  • 木下くん       ねねと優奈が女子大生に擬態生活しているマンションの隣の住人
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