大橋むつおのブログ

思いつくままに、日々の思いを。出来た作品のテスト配信などをやっています。

銀河太平記・106『二人でタイ焼き』

2022-05-01 10:39:14 | 小説4

・106

『二人でタイ焼き』越萌マイ(児玉隆三)

 

 

 大したもんだ……

 

 何度目か分からない呟きを漏らす孫大人。

 話の接ぎ穂のようでもあり、本当に感動しているようにも感じられる。

 市役所を馬(オートホース)で出たわたしと孫大人は、西之島北東部の新開発地区を歩いている。

「辺野古の沖出し造成の技術も、ここまで進歩したんだねえ……日本人というのは、つくづくスゴイよ」

「災い転じては得意技だが、ここまで昇華するのには幾百幾千の報われない努力と犠牲がある」

「そうさなあ……」

 普天間基地の辺野古への移設は、23世紀の今日では噴飯ものの平和主義のために、予想・予定の十倍の無駄と努力が傾注されたが、副産物として埋め立て技術、浮体工法などの技術が飛躍的に進化。その技術や工法は、その後の二世紀で磨きがかかり、日本の専門分野のようになった。

 オランダやベニスの地盤改良や造成はもちろんのこと、漢明中国沿岸部の発展にも寄与している。諸外国は、素直に日本の技術と努力を賞賛してくれているが、大陸と半島では相変わらず――自前の技術――とうそぶいている。しかし、二百年前とは違って、まともに信じている者は大陸や半島でも少数派だ。

 この北東開発地区は、その技術の最先端をいっている。

「最終的には、東京ドームの一万倍だそうだよ。ちょっとした人口国家になるよ西之島は……それ!」

 工事用のトレンチを思わず飛び越えてしまう。

「姉妹社の女社長なんだから、もう少しおしとやかにしたらどうかね……」

「すまん、つい、満州の現役時代の感覚になってしまう(^_^;)」

「いや、そのナリで、しなやかに跳躍する姿もいいがね、わたしの義体はそこまでスペックは高くないのでな……」

 トレンチを迂回して横に並び直す大人は、それでも嬉しそうだ。

 分かっている、わたしも、満州時代はおろか、まるで士官学校時代の学生気分になっている。

「ひとつ、どうかね?」

 タバコでも出すのかと思ったらタイ焼きだ。

「原宿の少年少女みたいだな」

「原宿ならクレープじゃろうが」

「いや、近ごろじゃ、タイ焼きやらあんみつがトレンドらしいぞ」

「元帥になっても、原宿に足を向けるのかい?」

「失礼だな、今は越萌姉妹社のCEOだぞ。本業は若者向けの雑貨だ。いつでもアンテナは張っている」

「なるほど、この広さだ、壮大な雑貨が広げられそうだな」

「……それも、所詮は余技なのだがなあ」

「大御心はどうなんだ?」

「海のようなお方だ、陛下は……ここに来る前に、朝霞の自分のモスボールを見に行った」

「あれは、敷島教授の……」

「ああ、ダミーだ。しかし、ケジメのためにな……陛下がお忍びで来られていた」

「陛下にはお伝えしていないのか、姉妹社のマイとして生きることを?」

「そんな不忠者を見るような目で見るな……陛下はご存知だったぞ」

「なにかお言葉が?」

「いいや、やんわりと通せんぼをされてニッコリと微笑まれた……全てをお見通し」

「アハハハ、それは冷や汗をかいただろう!」

「ああ、パンツの中までグショグショだ」

「……その姿で言われると、なんだか猥褻だ」

「何を言う、この歩く猥褻物、いや汚物陳列罪めが!」

「東宮宣下は、まだなさらぬのか?」

「陛下は『和を以て貴しとなす』であられる……ご自分からは仰せにはならない」

「なら、皇室典範の規定通りに、心子(こころこ)内親王殿下に」

「そういうことになるか……」

 

 そこまで話して、二人とも言葉が途切れた。

 

 心子内親王殿下……ご自身のお子がない陛下にとっての跡継ぎは、先年薨去された妹宮殿下の姫君である心子内親王殿下になる。

 しかし、心子内親王殿下を正式に皇嗣とすれば、女系皇嗣が本格的に確定してしまい。2800年続いた皇統が……

 いや、これ以上のことは考えるのも畏れ多い。

 孫大人も、それが分かっているので言葉を継がない。

 

 広大な海と入道雲、その下に広がる東京ドーム一万個分の新開地を見ながらタイ焼きを、ゆっくりと咀嚼する狐と狸。

 

 そのタイ焼きも食べ終わり、二人そろって紙袋を丸めてポケットに。

「市長たち、遅いなあ……」

「そうだな……あ、来たぞ」

 二台のバンが、パルス車独特の滑らかさで、トレンチを超えて現れた。

「申し訳ありません、急に御一人同行していただくことになりまして」

 真っ先に下りてきた及川市長が、後部ドアの前に立ち、誰かをエスコートしている。

「「え!?」」

 二人そろって驚いた。

 市長のエスコートをやんわりと制しながら現れたのは、たったいま話したばかりの心子内親王殿下、その人であった。

 

※ この章の主な登場人物

  • 大石 一 (おおいし いち)    扶桑第三高校二年、一をダッシュと呼ばれることが多い
  • 穴山 彦 (あなやま ひこ)    扶桑第三高校二年、 扶桑政府若年寄穴山新右衛門の息子
  • 緒方 未来(おがた みく)     扶桑第三高校二年、 一の幼なじみ、祖父は扶桑政府の老中を務めていた
  • 平賀 照 (ひらが てる)     扶桑第三高校二年、 飛び級で高二になった十歳の天才少女
  • 加藤 恵              天狗党のメンバー  緒方未来に擬態して、もとに戻らない
  • 姉崎すみれ(あねざきすみれ)    扶桑第三高校の教師、四人の担任
  • 扶桑 道隆             扶桑幕府将軍
  • 本多 兵二(ほんだ へいじ)    将軍付小姓、彦と中学同窓
  • 胡蝶                小姓頭
  • 児玉元帥(児玉隆三)        地球に帰還してからは越萌マイ
  • 森ノ宮親王
  • ヨイチ               児玉元帥の副官
  • マーク               ファルコンZ船長 他に乗員(コスモス・越萌メイ バルス ミナホ ポチ)
  • アルルカン             太陽系一の賞金首
  • 氷室(氷室 睦仁)         西ノ島  氷室カンパニー社長(部下=シゲ、ハナ、ニッパチ、お岩、及川軍平)
  • 村長(マヌエリト)         西ノ島 ナバホ村村長
  • 主席(周 温雷)          西ノ島 フートンの代表者
  • 心子内親王             今上陛下の妹宮の娘

 ※ 事項

  • 扶桑政府     火星のアルカディア平原に作られた日本の植民地、独立後は扶桑政府、あるいは扶桑幕府と呼ばれる
  • カサギ      扶桑の辺境にあるアルルカンのアジトの一つ
  • グノーシス侵略  百年前に起こった正体不明の敵、グノーシスによる侵略
  • 扶桑通信     修学旅行期間後、ヒコが始めたブログ通信
  • 西ノ島      硫黄島近くの火山島 パルス鉱石の産地

 

 

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乙女先生とゆかいな人たち女神たち・34『謎の旅行鞄』

2022-05-01 06:37:50 | 青春高校

乙女先生とたち女神たち

34『謎の旅行鞄』 

      


 足を踏み出したところで、空と地面がひっくり返った……。

「イッテー……!」

 栞は、薮の中の穴に落ちてしまった。じきに制服に水が染みこんできて気持ち悪くなり立ち上がった。穴の底には細いひび割れがあるようで、それほどに水は溜まっていなかった。

「水が溜まっていたら、溺れて死ぬとこだよ」

 なんとか、足場か手がかりになるものを見つけて上に這い上がろうと思った。

「ええと……ええと……ん……なんだこりゃ?」

 土混じりの根っこたちの間に何かトッテのようなものに触った。わりとしっかりしているので、栞は、思い切って、それを掴んで上に這い上がろうとした。

「うんこらしょ……キャー!!」

 トッテは急に外れて、栞は、再び穴の底に尻餅をついた。

「あれ……」

 トッテには先が付いていた。かなり古いタイプの旅行鞄だ。お尻が冷たくなるのも忘れ、鞄を開けようとしたが、鍵がかかっていて開けることができない。

「キミ、そんなとこでどうしたんだ?」

 いきなり穴の上から人の声がした。

「え、あ、で、その、つまり……」

 状況のどの部分から話そうとしていると、手が差しのべられた。

「とりあえず、穴に落ちて、困っていることから解決しよう」

 その人は、駅前交番のお巡りさんだった。切り通しの薮のところまで来ると、靴と靴下が行儀良く並んでいて、なんだろうと思っていると悲鳴が聞こえてきたということらしい。

 

 真美ちゃん先生が着替えのジャージと運動靴を持って交番にやってきた。栞は、交番のシャワーを借りて体を洗うと身ぐるみ着替えて、とりあえず気持ちの悪さからは解放された。

「金ばさみは……?」

 タオルで髪を拭きながら出てくると、一番にそれを聞いた。なんといっても技師の鈴木のオッサンは苦手だ。

「栞ちゃんが、ずっと持ってたわよ。トランクといっしょに」
「トランク……ああ、これのために」
「助かったんだよ。あの悲鳴を聞いていなきゃ、ボクも薮の中まではいかなかったよ」
「これ、いったいなんなんですか?」
「やっぱり、キミも知らんのか」

 そのとき交番に二人の人間が入ってきた。

「すみません、希望ヶ丘の出水です」
「本署の田所。ヨネさん、これか?」

 保健室の出水先生と、鑑識のお巡りさんだった。

「湯浅先生、授業が終わったら見にくるて。で、手島さん、怪我とかは?」
「あ、それ大丈夫です。穴の中ジュクジュクでしたから。よかったら家に帰って、本格的に着替えたいんですけど」
「ああ、かめへんよ。お家には、わたしから電話……」
「いえ、いいです。ここんとこ、お騒がせばかりだから。自分でします」

 後ろで写真を撮る気配がした。交番と本署のお巡りさんが、鞄の写真を撮ったり、寸法を測って記録していた。

「これ、あんたが見つけたん?」
「え、まあ、結果的には……」
「じゃ、解錠します」

 田所という本署の鑑識さんは、二本の針金のようなもので器用に開けていく。

 カチャ

「開いた……」

 みんなが固唾を呑んで、鞄が開くのを待った。

 ……ウワー!!!

 そこに居た全員が同じテンションで声をあげた。

 中身はビニールで何重にもくるまれた札束だった……。

 あまりの大金だったので、本署からパトカーがやってきて、栞は旅行鞄と共に本署に連れて行かれた。

 出水先生は学校に電話したが、大金……栞がパトカーで……という二点しか伝わらなかったので、生指部長代理の桑原と、担任の湯浅、教頭の田中、そして、なぜか乙女先生が、学校から。父が家から。そして、新聞記者やら芸能記者までが地元の警察署に押しかけた……。

 

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